抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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夜戦に向けて

 

 

相手は強いわね。昼戦は全然歯が立たなかったわ。『筋は悪くない』って川内教官に褒められたし少しはやれるかと思ったんだけど、まだまだだったわ。不知火が私に向ける表情も渋かったし。うーん、デタラメな性能だった春雨ちゃんみたいな子が相手じゃなければ私でも何とかできると思ったんだけどなぁ。

私もこれからもっと力を付けなきゃね。

 

陽炎よ。

昼戦を終えて今はインターバル兼早めの夕食を食べに食堂まで来たとこ。夜戦は日が沈んでからだから‥‥‥ヒトキュウマルマルからね。

演習組は『それに備えて軽めの訓練』って神通さんが言ってたんだけどね。こんな事言うのは善くないと思うんだけど、あの人の基準っておかしいわよね?あの訓練のどの辺が軽めだったのかしら?密度が川内教官の教導と大して変わらなかった。私が艦娘で入渠ってシステムが無かったら今頃絶対動けなくなってるわね。明日からの本格的な訓練が不安だわ。

 

‥‥‥で。なーんて言えばいいかな?私、ホントに呉に来て良かったのかしら?演習を終えて話題を振っても不知火はずっと他人行儀。ほら、普通なら『同型艦だし仲良くしよう』とか『同じ鎮守府の仲間だし一緒に頑張ろう』とかあるじゃない?ええ、勿論此処は海軍だし馴れ合いを推奨してる訳じゃないんだけど、ねぇ?

私が言うのもなんだけどさ、駆逐艦不知火にとって駆逐艦陽炎って特別だと思うんだけど‥‥‥。あそこまで余所余所しくされるのはちょっと辛いわよ。『仕事がありますので』とか言ってすぐ何処かに行っちゃったし。表面上は普通に接してくれてるけど心の底では拒絶されてる感じかしら?私、不知火に嫌われるような悪い事したっけ?やっぱり『不知火先輩』って呼んだ方が良かったのかな?それとも生理だから機嫌が悪いだけ‥‥‥だったらまだいいんだけどな。

折角不知火と同室になったのになぁ。ハァ。

 

‥‥‥あれっ?右奥の隅っこの席に座ってるのって風雲?まだ時間には早いから食堂内は閑散としてるのに態々あんな所に。ちょっと声掛けてみようかな。これから一緒に戦ってく仲間だし、夜戦の連携の話とかもしておきたいしね。

 

「か~ざぐもっ」

 

座ってた風雲の左肩を後ろから右手でポンッて軽く叩いた。風雲は一瞬ビクッと身体を震わせて恐る恐るこっちを振り向いた。アチャー、ビックリさせちゃったみたい。

 

「ごめんごめん」

 

「へっ、平気だから。何か用?」

 

ムムッ。風雲も素っ気ない態度?もしかして呉の艦娘ってみんなこうなの?それとも上下関係は厳しいとか?でも私が大和さんから仕入れてた事前情報では呉の人達はもっと砕けた感じの筈なんだけどな。大和さんが嘘をついたとは思えないし。

 

って思ってた時ね。入り口の方から「あっ!風雲に陽炎さんじゃない!」って大声。暁ちゃん‥‥‥っと、今度は一応先輩って呼んでおこうかしらね。

 

「暁センパ~イ!」って手を振って応えたんだけどね。暁先輩、紅くなりつつ頬を緩めてニヤケてるんだけど。私に『先輩』って呼ばれたのがそんなに嬉しかったのかしら?少しの間ボーッとしてた暁先輩。ハッと我に返って小走りで私達の方へ寄ってきた。腰に両手を当てて、胸を張って話し始めたわね‥‥‥。

 

「もうっ。風雲にも言ったけど、『先輩』なんて呼ばなくても大丈夫よ。同じ部隊の仲間なんだし敬語も要らないわ。暁は一人前のレディだからそのくらいの器量あるんだから」

 

あっれぇ?さっきは凄く嬉しそうにしてたのに。‥‥‥ああ、これ見栄ね。きっと先輩だから私達に気を使ってくれてるのね。なーんだ。やっぱり良い人達じゃない。

 

「あっ。でも陽炎がどうしても、って言うんなら『暁先輩』って呼んでくれてもいいのよ?」

 

プックククッ。本当は『先輩』って呼んで欲しいのね。そうね。それなら妥協案かしらね。

 

「分かったわ。けど私の事も『陽炎さん』じゃなくて『陽炎』でいいわ。これからよろしくね、暁先輩」

 

パァァ、って表現がピッタリなくらい暁先輩が笑顔になった。ナニコレ可愛い。まるで近所に住んでで私に懐いてる小さい子みたい。けどこの人こんなに分かりやすくて大丈夫なのかしらね?確か‥‥‥前回の対深海棲艦戦争を戦い抜いた大先輩よね?

 

暁先輩は哨戒任務から戻って来た所みたい。さて、それじゃ注文に行こうかしら。私は何にしようかな‥‥‥B定食?あ、これでいいや。

 

「暁はお子さ‥‥‥じゃなくて!コレとコレにするわ!一人前のレディなら当然よねっ!」

 

暁先輩が選んだのはソムタム(青パパイヤサラダ。辛いタイ料理)とペペロンチーノ。頼む時に言葉を噛んでたけどあの人食べた事あるのかしら?また見栄とかじゃないわよね?

 

風雲の所へ戻って三人並んで食べ始めた私達。一先ず当たり障りのない世間話だったわ。少しは仲良くなれたかしらね?あ、それと暁先輩は両目に涙を溜めながら食べてたわ。何よ、辛いもの苦手なら無理なんてしなければいいのにね。それを見て風雲もクスッと笑ってたわ。

 

さて。夜戦も頑張りますか!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ノックの後に「失礼します!」って元気の良い声。そんなに堅くならなくても良いとは思うけど、立場上は仕方無いのかな。

 

私が「どうぞ」って答えた直ぐ後に、執務室の扉が開く。入ってきたのは二人。勿論吹雪ちゃんと利根さんね。

 

「二人とも、今日はありがとう」

 

両手を組んで「うむ」って頷いてる利根さんは相変わらず。吹雪ちゃんの方は「いっ、いえ、少佐」って。うーん。分からなくはないけど流石にちょっと話し難いっぽいわね。此処には私と利根さん、吹雪ちゃんしか居ないし、別に昔と同じ口調でも‥‥‥って、それは私から言わなきゃ駄目か。

 

「そんなに堅くならないで。昔みたいに楽に話してくれて構わないから」

 

「でも今は仕事中ですし、私は艦娘、少佐は上司ですから‥‥‥」って焦りつつも折れない吹雪ちゃん。私の「じゃあ、今は仕事じゃなくて休憩時間、って事にするわ」って言葉と「まあまあ、彼奴もああ言うておる事だしのぅ」って利根さんの言葉でやっと納得してくれたみたい。

 

「えっと、じゃあ‥‥‥夕立ちゃん?」

 

恐る恐るな表情で尋ねてきた吹雪ちゃんに「うん、吹雪ちゃん」って微笑む。それでやっと緊張を解いてくれた吹雪ちゃんは突然心配そうな表情で「夕立ちゃん!!」って抱き着いてきた。ああ、私ってば駄目ね。そっか。みんなに心配掛けちゃってたんだよね。

 

「夕立ちゃんの馬鹿っ!!すっごく心配したんだよ?身体はもう大丈夫なの?」

 

「ええ、大丈夫。問題無いわ」

 

沖立です。

今にも泣きそうな顔で抱き着いたまま離さない吹雪ちゃんの頭を優しく撫でた。心配してくれてありがとう。今後は多少無理しても命の危険に直結するなんて事はそうそう無いから。

 

「それなら良いけど。もう無茶しちゃ駄目だからね?」

 

私の心の中を読んだかのような吹雪ちゃんの言葉。そのくらいお見通しって訳か。今までよりかは自重するつもりではいるけれどね。清霜ちゃんやヌイヌイちゃんに泣かれるのはやっぱり心苦しいから。

 

ゆっくりと離れた吹雪ちゃん、「そうだ!」って突然思い付いたように叫んで。「不知火ちゃんと喧嘩でもしたの?」って今度は真顔で聞いてきた。えっ、今日の吹雪ちゃんはやけに鋭いわね。喧嘩した、というよりは私が一方的に怒らせたんだけどね。ヌイヌイちゃんとは後で話し合った方がいい、かな。

 

「それで?吾輩達を呼んだ理由を話さぬか」

 

利根さんが気にする程の大した理由でも無いんだけどね。名目上は夜の演習についての連絡事項。私が二人とお喋りしたかったっていうのが実際の所かな。

 

「二人とゆっくり話したかったからかな。それと、ついでに演習の連絡事項」

 

「ついでに、とは。やれやれ、御主はやはり変わらぬようじゃな」

 

その連絡事項っていうのはね、呉の旗艦変更。昼戦は阿賀野さんに旗艦をしてもらったんだけど、ちょっと試してみたい事が見付かってね。神通さんと相談した結果ね。

 

「演習での呉の旗艦‥‥‥‥‥‥阿賀野さんから風雲ちゃんに変更します」

 

吹雪ちゃんが「えっ?」って顔してる。うーん、やっぱり外側から客観的に見ないと気付かないかな?

 

「あの、夕立ちゃん?‥‥‥風雲ちゃんって‥‥‥あの風雲ちゃん?」

 

「ええ。貴女に追い掛けられてたその風雲ちゃんよ」




次回夜戦は風雲が旗艦に抜擢。彼女の心境や如何に。




艦これアップデート完了しましたね。秋の装いの秋雲さんが持ってる液晶タブレット、30万円の代物らしいです(提督有志調べ)。
秋イベが近づいて来ましたが、毎度毎度イベントの度に『次はレイテ』って声が聞かれます。今回も例に漏れず。あーまた始まったくらいに思っていましたが‥‥‥。

扶桑voice→決戦よ!
山城voice→扶桑型活躍の時!
時雨voice→まるで死地に向かうような危険な言葉
満潮voice→何時にも増して弱気で不安そうな言葉
ついでにヌイヌイvoiceも決戦言うとる‥‥‥
あっ‥‥‥こ れ レ イ テ だ ‥‥‥

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