エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》   作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)

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ep10 同盟

 今まではゲームの世界だと思い込むことで、ここは仮想世界……もしくは夢物語だと現実から目を逸らしていた。真実を知り冷静を取り戻したことで、この世界でどうすべきか考える余裕が生まれた。

 明美は確信していた。アインズさんと一緒なら魔導王だって討伐できると。自身が弱いわけでは無いが、それでも仲の良かったプレイヤーと一緒なら非常に心強い。

 

「皇帝が私を討伐して欲しい……本当にそう頼まれたのですか?」

 

 アインスが聞き返した。何時にも増して冷静に感じる。

 ――あれ? 今なんて言った? 私を討伐……

 

「アアア、アインズさんが魔導王だったの!!?」

 

「あー言ってませんでしたっけ。このエ・ランテルも私の領土なんですよ。ここから馬車で二日程の距離にナザリック毎転移したんです。それでジルクニフ皇帝の協力を得て魔導国を建国する働きとなりました」

 

「アインズさんも王さまかあ。なんだか親近感が湧いちゃうね。で――」

 

 明美は先ほどから気になっていたことを冗談混じりに口にする。

 

「魔導王さんとしては、討伐されてくれ――」

 

「ませんよ? 当然死ぬのは嫌だから、もし敵対することとなれば反逆の罪でジルクニフを拘束するかな。そうしたら依頼主不在で失敗に終わりますよね」

 

「残念だけど、そうは単純にはいかないのよ。なんでも、帝国がエルフを奴隷として捕らえてるって話を耳にしてね。同じエルフに救って欲しいと言われた以上、断る理由も見当たらないから承諾しちゃったのよ。ゲーム感覚でクエスト受注♪って感じで」

 

「なるほど……なら明美さんの国と私の魔導国が同盟を結び、帝国を交えた三国同盟の交渉はどうでしょうか?」

 

「同盟国なら戦わない……それって帝国は信じてくれるかな。確かに魔導国に滅ぼされる不安が無くなれば結果的に目的は達成するけど、攻めてこない保証はどこにも無い訳だし」

 

「あ…………なら……うーん――」

 

 アインズは所詮、しがない営業マンでしかない。圧倒的な強者としてではなく、同じ目線。もしくは下手に入っての交渉が基本だ。何時もなら作戦を練っての行動か、階層守護者の助言ありきの計画。アドリブで完璧にこなせと言われても不可能に近い。

 

「漆黒に協力を煽った物の受け入れてくれなかった。ひとまずは帝国に大使館を置くことで、迅速な連絡を可能にする……とか?

 偶然魔導王と接触することになり、魔導国と同盟を組むこととなる。もし魔導国に責められても同盟国の大使館を人質に出来る」

 

 こんな考えが瞬時に思い浮かぶなんて私ったら天才ね!

 

「まあ、力で脅せば解放してくれる気もしますけどね。私の……アインズとしての側近の闇妖精(ダークエルフ)が奴隷のことを知り、解放して欲しいと頼まれた。これなら納得は出来なくとも筋は通っています」

 

 流石はギルドのまとめ役。話をなあなあで聞いてた訳じゃ無かったのね。女性パーティーでは作戦系はぶくぶく茶釜さんが担当で、私はと言うと戦闘がメインだった。それに対してアインズさんは色々な処理をこなしていたと聞く。経験の差が躊躇に現れたのかな。

 

「エルフの件は帝国の対応待ちですね。あの――明美さんは、他にユグドラシルから転移したプレイヤーを知っていますか?」

 

「転移してからの数日間で、プレイヤーらしき人には出会ってないですね。レゴラスさんは何か知らない?」

 

 明美は隣に座るいつものエルフに声をかけた。先王に仕えていたのなら、何か知っているかも知れない。

 

「え……えーと、その――」

 

 口籠るレゴラス。率先して会話に参加することはないが、聞かれれば答えるだけの対応はするはず。記憶の海を探索しているのだろうか。

 

「かつて……十三英雄が一人、エルフの王が強かったとは聞いております。しかしプレイヤーかどうかは不明で、申し訳ありませんが私が答えられる情報を持ち合わせていません。ごめんなさい」

 

 申し訳なさそうに頭を下げるレゴラス。膝に置いた両手は重ねられ、縮こまった座り方に感じられた。

 

「十三英雄は二百年前に活躍した存在で、現在は存在が確認されていませんね。秘匿されている情報だと知りようが無いですが、生きていれば目立つと思うので可能性は低いです」

 

 アインズはこれまで調べてきた情報を語る。法国はプレイヤーの臭いがするため調査が進んでいないが、暗殺部隊が使った自称最高位天使があの体たらくではたかが知れている。今は亡きプレイヤーの遺産が残されていると予想している。

 八欲王は既に滅んでおり、口だけの賢者も今は居ない。

 

「原理が全く理解できないけど、結構な数のプレイヤーが過去に転移してきたって訳ね。勉強になりました」

 

 もしかして私たちだけ?と不安になりかけたが、過去に何人ものプレイヤーが転移してきたと知り、用件が片付いたら自分と同じ境遇の人を探してみようと明美は考えた。

 元の世界へと帰りたい気持ちは半分。家族とは離れ、一人暮らしをしていた明美にとって元の世界に戻った所で……などと考えてしまう。姉と二度と会えないかと思うと寂しさを抱きかねないが、それでも死んだ世界への未練は少なく、もし帰れないと分かっても仕方が無いと妥協できる程度には成ってきた。

 エルフの姿形となり、心までエルフに侵食されてしまったのだろうか。人間を自分とは違う別の種族だと心の中で思ってしまう。

 

「私たちは特に用事も無いですし、転移魔法でナザリックへ一足先に戻っています。手はず通り単騎で攻めてくる体で来てください」

 

「じゃあアインズさん、また後で」

 

「こ、この姿ではモモンですから!!」

 

 不出来な部下に呆れ返るような、そんな彼の心からの叫び声が響き渡った――防音魔法により四人にしか聞こえていないのだが――。

 

 

 

 

 

 

 アインズと別れた明美は帝国の馬車が停められた小屋へと向かう。本来は漆黒と共に向かうつもりだったが、アインズとジルクニフ皇帝。その二人ならアインズを助けるのは当然の流れだ。

 キリスト教の信者がキリスト教徒と仏教徒のどちらかを助けろと言われれば、同胞を救うのと同じ事。知らぬ世界で不安な中、同じ境遇のアインズと手を取り合いたいと考えるのはおかしな事では無い。

 

「お! 女王さん、話は済んだのかい」

 

 帝国からここまで送ってくれた馬主のオジサンに声を掛けられた。漆黒と一緒でないことに気付き、顔つきは暗くなる。

 

「ごめんなさい、漆黒のモモンさんに戦えないと断られたわ。魔導王――アインズには勝てるかも知れないけど、リスクが高いから様子見だってさ」

 

「アダマンタイトとは言え、流石にあの化け物とは気が引けるってか。そんで、これからどうするんだい」

 

 交渉が決裂したのなら、皇帝にその報告をしなくてはならない。しかし明美にはアインズとの作戦があった。

 

「ナザリック地下大墳墓へ向かいます。刺し違えてでも倒してみせます。彼は魔導王さえ倒せれば――と言ってたわ。それなら私が魔導王を倒して逃げ帰れば、殿(しんがり)を任せられるわ」

 

「女王さんよお……一応言っとくけど近くまでだぞ。もし墳墓から帰って来なかったらそのまま帝国に帰らせてもらうぜ」

 

 エ・ランテルを後にし、魔導王の根城へと馬車を進めた。流石にジェット戦闘機並みの速度は御免なので速度向上(スピードランニング)を馬に発動させる。

 足音が後からこだまする速度でナザリック地下大墳墓近辺に辿り着いた。ここからは御者の安全を配慮して徒歩での移動だ。

 

 コキュートスが以下、探索部隊が直ぐ様発見し、アインズへ報告が入った。

 宿の個室から転移門(ゲート)の魔法でナザリックへ帰還したアインズは、彼女達が招待客であることを伝える。

 

「良くぞ参られた。エルフの国女王、明美よ。我と共に帝国へ赴き、ジルクニフ皇帝との交渉を始めようではないか」

 

「……なにその言い方」

 

 上瞼を平らにし、アインズに冷静な言葉を投げかけた。

 だがアインズとて狼狽(うろた)えるわけにはいかない。後光が輝き、魔王ロールが続いた。

 

「面白いことを言うな明美女王よ。今の私はアインズ魔導王だ。その辺りを考慮して欲しい」

 

 面白いことを言う骸骨である。いやなんでもないです。必至で笑いを堪える明美。周囲に跪く配下のNPC達が真顔なのが更なる笑いを呼び起こす。

 笑ってはいけないナザリック24時。ここで笑えば自我を持った彼らに恐怖公送りとされかねない。従来であれば心拍数の上昇と共に強制ログアウトされるが、今はそれどころでは無い。G死なんて餓死より嫌な死に方ナンバーワンだ。

 

 直ぐに戻っては裏や洗脳魔法など怪しまれると思い、一時間後に馬車へと戻ることにした。アインズを連れて。

 

「ゲエッ!? 魔導王!!」

 

 馬主は慌てて口に手を当てる。俺の人生はここで終わりだ。最後に一度、女房や娘に合いたかったぜ……居るはずもない二人を妄想しつつ瞳を閉じた。

 

…… 

…………

………………あれ?

 

「何やってるの?」

 

 不思議そうな顔で声を掛けられた。今更だけどエルフも悪くねえな、そう思った御者のオジサンは息をしている事に安堵する。

 

「コホン……今から明美女王と帝国へ向かうことになったのでね。君も帰り道は同じだろ? どうせならと思ってね」

 

「ジルクニフ皇帝の意見も分かるけど、アインズ魔導王の意見も一理あると思ってね。三人で話し合おうって結論に至ったの」

 

 アインズはどこからともなく全身鏡を取り出すと、ここから帝国へ戻れると説明をする。

 恐る恐る鏡に触れてみると手が吸い込まれた。うわっ! と思わず引っ込めてしまった。一体どうなっているんだと顔を驚かせると、中には数時間前に自分が馬達の面倒を見ていた場所が広がっているではないか。

 魔法とはかくも偉大な物である。男は手綱を握り馬車と共に鏡の世界へと消えた。

 

「さ、明美女王。我々も向かいましょうか。場所は――バハルス帝国が王室!」

 

 

 

 

 

 

「明美女王とやらは無事に漆黒と会えただろうか」

 

 ジルクニフは一人になった部屋で呟いた。彼女には悪いが、漆黒が妥当魔導王に協力的かどうか知る必要があった。

 漆黒は目立った動きが無く、魔導王討伐のメンバーとして動いてくれるのか。幾ら何でもエルフと共に魔導王を倒せるとは思ってもいない。間近に居る彼だからこそ気付いた情報もあるはずだ。あのエルフが連れてきてくれたら、話が早いのだけどな。

 そんな都合良く進まないか、とジルクニフは軽く笑った。

 

 目の前に広がるは闇。光は飲み込まれ、暗闇が自ら発光しているかと錯覚を受けてしまう。彼の周りだけ光が消えているのだ。しかし真っ暗ではなく、黒よりも深い輝きが彼を纏っている。

 

「ジルクニフ皇帝よ、どうした? 私を殺したいのだろう。絶好の機会ではないか」

 

 その後ろから明美、何時ものエルフが現れた。何もない空間から産まれるように登場したのだ。もう笑うしかない。

 

 考えろ。考えるのだ。この場を切り抜ける言葉は何か……。

 ジルクニフは思考する。アインズと初めて出会った時以上に回転させる。――が、出てこない。この場を切り抜ける一言が皆目見当も付かない。

 先に明美が口を開いた。

 

「ジルクニフ皇帝、私はアインズ魔導王と同盟を組むことにしました。頼み込んだけど漆黒には断られたの。だから別の方法でエルフの奴隷を解放させようって考えたのね」

 

 こ、この、売国奴が! なにをのこのこと、よりにもよって魔導王を連れて来るんだよ!!

 喉まで出かかった言葉を飲み込み、本音ならる建前を吐き出した。

 

「その――別の方法とやらを聞いてみたいな」

 

「簡単だよジルクニフ。私とエルフの国、そして帝国を交えた三国同盟を結びたいと考えているのだよ。互いに戦わないことを条件として、エルフの奴隷制度の撤廃を要求したい」

 

 アインズは続けて話した。

 

「この帝国が滅ぶのと、エルフの奴隷解放を条件に同盟と言う名の庇護化に入る。実に素晴らしいと思わないか?」

 

 なにが素晴らしいだ。そう言って少しずつ帝国をむしばんで行くつもりだろう。それに計画していた対アインズ連盟の結束時に、帝国が敵側として扱われることは避けなければならない。

 第一帝国と魔導国は既に同盟国ではないか。三国同盟とし、より盤石を築くとでも言いたいのだろうか。

 

「まあ、奴隷解放ともなるとエルフを買った連中からの反対もあるだろう」

 

 対価としてアインズが幾つもの宝石を机に並べた。明美が先に出した宝石と同等かそれ以上だろう。これなら奴隷となったエルフを取り上げた連中を黙らせることが出来る。皇帝が魔導王に屈したと思われるのは屈辱だが、他国からは逆に脅されていると交渉の材料に繋がる。宝石だけを見れば悪くはない条件だ。

 

「アインズ魔導王と同盟を組むことは……納得しかねる。ただ、エルフの奴隷解放については大丈夫だ。その宝石で連中を言いくるめるには充分すぎるよ」

 

「同盟は嫌か? 折角私がより強固な関係になろうと提案をしているのに」

 

「私としては魔導王と仲良くしたいと思ってるし、現に仲が良いと信じている。しかし国民は別だ。戦での活躍が恐怖を生み、下手をしたら同盟を売国だと勘違いされかねないんだ。だから……裏では仲が良い、そう言うことにしておいてくれないかな」

 

「うむ……成る程。私はそれで構わないな。明美女王はどう思う?」

 

「私は問題ないわ。エルフの奴隷解放が本来の目的だからね。それが達成されれば帝国と敵対する理由もないし、これからは宜しくやっていきたいとも考えてる」

 

「ところで明美女王は……アインズ魔導王が先の戦で十万以上もの王国民を討ち取った偉業をどう思う?」

 

 ジルクニフは明美とアインズが少しでも仲違いし、帝国側につければと考えている。アインズに上手いこと吹き込まれているのなら、それを払拭すれば良いだけのこと。エルフとアンデッドでは考え方が違う。流石に嫌悪感を拭えないだろう。

 

「うーん、正直に言っても良いかな。私にとって人間って、エルフと違って同胞って認識が出来ないんだよね」

 

 ジルクニフの顔が青くなる中、素知らぬ顔で続けた。

 

「私は……同じ境遇のアインズ魔導王を支持します。私にとってこの世界は儚い。非常に不安定な存在。いつ折れるかも知れない心を唯一繋ぎ止めてくれるのがアインズ魔導王なの。まぁ理解してもらおうとは思ってないけどね」

 

 目の前の視界に靄が掛かったように視認が困難となり、覆い被さるように闇がジルクニフを包み込んだ。

 その後のことはもう覚えていない。気が付いたらエルフの奴隷は開放され、アインズ達の姿は消えていた。

 

 

 

 ――数日後

 エルフの奴隷はアインズ配下の闇妖精(ダークエルフ)を懐柔するカードとして使う予定だった。それが無駄に終わった今、各国が結束しなくてはならない。

 法国や王国、各国への要請を行う。明美も脅されているのだろう。そう思うことで心の均衡を維持するしか無い。戦うための要請をしてみるか。アインズも、みんなで倒せば怖くない。いや怖いわボケ!

 

 

 

 

 

 

 ――バハルス帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王を討伐すべく、各国に協力を要請しています。かつて八欲王と戦った経験をお持ちの貴殿のお力添えのほどお願い申し上げます。

 

 それは、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)への手紙だった。

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