「それで?言いたい事はそれだけですの?」
『それだけ、って‥‥‥』
ちーっす、鈴谷だよ。今は熊野に呼ばれてさ、工廠の前まで来てるんだけど。中から熊野達の声が聞こえる。
「あの子が貴女の事をどれだけ想っていたのか、今までどんな思いでやって来たのか、今どんな思いで居るのか。想像できない訳ではありませんでしょう?」
『そう‥‥‥なんだけどさ』
まあね。鈴谷もさ、お姉ちゃんとまた会えるんだって嬉しくて堪らなかったのは事実だよ。鈴谷が呉に戻って来て、熊野がお姉ちゃんを連れて呉に来て。けどさ、お姉ちゃんは何だか鈴谷と会うのを避けてるみたいじゃん?もしかして、鈴谷はお姉ちゃんに嫌われちゃったのかな、なんて想像もしちゃったりしてね。あー駄目だ、柄にも無く涙が出てきた。
『そこに立たれると邪魔なのだけれど。退いてくれないかしら』
‥‥‥あ、加賀妖精さん。ごめんね、そうだよね、工廠の扉の前に立ってたら邪魔だよね。今退くからね。
その加賀妖精さんの声で気付いたみたいでさ、鈴谷が退散する前に扉が開いちゃった。開けたのは熊野。もー、何で今開けるの?鈴谷逃げ損ねちゃったじゃん!
『あ‥‥‥』
「鈴谷、貴女いつからそこにいましたの?」
ほらぁ。心準備とか出来なかったじゃん!もう、加賀妖精さんはもう少し空気読みなよ!
ふーっ、て大きく深呼吸して。鈴谷はお姉ちゃんを睨んだ。だってそうじゃん。勝手に鈴谷の前から居なくなって、やっと落ち着いてきたと思ったら深海棲艦として現れて。決意も新たにした頃にまたお姉ちゃんは現れてさ!もうなんなの!?鈴谷がどれだけ、どれだけ‥‥‥。
「何でよ‥‥‥何でよ、お姉ちゃん!」
お姉ちゃんはそんな鈴谷から視線を外して『ごめん』って。ハァ?なにそれ。鈴谷は謝って欲しいなんて一言も言ってないし!
「何でお姉ちゃんが謝るの?」
『‥‥‥うん、ごめんね』
だからぁ!謝って欲しいんじゃ無いんだってば!どうして鈴谷が言って欲しい言葉を言ってくれないのさ!
「謝れなんて言ってないじゃん!鈴谷はお姉ちゃんに謝ってなんて欲しくない!」
違うんだよ!鈴谷は‥‥‥鈴谷はただ一言『ただいま』って言って欲しかったんだ。『これからはずっと一緒に居られるから』って言って欲しかったの!だってそうじゃん!お姉ちゃんは確かに一度鈴谷の前から消えちゃったけど、それは熊野達を守る為だったんだよ?確かに寂しい事もあったけどさ、お姉ちゃんが守った熊野達のお蔭で鈴谷はここまで成長できたんだよ?少なくともお姉ちゃんはずっと、鈴谷にとって誇りだったんだよ。お姉ちゃんは謝るような事をしたなんて思ってないし!そんなお姉ちゃんが戻って来てくれたんだよ?それだけで嬉しいに決まってんじゃん!
「お姉ちゃんの‥‥‥お姉ちゃんのバカぁ!」
‥‥‥その後はね、恥ずかしながらあんまり覚えてないんだよね。ただ顔をグシャグシャにしながら泣いてたのは覚えてる。それから、昔と比べるとスッゴい小さいけど、変わらず温かいお姉ちゃんの温もりも。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
執務室に戻ってきた沖立提督は挨拶を終えた天龍さんが退出すると「気になる子は居る?」と私に問いかけてきました。勿論、好き嫌いの話ではなく新人の艦娘の子達の話です。
「そうですね‥‥‥どの子もまだ何とも言えません。強いて言うなら風雲さん、でしょうか」
風雲さん。あの子の艦娘としての力自体は弱くは無い筈なのですけれど、風雲さん自身が運動が得意ではないようで。他の新人の子達と比較して劣っているのは否定できません。ですが風雲さんも艦娘である以上、国を守る為に深海棲艦と戦わなくてはなりません。ですから私も、風雲さんが何とか他の子並みに動けるようになればと思ってはいるのですが‥‥‥肝心の風雲さん自身が『自分はどうせ落ちこぼれだから』と諦め始めてしまっていて。
神通です。
自分で限界を作ってしまっては例え才能があってもそこに到達出来ません。風雲さんだって他の子よりも時間は掛かるかも知れませんけれど、周りの艦娘と同等のレベルになれる筈です。ほら、あの子は被弾は多いけれどそのぶん緊急回避が上手いといいますか‥‥‥他の子よりもダメージを最小限に抑えられるようですし、砲雷撃もあの子の艦娘としてのキャリアの長さで考えれば上手い方ですし。
「風雲ちゃんか。被弾は多いみたいだけど他の成績は悪くはないわよね?運動は苦手っぽいけど」
「はい。運動はあまり得意では無いようで、その事を負い目に感じているようなんです」
ふうん、と新人の子達の成績を見ながら話す提督。何か思い付いたようで、成績の資料を机に置いて、肘を机の上につき右手で頬杖をついて私に視線を向けました。
「今日も演習するのよね?私も観に行きます」
「是非。皆さんの士気も上がるでしょうしお願いします」
今日の新人の子達の演習は午後から。不知火さんが観てくれる事になっています。2日目ですし無理はしないようにとは言ったのですけれど、不知火さんは『問題ありません』と。確かに不知火さんが戦う訳ではないので大丈夫だとは思うのですが万が一、という事もあります。念のために私も居たほうがいいでしょう。それに、昨日から提督と不知火さんがギクシャクしているようですし。お互い話し合う機会になればとも思っています。
「では提督、少し早いかも知れませんが演習場の方へ」
「そうね。みんな集まってる頃でしょうし」
そうして私達は暫し執務室を離れて工廠へ。艤装を受け取らなくては演習場となる海域には出られませんから。演習場、と言っても鎮守府の正面の海ですので目と鼻の先ですけれど。此処ならもしも演習中に深海棲艦が現れてもすぐに応援に行けますから。
『提督に神通じゃん、チーッス』
工廠で私達を迎えてくれたのは鈴谷妖精さん。艤装の点検‥‥‥でしょうか?設計図らしきものを片手に何やらあれこれと確認しているように見えます。点検している艤装は‥‥‥おや?熊野さんの物ですね。
「ちょっと私と神通さんの艤装貰ってくわね」
『ん?まさか出撃でもする気?』と眉間にシワを寄せた鈴谷妖精さんにはキチンと説明はしました。『あー、そういう事ね』と納得して頂けて何よりです。提督には聞こえないように「提督と不知火さんの仲直りの為でもあります」と伝えると、鈴谷妖精さんも『神通も大変だよねぇ。まっ、頑張って』と答えて頂けました。それにしても‥‥‥熊野さんの艤装に何か?後で提督に聞いてみる事にしましょう。
演習場に着くと、やはり全員既に揃っていましたね。不知火さんから説明と注意事項を聞いている最中でした。
新人達に話していた、此方に背中を向けていた不知火さんが私達に気付いたようで、首を微かに右に向いて視線だけを向けてきました。
「おや?どうしましたか?不知火に落ち度でも?」
「そういう訳ではなくってね。ちょっと新人の子達の様子を観ようかな、ってね」
何といいますか。不知火さんと提督に何かあったのは間違い無いようですね。提督は努めていつも通り振る舞おうとしているように見えますが困ったような様子ですし。不知火さんは今までの様子が嘘だったかのように素っ気ない態度。成る程。これはやはり提督が不知火さんを怒らせたのでしょうね。原因は多分‥‥‥陽炎さん、でしょうか?
まあ、それはそれとしてです。良い機会ですので、今日は私も客観的に演習を見させてもらいましょう。教導中には気付けない事も見えてくるかも知れませんし。
演習視察。コレで風雲の力の正体が明らかに‥‥‥?
姉と妹の再会。今回やっと挿入しました。次回以降に熊野に変化が‥‥‥?
※以下ネタです※
◆◆神風さんの受難◆◆
2017夏。E-4スエズ運河最深部。夜戦中
明石「ぐすっ‥‥‥たっ‥‥‥たすけて‥‥‥」ポロポロポロ
神風「さあ、追い込むわっ!‥‥‥てぇっ!!」
←戦艦仏棲姫に魚雷カットイン攻撃
明石「」シロメ
vs.深海スエズ防衛最終ライン、A勝利
神風「うーん、あとちょっとだったのに惜しかったわ。一度帰投しましょう」
明石「」キゼツ
~~艦隊帰投中~~
『『艦隊が帰投しました』』
霞「クズっ!!あのクズ司令官はドコ!?隠れてないで出てきなさいったら!」
←連合艦隊・水上打撃部隊第2艦隊参加、運改修済カットイン要員
陸奥「明石さん、もう大丈夫よ?」
←水上打撃部隊第1艦隊参加
明石「」ガクガクブルブル
衣笠「明石さん、鎮守府に着いたから。ねっ?」
←水上打撃部隊第1艦隊参加
山城「おかえりなさい。まさか置いていかれるなんて‥‥‥ハァ、不幸だわ」
←水上打撃部隊第1艦隊で本来出撃予定だったが明石と入れ替われず待機になった
神風「ほっ、ほら!みんな無事帰って来れたんだし良かったじゃない」
霞「よくないわよっ!!あのクズ、見付けたら絶対絞め上げてやるんだから!よりにもよって明石さんを連れてくなんて!!」プンスカ
←大破
鈴谷「鈴谷達は先に入渠してるねー」テクテク
←水上打撃部隊第2艦隊参加、中破
明石「怖かった‥‥‥怖かったですぅ‥‥‥沈んじゃうんじゃないかって‥‥‥」ガクブル
←(ウッカリで)水上打撃部隊第1艦隊旗艦、昼戦で戦艦仏棲姫に直撃をもらって大破
陸奥「ほら明石さん、私達も入渠に行きましょ」テクテク
衣笠「そうそう、行きましょう」テクテク
明石「エグっ、ぐすっ、びぇぇん」ガクブル
浜風「おかえりなさい」
神風「ええ、ただいま。S勝利は無理だったわ」
浜風「分かってましたよ。寧ろ連合艦隊の旗艦が明石さんでよくA勝利で帰って来ましたね」
神風「そうなのよね。道中も奇跡的に全員ほぼ無傷。被弾無しでね。夜戦までに戦艦仏棲姫の随伴艦は何とか墜とせたんだけど‥‥‥」
浜風「こういう時のほうがすんなり行くのは何故でしょうね」
神風「ほんとにね。司令官もウッカリとはいえ明石さんが艦隊修理してる途中で出撃させちゃうんだもの。ビックリしたわよ」
浜風「それにしても神風さんも強くなりましたね。前段作戦の最終戦での起用ですし」
神風「そんな事無いわよ。浜風だってE-1で起用されてるじゃない」
浜風「いえ、神風さんはもう主力ではありませんか。レベルも漣に次いで駆逐艦では2位ですし」
←E-1参加
神風「それは‥‥‥まぁ、そうなんだけど」テレテレ
神風「でも司令官も運が有るのか無いのかよく分からないわよね」
浜風「そうですね。私もまさかE-1ボス初戦でいきなり山風さんがドロップするとは思ってもいませんでしたし」
神風「かと思えば他の新艦娘はドロップできてないわよね」
浜風「ええ。確か提督は『ほっ、掘りは50回目からが本番だし!アハハハー(白目)』等と言っていましたからね」
神風「司令官らしいわね。でもE-2から旗風を連れて来てくれた事は感謝してるかな」フフッ
浜風「まああれは掘りではありませんし。やはり嬉しいようですね」
神風「当たり前よ。可愛い妹ですもの。会えるのは嬉しいに決まってるわ」ウフフ
浜風「提督が貴女の為に頑張ってくれたのが嬉しいのではないのですか?だから戦艦仏棲姫相手にも頑張ったのでは?」
神風「ちっ、違うわよ!そんな不純な動機の筈ないでしょう!」アセアセ
浜風「どうでしょうかね。それより良いのですか?」
神風「え?何が?」
浜風「あの二人を止めなくて、ですよ」
神風「え?」
霞「クズ司令官っ!!ドコ行った!!出てきなさいったら!!」プンスカ
神通「今なら『お話』だけで許しますので‥‥‥大人しく出てきてくださいね、提督?」ニッコリ
←水上打撃部隊第2艦隊旗艦
神風「止めないと不味い‥‥‥かな」
浜風「そうですね。特に神通さんが不味いですね」
北上「はいはーい、みんなバケツ被ってー。今度は『掘り』に出撃だってさー」
霞「待って、どういう事よ!まだ仏棲姫は沈めてないわよ!?」
北上「E-4の『集積地とまた殴り合ってこい』ってさー。ホラホラー、提督命令だし仕方無いじゃん。アタシも行くからさー」
霞「あのクズ、謀ったわね!帰ったら只じゃおかないわよ!!」
神風「えっ‥‥‥私もう少し休みたいんだけど‥‥‥」
浜風「御武運を、神風さん」
神風「行くわよ、行けばいいのよね?ハァ‥‥‥旗風留守番大丈夫かな‥‥‥朝風達に任せるのは心配なのよね」
北上「神風っちも頑張ろうねぇ。アタシら『照月』掘ってくるまで戻れないらしいからさ」
神風「え?‥‥‥‥‥‥えっ!?だって、照月って確か昨日までで合計41回掘って出なかったのよね?」
北上「何とかなるんじゃないの?フランスの水上機母艦の子とか401とかドロップしてたし」
浜風(あぁ、物欲センサーというヤツですね。狙ってないレア艦は出てくるけど狙ってる艦は出て来ない、という)
神風「‥‥‥‥‥‥行ってきます」
浜風(神風さんが無表情でドックの方へ歩いていく‥‥‥)
ほぼ実話に則ってます。いやー、明石旗艦のままだったのすっかり忘れて出撃させました。反省。そんな時に限ってボスまですんなりと行くんですよね。
夏イベントは只今上記の通りE-4攻略中‥‥‥もとい、集積地棲姫を只管タコ殴り中。ウチの鎮守府に居ない照月をドロップするまで続きます。E-7まである?イベントは4週間あるしヨユーヨユー(フラグ)
しかしまぁ‥‥‥物欲センサー怖い。コマ子やしおい、山風の件は実話だからなお怖い。それでは、集積地タコ殴り42回目行ってきます(白目)