帝は高校三年生となり、駒王町では有名な人物になっていた。いや、名前は出していないが、裏でしている仕事も含めるなら、全世界で今や誰もが注目し、世界を変えるとさえ言われる人間になっていた。
しかし、当人はその日その日の学校の出来事で、幸せを噛み締める充実した日々を過ごしており、自分がお金を稼ぐためとしている仕事が今や世界経済にどれだけ根を張り、どれほど強い影響力を持っているのかをいまいち理解していなかった。具体的には、基金を設立し、その基金で貧しい人々を救っていて、自身の手元には一銭たりとも金銭の所有をしなかったのである。それも一つの国家が成立するほどの莫大な金額を、である。その行動は全世界で物凄く高い評価を得ており、平和思考の人々からは、神もかくやと言わんばかりの尊敬を集めていた。それに気付かないのだ。俗世と乖離をはかったとはいえ、此処まで来ると情け無いものである。
帝は学校へと歩いていた。その一挙手一投足にはどんな生物だろうとそこに感情が介在すれば、帝に目を向けてしまうのも仕方のないことであった。人は帝に見惚れ、犬は帝に忠誠を誓い、猫は帝に撫で欲しいのか近寄り、鳥達は糞の代わりに綺麗な鳴き声の合唱を。これが帝の通学の常である。確かにこれならば、楽しいのも仕方が無いし、幸せだと感じるのも無理もないことだ。だが、知っておいて欲しいのは、これでも抑えられているということだ。赤髪の帝の友人は兄にせがんで、この事象をどうにかしようとしたのだが、実際には、溢れる神気に耐えられなかったんだろう、と推理した帝が、個性を殺さない程度で雰囲気を抑えたのだ。つまり、これでも全然、抑えられており、もしオーラ全開で街を闊歩していれば、生命を宿すものは因果律の叫びによって、頭を差し出すことだろう。それほどであるのだ。まあ、帝にはその気がないので、そうなる現実では殆ど無いと断言してよく、もしそのような事態があるとすれば、その原因はこの世界から消されることだろう。そして、人々の記憶からも失せてしまうだろう。
「おはよう、帝!」
「うん、おはよう」
「おはようございます、帝先輩!」
「ああ、おはよう」
「おっ、帝。今日も元気そうだな」
「ええ、先生も元気そうで何よりです」
「はは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
帝は自身の通う駒王学園の校門を抜けて、帝の抑えられた神気に充てられて未だに咲いている満開の桜に迎えられながら、気のいい友人、可愛い後輩、頼りになる先生、と挨拶を交わしていた。これもまた帝の幸せの一端だった。桜が咲いている理由は、『NARUTO』の能力を全て使えるというのがミソであり、九尾の能力には周囲の生命力の強化というものがあって、それが抑圧されて微弱とはいえ滲み出ていたのだ。そんな風に帝から沢山のパワーを貰っている桜は最低でも、あと三日間は満開で咲き誇り続けることだろう。
帝は前世では剣道部であった。その剣道部で重視されたものは、『掃除、挨拶、課題』の三つである。掃除はジャパニーズスピリッツ。つまり、日本の誇れるおもてなし精神の具体例の一つとして、そして受け継がれてきた伝統を重んじる武道としては何よりも大切なものだ。次に、挨拶。これは、『相手がいて、自分も成長できる』『相手が自分の悪い点を突いて勝ってくれるから、自分の改善点が見えてより一層強くなれる』という【勝って反省、打たれて感謝】の理念に則り、それを教えてくれる相手の尊重の意を込めての挨拶である。とどのつまり、コミュニケーションの一環だけではなく、自分と相手の間に正しく尊重し合う、人としての“輪”がそこにあることをします大切なことであるということだ。最後に、課題。これは宿題、渡された仕事、という意味だけではなく、自分に目標を定めてそこまで努力するということだ。『あともう少し』『もっと出来る』と自分を鼓舞しながら、向上心を忘れず努力し続けることが重要だということだ。
帝も前世でこれら全てを完璧に出来ていたとは思っていない。寧ろ、今思えば多少なりとももっと頑張れていたんではないかとすら思える。だけど、二年生だった時に三年の先輩から、一年生への挨拶の指導をしておけと厳命された時は苦戦したものだが、挨拶をされるというのはとても清々しいことで、いつも心が晴れやかになる。
「帝君、おはよう」
「帝君、おはようございます」
「リアス、朱乃、おはよう」
その中でもとりわけ心の幸せを実感させてくれるのが、この二人の少女である、赤髪の少女、リアスは微笑を浮かべながら美しい声音で、黒髪の美少女、朱乃は足を止めて、ぺこりと綺麗なお辞儀と一緒に、それぞれ挨拶をしてくれる。そして、帝が挨拶を返すと、最高の笑顔で笑ってみせる。
帝の性格は記憶を媒介に初代の釈迦に改造されていたものであり、記憶が消えている現在では帝の性格はとても綺麗になっていた。それはつまり、恋心を抱いて向けてくる二人の少女の笑顔を、自分に見せるのは勿体無いと思っており、自身の顔さえも頓着しないほどだ。いつもリアスと朱乃に向けられる女子の嫉妬の視線を自分に対するものと勘違いしており、その度に申し訳なく思ったりしているのだ。綺麗すぎるのも、逆に体に悪いということか。
因みに、帝が二人の少女に名前を呼び捨てにするのも、自分の呼び方を名前呼びにしているのも、親密になりたい一心である。確かに
帝とリアスと朱乃は、帝を真ん中に置く形で腕を取り合いながら、同じ教室に入って行った。腕の取り合いに関しても、好感度を上げるフラグなんて何も無かったのに、こんな現象が起きるなんてありえないと断じて、帝は『二大お姉様』同士のただのじゃれ合いと認識していた。無論、他の生徒には二人の心情が分かっており、温かい目で見守っているのだが、それにも帝はクラス替えの反動だろうと思って、捨て置いた。
その後も、帝の主観、『二大お姉様』のじゃれ合いは一限が始まるまで続いた。
昼休みである。授業の内容は帝は寝ていて、聞いてはいない。ただ、帝は寝ていると無意識に体のオーラの質が上がり、学校中の生物の生命力がより強化されるのだ。桜の話もこれの効果の及ぼすところが大きい。また、学校側もこれを認知しており、『帝さまの睡眠パワー』などと戯言で、頭の回転が確実に上がった生徒たちに説明したが、『帝(先輩)なら大丈夫です!』という反応から黙秘し、寧ろ寝ている状態を崩させてはいけないと授業中は静かに勉強している。いや、日々回転の速くなり自分の脳みそにウハウハであり、多くの生徒がこれを機に詰められるだけ知識を詰め込んでいるので、喋る時間が1分たりとも惜しいのである。仙人とはそこに居るだけで、ここまでの影響力があるということだ。寝ているのに、怒られず、それどころか褒められるなど、羨ましい限りだ。
それはともかくとして、昼休みともなれば、流石に帝も起きる。だが、今日は金曜日であり、仕事があるために職員室へと赴く。仕事とは、単に寝ているのを黙認してもらう代わりに、自分が反省文として作文を書いて、提出するというものだ。勿論、これは帝が言い出したことで、学校側としては願っても見ないことだった。余談であるが、帝の作文は素晴らしい作文の例として、学園の授業に起用されている。更に蛇足であるが、帝の作文の出来は秀逸の一言に尽き、職員室の教師陣はこれを毎週楽しみにしている節がある。
「帝君、こんにちは」
「ああ、蒼那、こんにちは」
知らず知らずの内に、週刊誌紛いの事をしている帝は職員室の前で生徒会長に出会った。後ろからかけられた声に即座に振り返って挨拶をする帝の姿には、其方の気が無い蒼那でも心を鷲掴みにされるようで、だけど、そんな人だからこそ学校の広告塔にして良かったとも思っている。現に帝は駒王学園、きっては駒王町で親善大使と認定されている。
帝が見るのは人の心であり、面と向かって悪意なく話を持ってくるのなら、話も聞かずにオッケーを出してしまうのだ。つまり、何が言いたいのか。最近、町全体で清掃活動やゴミの分別活動、無事故無違反のように綺麗、……いっそ潔癖とも言える活動が頻繁、いや多発しており、更には町への転居者の数の爆増から、どこからとも無く溢れてくる寄付金、挙句には国からの国庫支出金の激増まで。これら全てが、言わば帝効果である。
学校的に見るなら、今年の一年生の入学試験の時の志願者数の圧倒的増加に、倍率の三桁越え。生徒会は仕事こそやたらめったら増えたが、それでも蒼那自身はやり甲斐を実感しており、草臥れて生徒会室を去る部下を見送る時に『会長もめげずに頑張って下さいね』と声をかけられた時には、蒼那自身は涙腺が緩み、涙しながら仕事をしたほどである。ただまあ、『蒼那自身』であって、他に適応されるかどうかは実に曖昧なところである。
厳格な雰囲気と眼鏡をかけた知的な双眸が、何処と無くサディスティックな雰囲気を醸し出しているが、帝はアゾヒズムに目覚めているわけでは無いので、震えもしなければ、喜びもしない。ただ、何時も授業中は夢の中にいるので、後ろめたい気分があるのは否めないが。しかし、二年間であるが、彼女の優しさは知っている。彼女もまた冷たい雰囲気があるだけの、可愛い少女なのだ。
「そ、そんな、可愛いなんて照れます」
「え? 口に出てた?」
「いえ、顔に出てました」
窓から見える桜の木に溶け込むピンク色に頬を染めて、彼女は言うが、そのセリフは実に恐ろしい話だ。うん、怖いなー。やっぱり、生徒会長は怖いわ。心を見通されているようでありますし、頭の中はスキャニングされてまさー。
帝は苦笑いを隠しきれなかった。いや、顔に出ていたということが、自分のポーカーフェイス故なのか、それとも彼女の超直感の話なのかがわからないからだ。怖い怖い。
「ところで、蒼那は職員室に何の用だ?」
「えっとですね、実は本校の二年生が他校の生徒と一緒に居るのを目撃したそうなんですよ。しかも、かなり多数の生徒が目撃していて、その本校の生徒の友人は『裏切りだあああああ! あの野郎! 俺たちは彼女できない組じゃなかったのか! チックショオオオオオオオッ!』とか『もうIの奴には、AVを見せてやんねえ! ……ああ、俺にも彼女出来ねえかな』とかのような証言もあって、男女の仲であるのは間違いないということで、問題を起こさないように先生方と連絡をし合おうという話です」
「……ああ、あの三人組か」
「ええ、その三人組です」
帝は蒼那の聞いた証言から、そんな事を言うのは彼ら以外に居ないだろうと思い、言ってみたが、どうやら正解のようでまるで同意と蒼那は頷いた。確かに彼等の一人でもが男女の仲になれる程の女性を作れば、問題を起こすことはほぼ必定と言っていい。うん、すぐやらかすし、何回もやらかすだろう。彼等の行動は決まっている。
「蒼那、俺からも気をつけるように言っておくよ」
「本当ですか⁉︎」
「う、うん。じゃあ、時間も無くなりそうだし、俺は行くよ」
「はい、貴方から言ってもらうことほど安心できることはありませんので、よろしくお願いします」
帝は二年生の教室、ではなく、今頃、何処かを走り回っているだろうと当たりをつけて、蒼那と別れる事にした。その際に言われた蒼那の言葉が全くピンとこなかったが、一応褒められたのかなと思って、手を振ってからその場を離れた。それを見届けた蒼那は次の瞬間には、右手で鼓動高鳴る胸を抑え、左手は緩んでしまう口元を抑えるためにあてがい、その場で屈みこんで「帝君……」と呟いていたのは、恐らくそういう事なのだろう。
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帝が件の人物を見つけるのは容易だった。単に「待てぇー! 今日という今日は許さないわ!」「へっ、すまないね。熱烈なアタック申し訳ないが、俺には彼女ーーー、」「てめえ一誠! とんでもねえ裏切り行為をしてくれたなあ!」「ま、松田! お前、どう、して……⁉︎」「はっ! てめえだけ幸せになろうなんざ許さねえ! 俺たちだっておっぱいを見たいんだよおおおお!」という声がしたからだ。全く怖いなー(棒)。
そして、曲がり角を曲がって目撃した時には、一誠が倒れており、女子たちが何かを持っていたような気がするが、俺と目が合った一瞬で消えてしまったのだ。中には木刀のような長物もあったので、即座に隠すなんて芸当は難しい筈。ならば、持っていなかったのだろう。うん、そうだ。流石にパイを隠すのは無理があるだろうし。
一誠は腕で顔を隠しているが、何も起こっていないこの現場でその格好は恥ずかしいのではないだろうか。何をカッコつけてか「くっ……!」とか唸ってるし。帝は一誠への評価を下方修正しながら、アイコンタクトで周りにいた女子と元浜と松田に帰ってもらった。彼らは一誠の友人である。名前はまだない。
「うっ! くそ、焦らしているのか! 一思いにやっちまえ!」
「……」
俺が黙っていると、先程去って行った筈の元浜と松田が二人揃って、今の一誠の奇行を動画で撮影しており、必死に笑いを堪えながら去って行った。哀れ、一誠。
しかし、恥ずかしい厨二じゃあるまいし、此処でこんなことをさせて、黙って見ているのも非常に心苦しいので、一誠にネタばらしもとい、状況説明をしてあげよう。
「一誠」
「そ、その声はっ! 帝先輩!」
お、おう。すげえなこいつ。今、首を135度は捻ってたぞ。
帝はフィギュアスケートでもやってるのか、と聴きたくなるような回転ジャンプをきめて立ち上がった一誠に驚愕しつつ、用事は済ませようと尋ねる。
「君は彼女とか出来たりしたかい?」
「あっ! 帝先輩も知ってたんですね!」
「あ、うん。おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
何故か結婚でもするかのようなアメージングなお辞儀をする一誠。腰の地点でくっきりと折れ曲がり、綺麗な鋭角を見せつけながらもプリンと突き出た尻は警戒心が皆無のようである。いや、別に俺が襲うってわけじゃないけど、ここまで大層な感謝のされようは聞いたことも見たこともない。本邦初公開。
颯然と吹く風にブレザーの後ろ身頃は翻る。いや、だから俺にどうしろと。おまけに先程から先程返した女子らと松田、元浜が何かをしたのか、廊下に誰もいない。いや、俺はそっちの気は無いですよ。二人で閑散とした廊下に居るのは嫌なものだ。いや、今にも『アッー!』な展開になりそうなのが嫌だ。
「……一誠、彼女ができた君が頭を下げることはない。それよりも、君の彼女とはどんな子なんだ?」
「はい! 滅茶苦茶可愛いんすよ!」
おうおう、攻勢逆転か。忙しいやっちゃなー。俺が尋ねた内容に携帯を操作してから、俺の目の前で翳して、見せつけてくる。それも体を擦り付けるように、マーキングするように、だ。セクハラで訴訟したら勝てるぞ、俺。
ただまあ、去ってもらうにも相手の欲求を満たしてあげるのが一番だろう。……邪な事ではないぞ? 見てくれと言われてるんだから、見てあげればいいと言うことだ。俺は、一誠の携帯に移された黒髪の少女を見た。ん? これは……。
漆黒の髪は艶かしい色気を醸し出し、下に目を逸らせば、大きくもすっきりとした目元に、すっと通った鼻梁、薄く微笑むぷっくりと柔らかそうな唇、大きく晒された鎖骨には妖艶な大人の色香がある。そして、何よりーーー、
「確かに可愛いね。……それに大きさも君が好きそうな膨らみだね」
「流石、帝先輩! わかってるぅ!」
あ、うん、俺ってやっぱり変態に見えんのかな? ただまあ、この子は中々だね。人外っていうのは俺的にはポイント高いな、一誠。
俺は一誠に微笑みかけながら、一誠の彼女自慢に適当に相槌を打っておく。ああ、話は聞いてるよ? ただ、惚気ってのは寛容な俺でも少し辛いものがあるからね。話半分、ね。
一誠の口撃は予鈴によって終わり、口を閉じたら今度は教室に戻ると言い出した。俺の時間を返せ。とはいえ、彼女の事を本気で好きみたいだし、まあいいかな。でも、一言だけ、言っておこうかな。
俺は「じゃあ、先輩。俺は教室に戻りますんで」と背を向け、走り出す一誠を呼び止める
「一誠」
「はいっ! どうしました?」
「『たとえ彼女が世界中を敵に回したとしても、俺だけは君の味方だ』なんて、彼女が何をしたのか気になるような言葉は聞きたくないからね。真面目に答えてよ?」
「え、あ、はい」
「君の彼女、夕麻ちゃんは見た目天使だ。だけど、中身悪魔。つまり、堕天使だったとしても、君は絶対に彼女を好きでいてあげられるかい?」
「……はい」
「もし君を殺そうとしてきても?」
俺の声に元気よく返事した一誠に重い問いかけをする。これは必要なことだ。……これから、一誠が自分の運命を歩む上で。
一誠は俺の言葉を真剣な面持ちで考える。一分、二分と時間が経ち、そろそろ次の授業に遅れるかというところで、一誠はようやく口を開いた。
そしてそれは、俺が望んだ答えだった。
「好きでい続けますよ」
けど、それだけじゃ足りない。俺はもっと深く一誠の考えが知りたいのであって、愛する形を聞きたいのだ。故に、どんな想いを秘めているのか、俺から詰問する。
「高校生というまだ将来を決めるには早い時期なのにかい?」
「はい。……ぶっちゃけると俺みたいな変態を好きになってくれる人って、夕麻ちゃんぐらいな気がするんですよ」
ほう、それは『俺の彼女は変態好きの変態さんなんだよね〜』という事か? 中々、言うではないか、少年。
「それに、好きになってくれたってだけで、もうずっと夕麻ちゃんの事を考えてるんですよ」
おい、さっきまで浮気紛いの覗きして、追いかけ回されてた奴がそれを言うか? 大体、さっきまで忘れてたじゃねえか。
しかし、顔を段々と赤く染めながらもはっきりと語っていく一誠には、俺も悟った。
ああ、本気で好きなんだな、と。
「夕麻ちゃんの笑顔も、夕麻ちゃんの仕草も、全部をいつの間にか追いかけてるんですよね」
「ふふ、男に言うのもアレだけど、青春してるね」
「……はい」
初々しいね〜。良いなぁ、こんな若々しさを感じる恋愛がしてみたよ。……だけど、俺には彼女なんて出来ない。だって、俺は普通の人だから。……もう少しキャラが立つような格好をしようかなぁ……。麦わら帽子とか、ドラゴンボールをくっつけた被り物とか、いつも黄色い鼠がくっついてる赤い帽子とか、ね。帽子しか出ないのは、俺が下を隠す気がないからか? んな、馬鹿な。
「……まあ、よく分かったよ、君の気持ちは。だから、精一杯、愛してあげなよ? たとえ、お腹に死ぬ程痛い激痛を貰っても」
「は、はい!」
よし、言いたいことは言ったし、帰らせてもらおうかな。
俺は教室の前につけたマーキングに飛ぶように、避雷針の術を使う。勿論、一誠にバレないようにカモフラージュもね。
「あ、先輩。そういえば、なんで夕麻ちゃんの名前wーーー、」
一陣の風が吹いた。それは厳しくも瞬きをすることを禁じ得ない。そして、目を開けた時には一誠の目の前から、帝は消えていた。
睨みつけるように見たカタカタと音のする窓ガラス。その向こうのピンクは、桜のものか、それとも自身のものか。一誠がそれがどちらのか気付いて、恥ずかしいことをしていたと悟るまで、あとわずかである。
一誠の疑問は、先程吹いた風に追従するように何処かに撒かれて消えて行った。
ーーーーーーーーーー
土曜日、帝は昨日の見た一誠の彼女の存在について考えながら、1日修行と出された課題を済ませていた。当たり前だが、授業中寝ているからとて、家でも寝ていて勉強しないなど言い訳にならない。それが出来るのは体調不良が証明できる時だけだ。
一誠の彼女、名を天野夕麻と言う。人外。それも堕天使。能力的には大したことが無い。リアスや朱乃にも及ばないだろう。帝はリアスと朱乃が人外、それも悪意なき悪意、悪魔であることも看破している。いや、隠し事をしているというのはとても可愛いことで、『ねえ、オカルト研究部って何をしてるの?』って訊くと『え、う、え? うんうん、べ、別にふつーよ?』と狼狽えるお姉様を見るのはとても楽しいし、話のタネにもなる事なのだ。とは言うが、心の読める俺には通用しないことであり、そんな彼女の可愛さにのほほんと過ごす日々である。ただ、悪魔と言っても彼女の強さは大したことが無い。大したことの無い悪魔に及ばない堕天使もまた然り、だ。多分、いっつも腹ペコしてるセイバーでも勝てる。悪魔なのに。
兎も角、一誠は近い内に死ぬんじゃないかと思う。写メとはいえ、あんな貼り付けた笑顔は、俺にとっては露骨すぎるようなものだ。腹に一物抱えているのが丸分かりである。そして、その堕天使の狙いは一誠の中の強大な力。まあ、それを使おうとか隷属させようとかではなく、危険因子の排除だろうけどね。うん、やっぱり弱いと重要性すら理解出来ない。あ、弱いって言ってしまった。
そして、一誠のそれには俺の中に宿る力と似たような波動を感じる。恐らく、仏具ないし宝具以上の力はあるだろう。一誠の間近で感じた力の奔流は、明らかにセイバーのそれを圧倒的に超えている。まあ、雑魚からしてみれば、危険過ぎて近寄れないわな。殺すのも手と言ったところだろうな。ん? 俺の仏具? 仙人は俗世と乖離した存在だからね。仏具もそれ単体だけで俗世と乖離しているね。まあ、仙人とか自分を高めることを忘れない徳の高い人間とかには、感知できるだろうけどね。具体的には、此処からでも感じる帝釈天のドアホとか。ま、俺が力を弱めているから彼方には感じ取れないだろうがね。
……一誠には、俺が先の言葉で彼女を信じてあげることを誓わせた。それは苦しい事だろうね。でも、それが因果なんだ。
「ランサーが死んだ!」
「ぶふぅ!」
食卓。セイバーが肉をモリモリと食べている横でラーメンを啜っていたら、何所かで聞いたことのあるようなセリフを大声で叫んだセイバーに驚き、啜っていた味噌味のスープを吹き出してしまった。いや、ランサーって誰だよ、セイバー。……デートで一誠が殺されたんだろうがな。
「あ、死んでなかった」
「どっちだよ」
「死にかけて助、へへほはっは、がははひいへふ」(死にかけて助、けてもらった、が正しいです)
「うん、お前、相当ふきんしnーーー、いや、ランサーだし、いいか」
「この人でなし」
「なんで⁉︎」
理不尽だ。死にかけた人間がいるというのに、米を口に注ぎ込む奴に人でなしと罵倒される。意味が分からんだろう。ま、まあ、確かに友人が殺されたというのに無視とくれば、人でなしという罵倒も仕方がないが、騎士王という立場であっても、飯を食い続けるこいつの騎士道精神ってヤツを一度、聞いてみたいですわ。それに、ジジイが消えたときも何の感慨もなく、飯を食ってただけだもんな。何方が、人でなしだ!
俺はテーブルの上に吹いてしまったラーメンの汁を台拭きで拭き上げながら、セイバーに内心で反論する。口に出しても、きっと飯をがっつくだけで聞きはしないさ。
うーん、でも、死にかけたところを助けてもらったって、何方だろうか。死んだ後で輪廻眼の外道で蘇らせる感覚か、死ぬ前に治癒の何らかの呪文で回復させたか。何方かだと思うのだが、この世界の大したことのない連中が、死者を蘇生する術を持っているとは思えない。いや、聖書の神ぐらいなら出来るような気もするんだが、如何だろう? この世界に蔓延る聖書の神の神気的なものも残り香位しか感じられないし、そもそも、もはや消え去る一方で、発生していない気がする。ま、雑魚だから、草莽の雑魚にやられたとしても仕方ないな。明智光秀みたいに。
それよりも、一誠の事だ。体の中にあった膨大なエネルギーは、昨日の時点でまだ掌握出来ていなかったことになる。あれが何かは分からないが、使えたとしたら、あんな木っ端に負けることも無かったのだろうが。
「うーん、ま、生きてるんならどうにでもなるか」
「この人でなし」
「まだ言うか。おかわり、あげないぞ」
「すいませんでしたっ!」
綺麗な土下座。ああ、セイバーも出来たんだな。ある意味、感動した。だけど、出すタイミングが最低だ。もっと守りたいものはなかったのか。
「ま、冗談だよ。唯一の家族にそんな酷いことはしないさ」
「マスター!」
うんうん。やっぱりセイバーはマスターって言ってるのが、一番だ。
「帝、……お代わりをもらえますか?」
即座にお代わりの要求をしてくる紐王。しかし、凛とした顔を少々俯かせて、目に涙を拵えて上目遣いに言ってくるセイバー。う! す、凄く可愛いです……!
俺はその様子を十分に堪能し、一つ溜息を吐いてから、
「ああ、お安い御用だ」
お代わりをあげた。ま、結局、俺はジイさんの子で、怨むべくはそんな性格の自分ということかな?
俺は自分の人を憎めず、怒ることもできない性分にウンザリしながらも、これと付き合っていかなきゃいけない事に溜息を吐く。
「ありがとうございます! 帝!」
そんな様子にも目をくれず、俺の差し出した皿の上にのっていたオムレツを見て、セイバーは見惚れるような笑顔で礼をしてくるが、そんな笑顔を見せてくれたことに俺が礼をしたいくらいだ。
ついでに、さっきの一個、訂正しておこう。
やっぱり、マスターなんかじゃなくて、名前で呼ばれる方が愛おしさが湧いてくる。
違和感だらけです。ハイスクールD×Dってこんな感じじゃない感が凄いです。
一々、話の中に解説入れるのもあれなんで、設定を作ろうかなと思います。では、また続いたら。