ARC THE LAD -生き残ったもう一人のいにしえの七勇者- 作:妄想プリン
ヂークベックを封印してからすでに10年が経過した。人間は思った以上にたくましい生き物であった。各地にパワーユニットを封印しつつ世界を回っていた俺はノルさんとバルダさんの故郷であるハルシオン大陸西部に存在するアララトスに立ち寄った。そこには七勇者の使命が果たされる前の大崩壊によって絶望の中暮らしていた人々の姿は存在せず、生活物資が足りない中でも懸命にそして希望に生きる人々の姿があった。
アララトスは街として復活していた。この調子では文明ができ、国として復活する年も近いのかもしれない。こんなにも早くアララトスの復興が進んでいるのは実はノルさんのおかげであったりする。
この世界でモンスターを倒す実力がある人間はほとんどいない。モンスターというのはもともと科学によって人為的に生きる兵器として作られた生命体のことである。兵器として生まれたものだから戦闘力は普通の人間では大きく隔たる。兵器として生み出されたモンスターたちだが当然人間に管理されていた。一部のモンスターは脱走し人間に被害をだすこともあったがそれは少数であった。それまでモンスターとは人間の代わりに使われる戦争の道具というのが世間の認識であった。
それを変えてしまったのが大崩壊である。大崩壊の際に大多数のモンスターたちは人間の支配下から離れ、世界中に自分たちの縄張りを築いていった。もともと兵器として生まれたせいか繁殖力も高いようであった。そして今現在は外を出歩けばモンスターと間違いなくすれ違うと言ってもいいくらい、モンスターたちは勢力を広げた。
つまりこの世界で生きるための最大の障害はモンスターであるということだ。水や食料を調達するのも、住みかを確保するのも、仕事を行うにも、何かにおいてモンスター脅威は存在し続ける。しかし先ほど説明したとおりモンスターを倒せる人間なんて数えるほどしかいない。科学に頼り切って生きていた人間たちではどうしようもなかったのだ。
そこで出てくるのがノルさんである。ノルさんはアララトスに存在した当時の集落を守護した。そしてもうすでにいないようであるが、バルダさんもアララトス周辺のモンスター退治を行っていたようである。バルダさんと共にモンスター掃討を行いバルダさんがアララトスを出発したのちに、ノルさんは有志の人を募り護衛団を作り上げた。もともと大崩壊の生き残りが集まっていたアララトスであったが、護衛団のうわさを聞き更に人が集まった。それが続くうちに町としての体裁ができてきたらしい。
「なるほど。そしてこの街を作り上げたと言っても過言ではないノルさんはこの街のリーダーのようなものなんですね。」
「うむ。余としては王国を作り上げて国王という形で臣民どもを守護したかったのだが、いかんせんそこまでたどり着くには時間と労力がかかりすぎるのだ。」
やっぱりノルさんはノルさんであった。確かに王国を作り上げるとなれば大臣やら軍隊やら政治やらとやることは多い。特にやっと街らしくなってきたここでは国を作るのはまだ先のことになりそうだ。
もう説明しなくても分かると思うが、俺が今話しているのは七勇者の一人であるノルさんだ。アララトスにやってきた俺はせっかくなのでノルさんに会いにきた。今いるのは街の入り口にある護衛団の詰め所の一室である。
「それに余も既に40を超えている。国が出来上がる頃に余の命が続いているかは分からん。」
スメリアで別れた頃は30過ぎであったノルさんはすでに40を超えている。この世界の平均寿命は決して低くはない。科学力でいえばロボットやモンスターを作りだすくらいなのだから、前世の世界よりも発達している。・・・いや、していた。大崩壊によってほとんどの技術が失われた今、医学も衰退していた。つまり重篤な病気にかかった時に対処法が存在しないである。
「この10年間でもこの地で多くの臣民がガンや心疾患で死んでいった。余の見立てでは今後の世の中では50を超えれば長生きとされるはずだ。」
魔術師であったノルさんは勉強するのが仕事というのもありゴーゲンさんには劣るが様々な知識を持っている。その中には医学的な知識も多少はあったらしい。しかし所詮は少ない知識だけであり、専門的な知識や治療の経験が無いノルさんでは簡単な病気くらいしか対処できないらしい
「そうですか。ちなみにこのアゼンダ高地に街を作った理由ってやっぱり・・・。」
「お主の予想通りだ。高地だとモンスターの接近を把握できるし、なによりもここには光の精霊がいる。」
ノルさんの言葉に俺は、やっぱりかと納得する。アゼンダ高地には五大精霊である光の精霊がいる。五大精霊とはこの世界を形作り、動かしている精霊たちの代表であり、火、水、風、土、光の5要素のそれぞれを司る。そして光の精霊最も人間に対する理解が深い。光の精霊は大崩壊によって人間が滅びに瀕している時にまっさきに動き始めた。他の五大精霊と協力し、七勇者を選定し聖柩を与えた。人間のせいで自分たちの力が失われたにも関わらずだ。
「光の精霊の加護によってこの街は豊作と守護が約束されている。」
いつのまにそんな約束を・・・。
「ソル、余は人間だ。だから過ぎゆく時には勝てない。」
俺が魔族であることはすでにノルさんには伝えている。ワイトさんと別れたばかりのようやく10歳くらいに見えなくもない外見は13,4歳の第二次成長期を迎えたくらいの外見となった。つまりどう見ても22歳には見えないので一発でばれたのであらかじめ全部話したのだ。
「だから余は永遠に等しい時間を生きるお主には人間を見ていてほしいのだ。」
「ノルさん?」
突然語りだしたノルさんに俺は声をかける。
「余は他の七勇者とは異なり、最も人間らしい人間だ。」
人間らしい人間。これの意味するところは俺には良く分からないが、ノルさんが何かを訴えようとしているのは伝わってくる。
「だから七勇者の誰よりも人間という存在を分かっているつもりだ。」
俺はノルさんが何を言いたいのか分からない。
「くくく。何を言っているのか分からないって顔をしているぞ。そもそも余とお主では人間という存在に対する考え方が違うのだから仕方がないのだがな。」
そう言って笑うノルさんに俺は何も言えなかった。
「分からないならそれでもいい。お主は今後も旅を続けるのだったな?」
「はい。」
「お主が何をその目で見て、何をその耳で聞くかは分からない。それによってどのように成長していくかわからない。しかし感情だけで動いてはならぬぞ。お主が真剣に考え、悩み、導きだした答えなら例え世界が滅ぶようなことになっても余は何も言わん。余だけではない、他の七勇者もおそらくは同じ考えのはずだ。」
完全に俺は言葉を失った。俺たちは自分たちの全てを以て世界を救った。だから世界が滅ぶなんて冗談であっても軽々しく口には出さない。そしてそれを容認するのは七勇者の存在をも揺るがすことであるのに、ノルさんは例えであっても俺の選択次第ではそれを否定しないと言った。
「どうしてそこまで俺を。」
「使命の旅でお主と余たちは同じものを見て、同じことを体験した。そんなお主が答えを出したのならそれはお主だけの考えではない。そういうことだ。」
俺はノルさんといくらか話した後、護衛団の詰め所を出て街をでた。俺の心中は先ほどのノルさんの会話のことで頭が埋め尽くされていた。
ノルさんや他の七勇者が俺に期待してくれているのは分かったが、どうしてそこまで期待してくれているのか分からない。それに人間という存在に対する考え方についてもノルさんは自分の意見は最後まで言わなかった。おそらく自分で答えを見つけろ、という意味なんだろう。
「もうワケわからねえよ。」
(俺にしては)あまりに頭を使いすぎたせいか、ブツブツと考えていたことが言葉に出る。
「それにしても光の精霊は大崩壊から俺たちに力と聖柩を与えてくれたのに、そこから更に光の精霊の加護を求めるのはちょっと厚かましくないのかな?」
―ソル、それは問題ないよ。―
いつかのように直接頭に語りかけられるような声が響き、空間に光が集まる。そしてその光から光の精霊が姿を現した。
「光の精霊!」
―久しぶりだね。君が僕のことを思ってそう言ってくれるのはうれしいよ。でもノルに頼んで人間たちをここへ呼んだのは僕なんだ。―
それは初耳であった。てっきり俺は光の精霊の人間に対する姿勢をあてにしてノルさんがここに人々を連れてきたのだと思っていた。
―世界が崩壊した時に君たち七勇者と神で約束が交わされた。―
大崩壊が起きた時、神は完全に世界を崩壊させるであった。しかし精霊によって選ばれた俺たち七勇者と神の間で約束を交わすことで、完全に世界を崩壊させることは想いとどまってもらった。そしてその約束とは以下のとおりである。
再び人類が栄えた時、過去と同じ過ちを犯す事があれば今度こそ世界を崩壊させる。二度と間違いを起こさぬよう自然と共に生きる事。
―ノルはね、不安なんだよ。誰かが見守ってやらないと人間が同じ過ちを犯してしまうんじゃないかと。―
その光の精霊の言葉に俺はあれだけ王にこだわっていたノルさんの真意に気付いた。ノルさんはおそらく人間を放置していると再び自然を、精霊を無視して過ちを犯してしまうと思っているのだろう。
だからこそノルさんは人間の中でも人間を統治する存在である王にこだわったのではないのだろうか?人間が過ちを犯さないように見守って、時には道をただそうとするために。
―ノルのその気持ちを知っていた僕はノルに協力するためにここに呼んだんだよ。―
「そう・・・だったのですか。」
ノルさんの考えを知った俺は過去の自分を恥じた。ノルさんが王にこだわっていた理由をただの野心や欲が強いだけと思っていた過去の自分を。
―君のその考えは間違えていたわけではないよ。ノルの野心と欲は確かに強い。でも彼はそれ以上に『七勇者』であっただけだ。―
「七勇者ですか?」
―七勇者は使命を果たした。でもやっていることの本質は7人とも何も変わっていないんだ。世界のために、人間のために君たちは生きている。―
確かにそうかもしれない。闇の力が復活しないように動いているワイトさんとグラナダさん。機神が悪用されないように番犬?となったハト。人間を見守ろうとするノルさん。少しでも多くの人間を救うために旅をし続けるバルダさん。未来のために自分を封印し続けるゴーゲンさん。そして俺もアイツが復活した時のために行動をしている。
―ソル、僕はうれしいんだよ―
光の精霊はいつも以上に穏やかな顔で俺に語りかける。
―人間の王が倒され、闇の力が封印された今、君たちの力は強力すぎる。それこそ第二の人間の王になることもできるほどの。―
光の精霊の言うとおり今の世界での俺たちの強さは強力であった。科学の力がない今の世の中では、生き残った人間が全員で束になっても七勇者にはかなわないだろう。
―でも君たちは変わらなかった。七勇者を選んだことは間違ってなかったし、君たちが七勇者でよかったと強く思えた。―
光の精霊がうれしいと言っているが、本当にうれしいのは俺の方である。七勇者の中で最も実力が低い俺が本当に世界を救えるのか?人間ですらない俺が人間を救うための勇者でいいのか?
これらは旅の間に何度も思ったことである。しかし精霊は俺たちが勇者で良かった。と言ってくれた。この言葉に喜びを感じないはずがない。
―僕は今後もこのアゼンダ高原で人間を見守り続けるよ。僕に用事があるのならここにいつでもおいで。―
「分かりました。ワイトさんにも言われたのですが、緊急事態の際にすぐに対応できるように定期的にここには訪れる予定です」
―なるほど、どれくらいの周期かな?―
「他の五大精霊の元にも行く予定なので、100年に一度くらいと考えています。」
―分かったよ。また会うのを楽しみにしているよ。―
光の精霊はそう言うと光と共に姿を消した。俺はそれを見届けると次の目的地へと行くために歩き始めた。