エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
ツアーは手紙を眺め、深い溜め息をついた。まさか帝国から協力要請が来るとは思っても見なかったからだ。
八欲王との戦いを思い出す。あの時は各個撃破どころか竜王すら単独で挑むことが多く、逃げ隠れした竜王以外は全滅してしまった。
かつての竜王はもういない。自分はあの時の王達と比べると、大人と子供ほどの差が広がっている。そんな中、同じ世界からやってきた者――ぷれいやーと戦うのに自分独りでは不安を隠せない。
ワイルド・マジックはぷれいやーの耐性を貫通する。そのため自分が攻めるのも悪くはない。だが失敗したときが怖い。万一にも逃げられれば、えぬぴーしーが襲いかかってくる。仮に倒せたとしても魔神となって暴走するに違いない。ならば人間に混じって戦った方が安全と言えよう。
鎧を操るドラゴンが居ると誰が想像するか。十三英雄しか正体を知らないため、所見では死ぬことのないある種の残機だ。
「エルフの王との連絡は取れたのかい?」
親しみを持った声で話しかけたのは老婆だった。当然のことだが、白金の騎士ではなくドラゴンへ投げかけている。
「やあ、リグリットかい。残念だけどかつて共にした仲間では無いよ。女王だしね」
「あの日を境に仲間は離散。今はどこで何をしているのやら……おっとそんなことより、ツアーはジルクニフの依頼を請けるのかい?」
「うーん、
「ここを離れて万が一があっては事じゃから、それも仕方のないことじゃな。旅をする儂には届いていないが、どれ……久しぶりに共に戦うとするかのう」
ツアーはギルド武器を気にかける。これが破壊されれば、行き場を失ったえぬぴーしーが魔神となり世界を破滅へと導く恐れがある。かつての魔神とは理由が違えど、戦わずに済むのなら越したことはない。
ワイルド・マジックは操り人形から放てるので、リスクを犯してまで向かう必要はない。
「どれ、返信の手紙は儂が書こう。ツアーじゃ書けないじゃろう」
「ありがとう。でもリグリット、僕だって魔法で綴る事くらい可能だよ?」
バカにしないでくれる? などと冗談混じりで会話するツアーには笑顔が溢れていた。
◆
明美は解放されたエルフ達をどうすべきか悩んでいた。このまま連れて帰ろうとしたのだが、奴隷として心を折る過程で耳を切り落とされている。せっかく自由の身になれたのに、奴隷の証を残したままでは完全な自由とは言えない。
「さ、これでも飲んで傷を癒しましょう」
ここは一肌脱ぎますか! と明美は持っていたポーションをエルフ達に飲ませることとした。
真っ赤な液体に戸惑いつつも皆々が口にする。
当然、耳は治らない。
「――あれ?」
「明美さん、通常のポーションで回復する傷は最近受けたものや、進行中に限られるみたいですよ。上位のポーションはまだ実験していないので全部がそうとは限らないのですが」
アインズはワーカーが連れてきたエルフの事を思い出し、口にする。殺してしまっても構わなかったが、ハムスケが瞑らな瞳で訴えかけてきたのだ。もっともアインズの勘違いで、殺さなかったことを怒られるのではと見つめていたのだが。
「ってことは、私の魔法じゃ治せそうにないわね。アインズさんは……」
「アンデッドなら回復できますが、それ以外となると……残念ながら」
どうしようか悩んでいる。エルフの国に置いてきたNPCに頼めば回復は可能だが、高位の神官魔法を修めていないので治すことができない。
「もし良かったら、ナザリックまで来ませんか? ペストーニャの治癒魔法で古傷も治せますよ」
「ペス……ペス……ああ! 犬のメイド長さんね!」
何度か来たことはあったが、第6階層でお茶会を開いていたのでメイド達とは会ったことがなかった。メイド長は製作者が違うこともあり見たことはあるが、それでも片手で数える程度しか無い。
「ナザリックまでは転移魔法で移動できるけど、そこからは各階層に設置された
「ナザリックの前で待って貰えますか。広いところがいいので、6階層への
「あれ? ナザリックって転移魔法禁止だよね。指輪があっても装着者一人しか移動できないし」
「ああ、6階層で転移の鏡を発動させるんです。外からは無理でも中からは問題ないので」
いくらマジックアイテムと言えど、ユグドラシルでは考えられない移動方だ。内部に侵入した者達が魔法で仲間を呼べるとか籠城戦も真っ青になってしまう。
久しぶりに6階層へやってきた明美。以前のように女子会を楽しめないのが残念だ。この世界ではNPCが意志を持って行動しているので、彼女達とティータイムを味わうのも悪くはないと考えている。
「お久しぶりです明美さん。お元気そうでなによりです……わん」
「わざわざ足労願ってしまいすみません、ペストーニャさん。本日は宜しくお願いします」
顔を真っ二つにされ、別々の顔で継ぎ接ぎされた顔に戦慄した過去もあったが、今となっては懐かしい思い出にすぎない。周りのエルフ達は怯えるのかと思ったが、奴隷としてそれ以上の恐怖を味わってきたのだろう。怯える様子もなく従っている。
「ベホマズン! ……じゃなかった。
周囲のエルフ達に光が降り注ぎ、二度と見ることはないだろうと諦めていた長い耳が髪から覗かせている。
ピクピクと動かしてみたり、お互いの耳を確認しあい手を取り喜ぶ者もいる。最も広い階層にも関わらず、その歓喜の声は階層中に響きわたったと言う。
◆
エルフの国に一通の手紙が届いた。どうやら皇帝は私がアインズに脅されているのでは無いかと思い、秘密裏に仲間として取り込もうと思っているのだ。
手紙を寄越した使者には申し訳ないが、手紙にてお断りさせていただくことにした。
――ごめんなさい。アインズ魔導王のかつての仲間の妹……それが私です。彼が魔導王だとは会うまで存じ上げませんでしたが、彼とは友達なので皇帝の願いを叶えることはできません。ですが帝国と敵対する理由も無いので、これからもよろしくお願いします。
我ながら完璧である。敬語や謙譲語が使い分けられていないとか考えてはいけない。良いね。
これを受け取った皇帝は、念のためと思いアインズ討伐作戦を伝えなくて正解だったと胸をなで下ろしていた。
◆
「アインズ一人だ! 今なら勝てるぞ!」
法国特務部隊に評議国のドラゴン、更にアダマンタイト級冒険者が総出で魔導王を討伐すべく結束をしたのだ。
いくら強大な魔法使いとは言え、多勢に無勢。それも英雄と謳われる集団を相手に勝てる者など存在しない。
切り札のワイルド・マジックは先の戦いでシャルティア・ブラッドフォールン討伐成功のお墨付きでもある。偶然が産んだ遭遇戦だった。白金の騎士が仲間を連れたシャルティアと出会い、一触即発の戦闘となった。だが初手で全てが決することと成ったのだ。白金の騎士によるワイルド・マジックがシャルティア達の防具を貫通し、爆裂による熱エネルギーが彼女の肉体を葬ることに成功した。最も、それが大量の金貨により復活の出来る存在だとは知る由もないのであったが。
十三英雄リーダーが亡き今、これほどの戦力が団結したのは奇跡と言っても過言ではない。カッツェ平野での大虐殺が方向性の違う彼らを纏め上げたのだ。
戦士は武器を取り、魔法使いは詠唱の準備をする中、魔導王が口を開いた。
「ふん……潜在的な脅威がわざわざ集まってくれるとはありがたい。その命を持って自らの愚かさを知れ!
「と……時計!?」
「あんな魔法見たことが無いぞ! 不味い……撤退だ!」
「ワイルド・マジックしかない! 詠唱したらスクロールで総員撤退!」
「ワイルド・マジック!!」
白金の騎士がこの世界で最強の魔法を唱える。
ぷれいやー自身の耐性をも貫通するそれ――
――即ち最強
――その発動時間
――――13秒
アインズの周囲を囲む強者達はその場で
――その日、アインズは絶望のオーラⅤをその身に纏い、人間の住む街を歩いた。