エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
朝。それは変わらぬ日常の始まりであり、繰り返される日々だ。学生は学校、社会人は会社に縛られる生活となる。同じことの繰り返しだが、人は見知った状況に安心するものである。
では目の前の光景は何だろうか。ゲームであればログアウトが出来るはずだし、夢なら覚めている。いや覚めて欲しい。
「昨日のことは夢じゃなかったのかな……ログアウトが出来ないゲームなんて有り得ないし」
過去にはログアウトが出来ず、多くの人が犠牲になった死のゲームが存在した。しかしそれも過去の話。コントローラーで人を殺すことは不可能だし、仮にコンソールが出なくてもゲーム機に搭載された緊急用コマンドが存在する。これはAlt+Ctrl+Delと同じでOSが絶対的に優先される物だ。システム上阻止することは不可能なので、これが使えないゲームは存在しない。
「えっと、上上下下……っと」
……。
…………。
ログアウト出来ない。何故だ。何故ログアウトできないのだ。
考えられることは脳の異常。ゲームが脳内に悪影響をもたらし、昏睡状態に陥っている可能性が高い。そうであれば、覚めない夢も納得が行く。
仮にログアウト出来ないゲームだとしたら、既に警察が捜査し私の身の安全が確保されているはずだ。大元のサーバーを止めてしまえば通信エラーによる排出が行われる。そうでなくともコントローラーのボタンを押せばデバイスを安全に外すことが出来る。
人は考える生き物。考えるのを止めることは死ぬことと同義と言う人が居るが、この状況で考えても仕方のないことだ。情報が足りないのだから。
「おはよう!」
窓を開け朝陽を浴びる。これは目覚めの覚醒に大事な好意だ。日差しを受け空へ挨拶を済ませると辺りを見わたす。
「知らない場所……よね」
窓から見える景色は国と言うよりも集落に近い。平屋ばかりだし、日本風な家は皆無だ。
私が寝泊まりした部屋は宿屋の一室を連想させる。ベッドと衣装タンスしかない味気ない部屋だが、客室として最低限の体は成している。
「今日はどうしよう。昨日はオークを倒してそのまま寝落ちしちゃったからここの情報が皆無だし……それに村人と会話するのはロープレの基本中の基本。落ち込んでても仕方ないしね」
コンコンコン。扉が三度叩かれ、音のした方向に視線を向けるが開く気配がない。「ああ、」と声を漏らし。
「入って良いですよ」
「失礼します」
私の知っている人達は挨拶代わりにノックを使ってくる。ノックと同時に扉を開けるのだ。コンコンガチャ。
「朝食のお時間です。ご用意が出来ていますので、食卓までご足労お願いします」
お腹が減っていては頭も回らない。まずは脳に栄養を送ることから始めようかな。
何処で食べるのだろう? 王と言われたのだから、やはり長いテーブルで食べるのだろうか。
前の王様は……そう言えばオークの下敷きにされてたエルフが何人か居たけど、その中に居たのかな。首が飛んでたりでハッキリとは覚えていないけど。と言うかいきなりの状況で殆ど覚えていない。
案内された先は食堂、大衆食堂をイメージする場所だった。エルフがごった返しており、非常に賑やかな光景だ。小学校の学食を思い出す。
「陛下、食事をお持ちしました」
席に着いた私に声をかけたのは今朝起こしに来てくれたエルフだ。王だからと言って特別な食事が振る舞われるでもなく、周りのエルフ達と同じ食事が用意された。前の王と同じ対応をしているのだと思うけど、先王は変わり者なのか代表として選ばれただけなのかは分からない。けど王族として代々使えてる感じはしないわね。見ず知らずの私を陛下呼ばわりするの彼はシステムなのか、私が王としての貫禄を持っていたのか。
こう見えても彼女はエルフの中でも最高位の種族を納めており、ユグドラシルでは指折りの存在であった。長期のブランクはあるが、それでも全盛期に戦ってきた経験は体が覚えている。十年ぶりに乗った自転車を数分で慣れるのと同じことだ。
食事を終え、「満腹満腹」とお腹をさすると横に居たエルフに声をかけられる。
「お食事がお済みのようなので、この後のご予定を説明します。昨日、ご光臨された衣装で他のエルフ達に新たな王になられたことを発表いたします。当時周りに居たエルフ達、上の者も納得しており、新たに即位された陛下のお言葉を大衆に伝える必要がございます」
あー、王様が高いところから国民を見下ろして喋るあれね。テレビで見たことある。
ぶえぇ!? そんなこといきなり言われても何を喋ったら良いの!!? そもそも私を王だって大半のエルフは知らないってこと!?
言われてみれば、周りで食事をするエルフからは見知らぬ同族を観察する視線を感じるが、王としての敬意を全く感じないのだ。以前の王と同じ対応をしているのかと思ったが、知らないのなら当然とも言えよう。
「あ、あの……私大勢の前で喋ったことなんて無くて……なんて言うか、何を喋れば良いか分からないって言うか…………」
「ご安心ください。昨日の今日でいきなり話の内容を考えるのは酷かと思いまして、予め文章をご用意させていただきました」
「あ、ありがとう……助かります」
言い訳すらさせてくれないのかと怒りそうになった気持ちを抑えつつ、渡された半紙に目を通した。
どれどれ……うん、読めない。なにこれどこの国の言葉。
友人に教師が居たことから、会話する程度の英語は知っていたが、これは未知の言語だ。アラビア語を産まれて初めて見たら同じ感想が浮かぶだろう。
「ごめんなさい……読めない」
「なるほど、遠方より来られたのですね。先の来客質まで戻って書き直しましょう。どうやら言葉は通じる様ですし、私が読んだ内容を陛下が記録すれば宜しいかと」
◆
書き直した文字から要約した内容を頭の中に叩き込み、後は文章を脳で復唱するだけ。もう何度読み直したか覚えていない。
「大衆の面前で喋るなんて産まれて初めてだよ……校長先生の話は長くて嫌いだったけど、数百人の視線が集まる中あれだけ喋れるなんてすごいことだったんだ」
もし着込んでいる服に体温調整の魔法が付与されていなかったら汗で服が貼り付いているだろう。張り詰めた空気の中、覚悟を決め歩き出す。
「「ウオオオオオオオオ!」」
拍手喝采……とまではいかなかったが、式典に相応しい雰囲気と言えよう。軽く片手を挙げることで静寂が訪れる。
「皆の衆、私が新たな王として戴冠した女王――と申します」
戴冠とは言うものの、式は行われていない。本来なら現行王が次期王に王冠を渡すのだが、肝心の王が殺されてしまったことと慣習を重んじるエルフが少ないことに起因する。 式典なんて興味は無いが、オークに打ち勝ったエルフに縋りたいと民衆が集まったのだ。
「先王がお隠れになられたことは大変遺憾に思い、この場をお借りしてご冥福を申し上げます。
これまでオークの言いなりにされていたのはエルフが弱かったことが原因と言えます。しかしオークが居なければ外敵から守られないのも事実。これまでは受け入れざる負えなかった」
握り拳を胸の高さまで持ち上げ、言葉を続けた。
「しかし! 我が国に侵入したオーク達を一掃し、彼らに力の差を見せつけることに成功した! 今こそオークを滅ぼす時ではないだろうか! 必ずやオークを討伐し、これまでの行いを償わせるべきだ!!」
力強く、そして自信に満ち溢れた声で大衆へ伝えている。
「この国には力ある者が少ない。しかし私が従える者達が守りを堅め、私は単身オークハウスへ向かう。そこでオーク共を駆逐するのだ! この私に賛同してくれるか!!」
一人、また一人と声を上げ、気が付けば見渡す限りのエルフが全て賛同しているではないか。
バカだ。こいつらは今までオークに守られていたのに、それを潰してしまえば誰がエルフを守ると言うのか。今は私が居るから何とかなるが、私が守れる範囲なんてたかが知れている。
課金ガチャやレアドロップで入手したクリスタルを使えば、中に封じ込められたモンスターを使役することは可能だ。しかし貴重なアイテムを昨日会ったばかりのエルフに使う気なんて起きない。
NPCを出して守らせてみようかな。私が創ったNPCは精鋭ぞろいと言っても過言ではない。一部のエリアでは傭兵NPCのみならず、自ら手掛けたNPCを含むチームで冒険が出来る。本拠地を持たないユーザーでもオリジナルのNPCが使えるようにと運営が配慮した結果だ。レイドボスとは戦えないし、経験値やお金は分割されるからメリットは少ない。NPCはレベルキャップがあり成長しないし、お金は所持できないので落としてしまう。落としたお金は消えて無くなるので微妙とも言える。相性の悪いモンスターと戦うときや、パワーレベリングがしたいときに使う程度だ。しかしパワーレベリングが出来るほど強いNPCは課金ガチャでも非常に珍しい。60lv以上のNPCは貴重な存在だ。彼女も低レベルのNPCしか持っていなかったが、サービス終了もあり90lvを超える“空のNPC”が投げ売りされていたのを見て衝動買いしたのだ。専用ソフトを使い既存のNPCからデータを移植。僅か数分でNPCのパワーアップは終わった。
最もギルドとしての拠点地を持っていれば、与えられた拠点地ポイントで最大100lvのNPCを創ることが出来たが、ギルドに加入していなければ拠点地も持っていない彼女には縁のない話であった。
◆
執務室へ戻った彼女は、“空のNPC”が使えないか試している。某猫型アニメに登場するコピーロボットに似た姿をした人形の入ったクリスタルはピクリともしない。当然ながらコンソールは出ないし、ハンドパワーで種族や職業を念じても効果は無い。
「うーん、使えないなら“すぐに使用しないボックス”に送った方が良いのかな」
ユグドラシルには
その逆に本拠地――ギルドメンバー以外が居ないときに限る――や購入した家、宿の一室と使える場所は限られるが無限に収納できるボックスもある。例外としてNPCは予めパーティー設定を済ますことでボックスに入れたまま使うことが出来る。これはNPCの種族によっては一体で背負い袋の重量である500kgを超えることに起因する。
空のNPCをボックスに戻し、今度は私が創ったNPCを出してみよう。
「お久しぶりです。我が主よ」
片膝をついた女性の騎士がそこに居た。騎士と言うと王に仕えるイメージがあるが、これは彼女がそう呼ぶよう設定したからに過ぎない。
「久しぶりと言うか……昨日ぶり?」
外に居たエルフと言い、この世界のNPCは動きが細かい。それどころか喋り方も違和感なくまるで生きているようだ。ゲームの世界じゃないことは分かったけど、じゃあ夢の世界……うーん考えても杞憂ね。
「女騎士さんは……私のことどう思う?」
「私を創造しました神のようなお方です。脆弱だった私を素晴らしい肉体にして下さったことは感謝しきれません。今まで以上に主のお役に立ちたく思います」
私が神様? 昨日まで社会人だった私が神に近いとか昇格し過ぎでしょ。
扉が叩かれる。私の返事を聞き扉が開かれると、朝の件と言い挨拶のカンペと言い色々と世話になっているエルフが入ってきた。
「おや……陛下、そのお方は?」
今もなお片膝ついた女騎士に視線を送り。
「えぬp‥‥仲間よ」
「おお! このお方が演説前に話されていた者ですか。なる程、大変お強い……私などでは一秒と持ちませんね」
「昨日攻めてきたオークでも即死だと思うけど?」
フフっと入って来たエルフが笑うと要件を伝えに来たことを思い出す。
「早速ですが陛下、隣国のオーク討伐計画についてご相談が」