天才のちニート、時々イケメン   作:しゃけ式

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灰と音

私はジンダイ。エニシダ達と別れてから3日になり、その間移動し続けて今はフエンタウンにいる。

 

フエンタウンはホウエンでも有数の観光地で、せんべいや漢方など様々なものがある。しかしなんといってもここは温泉だろう。フエンタウンに入るにはロープウェイに乗り、山の高くまで登らなければならない。そこから下山して初めて到達できるのだ。

 

そこまでして行く必要があるのか?と思うのだろうが、フエンタウンの温泉はその苦労を乗り越えてでも入るべきところなのである。

 

過去に私も一度来たことがあったのだが、その時の感動は今でも忘れられない。そもそも温泉の絶対数が少ないので入湯出来ること自体が稀なので、私のような年齢になっても入ったことがない人が多い。

 

まあ、要は温泉は最高だ!!!

 

 

 

「温泉はええのお。ほれ、卵じゃ。お前さんにやろう」

 

そして今、私はフエンタウンの温泉につかっている。

 

「すいません、ありがたく頂戴いたします。……んん!!これは旨い!さすがフエンタウン産の温泉卵ですな!」

 

「ほっほっほ。そうじゃろう?なんせ出来立てじゃしのう」

 

なぜこんなところに来たのか。私が放浪する時によくやるのだが、人づてに聞いたところを回るのが満遍なく行けて、なおかつ楽しくて良いのだ。

 

強い人を求めてホウエンをぐるぐると回る。胸が熱くなるだろう?

 

「すいません。漠然としていて申し訳ないのですが、ポケモンバトルが強い人を知りませんか?」

 

問われた老人はふむ…、と考え込んだ末に答えてくれた。

 

「やっぱりアスナちゃんかのお。なんせジムリーダーじゃしな」

 

「他には知りませんか?」

 

ジムリーダーだとブレーンに誘えない。他に当てがあればいいのだが…。

 

「他なあ…。あんまり思いつかんが、それこそアスナちゃんなら知ってるんじゃなかろうか?」

 

「おお、それはそうですね。ありがとうございます」

 

「ほっほっほ。気にせんでええ。大したこともいえんで申し訳ないのお」

 

「いえいえ、滅相もない。では、私はこれであがりますね」

 

そう言い残して、名残惜しくも私は温泉から出た。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「どうだ、誰が当てはいたか?」

 

ここの温泉はポケモンセンターと隣接しており、温泉を出て10分もするとアザミも出てきて机の向かい側に座った。

 

「いや、ジムリーダーを紹介されたよ」

 

「そうか、私も同じだ。アスナって人なら強い人も知っているんじゃないかとな」

 

「ならジムに行ってみる?………って、あの赤髪の派手なポニテはアスナじゃない?」

 

言われて目を向けると、そこにはあたかもナッシーのような髪型をした赤毛の女性が立っていた。

 

「おい、そこのアンタ。アンタってジムリーダー?」

 

高圧的に呼びかけるアザミ。しかし全く気にしていないようで、彼女は快活に応えた。

 

「いかにも!!わたしがフエンジムのジムリーダー、アスナだよ!」

 

「アンタ強いトレーナー知らない?えっと、確かポケモンリーグベスト8くらいの強さの人」

 

「ほお、目の前のわたしを差し置いて強いトレーナーを聞くとはいい度胸だね!」

 

言葉足らずのアザミの物言いにプライドが刺激されたのか、馬鹿にされていると勘違いしたのか、どちらにせよ意気揚々と言い返してきた。

 

実際はジムリーダーはブレーンになれないだけなんだけどな…。

 

そんなアスナを見て遊び心が(うず)いたのか、悪い笑みを浮かべて言い放った。

 

「アンタじゃ話にならないから聞いてんだろ?知ってるか知らないか、どっちだい?」

 

「知ってるさ!」

 

その言葉に耳ざとく反応した私はすぐさま問い返す。

 

「誰だ?」

 

「そんなの、ここにいるじゃないか!」

 

親指を立てて自分を指さす。それを見るなりアザミは盛大にため息をついた。

 

「な、なによ!わたしだって強いんだから!あなた、勝負しなさい!」

 

啖呵(たんか)を切った手前、ため息一つで一蹴されたのが気に食わなかったのか口調まで変えて宣戦布告をしてくる。その姿にアザミはまたも神経を逆撫でするように嘲笑した。

 

「はっ、あたしに勝てると思ってるんなら大間違いだよ。あたしが勝ったら強いトレーナーを教えなよ!」

 

「温泉につかろうと思ってたけど、その前に一汗かいてからにしようか!強いトレーナーはわたしだって認めさせてあげる!」

 

2人の暑苦しい口上が終わり、私達はポケモンセンターの外に出た。

 

 

 

 

 

 

「ルールはどうする?…えっと……、あなた!」

 

「アザミ。あたしの名前。ルールは1vs1で技はジンダイに申請。どう?」

 

「OK、アザミ!!」

 

「ちょっと待て」

 

その2人の勝負に口を出したのは他でもない、私だった。

 

「技の申請は正直めんどくさいからなしでしてくれ。4つまでで、もし5つ目を使ったらそいつの反則負けだ。いいな?」

 

「「了解!!」」

 

クールに見えていたアザミもアスナにあてられたのか、2人とも熱血に応えた。

 

「それでは、勝負はじめ!」

 

私の掛け声を皮切りに2人はポケモンを出した。

 

「頑張ってきて、コータス!」

 

「ミロカロス、出番だよ!」

 

アスナはコータス、アザミはミロカロスを出したようだ。タイプでいえばアスナは不利だ。…それにしても、アザミはよくミロカロスを持っていたな。世界でもまだほとんど確認されていないポケモンじゃないか。

 

「コータス、えんまく!」

 

早速アスナが指示を出した。初手で相手の視界を封じるのはセオリーで、良い判断だ。

 

だが、アザミにとっては…。

 

「それ、あたしには悪手だよ。みずのはどう!」

 

普通は見えないはずだが、みずのはどうは確かに命中してコータスが(うめ)き声をあげた。

 

「な、どうして見えるの!?」

 

「その戦法さ、いつもあたしがやってることなんだよ。使える技が一個空いてラッキー」

 

なるほど、今のえんまくがなければ自分で視界を奪う技をしたのだろう。

 

「ならコータス、こうそくスピン!」

 

こうそくスピン独特のヒュンヒュンと風を切る音が耳朶(じだ)に響き、そのままミロカロスに直進していった。

 

「割とこの勝負は早く終わりそうだね。ミロカロス!」

 

呼ばれたミロカロスはアザミの方に目を向け、アザミがウインクくるのを見るとコータスのこうそくスピンをモロに受けた。バトル中によそ見なんてするからだな…。

 

「よし、その間ににほんばれ!」

 

コータスは天に向かって吠えると、もともと少なかった雲量がさらに減って快晴になり日差しが強くなった。

 

そしてミロカロスは依然倒れたままだ。実際こういう状況だとアザミは何かを企んでいそうな雰囲気だな。こうそくスピンに対してのダメージが少々大きすぎる気がする。

 

「溜まったね!コータス、ミロカロスに向けてソーラービーム!これで終わりだ!!」

 

「やっぱそうくるよね。ミラーコートで跳ね返しな!」

 

アスナは勝ちを確信した表情で爛々とソーラービームを指示したが、アザミはそれが来るのをわかっていたかのようにミラーコートをさせた。まあ、正直私でもソーラービームは撃ってきそうだと察することはできるレベルだ。自分が戦っているならなおのこと理解できるのだろうな。

 

返されたソーラービームを避ける(すべ)はコータスにはなく、倍に返された自身の技を食らってしまった。

 

「ほら、次はコータスの周りにれいとうビーム。地面を凍らせて」

 

ミロカロスは言われたとおりに地面を凍らせ、動くのもままならないようにした。

 

「やっばいなー!口だけじゃなかったんだね!これはほんとにやばいよ!」

 

なんて言ってる割にアスナの顔は煌々と輝いている。強者と戦うのが楽しくてたまらないのだろう。

 

「コータス、凍った地面にかえんほうしゃ!」

 

先程凍らせた地面がかえんほうしゃによって溶かされていく。かえんほうしゃを浴びた氷の地面は溶けてしまい水を帯びている。

 

「ねえ、アンタほんとにジムリーダーなの?もしかしてポケモンの能力ありきの脳筋バトルばっかしてた?」

 

不意に言われた失礼な言葉にアスナは顔を赤らめた。

 

「なによ!!なんでさっきからそんな事言うのよ!」

 

「だってここまで作戦通りに動いてくれると……ねえ?」

 

なんて言ってアザミは私に顔を向ける。これは私が何かを言わなければならないのだろうか…。

 

「まあ、私ならえんまくをしてから地面を溶かすな。れいとうビームの指示があまりにも不自然すぎる」

 

「…!!」

 

「そういうこと。溶けた地面にもう1回れいとうビーム」

 

今度はコータスに近いところから凍らせ、やはりというかコータスは足元が氷で固められてしまった。

 

「はい、みずのはどう」

 

コータスは足元が凍らされて動けず、なすすべもなくみずのはどうを食らって倒れてしまった。だが、倒されてなお立ち続けているのは賞賛に値する。

 

「コータス戦闘不能。よって勝者、アザミ」

 

名前を呼ばれたアザミは当然と言わんばかりの立ち振る舞いでミロカロスをボールに戻した。対するアスナはここまで完膚なきまでに負けたことがまだ受け入れられないのか、呆然としていた。

 

「アスナ?」

 

呼ばれた声にはっとし、慌ててこちらを見た。

 

「あ、ああごめん。まさかほんとに負けるとは思ってなかったからさ。完敗だよ、アザミ!」

 

そう言って手を差し出した。

 

「こういう時はいい勝負だった!とか言うんだろうけどさ、正直いい勝負じゃなかったよね。だから、リベンジマッチならいつでも受けるよってことで握手!」

 

憎まれ口を叩きながらもしっかりと握手を交わす。なんかこういうのいいなあ…。そう思ってしまうあたり、私も年を取ったなあ。

 

「にしてもアスナ、あたしに負けてるんじゃジンダイには多分攻撃もさせてもらえないよ」

 

「え、そんなに強いの!?」

 

「あたしと直接バトルはしてないんだけどさ、今のチャンピオンの師匠と引き分けるレベルらしい」

 

「ジンダイさん、今度わたしと勝負してください!」

 

おおう…。口を出さない間にまた変な話になったな…。

 

「アスナ、もし私と勝負したいならまずはアザミに勝ってからだ。それより、強いトレーナーは知っているのか?」

 

「そんなのわたしだよ!!って言えれば良かったんだけどね。流石に負けた後でそれを言う度胸はないよ。……そうだなあ…。強いかはわかんないけど、確か最近コンテストでいきなり出てした人が優勝したらしいよ。ジムトレーナーの子が教えてくれたんだ」

 

コンテストか。アオギリと戦った時もそうだったが、コンテストはポケモンバトルにおいて意外と盲点なんだな。そもそも発想がなかった。

 

思い当たることがあるのかアザミがそれを聞いて顔をあげた。

 

「直近のコンテスト会場はハジツゲタウンよね。バイクでどれくらい?」

 

「そうだな…。マップを見てくれたらわかると思うんだが、フエンタウンからは左上に向かって行くとすぐなんだ。けど私達が乗ってきたバイクはえんとつやまの(ふもと)だ」

 

アザミはそのことについて考え出し、麓に降りてからバイクで行くのかそのまま歩いていくのかどちらが早いか考えているようだ。

 

深く考え込んでいるアザミに、唐突にアスナがある提案をしてきた。

 

「ねえ、わたしのおばあちゃんの軽トラ貸そうか?」

 

のぞき込むようにして見るアスナにアザミは少し驚き、その提案についてまた考え出した。

 

私としては是非ともそれを受け入れたい。車があるのならハジツゲタウンまではせいぜい1日、やろうと思えば半日でだって着くことが出来る。

 

そして、アザミも馬鹿ではない。すぐにそのことに気がついた顔をしていた。

 

「それはありがたいね。悪いけど何日か借りとくよ。いつまでに返せばいいとかはある?」

 

「そうだな、1週間くらいなら使ってくれてもいいけど、別にそんなにかからないでしょ?」

 

その質問には私が答え──勿論答えは是である──、今度はそのコンテスト優勝者についての情報を集めることにした。

 

アスナはふむ…と手を顎に添えて考え出し、難しい顔のまま答えてくれた。

 

「その人ね、名前は確かキースだったかな。ビール?なんにせよそんな感じの名前の人で、なんでもコンテストの勝ち方じゃなかったんだってさ。コンテストの勝負方法ってわかる?」

 

「ああ」「もちろん」

 

さすがにそれくらいは、と私とアザミは即答した。コンテストの勝負方法とは電光板にあるゲージを削り、そのためにはポケモンの体力を削る他に美しい技の使い方などさまざまである。

 

セオリーは基本敵を倒しながら技を工夫するというものなのだが、果たしてそのキースもしくはビールとやらはどうなんだろうか。

 

「ならわかるよね、決勝戦って周りにもアピールするために何回かは見栄えの良い技とかするじゃん?けどそれはただの慣例であって、強制じゃない。その人はそんな技を一切使わないで圧倒的なバトルで終わらせたらしい。それに何気にアナタたちコンテスト会場に行くって言ってたけど、そこにいるとは限らないよ?コンテストはちょっと前の話だから今コンテスト会場に行ったって意味無いよ?」

 

「だが少なくとも名前くらいはわかるだろ?」

 

すこし意地悪を言ってやると、可愛らしく舌を突き出して「あやふやで悪かったね!!」と言い返してきた。

 

「じゃあ、あたし達は取り敢えずハジツゲタウンに向かうよ。おばあちゃんのとこに案内してもらえる?」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フエンタウン〜ハジツゲタウン間の移動している間、私とアザミはほとんど無言だった。運転は私がし、アザミは助手席でひたすら景色を眺めている。元来私は無言というか、音が無いのが好きだ。もっと言うなら人為的な音が嫌いだ。車に乗っている以上ガタガタと揺れる音やエンジンの音はしょうがないにしても、それ以外の音は極力聞きたくない。それは人間の声も同じで、この静かな雰囲気は持ち続けていた。

 

…と思っていたが、突然アザミが口を開いた。まあ、必要な話かもしれないのでぞんざいに扱う事はない。

 

「ねえ、ジンダイ。あたしってアンタとどこが違うの?」

 

「えらく大雑把な質問だな。というか愚問だ。性別からして違うだろうに」

 

「いやいや、そうじゃない。あたしとアンタだとバトルするときは何が違うんだろうなって。多分あたしと勝負したらアンタが勝つでしょ?で、次にその時使ったあたしのポケモンとアンタのポケモンを入れ替えても多分アンタは勝つ」

 

「まあ、そうだろうな」

 

自分で言うのもどうかと思うが、ここは話を合わせておく。

 

「でさ、そこで思ったのよ。なんでアンタとあたしはそこで差が生まれるのかなって。みんな等しく同じ人間なのに」

 

「それはまた哲学的な難題だな。だがな、それこそ愚問だ」

 

言い終わってないのだが、そこまで言うとアザミが反論し、二の句を継げなかった。

 

「は?そんなの考える意味もないって?」

 

「待て待て、最後まで言い終わっていない。えっと、愚問だー、からだったな。例えばお前が私のレジスチルで戦えるか?例えば私がお前のハブネークで死んだふりをさせると思うか?多分お前はレジスチルで戦えないし、私もそんな器用な指示はできない」

 

「レジスチル……?まあいいや。要は適性があるってこと?」

 

レジスチルの名前が聞き慣れないのか復唱していたが、気にせず話を続けることにする。

 

「まあ適性という言葉が最も的確だろうな。それはバトルだけに限らないのもわかるな?」

 

「ああ」

 

「例えばバトルが得意なやつがいて、例えばポケモンを育成するのが得意なやつがいる。バトルの中でも絡め手な得意なやつ、つまりお前のようなやつだっているんだよ」

 

言い終えると、私はまた運転に集中し始めた。アザミもそれを感じ取ったのか、それからは話さなくなった。

 

 

 

 

 

灰の降り始めた頃、そろそろハジツゲタウンだな、と声をかけようとアザミを一瞥すると、彼女は寝ていたので声はかけなかった。

 

地面にも灰は落ちており、車のがたがたと揺れる音もなくなった。以前だとこれが心地よかったのだが、なぜだろうか。今は少しわびしく思うな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





キース?ビール?誰なんでしょうね(すっとぼけ)
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