リハビリシリーズーデレマス短編集ー   作:黒やん

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向日葵の笑顔《島村卯月》

導かれるまま、私はその通路を歩く。見慣れた光景、見慣れた装飾。懐かしさを覚えるような景色でも、私の心は動いてくれない。

 

「今は一人だけここを使わせて欲しいって人がいるから、もしかしたら一緒に使ってもらうことになるかもしれないけど、基本的には自由に使ってくれていいわ」

 

「はい、ありがとうございます……」

 

プロデューサーさんにお願いして、なんとか休みをもらって養成所に戻ってきたものの、私はそこで何をするべきか、何がしたいのかわからないままだ。大切なお仕事を休んで、みんなに迷惑をかけて……そうしてレッスンさせてもらっているのに、そのレッスンの意味を自分でもわかっていない。

疲れている、なんてことはない。それは自分が一番よくわかっていた。それでも私はプロデューサーさんの気持ちに甘えてしまった。だから、なんとしてもここで何かを見つけなければならない。私自身、全くわかっていない何かを。

トレーナーさんと別れて、以前通っていた時と同じレッスンルームを開く。すると、中からキュッ、キュッというシューズの擦れる音が聞こえてきた。さっきトレーナーさんが言っていた『もう一人』だろう。遅れてきたのはこっちだから、あいさつして場所を分けてもらおう。

そう考えて、奥へと足を踏み入れる。そこで見たのは、フード付きのパーカーを着た、背の高い男の人が耳にイヤホンを着けて踊っている姿だった。

ただ踊っている訳ではない。確かめるように、それをより高めるようにして踊っていた。振り付けも、ステップも、私では到底出来ないような技まで綺麗にこなしている。ただただ、無表情ともとれるような真剣な表情で踊っているだけのその姿に、私は思わず見とれてしまっていた。

 

どれくらいそうしていただろう、男の人が一通り躍り終えた後、軽く汗を拭ってこっちを向いた。

 

「……誰や? 見てるだけなら気ぃ散るんやけど」

 

「え? あ! すすすみません!」

 

全く予期してなかった言葉に、思わず変な声で返事をしてしまう。えっと、確か関西弁だったかな……。怒った時の美波ちゃんとは違う感じのイントネーションだったけど……。

男の人はそれを聞いて、また鏡に向き直ってしまう。確かに今の返事だとそうなるよね、と考えてしまい、今日は別の部屋を使わせてもらおうかと思っていると、不意に彼から声がかけられた。

 

「何しとったんか知らんけど、ジャージ着とるんやったらレッスンしに来たんやろ? 場所ならあんねんからやったらええ。俺も勝手にやるしな」

 

「え? あ、はい。ありがとうございます」

 

「礼なんかいらん。別にここ俺のもんでもないしな」

 

そのまま再びダンスを踊り始める男の人を見て、意外といい人なのかな、なんて考えながら、私もその隣でステップの練習を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あの、ありがとうございました!」

 

「……何の礼?」

 

その日の帰り、たまたまさっきの男の人と会って、私は場所を分けてくれたお礼を言った。男の人は全く訳がわからないようで、不思議そうな声を出していた。

結局、私達はトレーナーさんが呼びに来るまで、五時間くらい練習を続けていた。私は途中何度も休憩を挟んだけど、彼は二回しか休まなかった。とてつもない体力だと思う。休憩の間は私のステップを見ていて、それがまた無表情だったのが少し怖かったのは秘密だ。

 

「いえ、いきなり来たのに場所を分けてくれましたし……」

 

「それはええて言うたやろ? まぁ確かに現役のアイドルが入ってきた時は面食らったけどな」

 

「わ、私のこと知ってたんですか?」

 

どうやら彼は私のことを知っていたらしい。驚いたという割には全く顔に出ていなかったような気はするが。

彼が歩きながらでええやろ、と言うのに合わせてとりあえず養成所を出る。トレーナーさんが鍵を持って入り口に立っていたのでかなり遅くまで居座ってしまっていたらしい。二人でトレーナーさんにお礼を言ってから、駅に向かって歩き出す。

外はすっかり暗くなっていて、仕事帰りであろうサラリーマンもちらほらと見える。大通りの店はすっかりクリスマスムード一色で、あちこちで鮮やかな電飾が光輝いていた。

 

「さっきの話の続きやけど、たまたま姉貴に貰ったチケットでライブ見に行ったのが346のサマーフェスでな。そん時に見覚えあった顔やったからカマ掛けただけや。まさかその通りとは思っとらんかったけどな」

 

「そうだったんですか……」

 

サマーフェス。あの時はとっても楽しかった。みんなで一緒にレッスンや合宿を頑張って、みんなでライブを成功させて。夢みたいな時間を、楽しい一時を精一杯頑張っていた。

 

「それはそうと、現役のアイドル様が何で養成所にレッスンしに来とったんや。レッスンするならもっと設備いいとこあるやろ?」

 

「それは……」

 

当たり前とも言える彼の疑問に、私はつい言葉を詰まらせてしまう。何せ、私にも戻ってきた理由がわからないのだ。疲れをとるため? 違う。基礎をやり直すため? それも根本的には違う気がする。出来ないところを出来るようにする? それでは養成所にいる理由にはならない。

黙り込んだまま俯いた私を気遣ってか、彼はとっさに言葉を入れてきてくれた。

 

「あー……言いたくないなら言わんでええ。何か理由あるんは見たらわかるしな」

 

「ごめんなさい……」

 

「なんやお前、謝ってばっかりやなぁ」

 

何事もなかったかのように振る舞う彼に、内心で感謝する。見た目からは想像もつかないが、優しい人であるようだ。どこかプロデューサーさんに似ているような感じがする。見た目は断然こちらの方が柔らかいけれど。

 

「えっと、あなたはどうして養成所に?」

 

「……なんかその呼ばれ方気持ち悪いな、川島響夜や。同い年くらいやろうし敬語もいらん。あ、俺大学一年や」

 

「あ、そう言えば……島村卯月、高校二年生です」

 

今更ながら自己紹介をする。大学一年生だそうだが、てっきり社会人かと思ってしまっていた。

 

「それで、川島さんはどうして養成所に? 川島さんもアイドル志望ですか?」

 

「お前、それ俺の顔見て言ってみ?」

 

「あう……」

 

「やろ?」

 

川島さんの顔は、どうにも威圧感がある。具体的にはヤで始まる自由業の方と言われても違和感がないくらいだ。

 

「俺はダンサー志望でな。最近は路上やと治安の関係で取り締まり厳しいからな。ちょっと伝手使って養成所借りてるんや」

 

「そうだったんですか……」

 

ダンサー志望だというなら、あの凄かったダンスも頷ける。

 

「ま、何件もオーディション受けてるけど、全く合格出来てへんねんけどな」

 

「えっ?」

 

思わず聞き返してしまう。始めて見て、ダンスに引き込まれたほどの魅力があったのに、受からなかった? 私でさえアイドルになれているのに。

そんな考えが漏れたのか、川島さんは私を一瞥して、言葉を続けた。

 

「俺には今の時代に合わん致命的な欠点があるからな」

 

「致命的な……欠点?」

 

聞き返せば、彼はおう、と軽く返してくれる。

 

「笑われへんねん、俺。生まれつき、表情筋がほとんど動かんからな」

 

何でもないかのように、今までと違う感情の消えた言葉で、彼はそう私に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ちゃう! そこは右足前や!」

 

「はい!」

 

あれから数日。川島さんのダンスの腕前を見て、私はステップの指導をお願いしていた。川島さんは普段は穏やかな優しい人だったが、この時だけは鬼と見紛う厳しさを見せる。

ほとんど毎日、私はこの養成所に来るようにしているが、私が来た時には川島さんは必ず来ている。しかも自分の練習をかなりの時間している状態だ。それだけ会う機会も多く、怖い顔はプロデューサーさんで慣れていたので、私達が仲良くなるのは早かった。

 

指示されたところを直しながら、何とか踊りきる。それを何度も繰り返し、ほとんどミスなく踊りきることが出来るようになってきた。

 

「……うし、じゃあ次、島村の持ち歌の振り付けやってみよか」

 

「はい!」

 

いよいよ、川島さんに頼んだ私のソロ曲の振り付けに入る。以前の練習では全く上手くいかなかったが、今なら出来る、と思う。

曲が始まるのに合わせて踊り始め、そのまま最後まで続ける。その際、ハンドカメラで録画するのを忘れない。一回通しで踊った後に、直すところを分かりやすくするためだ。

 

「~~~~♪」

 

躍り終えた。ミスはなかった、と思う。少し期待を込めて川島さんの方を見るが、当の川島さんは相変わらずの無表情でカメラを覗き込んでいた。

 

「川島さん! どうでした!? 私始めて出来たと思います!」

 

「…………」

 

川島さんの返事はない。小さく何かを呟いたようだが、それを私が聞き取ることはなかった。

 

「島村」

 

「はい?」

 

「お前、何をビビってんのや?」

 

ビビって……確か、怖がってるとか怯えてるって意味だったはず。

そう言われても私には全く心当たりがない。首を傾げていると、川島さんは私にさっきの映像を見せてきた。

 

「何も気付かんか?」

 

「えっと……」

 

「お前、前に比べてえらい顔強ばってるんやで? しかも自分の曲の振り付けの時は特にな」

 

言われてみれば、少し笑顔が固いように見えなくもない。とは言うものの、自分ではよくわからないと言うのが本音だ。

 

「……前々から気になっとったことやし、折角やから今聞いとくけどな」

 

川島さんが改めて私にそう言う。何故だろう、その先の言葉は聞いてはいけないような気がした。

心の中で願っても、私に川島さんの言葉を止める術はない。そして、その時がやってくる。

 

「お前、何のためにここで頑張っとるんや?」

 

私の中で、ナニカがコワレル音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お前、何のためにここで頑張っとるんや?」

 

以前からずっと気になっていたことを、遂に聞いてしまう。それが島村の隠したい事情であることは、短い付き合いながらわかっていたが、聞かずにはいられなかった。

と言うのも、最近島村にダンスの指導を頼まれたことで、島村の振り付けを見るようになったのが原因だ。自分のことに集中していた時はわからなかったが、島村はまるで何かに追われるような必死さで踊っていた。そこにあるのは夏に見たような笑顔ではなく、ただの貼り付けたような仮面。ただミスを無くそうとしているだけで、行き着く先はただのロボットだ。

一時期は俺も同じだったからわかる。オーディションを受ければ笑顔を理由に不合格。技術ではなくその他の理由で落とされ、腐っていたことがあった。

そんな時に、姉貴にライブのチケットを貰った。半ば無理矢理観に行かされたそこでは、新人だろうアイドル達が、雨で少なくなった客を前に楽しそうに歌い、踊る姿があった。とてもではないが上手いとは言えない振り付け。所々ずれてしまっていたそれは、普段なら全く興味を引かれなかっただろうに、その時ばかりは目を離せないくらいの魅力を放っていた。

荒削りでも、未熟でも。『楽しい』と、そう伝わってくるダンスに俺は魅了されたのだ。

 

それなのに、今の島村は違った。出来ないことが悪だと言うような必死さで踊るその中には『楽しい』と思う要素が微塵もない。何かに怯え、自分を出さずに引きこもってしまっているダンスが、彼女に、彼女達に救われた俺としては許せなかった。

エゴだなんてわかっている。押し付けだともわかっている。それでも、どうしても島村にそんな顔をしてほしくなかった。

 

「基礎をやり直すためとか言うてるけど、それは事務所のとこでも出来るやろ。お前は何かやらなあかん思うてここに来てるはずや。じゃあそれは何や?」

 

「…………」

 

島村は答えない。目を見開いたまま、俺を見て固まっていた。

 

「……ええわ。言われへんねやったら構わん。でも、これだけ聞かせてくれ」

 

踊っていた姿は、いつも苦しそうだった。笑っている顔も、いつもどこか無理をしていた。付き合いの短い奴が何を、と言うかもしれないがわかるものはわかる。

なぜなら、俺がそうだったのだから。

 

「お前、今ちゃんと楽しいんか?」

「っ!!」

 

乾いた音が、レッスンルームに響き渡る。その音にはっとしたような表情を浮かべて、島村はオロオロとし始めてしまう。

 

「え……あ……わ、私、こんな……こんな、つもりじゃ……!」

 

「…………」

 

振り抜いた右手を押さえながら、島村の目に涙が浮かぶ。一瞬目が合った直後、思わずといったような動きで、島村は部屋を飛び出して行った。

 

「卯月!?」

「しまむー!?」

 

そして扉の先に二人の女子が立っていた。見覚えがあるので、島村の仲間だろう。黒髪の方は慌てて島村を追って行ったが、茶髪の方は少し迷って俺の方に来た。

 

「何があったんですか?」

 

「……ええからはよ島村追ったれや。今なら多分、あいつの本音が聞けるはずや」

 

そう言うと、茶髪は小さく頭を下げて島村を追って行った。

俺はその場に座り込んで、そのまま後ろに倒れ込む。

 

「……いったいなぁ、ほんまに」

 

その呟きは、小さく部屋の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『響夜アンタ、CPで凄い噂になってるわよ? 卯月ちゃんを泣かせた鬼畜男ーって』

 

「まぁ、泣かせたってことなら合っとるしなぁ」

 

『当の卯月ちゃんは大慌てだけどね。私の弟ってことがバレたから毎日凄い勢いでどこにいるのか聞きに来てたわよ? 大阪って言ったら凄いしょぼんとして戻っていくから罪悪感凄いのなんの』

 

「はいはい、もう何回も聞きましたよーって」

 

その後、一ヶ月ほどが経ち、俺は成田空港にいた。しばらくはオーディションを受け続けていたのだが、やはり結果は惨敗。それでも諦めずに路上パフォーマンスを繰り返していると、ある日女の人に『アナタ、そのダンス世界に羽ばたかせるべきよ!』と話しかけられ、あれよあれよとアメリカの大手プロダクションとの契約が纏まってしまったのだ。

あまりの出来事に心配になって姉貴に相談したが、『あー……まぁ、心配いらないわよ』と妙に納得した声でそう言われた。

そんな訳で、今はワシントン行きの飛行機を待っている状態だったりする。

 

『昔っからあんた不器用だものね』

 

「顔で表すとか苦手通り越して不可能やしな」

 

『そういうことじゃないわよ。ホント、あんたわからないバカよね』

 

「なんやと独身アラサーが」

 

『はっ倒すわよ愚弟』

 

そんな風に仲良くケンカしていると、アナウンスが流れてくる。スマホを片手に荷物を纏めて、ソファから立ち上がる。

 

「んじゃ、そろそろ切るぞ。アナウンスも鳴ったしな」

 

『そ……間に合わなかったか』

 

「あん? 何か言うたか?」

 

『何も? それよりあんた、いい加減彼女の一人でも作りなさいよ? 帰って来た時彼女いなかったら通天閣で串カツ奢ってもらおうかしら?』

 

「何やそれ。んじゃ俺が帰って来た時に姉貴が結婚出来てなかったら回らん寿司屋奢ってもらうわ」

 

『えっ、ちょっーー』

 

姉貴の返事を待たずに通話を切る。交渉事の基本は相手に反論させないことだと言うが、その通りだと思う。何よりからかい半分で言ってきた姉貴が悪い。

 

カラカラとキャリーケースを動かし始める。意外と人が多く、それなりにかかるようだ。十数分待ち、ようやく受付が近くなってきた時、唐突に俺の腕に重みが加わった。

 

「はぁ……はぁ……みつ、けた……!」

 

そこにいたのは、俺が泣かせてしまった女の子。島村卯月がそこにいた。走って来たのだろうか、息は絶え絶えで、髪も崩れてしまっている。

 

「島村……? お前、何でここに」

 

「川島さん……瑞樹さんに教えてもらいました」

 

落ち着いたのか、ふぅと息を溢して真っ直ぐ立つ。いかんせん距離が近いので、島村は自然と上目遣いになっていた。

 

「まだ……川島さん、ううん、響夜さんにお礼を言ってませんでしたから」

 

「お礼? 自分泣かした相手に?」

 

「あれは私が弱かったからです。でも、響夜さんや友達のみんなのおかげで乗り越えられたから……だから」

 

そう言うと、島村は深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました!」

 

「……島村」

 

「卯月です」

 

「ん?」

 

「卯月って呼んで下さい。仲の良い人はみんなそう呼んでくれますから」

 

頭を上げて、真っ直ぐにそう言ってくる島村……卯月。その目は以前になかった光を放っているような、力強い目だった。

 

「響夜さん、また……また、帰って来たら、私にダンス教えて下さいね!」

 

そう言う卯月の頭をくしゃりと撫でる。そこで始めて自分の髪がボサボサになってしまっていることに気付いたのか、卯月はあわあわとし始めてしまう。

その様子がおかしくて、俺は内心で笑みを溢す。

 

「帰って来たらまた教えたるから、それまでしっかりアイドルやっとれよ? ……んじゃまたな、卯月」

 

俺がそう言うと卯月は一瞬びっくりしたような顔をしたが、すぐに手をぶんぶん振って応える。

 

「はい! またです、響夜さん!」

 

その表情は、あの夏に見た向日葵のような笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はづき、ママみたいなアイドルになる!」

 

ソファの上に立って、幼い女の子が母親であろう女性に向かってそう宣言する。その目はキラキラと輝いており、女性はそれを見てニコリと笑いかけた。

 

「ふふ、葉月はアイドルになるの?」

 

「うん!」

 

「だったら、パパや凛ちゃんにもダンスとか歌とか教えてもらわないとね。いっぱいがんばれる?」

 

「がんばるもん! れいちゃんのママも、れいちゃんといっしょにおうたうたってくれるもん!」

 

「(凛ちゃん……英才教育しすぎじゃないかな……?)」

 

娘の言葉を聞いて、親友の行動に思わず苦笑いが漏れてしまうが、それはそれである。

そんな会話をしていると、玄関から声が聞こえてきた。

 

「パパだ!」

 

「葉月、お迎え行ってあげてくれる? ママはごはんの用意しちゃうから」

 

「うん! パパー!」

 

とてとてと玄関に向かう娘の姿を見守りながら、女性は既に用意してあった皿をテーブルに並べる。それを終えたのとほとんど同時に、リビングのドアが開かれた。

 

「お帰りなさい、パパ」

 

「ただいま、卯月」

 

そう言って笑い合う二人を見て、娘が自分も、とじゃれついてくる。

そんな家族の近くに置かれた写真台には、六年前の純白のドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべる女性と、珍しいことに、薄く、本当に小さく笑みを浮かべている男性の写真が飾られていた。

 

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