まさかのリハビリシリーズの投稿のためにリハビリが必要になるとかいう訳のわからない事態にはなりましたが、どうかご勘弁下さい。←
……え? なんで美波かって? 厄除け←
「んー……こっちのもいいなぁ。圭さん、どっちがいいと思います?」
「どっちでもいいんじゃね? どーせ寝間着だし」
「もう! せっかく新しい服を買いに来たんですからちょっとくらい真剣に考えて下さいよ!」
ぷんすか、と擬音が付きそうな膨れ方をして、再び美波は服に目を向ける。そんな美波を見ながら、俺は気付かれないように小さく溜め息を吐いた。
ちらりと周りに目を向ければ、カップルや夫婦であろう二人組、はたまた親子であろう一行がそれなりにいた。
それもそのはず、今俺達がいる場所はショッピングモールに新しくオープンした服屋なのだ。オープンしたてなこともあってオープニングセールの真っ最中である。そりゃあ人も入るというものだ。
普段なら絶対足を踏み入れないであろうこんな人混みの中にいるのにはもちろん理由がある。あれはそう、一昨日の夜の話だ。
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風呂から上がり、リビングで麦茶を飲んでから寝室へ向かう。ドアを開けると、そこにはベッドの上で難しい顔をしながら座っている美波がいた。
「どうした? なんか難しい顔して」
「あ、圭さん。それが……」
よっぽどなことなのか、どうやら美波は俺が入ってきたことに気付かなかったらしい。いや、ここはそもそも俺の部屋なので入ってきたという表現は不適当なのだが。
以前の仲違いから仲直りして以降、晴れて付き合うことになってから約二年が経っていたのだが、あれから美波が地味に甘えん坊になりつつあった。
朝の登校は授業の関係もあって別ではあるが、帰りは大体一緒。当たり前になってしまっているが台所は美波に占拠され、寝るときは毎日必ず引っ付いてくる。もはや美波の部屋が荷物置きのように使われている状態だ。
美波は「恋人同士なんだから普通ですっ」と言ってはいるが絶対違うと思う。このことを話したら秀磨はドン引きし、鷺沢は苦笑いしていた。あいつらが互いに奥手なだけなのか、こっちが過激なだけなのか……こんなことで女性経験の少なさが仇になるとは思わなかったが。
まぁそんなことは今はいいだろう。美波の顔を見れば、変わらず困ったような、恥ずかしそうな表情をしている。
「ちょっとパジャマがキツくなったような気がして……」
「最近お好み焼きばっかだから太ったんじゃ……待て、落ち着け! いくらなんでもノパソは投げんな!」
「もう! デリカシーって言葉をそろそろ覚えて下さい!」
少しからかってみたが、ノートパソコンを投げられかけたので慌てて止める。こいつが壊れたら俺の卒論がパァだ。就職に関しては一応決めているため、卒業できなくなるのはなかなかキツい。
「身長伸びたとかか?」
「キツいのは胸元だけですし、違うと思います」
「……要するに、バストが成長したってだけじゃないのか?」
「……そうかも」
まぁそりゃあそうなる、と言われても仕方のない生活してればそうなるのだろう。なんせ大体週4ペースだ。いつか俺死ぬんじゃないだろうか。
「衣替えにゃまだ早いが、今度買いに行ってこいよ。流石に寝るときに服がキツいのは寝づらいだろ」
「うん。ほら、こーやって背伸びするのもひとくろーー」
その時だった。バツンッと鈍い音が鳴り、俺の額に突然痛みが走る。
「いっ!?」
「え? ーーきゃああああ!?」
頭に衝撃を受けたせいか、うっすらと消え行く意識の中。最後に俺が目にしたのは、ジッパーが壊れたせいで露になった双丘を必死に隠す美波の姿だった。
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これが美波チャックボーン事件の全容である。まぁ被害者俺、元凶俺と美波のある意味自業自得としか言えない事件ではあったが。……それでもDからF寄りのEになってたのは予想外だと思うんだ。
「圭さん、今失礼なこと考えませんでした?」
「ソンナコトナイヨ」
「怪しい……」
人体の神秘について考えていると、案の定美波が反応してきた。何とか誤魔化してはみるものの、会計を済ませたのだろう、紙袋を渡しながらこちらをジト目で見てくる。美波と一緒になって俺の聖典を探し出すアーニャといい、秀磨の思考を的確に当てる鷺沢といい、女子にはニュータイプしかいないのだろうか。
「そんなことより、決まったんなら早く会計行くぞ。早くしないと特賞取られるかもしれないからな」
「むぅ……何か納得いかない……」
そう、今回の買いものはただ単に美波のパジャマを買いに来ただけではない。むしろこちらの方が本命と言ってもいいだろう。なんせその為に昨日は神運と名高い後輩系生き神様と飲みに行ってきたのだ。
「福引きなんてそう当たるものじゃないんですよ?」
「不可能を可能にするのが奴だ。奴の運を信じろ。それに、お前だってこっそり昨日あの新年によくテレビに出てる人と遊びに行ってたの知ってんだぞ?」
後輩から聞いたことをそのまま美波に伝えれば、美波はみるみるうちに顔を赤くさせてしまう。
「し、仕方ないじゃないですかっ! ……私だって、圭さんと旅行行きたいんですっ」
顔を紅潮させて少し上目遣いでこちらを睨んでくるが、全く怖くない。むしろ何と言うか、からかいがいがあるとでも言うのだろうか。俺はとりあえず、そんな美波の頭に手を置いた。
「あ、ちょっと!? 髪が……ってまた子供扱いしてませんかっ!?」
「はいはいよしよし、大人しくしましょーねー」
「むっ……DVDボックスの底のキズ防止用の厚紙の三重底の二枚目と三枚目の間」
「さぁ運試ししに行こうか。ほら、腕組んでいいぞ」
「ほんとにもぅ……男の人ってほんとに……もぅ」
そこから福引きまで、心なしか腕を組む美波が絞めにかかっていたように力を入れていたような気がした。
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「それでは、ごゆっくり」
仲居さんが襖を閉めると、そこに残るのは早くもお茶を煎れ始めている美波と俺だけだった。
結局あの後福引きで特賞の二泊三日某県温泉宿宿泊券を当て、その為に日程を調整していた俺達はすぐさま行動に移していた。
……しかし、扇のやつは一体何なのだろう。リアルに神様だと言われても驚かない気がする。マジで当たるとは思っていなかった。外れても一泊くらいで旅行には行けるように金を用意していたのだが。まぁその分自由に使える資金が増えたのは素直に嬉しい。
「はい、どうぞ」
「お、サンキュ」
そのまま対面に座ってお茶を飲む。窓の方を向けばオーシャンビューが広がっているが、港町育ちの俺たちからすればそう珍しいものではない。なんなら逆に落ち着くまであるほどだ。
「さて、とりあえず落ち着いたわけだが……」
「そうですね。どうしましょう? 色々ありましたし。テニスコートに卓球台、ゲームセンターにボウリング場。カラオケビリヤードダーツにもちろん温泉。ざっと思い付くだけでもたくさんありましたね」
「流石観光地ってやつだなぁ」
美波と向かい合いながらこれからの予定を考える。まだ昼ではあるが、少し太陽が傾いてきた。それを考えるとあまりここで時間を使いたくはない。
「せっかく温泉あるんだし、それ中心に考えるか。テニスしてから温泉、んで卓球してからもっかい温泉でどうだ?」
「いいですね。テニスも卓球も負けませんよ?」
スポーツと温泉中心に案を出せば、美波は楽しそうに同意する。それと同時に挑戦的な目でこちらにケンカを売ってきた。
「ほほう? 高校時代俺に食ってかかってきては返り討ちに遭った記憶が薄れてきてるみたいだな?」
「あ、あれは高校のときですっ! ラクロス部とレッスンで鍛えてる私と何もしてない圭さんならもう立場は逆転してますっ!」
「へー? ほー?」
「もうっ! 後でショック受けても知りませんからねっ!?」
そう言うと、美波は頬を膨らませながらバッグを漁り出す。こいつのことだ、こんな時のためにスポーツウェアも持ってきたのだろう。俺は浴衣があったため用無しになった寝巻き予定のジャージを使うが。
「……そこまで言うなら、賭けでもやるか?」
「賭け、ですか。いいですよ。その余裕、絶対崩してあげますっ」
そう俺が言うと、美波は案の定乗ってくる。バカめ、この時点で俺の勝ちは決まったんだよ。
「ならルール確認だ。今日中に何か一つでも俺に勝てたらお前の言うことをなんでもしてやる」
「……今、何でもって言いましたね?」
何故か少し背筋がひやっとしたが、気にせず続ける。
「じゃあ、私が勝ったらお願い二つ聞いてもらいますから!」
「おい待て!? 二つはズルいだろ!?」
「知りませーん」
両耳を手でパタパタとはたきながら、あー、と声を伸ばして聞こえないふりをする美波。何が腹立つかってそんなことしながらこっちをどや顔で見てきているこいつのことだ。
「まあいいか。負けなきゃいいし。そんじゃお前が負けたら……」
「負けたら?」
「アーニャにガチで告白(恋愛的な意味で)してもらおうか」
「…………」
美波の顔が急に無表情になる。この頃日本語と文化とサブカルチャーが染み付いてきたアーニャのことだ。以前のように言葉のまま受け取って喜ぶことはもうあるまい。「ミナミ……そういう趣味だったんですか……」ってなって引かれるか、「ごめんなさい」と素直に謝られて気まずい思いをするだけだ。どちらにせよ、可愛がっている妹分に引かれると言う地獄を味わうことになる。
「……じゃあ、私が勝ったらお父さんに『娘さん貰います』って言って下さい」
その言葉を理解した瞬間、俺の背中に冷たいものが走る。
新田父。口癖は「娘はやらんぞ」。何故か俺に対しての攻撃性と殺意がやたらと強い男だ。この前里帰りし、ウチと新田家でバーベキューした時に少し話したのだが、
「お久しぶりです、おじさん」
「おお、圭くんか。また背が伸びたか? 娘はやらんぞ」
「まぁ伸びましたね。一センチくらいですが」
「そんなものか? 雰囲気が大人になったから大きく感じたのかな? 娘はやらんぞ」
「そんなお世辞言われても肉しか出ませんよ?」
「はっはっは、十分じゃないか。娘はやらんぞ」
と、話が通じているのかいないのかよくわからん相手だ。そんな人にあんなこと言ってみろ。多目に見ても戦争は避けられない。
「…………」
「…………」
絶対に負けられない戦いが、そこにはあった。
~とある宿泊客の証言~
ええ、はい。テニヌってやつでしたね。初めて見ましたよ。リアルに瞬間移動みたいな動きをする人なんて。
何か「風林火陰山雷」とか「Coolドライブ」とか「才気煥発の極み」とかよくわからない単語も聞こえましたが。あの二人でもプロじゃないんですよね? プロの人ってどんだけすごいんだろう……。
え? ああ、そりゃまぁ思いましたよ。ぼくの知ってるテニスじゃねぇ、ってね。ちなみに男の人の圧勝だったみたいです。
「むぅ……!」
「そうむくれんなよ」
「だってあんなの反則ですよ! 全く跳ねないサーブって何なんですか!」
テニスの結果は賭けられたものもあってか俺の圧勝だったのだが、どうやら美波的には納得がいかなかったらしい。何でも私の知ってるテニスじゃない、とか。
おかしいなぁ。秀磨とやるときはアップにボール十個で打ち合いとかやるんだが。
その後は言っていた通り温泉に入っているのだが、どうやら客ごとの個別混浴風呂らしく、せっかくなので一緒に入っている。今は湯船の中で俺のあぐらの上に美波が足を伸ばしながら背中を預けて座ってる状態だ。
「卓球の時はあんな訳わかんない技禁止ですからねっ!? 私が返した玉に絶対アウトになる回転かけたりとか、バウンドしない玉打ったりとか、そもそもネットを越えさせない回転かけたりとか!」
「はいはい、普通にやりますよーっと」
そう言いながら美波の髪を手櫛で鋤くと、美波はよりこちらに体重を預けてくる。
ちょうど海に日が沈む時間だけあってか、薄暗いような明るいような、微妙な感じが何とも雅だ。
「……でも、楽しかったですよ」
「そうだな。久々にちゃんと体動かしたし」
「もう、そういうことじゃないです。圭さんと一緒だから、私は楽しかったんですよっ」
空を見上げる要領でこちらを向きながら微笑む美波。それを見た瞬間、自分の顔に血が巡った自覚があるため、さっと顔を逸らした。
「あ、照れました? 照れましたよね、今」
「うっせ。ほら、さっさと上がるぞ。お前俺に勝てなかったらアーニャにコクるの忘れてねーだろうな」
「はいはい、今行きますよー」
ニヤニヤしながら美波が俺の後ろを着いてくる。それを見て、俺は卓球で絶対にイジメ倒してやると決意を固めたのだった。
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結論から言おう。最後の最後に一敗しました。
いや、話を聞いてくれ。あれは卑怯だと思うんだ。ルール上、デュース無しの11点先取にしていたのだが、10対10のまさに最終セットで俺にチャンスボールが回ってきた時だった。
「圭さん……!」
「ふはは! これで終いだ! 潔くアーニャにコクって砕けーー」
「ーー大好きです」
「っ!?」
美波にしては珍しい、ハートマークがついていそうな甘えた声だったため、思わず力加減を間違えてアウトになり、負けた。いくらなんでも卑怯だと思う。
「ほら圭さんっ! ハリーハリー!」
「……また今度ってことには?」
「だーめーでーすっ」
そうして出来上がったのがこの目の前のモンスターガールフレンドだ。実に嬉しそうにこちらを煽ってくるのが質が悪い。
「せめて明日にしてくれ。こっちにも覚悟ってもんがだな……」
「うーん……仕方ないですね。じゃあ明日絶対言って下さいねっ」
そう言って美波は自分の布団へ、枕を抱えながら飛び込む。もちろん二人とも浴衣だ。何だかんだ言いはするが、やっぱりこいつは何を着ても似合うと思う。
「とりあえず今日のところは普通に寝ようぜ? 明日は一日遊び倒すだろ?」
「そうですね。少し早いかもしれませんが寝ちゃいましょうか」
そう言って二人とも横並びの布団に入る……と思いきや、案の定美波が俺の布団に潜り込んで抱き付いて来た。
「オイコラ」
「いいじゃないですか、これくらい。いつも通りですっ」
そう言われるともう何も言えない。いつものように布団から顔だけ出す美波を抱き枕のように抱きながら、美波が寝静まるのを待つ。
……このときほど、準備が大切だと実感したときはないだろう。そう考えながら、俺は自分の鞄に目を向けるのだった。
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朝、ほとんど同時に目を覚まし、美波は顔洗いに、俺はお茶を飲むためにそれぞれ動く。
海を見ながらお茶をすすっていると、背後からドタバタと騒がしい音をたてながら、美波が慌てて走ってきた。
……まぁ、何をパニクっているかは俺が一番わかっているのだが。
「け、けけ圭さん!? これ……これ!?」
「おー、そうだぞ?」
「へ!? いや、ちょっと……え!?」
「何だ? 全部言わないとダメか?」
「わかりませんよっ! わかりません……」
そう言う美波は徐々に落ち着いてきたのか、少し語調を落ち着かせる。顔は相変わらず、朝起きたばかりだというのに真っ赤だし、目は今にも泣き出しそうなくらい潤んでいるが。
「……わかりませんから、だから、ちゃんと……説明してください」
美波は左手の先を右手できつく握りながら、真っ直ぐこちらを向いている。そう真っ直ぐ見られるとどうにも照れ臭く感じるが、まぁ必要経費ということで割り切った。
美波の左手をそっと掴み、優しく右手を離す。そのまま左手と左手を重ね合わせると、そこには全く同じデザインのシルバーリングが左手の薬指に嵌まっていた。
「俺と……一生を添い遂げて下さい」
美波はその言葉を聞いた瞬間、より顔を紅く染めたが、左手を恋人繋ぎに変え、そのまま俺に抱き付いてくる。
「……はい。喜んで」
「……はは、やっぱハズいわ。ビックリした? なぁビックリしたか?」
「ビックリするに……決まってるじゃないですかぁ……!」
美波の声は少し震えていた。頭に手を乗せて髪を鋤くと、美波は唐突に顔を上げてそのまま唇を合わせてきた。
触れるような軽いものではない。底と底で繋がり合うような深いものだ。そのまま思いきり体重をかけてきたため、いきなりで支えきれずに布団の上に倒れ込む。
顔を離せば、そこには朝日に照らされた銀色の橋がかかっていた。
「……昨日の賭けのお願いの二つ目、今使いますね?」
「え? その約束生きてたの?」
「生きてます。……今日は、旅館で過ごしましょう。ね?」
「おいおい、お前それーー」
反論するまでもなく、美波が再びキスを求めてくる。
……どうやら、この可愛い奥さんの最初のお願いを聞くしかなさそうだった。
・和久井圭
22歳。大学四回生。ただしもうじき自分の店を作る予定の模様。
現在は板前やらシェフの手伝いをしながら、日々彼ら彼女らのプライドを粉々にしているとかいないとか。
・新田美波
21歳。大学三回生。人生の絶頂期に達した模様。
……書いたんだから、しばらく出ないでね?(欲しいガシャ引く時に必ずピックアップ抜いて出てくる←
・神運の人々
やっぱ便利←
・一昨日の話
昨日はナニしてやがったんですかねぇ!←
・テニヌ
作者は新のほうはアニメしか知らないんだ。すまない。
・afterについて
多分プロポーズ編って言い替えられることになりそう。
・次いつー?
…………再来年?(どの先輩に聞いても「二年目が一番忙しい」って言われるんだ……