ARC THE LAD -生き残ったもう一人のいにしえの七勇者- 作:妄想プリン
俺たちがいる丘には6人の人物と何体かの機神が集まっている。
すでに日は沈み、魔法でつけた火を中心に俺たちは円をつくっていた。灯りは俺たちと隣に存在している巨大な石柱を照らし出す。
「ここで七勇者は解散だ。各自、達者で暮らしてくれ。」
俺とワイトさんは精霊からのお告げがあった後にグラナダさん達と合流し、ゴーゲンさん以外のメンバーは数珠の魔力が感じられたオルニスの丘にまで来ていた。
そこにはクレーターのような跡がいくつもあり、激しい戦闘が起きていたことが容易に想像できる。そして丘には巨大な石柱が立っていた。しかしそこにゴーゲンさんはいなかった。
「ゴーゲンは自らの身ごとラリュウキを封印したのか。」
丘の状況から大体の事情を予測したグラナダさんの顔は悲しさを隠し切れていない。
「馬鹿な・・・。魔力が足りずに自らの生命力を使用したのか?」
ノルさんは自身以上の魔法の使い手であるゴーゲンさんの力が及ばなかった、というのを想像できないのであろう。
「魔力は数珠から引き出した分があるわ。ただその膨大な魔力を扱いきることは、力を使い果たしたゴーゲンにはできないわ。」
ワイトさんの言葉に、ゴーゲンさんとの最後の会話が思い出される。
―わしは死ぬつもりはないぞい―
確かに死にはしなかった。封印されるということは、一切の自由を奪われるが生命の危機になることはない。
「数珠から引き出した魔力を操ることはせず、自分とラリュウキを中心に魔力を漂わせる。そして、自らごと魔力の中心にいたラリュウキを封印。そしてゴーゲンはこうなることを分かってて一人で戦ったのよ。」
おそらくそうなのであろう。ゴーゲンさんの分かれる前のあの言い方は自分だけは無事に戻ってこれないという前提でしか言うことはない。それにゴーゲンさんが扱えきれないような力だ。他に闘う人がいれば、その人も封印に巻き込まれただろう。
「この封印は破ることはできないか?」
バルダさんはこの中で封印に一番詳しいワイトさんの方を向いて尋ねる。
「封印を解くことは可能よ。しかし解くことはできないわ。」
封印を解くことは可能だけど、解くことはできない?明らかに矛盾した言葉を放つワイトさんにバルダさんはいぶかしげな顔をする。
「本来ならソルの魔力を使ったこの封印は、同じくソルが魔力をぶつけることで解くことはできるわ。しかしそれだけではこの封印は解くことができない。」
「なるほど。何か他の力も混じっている、そういうことだな。」
どこか納得したようなグラナダさんの言葉にワイトさんがうなずく。
「ええ、その通りよ。この封印にはさらにゴーゲンと精霊の力が入りこんでいる。つまり封印を解くには精霊とゴーゲンの協力が必要ってことよ。」
精霊とゴーゲンの協力が必要?それってつまり・・・。
「ゴーゲンと精霊はこの封印を解くつもりがないのか。」
「どういう意図があるかは私にも分からない。やろうと思えば力技でこの封印を破壊することもできるわ。」
グラナダさんの言葉にワイトさんはうなずき、言葉を続ける。
「でもゴーゲンや精霊が酔狂でこんな選択をしたのでないことは分かっているつもりよ。」
確かにゴーゲンさんが何の考えもなく自分を封印し続ようなんてしないだろう。
「封印を解こうと思ったら解ける。だけどゴーゲンさん達の意図が分からない以上、安易に解くことはできない。ワイトさんはそう言いたいんですね?」
俺が頭を使って答えを出したのがよかったのか、満足そうにうなずくワイトさん。
「少しは成長しましたね。この3年のときは無駄ではなかったようです。」
俺がヘマをするたびに殴られることで破壊されていった、あの脳細胞たちは無駄な犠牲ではなかったようだ。ちなみにゴーゲンさんと出会ったころの俺の戦闘方針は、レベルをあげて(レベルなんて実際はないので体を鍛えて)物理で殴るだった。
「私はトウヴィルに残ります。」
その後俺たちは日も暮れていたので、オルニスの丘で一晩過ごすことになった。使命を果たした俺たちは今後についての話し合いを行っている。そして最初にワイトさんが自分の今後について話し出した。トウヴィルとはアイツを封印したあの神殿がある場所のことだ。
「あの神殿は地中に封印し、精霊の山も封印します。私が死んだ後も私の子孫に封印を守り続けさせます。」
ワイトさんは七勇者の使命を果たした後も、世界を守り続ける道を選択した。
「余はアララトスに戻るつもりだ。」
ノルさんは光の精霊が住んでいる地、アララトス出身である。
「大崩壊を生き残った者たちがアララトスに集まっているという話を聞いた。ならば王たる余はそこで民を率いる義務がある。」
もはや何を言っているか分からないノルさん。ノルさんのオヤジさんに会ったことがあるが、王どころか貴族とも程遠い魚屋のおっちゃんであったのは鮮明な記憶として残っている。
「我もアララトスへ向かう。ただ、アララトス一か所にいるつもりはない。アデニシア大陸全体を回っていくつもりだ。・・・ノルに何されるかわからんからな。」
実はバルダさんとノルさんは幼馴染だ。だからノルさんの性格を理解しているのだろう。ノルさんとアララトスにいたら近いうちにノルさんの下僕1号にされるのが目に見えている。
ちなみにもう知っているだろうが、バルダさんの一人称は「我」。俺が内心でバルダさんが十分汚染されていると思っているのは墓場まで持っていくつもりだ。
まあ、グラナダさんも「我」って言っているからこの時代ではめずらしくもないのかもしれないが。
「私は自らを封印する。」
機神ジャッジメントは機神団を代表して答える。自らを封印。その言葉に俺の頭にゴーゲンさんが一瞬出てくるが、それを振り払う。
「機神は時代を動かす存在になってはならぬ。大崩壊の後の時代を動かすのは人間だ。機神ではない。」
ジャッジメントの決心はかたいようだ。それを分かっているのかだれも止めない。・・・。いや、ノルさんがむっちゃ落ち込んでいる。まじで勧誘するつもりだったようだ
「わう。」
ハトは一種族一体のモンスターだ。白クマと犬を足したような外見をしているが理性を持ち、優しい心を持っていた。長年を生きてきたゴーゲンさんでも心当たりが無いらしいので突然変異で生まれたのだろう。
モンスターの心を持たないモンスター。それはとても辛いことなのだろう。モンスターの心は持たないがゆえにモンスターとして生きられない。モンスターの体を持っているがゆえに人からは受けいられない。・・・おれはその気持ちが少しだけ分かる。
なぜハトが七勇者に選ばれたのかは精霊しか知らない。しかしハトはその牙で敵を貫き、その巨体で敵をぶっ飛ばしてきた。そしてそのもふもふとした毛皮で俺を癒してきた。4足歩行のハトに2足歩行である俺の身長が負けているという事実さえなければ、ハトは最強の癒しマスターになっていただろう。
話はそれたがハトはモンスターであろうと俺たちの大切な仲間である。そしてハトは、機神団と共に道を歩むことに決めたようだ。ハトは自分を封印するのでなく、ジャッジメント達を守るための番犬?となるようだ。
「俺は世界を旅します。」
俺は旅をする道を選んだ。俺はもっと世界を、地上を見たかった。
「我はスメリアに国を作る。」
グラナダさんのとんでもない宣言に俺たちは目を丸くする。しかしその後のグラナダさんの言葉に納得する。
グラナダさんの説明によると、国を立ち上げてワイトさんとその子孫の役目を国を挙げて補助をしていくようだ。確かにこのスメリアは放置するには不安要素が大きすぎるのだ。
まずこの島には五大精霊の一角である火の精霊、精霊の山の山の精霊がいる。それに加えてオルニスの丘のゴーゲンさんとラリュウキの封印に、精霊の山のアークデーモンの封印。そして最後に、トウヴィルの神殿の闇の封印とサルバシオの滝の聖柩。
こうして俺たちはそれぞれの道を語り合い、各自歩むことを決めた。ゴーゲンさんも自分の意思で封印を続けている。もう七人全員が集まることはないだろう。
「ここで七勇者は解散だ。各自、達者で暮らしてくれ。」