私の父はデボンコーポレーションの重役であった。知ってのとおり、デボンコーポレーションとはホウエンで最も大きい会社だ。
だが、そんな会社にも裏は存在する。
これは研究室であった出来事なのだが、薬品を作っていると手順を間違えて一室を丸ごと吹っ飛ばしてしまったことがあった。ニュースでは単純に薬品事故として報道されたが、この話には続きがある。
デボンコーポレーションの調査員が爆発した部屋を調査していると、サーモグラフィーに明らかに異常な反応が出たのだ。高温が徐々に低音になり、かと思うと急に高温へ戻る。まるで何かが循環しているようだった。
そのことを先代社長に報告すると、すぐに研究を指示された。それどころか、自分も研究に加わると言うのだ。彼は元々カナズミ大学の理学部化学科を卒業しているエリートであり、加わることに問題はなかった。
補足として、カナズミ大学はホウエン一の偏差値である。彼が理学部を出たのは経営方法よりも製品を知る上で必要な知識を得る方が良いと考えたかららしい。
社長が研究に加わる間、彼は代理として腹心の部下に会社を任せることにした。それが私の父だった。
だがそれも10年前に亡くなってしまう。その後も5年間は社長も研究に没頭するわけだが、なら誰がその間会社を任されることとなったのか。
社長は最初は親族に任せようかと思っていたが、如何せん彼の息子は選民思想の気が強かった。意識改革をしてから任せようと思い、そこで白羽の矢が立ったのが私だ。
なぜ?と思うかもしれないが、タマムシ大学の携帯獣学部というのはこの世で最も賢いと言われているのだ。それも腹心の部下の息子が、だ。
それから5年間私は社長を務めた。意図せずなってしまったので、予備知識があまりなく初めは戸惑っていたが半年もする頃には余裕が出てきた。
その余裕を私の夢に費やした訳だが、この点で苦労したことがいくつかある。
一つ目は金だ。場所については私の父が道楽で購入した島があるので問題ないが、そこに施設を建てる費用が莫大にかかってしまう。
まあこれは社長代理を務めたので、社長に便宜を図って頂きデボンコーポレーションが経営するという形で金を出してもらう。
次はどんな外観ないしは内装にするかだ。これは大方決まっているものもあるが、細部まで考えるのは難しい。まあおいおい考えていこうと思っていた。
5年間社長を務めると、先代社長は研究を終えたらしく私に用済みだと言ってくれた。用済みと言っても別に悪い意味じゃなく、ただ彼が口下手なだけだ。
そして今に至り、故郷のカイナシティに帰り一週間ほど家で外観や内装を考えていた。
だがもしかしたらこれは机の上で考えたところで意味無いんじゃないか?という疑念が生じたので、私は気晴らしにポケモンバトルでもしようかと友人に電話をかけた。
恐らく私は他の人に比べて友達は多い方なので、ホウエンにいる人達にポケナビで連絡をひたすらしていれば誰が1人くらいは誘いに乗ってくれると思っていた。
だが実際はやれ仕事が忙しいだの近くにいないだの言われては断られ、最終的にまともに取り合ってくれた人は1人だけだった。
その時の会話がこうだ。
「やあやあ、だっつん。調子はどうだい?」
私は努めて朗らかに呼びかけると、彼は少し嘆息したような雰囲気で応答した。
「だっつんはやめろ。別にもうダーツなんてしてねえし写真も撮ってねえよ」
「別にそんなつもりで言ったんじゃないんだけどなあ…。それより、久しぶりにバトルでもしないかい?」
何度も断られたのが影響していたのか、心の中はダメ元というよりも断られる前提で話していたような気がする。
「すまんな、今は会社が忙しくてな」
ほらね。
「でもそれじゃあなんか悪い気がするな。……そうだ。お前バトル結構強かったよな?俺にも勝つくらいだしよ」
おや?これはもしかするのか?
さしずめ代役でも立ててくれるのかな?
「まあねえ。でも別に君くらいだったら余裕で勝てたからね?」
「うっせえ。まあ何が言いたいのかっていうとよ。なんか最近えらい強いやつがいるらしいんだ。年齢は40くらいで使うポケモンが見たこともないようなやつらしい。そいつ探してやってみたらどうだ?」
「待って待って。どこにいるのかはわからないのかい?」
そこが最重要だ。バトルだけのためにホウエン中を探し回るなんて徒労もいいところだよ。
「確か砂漠のどっかって聞いたぜ。あの、111番道路のとこの」
「ああ!あそこね。…マジで?」
そんなとこ行きたくないなぁ…。
「同僚が言ってただけで事実かは知らんがな。どうだ?お前どうせカイナにいるんなら結構近いし行ってみるのも手だと思うぜ」
「ありがとう。気が向いたら行ってみるよ」
そう言って電話を切ると、私は砂漠へ行くかどうか頭を悩ませた。まず、砂漠に行くにあたって前提条件がいくつかある。
1つはゴーゴーゴーグルを持っているかだ。
これは問題ない。社長代理を務めていた頃は社長として給料を得ていたので私の財産は9ケタをゆうに超える。なのでその位の出費は痛くも痒くもない。
まあ今はそんな自慢話関係ないけどね。要は金にものを言わせるだけだ。
さらにそこまでの足の確保。
これも問題ないだろう。なぜなら私は沢山の乗り物の免許を持っているので車やバイク、別に自転車でも十二分に到着できるはずだ。
そしてこれが重要なのだが、特別許可証をもらうかどうかだ。
特別許可証にはいくつかあるのだが、この場合においては歴史的建造物へ入るための許可を示すものだ。歴史的建造物とは、例えばジョウトではスズのとうやシンオウだとやりのはしら、イッシュではリュウラセンのとうなどだ。
ともかく、これを取得するにはポケモン協会か定めた人からもらうことが必要になる。
幸い私には友人にオダマキという博士がおり──彼は若くして僻地にだが研究所を与えられた天才だ──特別許可証をもらうのには苦労しない。
そもそもなぜ特別許可証がいるのかは察しがつくだろうが、目当ての男がげんえいのとうにいる可能性があるからだ。せっかく砂漠に来たのに塔の中にいて待ちぼうけをくらうなんてことはしたくない。
ただそうなると一々ミシロタウンへ行かなくてはならないので正直に言ってめんどくさい。
(どうしたものかなー)
なんて頭の中で考えていた。まずメリットとデメリットを考えよう。
メリットといえばやはりバトルによるストレス発散だ。それに実際にバトルすることで新たな発想が生まれるかもしれない。
次にデメリットだが、もともとは電話した相手と軽くするつもりだったので探す手間は正直めんどくさい。てかミシロタウンに行くのは本当にめんどくさい。
行こうと思えばカラクリやしきを左に曲がってなみのりをすれば、あとはまた左に曲がって直進すれば到着する。だがなみのりの後は歩かなければならない。
歩くのは好きじゃない。よってミシロタウンには行かない。
なんて考えていた時に気付いたのだが、私は無意識のうちに行く前提でものを考えていた。まあ気分転換も必要だろうと思考を中断した。げんえいのとうにはいないことを信じよう。
「どんなことがあろうと、大体はなんとかなるからね」
そう言って自分を鼓舞したのち、準備を始めた。
◇◇◇
ここが111番道路の砂漠か。初めて見るけど辺り一面砂が舞っており、ところどころ竜巻も起きている。
自慢のサングラスを外し、ゴーゴーゴーグルを装着して進んで行くと早速サンドと遭遇した。まわりには親と思われるサンドパンも見られた。
(野生のポケモンはめんどくさいからね、逃げるに限る)
すぐにその場から回れ右して逃走すると、その向こうにはナックラーが。
あまり人が訪れないせいか、野生のポケモンがわんさかいる気がする。自分のテリトリーを主張しているのかこちらを見ては砂をかけてくる。
野生のポケモンを倒すのはなんとなく気が引けたので、ピッピ人形を置いて逃げ出した。周りにポケモンがいないことを確認し、シルバースプレーをふりかけて件の男を探す。
知っての通りシルバースプレーの持続時間と値段をゴールドスプレーと比較するとシルバースプレーの方が安いのだ。
このあたりはやはり最近まで学生であった名残なのだろう。急に金持ちになっても学生特有の貧乏性は治らないんだなあ。
◇◇◇
スタートの位置から南に下っていると、不自然な岩の並びを見つけた。大きな一枚岩を中心に6つの岩で囲んである。
(こんな岩見たことはあっても聞いたことないぞ。もしかしてこれは歴史的大発見じゃないのか?)
関係があるのかはわからないが、このあたりは砂嵐が弱く、ゴーゴーゴーグルを必要としないくらいにはおさまっていた。ゴーゴーゴーグルを外してサングラスをかけ、今一度岩を観察してみる。
真ん中の岩は周りの岩より一回り大きかった。しかし周りの岩が真ん中に比べて小さいとはいえ、人力では到底動かせないような大きさだった。大昔でもポケモンと共存していて、これも力を合わせて作ったのだろうか。
これが何なのか、わからずに暫しの間考えていた。
だがその時、なぜかこの岩が私にとっては
──檻に見えた──
一度この岩を反対側から見てみようと回り込んでみると、なんとそこには穴が空いていた。
すると1人の男が中から出てきた。深緑の服を身にまとい、なんとも言えぬ渋みがあたりを漂っていた。
私はその瞬間、彼が私の求めていた人だと悟った。
「ふう…。後は1体だな。この文字さえ読めれば…」
などと言っている辺り、まだ私には気付いていないのだろう。私はサングラスをもう1度掛け直し、彼に声をかけた。
「やあやあ、初めまして。私の名前はエニシダ。巷で噂の凄腕トレーナーと勝負をするためにここに来たんだ」
ホウエン地方ってハジツゲとかヒワマキが北なのかカナズミが北なのかどっちなんですかね?