魔理沙は最近、紅魔館に行っていない。
パチュリーの体調が悪いから、という正当な言い訳はある。
でも、それだけじゃない。それはわかっていた。
「ねぇねぇ、おねーさん」
人里を歩いていた魔理沙は、声をかけられ、路地を振り返る。
傘が迫ってきていた。それも鈍器でも叩きつけてくるかの如く勢いで。
魔理沙は慌てて仰け反るように回避する。
「うおぉっ」
「おどろk――あれ?」
「あっぶねぇだろ!」
背筋がグキったのに涙目を浮かべつつも、魔理沙は身を起こした。
そこには、見慣れない青髪の少女が立っていた。左右の目の色が違っていて、何より特徴的なのは、少女の持つ傘には奇怪な目玉と口が描かれている。
魔理沙はご機嫌とは縁遠い精神状態である。
ずい、と。非難の色を隠さず顔を寄せた。少女は頬に汗を垂らして苦笑いを浮かべつつ、後ずさる。
「なーんのつもりだよ」
「え、や。――お、おどろいた?」
「すっげえ驚いたよ!」
結構大声で怒鳴ったつもりだった、が。
「やったー!」
突然、少女は傘を抱きしめて飛び跳ね始める。まったく状況についていけない。
しかし少女はニコニコとしている。両手を腰の後ろで繋いで、上目遣いで顔をのぞき込んできた。
「えへへ、何時間も付け狙い続けてた甲斐があったってもんだよー」
「おい、そりゃストーカーって言うんだぜ」
魔理沙は少女をあしらい、歩を進める。
しかし少女は傍らに駆け寄ってくると、何のつもりか一緒に歩き始める。
「……なんだよ」
「おねーさん、何かあったの? わちきで良ければ聞いたげるよ」
「いいって。お前に何がわかるんだよ……」
歩く速度を上げて、少女を引き剥がそうとする。が。
「わかるもん!」
突然、大きな声を出された。魔理沙も体を竦ませて、振り返る。
ぜはー、ぜはー。少女は肩を上下させていた。
「だっておねーさん、ずっと寂しそうな顔してたもん! ずっと見てたからわちきには分かるし! なんか、えっと、すごく哀しいんでしょ? そんな顔してたもん!」
「いや、なにひとつ具体的なこと――」
魔理沙は言葉を切って、ため息をついて頭を掻く。
一方で少女は、ハッ、と我にかえってキョロキョロしていた。今の大声はもちろん往来の皆さまにも聞こえていたので、注目が大々的に集まっている。
この上なく、恥ずかしそうに赤くなっている。泣き出しそうだ。
「――ったく」
魔理沙はその腕を掴んで、引っ張って行く。
始め、少女は混乱したように引きずられていた。しかしやがて、隣に並んで歩き始める。
「いいぜ」
魔理沙は前を向いたまま、口を開いた。
「そこまでこの魔理沙さまに興味を持っちゃったんなら、仕方ないな。少しだけ話してやるよ」
「ほんとっ?」
嬉しそうな声。振り向くと、声のトーンに相応しい満面の笑顔が咲いていた。
そういう感じで聞いてもらう内容ではないのだけれど。
だから魔理沙は声を潜め、少女だけを視界に収めて口を開いた。
「他の奴らには、内緒だぜ?」
未完