仏ですが、何か?   作:サボリ魔ー

3 / 4
前半は帝。後半が一誠。
前半と後半で書き方がえらい違いますが、作者は私なんで気にしないでください。

※アーシアたんが虐められています。気をつけてください。


アーシア・アルジェント

 

 セイバーの問題発言の次の日の朝、家でご飯しか食べていない気がする腹ペコ王に餌付けをし、卵黄の焼けた香りの冷めやらぬ内にエプロンの紐を解きながら階段を上がり、二階の自室でお出かけのためのおめかしをした。男でおめかしとは気色が悪いかもしれぬが、我慢してくれるとありがたい。

 三、四分で着替えと荷物の確認を終わらせて部屋を出る頃には、二階に充満している筈の磯の香りも消えている。セイバーが吸い上げたのだろう。カツカツと手摺を使わず降りた先では、セイバーがテレビを見ていた。帝の家のテレビは、帝の用意した特別仕様で、どんな番組でも見れるように作られている。たとえ、過去に放送されたものであろうと、放送事故のある回であろうと、なんでも見られる。更に、伏字になっているものを取っ払えたり、モザイクがかけられてあるものの実際の姿が見えるなどの特殊機能もある。

 まあ、セイバーが見るのは、大抵が可愛い動物の赤ちゃんを集めたようなものであるので、そのような要らない機能は使われた試しがない。因みに、腹ペコ王の癖に食レポのような番組を見ないのは『見てるとお腹が空きますから』とのことであるが、以前に一度、【イギリスの食事が世界一不味い】というお題目の番組で鰻ゼリーを見たときの『くっ! ブリテンはこんなにも……!』と尋常じゃない悲壮感を漂わせていたことから、二度とあんな屈辱を味わいたくないためだと思われる。

 ふんふん♪と上機嫌にテレビの中の獅子の一塊肉を眺めるその様は、とても国のために己を捨てて、従事したとは思えない。……因みに一塊肉とは、一人っ子の意であるが、腹ペコ王にこの表現は非常に怪しいものがある。つまり、……言い得て妙、ということだ(真顔)。

 ソファの上で寝転がって足をバタバタしているセイバーを横目で見て少し微笑んだ帝は、テーブルの上に置かれた皿を纏めて流し台に置く。そこで目を一瞬だけ輪廻眼にして、輪墓・辺獄。この技は、見えざる世界の輪墓の自身を呼び出し、敵に攻撃する技だが、呼び出した理由は単純に皿洗いを任せるためである。

 スポンジと洗剤が一人で宙に浮いては、まるで皿洗いの達人かと思うほどの洗練な動きで皿が磨かれていく。研磨に程近いそれは、キュッとふきんで拭き上げた皿は製造直後かと見まごうほどの美しさを放っていた。しかし、見えない世界から来たので、拭き上げた当人は呼び出した本人以外には感知できず、見えもしないので、拭き上げた後は誰に気づかれるわけでもなく、空気に溶け込むように消えて行った。一応、物凄い強い存在ではあるのだが。

 

 帝は普段通りに活動していた。普段通りというのは、ただ目的もなくぶらつくだけだ。元々、今日のこの時間も何処かに行こうと思っていたわけではないが、何と無く味噌汁を作っていた時に思いついたのだ。故にプランと言うものは何もなく、ただぶらつくだけ。だいたいお金を持っていない。金銭はその時々で創造するので問題はありありだが、問題はない。

 そして、昼食を高級料理店により、注文した料理の美味しさに感嘆しながら、チップとばかりに多めにお金を置いて、店を出て、再度ぶらぶらしていた。勿論、美味しさに感嘆した帝だが、実際には帝の料理の方が圧倒的に美味く、帝の料理と比べれば、如何に高級料理店の料理といえど家畜の餌にしかなり得ない。いや、帝の料理の後に出せば、訴えられても文句は言えないだろう。

 

 現在の時刻は、二時。特に何をするでもなく、ぶらぶらと店を冷やかしていた帝だが、帝の来店が冷やかしになり得るのか? 否。帝が来店した店はどれも普段では考えられないような黒字を出しており、先程の高級料理店には、多くのテレビ局の食レポの取材許可願いが殺到したほどだ。帝効果、恐るべし。

 帝の昼間の徘徊は何時しか、公園まで来ていた。それは奇しくもランサーが死んだところであり、一誠が好意を抱いていた女性に裏切られたことを意味するところである。確かに、此処には妙な空気がある。明るくも黒い、恐怖を煽るような雰囲気だ。ただ、木っ端の連中のものなどでどうこう出来るほど、レベルの低い仙人ではない。帝は砂をじゃりじゃりという音に、アスファルトの上の暑さが紛れるような気がした。如何な四月といえど侮るな。地球温暖化によって、今日の気温は20℃。冬から段々と暑さに慣れていく人間の適応能力を破壊するかのような暴挙は、やる気が出ないほど暑く感じる。

 噴水やら遊具やらと、高校生が見てどうしろというものを暖かな視線で眺めがら、ふと見つけた暑そうな格好をした人物。人物と言っても然程大きくなく、ベンチに腰掛けていなければ恐らく少女と言っても問題ないのではなかろうか。暑そうといえば暑そうな修道服は、肌を紫外線に晒さないので、逆にあちらの方が涼しいかもと思った。顔をヴェールで隠しているところを見れば怪しく映るが、少女の周囲一帯は先程の堕天使の嫌な空気を綺麗に洗浄し、その上で暖かさを出している。春の麗らかな陽射しを受けて、その上で彼女の隣だとかなり寝心地がいいだろう。まあ、彼女と決まったわけではないが。

 帝はその不審者と取られかねない格好をしたシスターっぽい人物に声をかける。いや、何と無く少女には心の美しさを感じたのだ。普通の人間ではない。それに一誠ほど強大ではないが、似た波動を感じる。神器だろうな。ただし、一誠のが野蛮な力なら、この人物は雰囲気と同じ柔らかく暖かい力だ。つまり、一誠がエロなら、この人物は救命だろう。それに少しばかりだが、力の掌握もしている。……神器一つでここまで差が出るとは……、一誠ェ……。

 

「如何かしたの?」

「What⁉︎ ……Who are you?」

 

 英語ね……。帝はジイさんに、表の全ての知識を詰め込まれているので、英語くらいなら堪能である。表というのは史実のことであり、歴史に一片すら触れられていないことは知らない。故に、悪魔などの生物が何処から発生した等の知識はない。

 俺は英語で話しかける。一応、声の様子から少女だと思う。

 

「『俯いてると、幸せを掴み損ーー、「『か、神様っ!』」

 

 英語で帝が話しかけ、言い終わる前に少女は声を荒げながら、平伏するように言ってくる。しかし、神様だと? 俺は仏だ。まさか自分が使える神を間違え……、いや、この神様という呼び方が正しいのか? ……あ、あれか⁉︎ あの家出少女が家に泊めてくれるならどんな奉仕でもするというアカンやつ。つまり、この少女はシスターではなく、ただのコスプレ家出少女! そして、狙いは家に泊めてもらうことで、そのためなら、体で払うのも厭わない、ということ。

 ……。

 

「『君。うちには腹ペコ王っていう女の人がいてね? 多分、その人がお世話してくれるから、うちに来ないか? こんなところにいると、何処とも無く女に飢えた妖怪イッセーが出てくるから』」

「『か、神様の御住居で寝るなど! そんな不敬致せません!』」

 

 いや、大丈夫ですよ。セイバーは食ってるだけで何もしませんし、【理想郷】も大した場所じゃないし。……いや、これは敢えて大袈裟に引いて見せることで相手の反応を窺うという事か……。つまり、少女は家に泊まることよりも安全を確保したいわけだ。此処で恫喝して連れ去るような奴では嫌なのだろう。というかそうなったらバッドエンド直行ですよ。後で冤罪をかけられるのも嫌だから言わせてもらうけど、やましい気持ちは全く無かったよ。いや、本当に。

 

「『ていうか、さっきから君は如何して俺の目を見てくれないの?』」

「『主のご尊顔をそんなジロジロとなど出来ません!』」

 

 乙女心とは難しいな。俺の顔が見るに耐えないなら、そう言えばいいのに。もう〜。……え? 嘘だよね? 俺は戦慄した。ナチュラルに、それでいて俺に確実に伝わる言い回しに。やりおる……!

 

「『いや、大体君は顔を見せてないのに、顔が見えるはずがないじゃないか』」

「『すみません! 主の前でご無礼を! ヴェールはとります!』」

 

 うおう、すげえ顔。俺が見たのは凄まじい顔だった。具体的に言うと、右目周辺は陥没し、左目は酷い腫れで開いていないし、鼻は頂点至るまでに5回も折れていて、口の中に歯はありはしない。頬は二度と引かない腫れで占有されていて、耳との境には火傷痕が窺える。髪は所々引っ張られたのだろうか、毛の無い部分も沢山あり、眉毛も睫毛も無いし、あったとしても焦げ目が付いている。……俺の感が告げるのは、これは嘘じゃない。本物の怪我だ。

 少女は自分の出出福な顔を晒しながらも、安らかな表情で祈りを捧げている。ああ、分かった。彼女は素晴らしい人物だ。俺は少女のことが分かった。雰囲気から、表情から、彼女の内の能力から。俺は笑顔に変えて、呟く。

 

「仏敵め……」

 

 ーーーーーーーーーー

 

 少女の名前はアーシア・アルジェント。幼少期の頃から神に仕えるシスターとして教会に身を置く。長らくをシスター仲間たちと色々な活動をして過ごした。

 ある時、自身の不思議な力に目覚め、その力を奉仕として様々な活動を行った。不思議な力の原因は、神器。そして、神器の力は、傷ついた傷を癒す力。その力は時に人の命をも救った。その素晴らしい活動は教会も広告塔として、彼女を『聖女』と言って、大層な影響を与えたそうな。

 しかし、悪魔が傷ついていたのを見てしまったアーシアは、その傷を治した。神に与えられた力で、神敵である悪魔を。そこからは『魔女』という烙印を押され、教会の連中は、か弱い少女という事をいい事に暴行を加え続けたらしい。殴る蹴るは当たり前、矢で体を射る、体の皮や肉を削ぐ、爪や皮膚を剥がす、酷い時は火であぶり燃やしたり、酸で溶かしたり。そして、先日、遂に異端認定を受けた。行き場所を無くしたアーシアは、ある集団に拾われ、この地、日本に来たという事だと。

 酷い話だ。そう、酷い話だ。だけど、それ以上の感情は湧いてこないな。アーシアの説明ではここまで細かく説明されていない。だが、俺には心が読める。ともなれば、少しの調節で記憶を読むことも可能。俺はそれでここまで調べた。それには彼女のその時経験した感情も含まれる。それこそが、俺に怒りが湧いてこない理由。

 この子は、教会を恨んでいない。それ以上に、異端判定を受けて、助けられる命が減ったことを悔いている。ああ、わかってる。この子が俺を神と勘違いした理由はこれだ。普通、俗世と乖離した身である仙人の気配は感じられないのだ。しかし、仙人に近い徳を積んだ者には感じることが出来るのだ。例えば、聖人、イエス・キリストとかね。同じようにアーシアも本人は知らないかもしれないが、異常に徳が高かった。ともすれば、俺よりも徳が高い。以上のことをまとめると、徳の高いアーシアは一般人の感じることの出来ない俺の神気に気付いたということ。それが、クリスチャンにとっては主としか感じられなかったということだ。聞けば、『聖地よりも遥かに清い空気がこの場にありますから』だと。いやいや、あんたが一番綺麗だよ。

 

「アーシア。もし良ければ、俺と遊ばないか?」

「え? 良いんですか?」

「いやいや、異教徒である俺に謙れる君が一番良い子だよ」

「え⁉︎ あうぅ……」

 

 アーシアに遊びの誘いを出すが、俺としてはアーシアにして欲しい事があるのだ。ここで知ってくれれば良いのだが、如何だろうな。

 アーシアは嬉しそうに目を輝かせながら、こう言ってくれる。酷い顔だが、心の綺麗さが分かる俺にはアーシアは非常に魅力的に見える。もうぶっちゃけ言うと、俺の力を使えば、人の容姿を変えるなんて他愛もない事だ。故に重要視されるべきポイントではない。俺の返答も少し、口説き文句のようになる。それにアーシアは嬉しそうに唯一無事な耳を赤く染めて、俯いてしまう。

 彼女が顔を傷を治さない理由は分かる。アーシアは自身の顔の傷を癒すと、今まで自分がやってきた事が嘘になると思っているのだ。いや、少し違うな。彼女は自分の顔なんて大した価値もないものの為に、今まで自身が傷を癒す度に笑顔を見せてくれた人々との証を消したくないのだ。……アーシアは、自分の顔の怪我を消すと『悪魔の傷を治癒した』という事実を消す事になる、と勘違いしていて、そしてそれを残しておくことが、自分の人生の証明だと思っているのだ。馬鹿だとしか言えない。ただ、俺が教えるのは憚れる。これは自分で気付くべきことなのだ。大体、今の彼女を俺は……、いや、やめておこう。

 

「よし、じゃあ行こうか」

「え、あ……」

 

 俺はアーシアの手を握って駆け出した。アーシアは嬉しそうな、悲しそうな表情をしていた。ただ、俺には俺とは別のジャリという音が聞こえた。

 

 ーーーーーーーーーー

 

「帝さん、今日は楽しかったです。ありがとうございます」

「ああ。お金を使った甲斐があったというものだ」

 

 宵闇がオレンジの空を支配し出す黄昏。アーシアは昼間、帝と出会った公園のベンチで二人、並んで座っていた。静かで穏やかな空間に友人と二人で、夢のようだ。いや、こんな日常があったらと望んだこともいっぱいあった。

 アーシアは帝と映画を見て、ボウリングで遊んで、スイーツを食べて、楽しんだ。その時々全てで思った。もし、私が異端でなければ、彼に負い目を感じることなくもっと楽しい買ったのじゃないか。もし、私に神器がなければ、彼と一緒に脅かされることのないこんな穏やかな日常を送れたのではないか。もし、私が教会に入らなければ、こんな境遇で彼と出会うことなんてなかったんじゃないだろうか。

 いや、それも全て、虚構だ。彼のような綺麗な人に自分が選ばれることなんてない。夢は夢。いや、無い物は失えもしないし、忘れもしないのだ。そこには何もありはしないのだから。その無いものとは、彼の隣に自分がいる可能性だ。何故なら、彼は何よりも美しく、何よりも高潔で、何よりも愛された人物。そんな人に私が釣り合う可能性なんてありはしないのだから。

 アーシアは異端者である自分が彼に負担をかけていないか、とても不安だった。それも軽い返答で返されたが、アーシアはお別れを意識し、徐々に俯いていく。

 

「はい、お金はいつか返しますので」

「いやいや、お金なんて価値のないものは要らないよ」

「えっ⁉︎ じゃあ、一体何で返せば良いんですか?」

 

 アーシアはこの人は『気にしないで』とか『大丈夫だよ』とは返してくれないだろうと思っていたが、この回答には困ったもので、驚いて声を上げてしまった。

 アーシアも既に認識している。自分が彼のことを好きになっていることを。女性なら誰でも惚れてしまう美しい顔に、逞しく守ってくれそうな姿勢に、優しく笑顔にさせてくれる性格、そしてアーシアにとって最も惹かれたのが、彼の無邪気さ。

 隠しているわけではないが、その雰囲気と見た目が災いし、彼の無邪気さは陰となるのだ。無邪気さといっても子供のようなものではない。純粋に自分の顔のことを認めてくれていて、普通の人は気にするようなことでも気にしなかったというものだ。人によってはそれを良しとしない。でも、アーシアにはそれが嬉しかった。友人が欲しいという自分の願いの通り、気を使うことのない友人との遊びができた。それに自分の顔に負い目を感じていないという自分の思いをわかってくれて、色々な場所に手を繋いだまま連れて行ってくれた。アーシアも自分でわかっている、自分の顔が人並みではないくらい酷いことを。それでも笑顔で接してくれた彼には、今この時点でもすごく感謝しているし、それ以上に慕っている。異端の自分と異教徒の彼が分かり合えて、自分は彼に恋心を抱けた。彼女の中で、今日は宝のような日だった。

 だけど、それも裏切られた。それも、恋した彼の言葉によって。

 

「今の君からは受け取りたくないね。大っ嫌いだからね」

「え……?」

 

 彼は笑顔で告げてきた。衝撃発言というものをアーシアは初めて聞いた。まずは頭が処理出来なくなって、目の前が真っ白になっていくんだな、と何処か客観的に見つめていた。

 しかし、それもちょっとの間。彼が背を向けて歩き出したのを眺めて、息が上がっているのを意識しながらも声をかける。

 

「な……んで、で……す……か……?」

 

 帝は肩越しに振り返り、こう言った。

 

「……簡単さ。今の君には人と対等な関係を持つことは出来ない。そして、俺がその始まりになってはいけない」

 

 何が何だか分からない。何が至らなかったと言うのだ。何が悪かった……。私の何処がーー、

 

「君のそういうところさ」

「!!」

 

 心を読まれたのかと思ったが、そうなのだろう。相手は神聖な雰囲気を持った人物なのだから、そんなことがあっても仕方がない。今は落ち着けるが、落ち着いているのは意識だけで、とても頭が回らない。呆然としたアーシアの視界には帝以外に映らない。辺りは暗いけれど、アーシアにとっては真っ白。

 遂に彼は歩き出した。その背中に掛ける声は見つからない。だけど、ここで声をかけるべきではないと本能が叫ぶ。いや、女の自分がそう言う。

 見届けるだけかと思ったが、美しい声が聞こえてきた。

 

「俺は大切なものを傷付ける奴は絶対に許さないよ。例え、それが君自身であったとしてもね」

「え……?」

「じゃあね」

「あ……」

 

 アーシアは去っていく帝の背中を見送るしかできなかった。既に夜。宵闇が黒闇へと移ろうのを見ているのは誰もいない。ただ、闇が深くなるほど輝き映える金の星は、佇む少女の瞳を写していた。半分欠けた月は少女の瞳に煌めきを見た。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 よう、皆。兵藤一誠だ。

 俺は高校に入学して、もう一年が経った。

 そんな俺の信条はエロく、やらしく、いやらしく、だ!

『やらしい』と『いやらしい』の違いが分からない?

 辞書で引いてみろよ。全部一緒だ。

 

 そんで、俺が言いたいことがある。

 助平でエッチな俺には友人が二人いる。

 松田と元浜だ。

 中学からの付き合いなのに、下の名前を知らない。

 訊いた話だと『下の名前を知ってると、1人が捕まったら芋づる式に捕まっちまう!』とのこと。捕まることすんなよ。

 エロは犯罪ではないぞ⁉︎

 

 苦しい言い訳はそこまでにしよう。

 言いたいのは二つ。

 一つは、俺たちがモテなかったこと。

 ん? どうして、過去形かって?

 そりゃ、おめえさん。それが二つ目だ。

 

 それはズバリ、俺に春がーーー、

 

「死んでくれないかな?」

「きたああああ! ……え?」

 

 あれ? ちょ、違くないですか?

 背を向けて、くるりんターンからはキスパティーンでっせ、夕麻ちゃん。

 

 死んでくれないかな?

 いや、あれ? デートって最後に心中するっけ?

 あれ? あれ?

 

 くすくすと笑う夕麻ちゃんが死のうとしているなどとはとても思えない。

 それどころか、まるでこちらを馬鹿にするように目を細めてくる。

 

「楽しかったわ。あなたと過ごしたわずかな日々。初々しい子供のままごとに付き合えた感じだった」

 

 夕麻ちゃんの声は綺麗だ。

 春風が吹くようなその声に聞き惚れた回数を数えたら、きっときりがないくらいだ。

 でもその声の面影もないくらいに、底冷えた何かが宿っている。

 でも、その言葉を聞いて思うところは俺にだってある。

 いくらこんな薄ら寒いことを言われても、夕麻ちゃんからもらった心が幸せになった日々は忘れられない。

 そうだ。きっと嘘か何かだ……。

 

 俺の思いを切り裂いて、真実を照らし出すように手に光の槍を握る夕麻ちゃん。

 それと同時に背中に黒い翼が生えてきているのもわかる。

 だけど、俺はそんな事よりも何も映らない彼女の目に釘付けになっていた。

 全てが俺の妄想であったかのように。全てが夢であったかのように。

 だけど、その全てを切り裂いたのは彼女の声だった。

 

「じゃあね、イッセー君」

 

 彼女はそう言って、手を振るった。

 光の槍がこちらに向かって進んでくるのがわかる。

 ああ、これが夢なら彼女の手で起こしてもらうのも悪くないなぁ……。

 俺はまだ夢であることを願いながら、目を閉じた。

 

 ズドン!

 

 熱い! 腹が……、

 

「グフッ!」

 

 ああ、俺は死ぬのか……。ああ、先輩。貴方はこれを知っていたんですか? はは、そんなことも聞くことも出来なくなるのか。

 先輩には悪いけど、死ぬんならせめてあの人の胸の中で死にたかったなぁ……。

 其処からはただの俺の妄想だ。赤い、紅い、朱い、緋い、赫い、髪。美しく揺蕩う髪は絹糸のように繊細で、それでいて俺の運命のようだった。小指に絡まり合えば、いつか願いが叶いそうな気がする。いや、俺の願いが叶うような気がした。先輩との約束をーーー、

 

 ーーーーーーーーーー

 

 という夢を見た。

 なんちゅうこっちゃ。

 夢は無意識領域で考えていたもの、または望んでいたものが、寝ている間に表層化したものとテレビで見たことがある。つまり、俺は夕麻ちゃんに殺されることを望んでいたのだろうか?

 

 そんなことはない!

 俺はそんな奴じゃないはずだ。

 どんな事にも挫けずにぶち当たった言ったはずだ!

 女教師のパンチラの盗み撮り、近隣の学校の女子の着替えのオールクリアー、昔はスカートめくり百人斬りまでした。

 あ、あれ? エロいことをしか頑張ってねえや。

 

「わっかんねー……」

 

 こんな子供のイタズラ如きで殺されてもいい、殺してもいい理由になるはずがない。

 

 ……訳がわからない。

 

「一誠! 起きなさい!」

「わーってるって!」

 

 目を覚まして居たのだが少し考えたくて、布団に篭っていた。

 いくら春といっても、じっとしてれば布団も熱を持ってくる。

 そもそも、顔を突っ込んで息を吐いているのだ。二酸化炭素がたまって温室の効果を果たすのは必然だ。

 

 さてと、起きまーーー、

 うわっ、眩しい!

 痛うう。

 俺は目に入った陽射しを眩しく感じ、直後に目眩と頭痛がする。

 何だ、これ? もしかして夢の弊害か何か?

 そうかもな、悪夢で警告をしていたのかも知れない。

 俺の体に何か異常が起こってるって。

 

 俺はその後、1分程酷い頭痛と目眩と戦い、動けるまでに回復したところで支度を済ませて、朝食を取った。

 代わり映えない朝食に少し血の味が混じっているような気がした。

 今日は何故か父さんも母さんも俺をいたく心配していた。

 なんでも、『酷い現実を突きつけられたみたいな顔をしている』だって。エスパーか。

 それを伝えたら、『子供のことが分からない親なんて、本当の意味で親じゃない』ってさ。それって、子供にプライバシーなんてないのと同義だと思う。

 

 普通に学校に行って、普通に授業を受けて、1日不特定多数回の松田と元浜との交流をして、普通に自宅に帰って、普通に課題を済ませて、普通に寝る。

 こんな普通の生活はこの日から訪れなくなった。

 学校に行くにも辛い、普通に授業を受けるにもやはり体調的に、松田と元浜とのエッチな会談の回数も目に見えて減って、夕暮れの中で自宅に帰り出すと途端に体調不良が治っていき、課題を済ませた頃には体調は完璧と言っても差し支えないレベルにまで戻っており、普段床に着く時間に布団に潜っても寝れず、寧ろ熱しているかのように体は熱くなる。

 それは、まるで解放しろとでも言いたいように。

 ある日、体の熱に促されるままに、深夜の街を走り回った。

 体調云々の話ではなく、いつの間にか亀の甲羅を取ったかのように動き回れた。それは、ドラグ・ソボールの武海老師の修行を終えて、亀の甲羅を取った空孫悟とツルルンのようだった。

 

 それらの日常の変化も大切だが、学校ではいつも監視されているような感覚を覚えていた。

 不気味なのだが、それよりも気になることがあったのだ。

 夕麻ちゃんがいなかった事になっていたのだ。

 俺の私物に残る彼女がいたことを証明するものは全て消え、彼女が通っていたはずの学校からは彼女が在籍していたという記録がなくなり、果ては俺の周囲を取り巻く皆の記憶が消えていたのだ。

 意味がわからなかった。

 彼女は俺だけの妄想だったというのだろうか。

 俺はそこまで落ちぶれていたのだろうか。

 

 取り巻く周囲と言っても、あまり女子に好かれてはいないので、女子率の高いこの学校には周囲というほどの人数はいない。

 だけど、帝先輩がいる。

 

 俺は元浜と松田の次に思い出した人物の所に走った。

 三年生とはいえ、先輩なら話を聞いてくれるだろうと思って、先輩のいる教室の扉に手をかけて、思いっきり引いて「失礼します!」とお辞儀をして、中に入った。

 しかし、「な、何やってんだ。イッセー」「そ、そうだよ。お前、なんか今日おかしいぞ」と悪友の声が耳に入った。

 頭を上げた先には元浜と松田。

 ん? どうなってんの?

 

 その後も何度も先輩の教室に行ったが、絶対に教室に戻ってきていた。意味が分からない。

 

 数日後、松田と元浜とAVの鑑賞会をしようと言い出した。

 何故かと言うと、最近は鬱のように夕麻ちゃんのことを思い出して、眠れないし、時には知らぬうちに涙して、目元を腫らしていたんだ。それを見かねた二人が『顔じゃなくて、あそこでも腫らして鬱憤を全部放出しようぜ!』なんて言いだしたから。

 最近はこういった機会が減って来ていたから、まあいい気分転換になるだろうと思って、鑑賞会の執行を決定した。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 はい、結果は無残なものです。

 逆に虚しくなってしまいました。

 だから、解散ということに相成りました。

 

 薄暗い夜道を歩く。

 熱く昂ぶる感情は今日は鳴りを潜め、冷水をかけたように冷め、寒気という警鐘を全身が響かせ、悪寒という本能の何かが危険だとはっきり意識した。

 その時、視界の奥には一人の男がいた。

 街灯に照らされ、見える顔はまるで悪鬼のよう。

 

 本能のままに俺は駆け出した。

 あれから逃げるように、不思議でも自身の力かも分からなくても、持ちうる全てを使って走った。

 真黒の街に点在する街灯が照らす光は目に見えて移ろいゆく。影で自身のスピードを確認するが、世界記録は制覇していると言える。

 駆けずりまわって着いた場所は、夢に見た公園だった。

 

 急いていた心は落ち着いたようで、公園に歩んでいく。

 遊具は月光を妖しく反射する。

 

 ふと目の前を黒い何かが遮ったのでそれを注視すると、黒羽根だ。

 夜の黒に紛れて揺蕩う羽根は、落ちることも舞い上がることもせず、俺の目の前を漂うだけ。

 

「逃すと思うか? これだから下級の存在は困る」

 

 黒羽根の浮遊に目を奪われていた俺の目をさらうように現れたのは、黒い翼を誇るように広げたスーツの男だ。

 

 男は何かを問うてくるが、俺は知りもしなければ、何を言っているのかも理解できない。

 それよりも、黒い翼は見覚えがある。

 

 そうだ、夢で見た夕麻ちゃんのと同じ。

 だったら、これも夢kーーー、

 そこまで考えて、あの時と似た痛みが足に走った。似た痛みというのはあの時の痛みよりも遥かに痛い!

 痛い痛い!

 こんなに痛いということはこれは現実なのか……?

 俺は燃え上がるような痛みに既視感、いや既知感を覚える。そう、あの夢、夕麻ちゃんに突き刺された時と全く同じ痛み。

 

「ふむ。主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りも見せない。魔方陣も展開しない。状況分析からすると、お前は『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」

 

 俺は大腿部を貫いた光の槍で地面に縫い付けられながら、その言葉を聞いた。痛みの中で届いたその言葉に、何処か安堵を覚えていた。

 もしかすると、これも夢なのかもしれない。

 

 だが、目の前の男が掌に展開した光の槍には潜在的な恐怖を覚えた。

 そして、直感した。

 あれは足のなんかと違う。食らえば、まずい。

 どうにかして、逃げなきゃ!

 

 俺の思いも虚しく、逃げようと夢ではないことを自覚した時には、腹から光るものが生えていた。

 男の手に光の槍はない。

 だとしたら、これは。

 

「ゴフッ!」

 

 吐血なんて俺は体験することがないと思っていたが、今日最悪な形で体験した。それに体験出来て、嬉しいものじゃない。

 めちゃくちゃ痛い! 超痛ぇぇぇぇぇ!

 痛みで体に力が入らない。それでも痛みは知覚出来る。というよりも、まるで体を毒が巡るように、破壊されていってるようだ。

 

 腹にある痛みの原因に手をかけて引き抜こうとするが、触れた所からジューッとファミレスでしか聞かないような音がする。

 熱い!

 手を見れば、白い何かが見える。皮は燃え、肉は爛れている。となれば、見えているのは俺の骨。

 

 手が燃えるということは、直撃で刺さっている腹は……。

 そこまで考えて、体に回る熱が熱さを増した気がする。

 あまりの痛さに視界が不明瞭だ。

 

「痛かろう? 光は悪魔の貴様らにとっては猛毒。少々であろうと、全身を火に晒されているような堪え難い苦痛を齎す。まあ、貴様は存外と頑丈だったようだが。次は殺す」

 

 男はさっきのよりも強い光を手に集める。不明瞭な視界でも分かる。

 あれを貰えば死ぬ。

 俺の本能は告げるが、動けない。そして、思考は既視感の先、夢の世界を思い出す。

 

 紅。

 赤い髪。

 夢とは思えない。いや、これすらも夢なのかもしれない。

 始まっていないのかもしれない。

 これは兵藤一誠、俺の妄想なのかもしれない。

 はっ! 誰が妄想で自分が死ぬ所を想像するんだ。

 でも、妄想でもいい。現実でも気にしない。

 たださ、一つくらい俺の願いを叶えてくれてもいいじゃねえか。

 そうだよ、紅。

 そうだ、赤い髪。

 あの人のおっぱいを……。

 

 そこで、ヒュッと風切り音がした。音の掠めた耳元から方角を考えて、向いた先には細部までは見えないが、爆発が起きたようだ。

 そして、男が蹲っている。なんかなし、赤い気がする。

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

 輝く何かから、何かが出てくる。視界の半分が俺の血と俺の涙で染まっていて、半分は輝く紅で何も分からない。

 何かは俺の前に立つ。

 紅い髪。

 引き寄せられる柑橘の香り。

 何よりも目に入る、形の良い胸。むしゃぶりつきたい。

 

「……紅い髪……グレモリー家の者か……」

 

 そう。そこには、俺が憧れた人が居た。

 リアス・グレモリー先輩。三年生で、その美貌から『お姉様』と呼ばれている。

 そして、帝先輩のことを愛している。

 勿論、先輩は知らない。何故ならば、あの人はそういったことだけ都合よく耳に入らないから。というか、深く考え過ぎるから。

 ただ、帝先輩以外の殆どがこの事を知っている。勿論、俺だって知っている。というか、帝先輩の事を知らない一時期は、そのことを信じたくなくて、学校中で情報を集めようとしたくらいだ。

 まあ、帝先輩を見た瞬間に納得したけど。

 

 そして、それを知っていて尚、俺はあの人の胸を触ってみたいと思っている。

 それが叶いそう、な、きが、する……。

 な、なんかリアス先輩から非難の目が飛んで来てる気がする。

 

『私の体は帝のよ』

 

 ……アイコンタクトが成功するとは思っていなかったけど。

 そうっすか。すいません。

 俺はショックだった。

 ああ、ショックで……、もうダメ。

 

 俺の意識はブラックアウトした。




アーシアたんは救います。約束します。
因みに一誠のヒロインは誰にしようかと考えています。基本、帝は目が合ったら惚れるという設定ですから。まあ、グレイフィアとか愛する存在がいるという方にまで影響するような節操なしではありませんので、NTRは期待しないでください。
重要な事ですが、その描写は出さなくても、主人公は18以上なので色々とやらかせますので、その辺りはあるんじゃないかと思います。

一誠の視点での書き方はこれが多いと思います。こうしないと、D×Dな感じがしないですし、話が進まないですし。おすし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。