エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
エルフの国は危機に貧していた。
「グオオオオオオオオオ!!」
エルフの王座に土足で上り剣を掲げるオークは咆哮を上げ、辺りには幾人ものエルフの死体が転がっている。
――そこに、突如
美しいエルフが……現れた。
現れたと言うのは間違っているのかも知れない。何故なら何もない場所に突如として出現したのだから。
十三英雄を伝え聞く者が見たら、それは英雄とされたエルフの王だと思うだろう。身を纏う防具は素人が見ても一級品だと一目で分かる装備で、非常に美しかった。
◆
隣国のオークでは雄のオークしか産まれない。これは誰もが知る常識で、故に旅をする人間種からは恐れられていた。
この世界にはモンスターも居るし動物も存在する。広義での亜人種は人間種を醜い存在だと忌み嫌い、また人間種も亜人種を嫌っていた。しかし隣国のオークの好みの雌は人間種に限られている。その中でも人類とエルフ類は人気が高い。
彼らの生息域は人類未到達のエリア。人という脆弱な種族では見晴らしの良い平地以外では生き残れないので当然とも言えよう。そんな場所ともなるとエルフの女くらいしか生息しておらず、エルフが生息する側にオークが暮らすことで効率良く繁殖することが出来ている。
かつては人間やエルフを育てる計画も立てられ、実際に家畜として飼育もしていた。しかしオークの粗暴な性格では満足に飼えるはずもなく、貴重な赤子を殺してしまう結果となった。今ではエルフの国を他の種族から守ることで、見返りとして年十体のエルフを要求していた。
毎年連れ去られるせいでエルフの繁栄はしないが、彼らも子孫を残すので減ることもない適切な数となっていた。このことに不満を持つエルフは多く、全てのエルフがオークへの不快感を抱いていた。
自然の魔法を得意とするエルフだが、今となっては王族を残して生活魔法がやっとの有り様だ。これはオークがエルフを守るために多種族と戦うことで自らを鍛えてこなかったったつけが回ってきたせいだ。
連れ去ったらエルフはオークの中でも優秀な者しか孕ませることが出来ない。エルフは長命。産む気になれば百年で百人だって可能だ。だが美醜の違うエルフからすればオークは醜い化け物。そんなオークに犯され、あまつさえ化け物を孕むことは耐え難いストレスとなる。多くのエルフは脳が産むことを拒否し、閉経してしまう。精神が壊れ雌奴隷として受け入れるエルフも居るが、数年に一人現れる程度。そのため屈強な戦死、強大な魔法使い、信仰を深めた者。そう言った屈指のオークしか血を残せず、それ以外の者は閉経したエルフを慰安としていた。
何人かのエルフが泣きながら帰ってきた。彼女らはオークへの貢ぎ物ではなく薬草を採取しに出掛けた者達だ。それが引き金となり、不満が爆発したエルフ達がオークへの差し出しを拒否したのだ。知性を持つオークはエルフへの謝罪を提案するが、多くのオーク達は力で分からせてやればいい、オークに逆らったことをその身で償わせてやろうと野蛮な性格を顕にしていた。
第3位階の魔法を修めるエルフの王だが、無勢に多勢。実戦経験の無い魔法使いが出来ることなど何もなかったのだ。
呆気ない。エルフは皆、絶望していた。最早エルフの国はオークハウスの眷属となったも同然だ。これまで以上の地獄がエルフ達を待ち受けているに違いない。
これまでは王が統制する独立国として一応の形を成していたが、纏める者が居なければただの集団にすぎない。
首の無いエルフの王を横目に絶望するエルフ。それに対し雄叫びを上げ鳴り止まない興奮を顕にするオーク。
もし神が存在するのであれば、エルフに味方したのだろう。そうとしか思えなかった。
有り得ないから奇跡。それが実現するのなら奇跡でも偶然でもなくただの必然である。神など信じないエルフ達は皆口を揃えて言うだろう。
奇跡だ。その身に纏う装備は神々しく、王として君臨すべく産まれたのだろう。
凛々しく、そして美しかった。
◆
「ここはいったい……」
状況を理解しきない。私はどうしてここに居るのだろう。利用料金のみが毎月引き落とされ続け、数年間ログインをしていなったゲームが終わりを迎えることを知り、かつての仲間達に会えるかも知れないと思うも、それは杞憂だった。
誰も彼女を知る者はおらず、暇を弄びながら祭りを眺めていた。無数の花火が同時に上がり、大爆発を見たときは驚いたものだ。
カウントダウンが終わり、視界が暗転し景色が変わる。
そこ王城だった。狭いながらも王室だと分かるそこには見渡す限りのオーク。横たわるエルフ。
大将を失ったエルフに戦意はなく、最早風前の灯火と言えよう。
「そ、そこのエルフ様! どうか我等にお力添えをして頂けないだろうか!!」
絶望の中、光を見いだしたエルフは叫んだ。この機会を逃せばオークに完全に支配されてしまう。降臨したエルフが何者かは知らないが、同じエルフであれば味方になってくれるかも知れない。そう考えたのだ。
「一体ここは何処? 一体何が起きてるの?」
「オークです! オークの者達に進行され、陛下……この国の王が討たれてしまったのです! 不躾ながらお願いします!! オーク達を撃退して下さい!」
オーク討伐クエスト。この依頼を受ければ何か報酬が貰えるのだろう。いやサービスが終了したのにクエストが発生するのはおかしい。だが目の前のオークは待ってはくれず襲い掛かって来た。考えても仕方がない、オークなど私からしたら蟻のようなものだ。醜いオークを倒してから考えれば良いだろう。まずはクエストを受けることから始めるか。
「受けるわ! そこのオークを倒せば良いのね!」
「馬鹿ナコトヲ言ウ。力デ劣ル、魔法ハ貧弱。ソンナエルフガ武装ヲ整エタ所デ、コノ差ハ埋メラレナイ」
だみ声で喋るオーク。私の知るオークは鳴き声は用意されているが喋ることは無い。機械音声が用意されていないのだから言葉を発しないのは当たり前だ。このエルフは他の人が声を当てているのだろう。いや久し振りのログインだ。もしかしたらパッチが当てられたのかも知れない。と言うか何故サービスが終了したのに……いやそれは後で良いか。
「エルフの中でも屈指の実力を誇る私に感謝しなさい! オークなんて一振りよ!」
杖を振う。刹那、空間が割れたような……いや実際に割れているのだ。
血しぶきすら上がらない。倒れたオークからはじわじわと血が溢れ出している。血の海に相応しい光景だ。
「はあ……、こんな低レベルなら弱い魔法で戦闘を楽しんだ方が良かったかな。でも夜も遅いし早めに終わらせてセーブしたいから仕方ないよね」
現実離れした光景を目にし、呆気にとられるエルフ達。いやここはお礼を述べるのが先だろう。このまま去られてしまえば怒り狂ったオークが隊を成して攻め入るかも知れない。オークが完全に支配すれば安心して暮らすこともままならないのだから。
これまではランダムでエルフの娘を渡していた。これは長命なエルフだからこそ可能な芸当とも言えよう。幾百年と生きるエルフにとって十数年育てた娘が居なくなってもまた産めば良いのだ。
生娘を連れ去られた両親は居た堪れない気持ちで胸が締め付けられる思いだが、これもエルフを守るためには仕方のない行為。他のエルフ達は心を鬼にして親から引き剥がしていた。
しかしオークが侵略してしまえば、自分達にまで危害が及ぶことだろう。それだけは避けなければならない。
「貴方様はもしや真なるエルフの王ではないのですか!?」
十三英雄の一人にエルフの王が居たと伝わっている。我が国のエルフではないが、もしや伝え聞く王が助けに来たのかも知れない。
「王よ! どうか我が国を……我がエルフをお救い下さい!」
(あれ?クエスト終了じゃないの?眠いんだけどなあ。でも続きも気になるし少しだけならいっか)
「えっと、先ずは事情を聞かせてくれる?」
(カクカクシカジカ……なるほど)
「でー、私にこの国の王をやって欲しいの?」
本拠地。かつてはコミュニティに参加はしていたがギルドには所属しておらず、仲の良い人達と交流する程度だった。
(よし、この本拠地を貰ってから寝よう)
「うん、良いよ。でも亡くなったこの国の王は良いの? 貴方達はあの人に創られたんじゃないの?」
「いえ、我々エルフを纏めていたのは確かですが、王との繋がりはありません」
創られたNPCかと思ったが、ゲーム側が用意したキャラなら自由に使っても文句を言う人は居ない。それどころか本拠地にPOPするモンスターなら私の下部とも言えよう。
「うん、分かった。この国の王になるよ!」
「ウオオォォオオオ!」
周りのエルフが喜んでいる。
(うんうん、久し振りに遊ぶゲームはやはり面白い。システムも進化してるから新鮮味もあって今でも楽しめる。こんなに面白いのに終わっちゃうのがゲームの難しいところだよね。いやまだ終わってないみたいだけど。もしかして延期になったのかな)
「えっとあの、来たばかりで悪いんだけど休めるところってあるかな? もう眠くて眠くて」
「あ、はい。来客用の部屋が荒らされておりませんので、そちらを一時的にご利用ください。ここは私達が片付けておきますので」
「了解、案内をよろしく」
歩くこと数分。ホテルの一室のような部屋に入った私は、セーブをしようとコンソールを起動した。
正しくは
「起動……しない? え、なにログアウト出来ないの?? もしかしてバグか何かが起きてるの?? それとも別のゲームに……いやいや、キャラも魔法も同じでそれは有り得ないから」
ゲームを遊んでいる最中に寝落ちして夢を見ているのだろう。ならば寝よう。夢で寝るのは変な感じだが、眠いのだから仕方がない。
「おやすみなさい」