「勝負始め!」
「行ってこい、メタグロス、ボスゴドラ!」
「ヘラクロス、頑張ってきて!」
「バトルの時間だ。サイドン」
審判の掛け声を皮切りに私達はポケモンを繰り出した。予想通りダイゴはメタグロスを出してきた。
「ヘラクロス、ビルドアップ!」
「メタグロスはヘラクロスにバレットパンチ、ボスゴドラはサイドンにアイアンヘッド」
ヘラクロスがビルドアップで筋肉を盛り上げている間を狙って、メタグロスがバレットパンチを繰り出した。バレットパンチは攻撃の際に飛躍的に素早さが上昇するので避けるのは困難だ。
「サイドン、アームハンマーで迎えうて。ヘラクロスはギリギリで飛んで避けろ!」
ボスゴドラのアイアンヘッドとサイドンのアームハンマーがぶつかって鈍い音がする。どちらにとっても相性がいい技なので、互いにのけ反り距離をとった。
一方のヘラクロスは回避に成功したようで、メガホーンをメタグロスにしようとしていた。どうやらコゴミが指示していたようだ。
「ったく……。聞こえてないとかどんだけ人をいらつかせんのよ。勝手に指示なんて出して」
コゴミがぼやいていたが、今度は聞こえないふりをしよう。
「え?なんだって?」
「うっさい!」
「仲がいいのは結構だけどね、まずは1匹倒したよ。メタグロス、サイコキネシスで動きを止めてからつばめがえし」
「おお、それはやばい。サイドン、つばめがえしくらいは受け止めてあげてくれ。あとヘラクロスはずっと飛んでおきなよ」
「また勝手に……。もう!」
サイコキネシスによって大きいダメージを受けたヘラクロスは苦しい様子で飛び続けている。つばめがえしはサイドンに直撃したが、相性が悪いのでそれほどダメージは見られない。
「そこだ、サイドン。じしん」
ヘラクロスを飛ばせたのはこれが理由だ。じしんは空にいるとダメージをくらわない。対してメタグロスには効果は抜群だ。加えてメタグロスは飛行手段を持っていない。これで倒れてさえくれれば後はボスゴドラだけなので楽に倒せる。
「そう来ると思っていたよ。でんじふゆう」
メタグロスが宙に浮き、じしんを回避した。たまにこういう反則的な技を使うポケモンがいるんだよね。重力とか磁力を操作するポケモン。
私は内心驚いていたが平静を装い言い放った。
「なるほどね。次はバレットパンチかい?」
「先に指示を読まないでくれるかな。言うのが恥ずかしくなるよ」
「ヘラクロス!ボスゴドラにインファイト!」
コゴミが痺れを切らしたのか急に指示を出した。
「待って!今ボスゴドラに攻撃しちゃ……」
ダイゴは指示する前からしたり顔で
「ボスゴドラ、つばめがえし」
と一層得意げな顔で言った。
ヘラクロスがインファイトを繰り出したが、さすがはチャンピオンのポケモンというべきか。隙をついてヘラクロスにつばめがえしを当てた。
「ヘラクロス、戦闘不能!」
タイプの分類法に沿っていえばひこうタイプの技はむし かくとうタイプのヘラクロスには4倍の威力になる。負けるのは必死だ。
コゴミがヘラクロスをモンスターボールに戻すと、ダイゴが話しかけてきた。
「あとはサイドンだけだね。気分はどうだい?」
「ギャラリーのことも考えてあげてほしいね。あんなあからさまにコゴミ対策をして、あまつさえ主役を早々に退場させるなんて。コゴミが泣いちゃうよ」
「泣いてなんかないもん!アタシ別に悔しくなんかないし……」
「将来のフロンティアブレーンに何てことをするんだい、チャンピオン様」
「人生に挫折は付き物だよ。かくいう僕もサングラスをかけた小太りのアロハに何度も自信をへし折られたもんだ」
「二度あることは三度あるんだよ?」
「失敗は成功のもとさ」
「親より優れた息子はいても師匠より優れた弟子なんてそうはいないからね」
「それは父の過小評価なのか自画自賛なのかよくわからないね。メタグロス、でんじふゆうからのバレットパンチ。あれを見せてやろう。ボスゴドラはねむるだ」
ボスゴドラはサイドンから距離をとって寝始めた。メタグロスは再びでんじふゆうで浮き上がり、バレットパンチを繰り出した。
「サイドン、アームハ……え!?」
なんと指示をしようとした時には既に攻撃は当たっていた。先ほどのバレットパンチが手を抜いたものだとしても、今の速さは異常だ。専門外なので断言はできないが、恐らくは擬似的なリニアモーターカーを再現したのだろうか。周りの磁力を操作できるからこそ可能になる芸当だね。
「どうだい?さすがに今のは驚いたみたいだね」
「だね。今のは予想してなかったよ。サイドン、ボスゴドラの近くに移動してねむるだ!」
これでうまくダイゴが勘違いしてくれたらいいんだけど……。
「なるほど。メタグロス、構うな!バレットパンチだ!」
サイドンが眠り始めるとダイゴはそう叫んだ。恐らくは勘違いしてくれただろう。
勘違いとは、味方の近くで眠っているので下手に攻撃をできないのを懸念させることだ。本来なら普通に考えつくことで、ダブルバトルでねむるを使った際に見られる戦術でもある。
だが今回はメタグロスはサイドンの弱点のバレットパンチを繰り出してくる。一方ボスゴドラに当たってもそんなにダメージを負わない。だからこそバレットパンチをすることに乗り出し、事実その選択をしないことは間違いでもあるが、今回に限っては私の術中にはまったといえる。
「サイドン、ねごと。試合前にさんざん教えたことを今やってみろ!」
そういうとサイドンはアームハンマーを繰り出した。無論寝たままではあるが、突っ込んでくるメタグロスに直撃するコースだ。
「小回りが聞かないとでも思ってたのかな。避けろ!」
恐らくでんじふゆうによって磁力を操っているので、応用して加速しているのだろう。マイナスとマイナスは反発するのだ。進行方向のマイナスをプラスにかえればそちらに移動するのは自明だ。
だがこの行動は別にどちらでもよかった。
アームハンマーは空を切り地面に突き刺さる。そしてその衝撃でじしんが起きた。
モロにくらったボスゴドラは回復の最中ではあったが、それを上回るダメージを負った。
「ボスゴドラ、戦闘不能!」
耳を澄ますと会場のあちこちで「おお」や「凄い」といった声が聞こえる。
「ボスゴドラ、戻れ。……今の説明をもらえるかい?」
「ねごとでじしんが発動しただけだよ」
「そういうことだけではないだろう。一度に二つの技は使えないのがポケモンの技の鉄則じゃないのか?でも今のはどうみたってアームハンマーでじしんを起こしていた」
「いや、サイドンはアームハンマーもじしんも使っていないじゃないか。あいつはねごとを使ったんだよ?別に二つの技を併用したわけじゃないよ」
ポケモンは一度に一つの技しか使えないというのが鉄則なのは理解している。だからこそ一度に二つの技を使えることが出来たら強いんじゃないか?と大学時代の私は思い立ったわけだ。正直、これを思いついて成功した時は鳥肌が立ったよ。サイドンでするのは初めてだったが、成功して何よりだ。
「ねえ、エニシダ。これ勝てるの?」
「コゴミ、よく覚えておくんだよ。この勝負は負ける。たとえ勝てたとしても君が負けているんだ。私が勝つと変な噂が立ちかねないんだよ」
具体的には私のイカサマとか、ダイゴの実力が正当に評価されなくなるとかね。
「この勝負は私たちが1匹を倒した時点で終わってるんだ。あとはサイドンに負けたふりをしてもらうだけだよ」
「そんなのおかしくない?勝てるのに負けるなんてアタシは絶対したくないし、されたくないよ」
「そうだね。できることなら私もそうしたい。けど彼はチャンピオンなんだ。リベンジしたければもっと強くなって公式戦で闘わなきゃね。ダイゴ!ムクゲさんが来たよ」
「……。そうか。了解」
いつもの決まり文句を言うとわかりやすく落ち込んだ様子を見せ、メタグロスに三度でんじふゆうをさせてバレットパンチを放たせた。
サイドンは派手に倒れると、審判は大きく息を吸って勝敗を言い渡した。
「サイドン、戦闘不能!よって勝者、チャンピオンダイゴ!!」
ウオォォォ!!!と観客が湧き、続いて拍手が贈られる。歓声には「ナイスファイト、コゴミー!」や「さすがチャンピオンだよ!」などといった声が見られる。ちなみに私への声援はない。解せぬ。
「コゴミちゃん、お疲れ様。君は将来必ず強いトレーナーになるよ。次に会うときは焦ると適当に指示するところを治しておいてね」
「はい、ありがとうございました。いつか必ずリベンジします!」
そう言って二人は握手を交わした。コゴミの目にはうっすらと涙が見えた。終わってみれば特に何もできていなかったので、やはり悔しいのだろうね。
「エニシダさん、やっぱり強いですね。認めたくないですけどまだまだ勝てませんよ。あの後普通だとバレットパンチをアームハンマーで迎え打たれて倒されてましたし、サイコキネシスもダメージにはならなかったですからね」
「いや、でんじふゆうで加速していたバレットパンチに合わせられるかは微妙だったよ。恥も外聞も捨ててヒットアンドアウェイに徹したら負けてたよ」
「仕事柄、そんな泥臭い闘い方は許されないのは知っているだろう?」
「だね。ともあれお疲れ様。強くなったね」
私はコゴミに続いてダイゴと握手し、司会者の言葉を待っていた。
「ではこれにてカナズミトーナメントを終了します!皆さんお疲れ様でした!!」
そういうと観客は席を立った。私たちも控え室に戻っていった。
途中、コゴミが話しかけてきた。
「そういえばムクゲさんって誰なの?」
「デボンコーポレーションの社長の息子だよ。…ああ、コゴミにはダイゴの父親って言った方がわかりやすいか」
「そんな人来てた?客席にいたの?」
「あれは一種の暗号みたいなもんだね。この際だから言っちゃうけど、私はデボンコーポレーションの社長代理をしてたことがあったんだよ。そのせいかダイゴのお父さんにはよく思われてなかったんだ。そんな相手に息子がポケモンバトルで負けるのを見てなにも思わないわけがないだろう?」
社員がぺらぺら喋るんだ。社外秘なんて言っているだけなんだろう。
「まあ確かに嫌かもね。アタシは別にどうでもいいけど」
「彼はプライドが高いんだよ。一度だけダイゴのお父さんの前で勝ってしまったことがあってね、その時のお父さんの怒り様と来たら……。それ以来、今の言葉がバトルの終了の合図になったんだ」
「なるほど…」
まあ怒り様というかいちゃもんだったけどね。インチキをするな、悪影響が出るだろ。こんなところだったかな。
◆◆◆
「エニシダ!!なんでお前が試合に出てるんだ!」
アタシ達が控え室に戻ると、40歳くらいのおじさんがエニシダを怒鳴りつけていた。
「まあまあ、これも社長の縁だよ」
「エニシダ、この人誰?」
「私の同僚だ。名前はジンダイ」
「確かコゴミだったよな?よろしくな」
渋いおじさんがアタシに挨拶してきたので、こちらもいつも通りの人懐っこい笑顔で反応した。
「どうも、コゴミです!よろしくでーす!」
するとジンダイさんはエニシダに何か聞きだした。
「この娘、勧誘するのか?」
「もちろんだよ。彼女は逸材だからね」
なんの話だろう。勧誘?
「コゴミ、単刀直入に聞くけどね。私達とポケモンの遊園地を作らないかい?」
………え??
。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。
要約すると、バトルフロンティアというところのボスにならないかということらしい。
「アタシが?でもまだ子どもだよ?」
「強いに子どもも大人も関係ないよ。私は強い人を欲しているだけだからね」
正直に言うとまだ実感がわかない。人より強いのはわかっていたが、ポケモントレーナーの聖地(仮)のボスになんてなれるとは思わない。
「もっと凄い人なんていっぱいいると思うよ?」
「例えそうでもコゴミが成長すれば大抵の人には負けないくらい強くなるよ。これは断言できる」
「うむ。私も観客席から見ていたが、お前は強くなる」
「でも、お父さんが……」
遊ぶこともほとんど許してくれないのだ。いくらポケモンバトルが絡んでいるからって、あの父が素直に許すとは思えない。
「そんなのどうとでもなるよ。金なら浴びるほどあるしね!」
「子どもに変な事言うなよ……」
悪い笑みを浮かべたエニシダにジンダイさんがツッコミを入れる。
「ともかく、君の意思はどうなんだい?」
アタシの意思……。強い人と闘うのは好き。今日は周りのレベルが低すぎたり高すぎたりしてあんまり楽しめなかったけど、先生とかと闘うのは楽しい。
「バトルフロンティアは強い人がいるの?」
「予定では認めた人しか入れないようにするよ。リーグチャンピオンとか四天王とか、あとは本気のジムリーダーとかね」
聞くだけでどれだけの規模かわかる。いや、正確には大きすぎて把握できないけど強いトレーナーが来ることはわかった。
「……それなら、アタシもそこに行きたい。もし許してくれるなら、アタシもバトルフロンティアで闘いたい!」
恥ずかしながらも口にしたその本音は、二人に届いただろうか。心だけの、ささやかな親への反抗。アタシだって学校なんかよりバトルがしたい。それで生きていけるなら、なによりも素晴らしいよね。
「じゃあ改めて、よろしくね。同僚!」
「よろしくな」
「うん!よろしく!」
そういったアタシの顔は、少しだけ上気していた。
ビーカーってあれよく考えると可愛いんすよ。
A君「お前胸の大きさどれくらいか言える?」
Bちゃん「C!」ペタン
A君「…本当は?」
Bちゃん「……
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