エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》   作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)

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ep4 オーク

「馬鹿共が! 勝手なことをしおって!」

 

 オークは焦っていた。これまでの均衡が崩れたことはオーク側にとって存続の危機となる。緊急の会議を開き、オークとしては今後どうするのかを決める必要があった。

 だみ声で喋るオークが多い中、知恵に富んだ彼らは饒舌に言葉を紡いでいた。

 

 

「落ち着いて下さい長老、攻め行った彼らが戻ってこなかったのは事実ですが、それでもエルフが力を得たとは考えにくいでしょう。数の暴力で倒したとも考えられなくは無いのです」

 

「有り得ません。エルフを監視していた者の証言では真っ二つに切断されたオーク達が塀の近くで火葬されているのを目撃しています」

 

 死者ですら悪しき魂が肉体へ宿り猛威を振るうこの世界。エルフは死者を灰へと変えることで恐ろしいアンデッド化を防いでいた。死者にのみ有効な炎を操り、骨すら残らない魔法を行使するのだ。最も生者どころかアンデッドにすら効果がないので微妙な魔法ではある。灰になっても復活の魔法は有効なので、アンデッド化を防ぐ火葬目的でしか使い道がない。

 上半身になったオークの死体もアンデッドになるので、わざわざ村はずれの穴まで運ぶのだ。

 エルフの行動など興味はないが、それを攻める外敵が居ないか見張る必要はある。その時見かけたのだ。自分達の周囲を見張ればエルフの周りも視野に入るのでついでとも言える。

 

「彼らを倒したとなると、エルフが自衛する術を得たと言えます。断面は一刀両断。その様な戦士は私ですら難しいですね。死体なら可能ですが、戦の中だと相手も抵抗するので全員を……となると不可能です」

 

 オークの中でもトップを独走する剣士に言われ、辺りがざわつく。

 

「つまりは貴方ですら不可能な所行を成すエルフ……いえ、貴方より強いエルフが……居ると言うのですか」

 

 溜め息混じりになるのも無理はない。下手をしたらこの集落のどのオークよりも強いことになるのだから。

 魔法を得意とするオークも中には居るが、第5位階が限界だ。後衛が主な役割の彼らでは、下手をすれば詠唱前に殺されて終わるのかも知れない。それ程強い戦士の可能性があるのだ。

 

「しかし何故今の今までエルフ達は何もして来なかったのでしょう。力があるなら我々に従う必要も無いでしょうに」

 

「別のモンスターや他部族のエルフが手伝った……いえ、見張りからの報告がなかったのでそれは違いますね。突然変異のエルフ……うーん、情報が少なすぎます」

 

「先ずはエルフに謝罪をするのが先でしょう。力を付けたエルフと戦うだなんてごめんですよ。強いのが一体なら兎も角、複数いないとも考えられませんから」

 

「流石に戦士殿より強いエルフが複数……とは信じがたいです。隠れて鍛えていた、だがオークより強いのか分からない。だからより力を求めていた。それが先の戦いで証明されてしまったのでしょう」

 

 剣先を研いたものの相手の力が計れず攻めるには至らなかったと言うこと。これまでは倒せるか不安だったが、今のエルフにならオークを滅ぼせる。モンスターから守ってくれた者より強ければ存在する必要がないのだ。

 

「うーむ、謝るだけでは許して貰えるとは思えんのう。謝罪とエルフの解放が最低限……じゃな。エルフを諦めこの地を去らなければならぬかも知れぬ」

 

 意見をまとめ、長老のオークが悲壮な面持ちで口を開いた。

 

「他のオークは納得しないでしょうが、この際彼らは捨て置けば良い。どうせ血を残していたのは我々なんだ。数は後からいくらでも殖やせる」

 

 異議なしと周りのオークは納得をする。子を成すことを許された選ばれしオーク。自ら以外は劣った存在だと見下していた彼らは往々にして納得の表情を浮かべた。

 

「では、謝罪とエルフの解放。それで納得して貰えなければ我々だけで逃げるとしよう」

 

「私達が他部族のオークに助けを求め、エルフに己の愚かさを知らしめてやるとか言えば他のオークに悟られず離れられますね」

 

 これ以上話すことは何も無いと解散をする。

 

 いつもなら疲れを癒やすために専属となったエルフを抱くのだが、今はそんな気分ではない。少しでもエルフ達の心証を良くしたいと思うオークに抱く気分は起きないのだ。

 

 

 

 

 

 

 見張り台には二人のオークが居た。

 いつ外敵に襲われるとも知らぬ彼らは監視の目を緩めることはなく夜通し見張りを続けている。

 監視と言ってもこれまでオークの手に負えないモンスターに攻められたことはなく、それは隣のエルフ国も同じことだ。

 これまでは大丈夫だったが、今後も無いとは言い切れない。それでも脅威になり得る敵が居ないのは慢心するオーク達を説得するに至らない。

 外の世界にはオークでは相手にもならないほど強大な種族は幾らでも居る。ドラゴンには勝てないし、ゴブリン部族の王はオーガを片手で捻り潰すと言う。

 

「オ前聞イタカ? 仲間ガエルフニ殺サレタッテ話シ」

 

「アア知ッテル。許セナイヨナ今マデ誰ニ守ッテ貰ッタト思ッテルンダ」

 

「俺達ガタト敵ヲ排除シテヤッテルカラ、エルフガ生キテイラレルッテ言ウノニ恩ヲ徒デ返シヤガッテ」

 

「噂デハエルフガ逆ラワナイ様ニ力ノ差ヲ見セツケテヤルッテ話ダゾ」

 

「良イナソレ! ソンデエルフヲ喰ッチマオウゼ。禁止サレテルカラ食エネエケド美味シイッテ聞クゼ」

 

 オークはエルフを守る。エルフはオークに雌を差し出す。オークが居なければエルフは敵に襲われ滅んでしまうし、エルフが居なければオークは寿命で滅んでしまう。対等な関係にも関わらずオークの態度が大きいのは単純に知能の低さが原因だ。

 知性を蓄え、話す言葉は人間種と変わらないオークも居る。優秀なオークしか子孫を残せないがそれでも言葉を饒舌に話すオークは少ない。

 言葉とは所詮は意思疎通の一種に過ぎない。弱肉強食のこの世界で頭の切れる者は部族に数人居れば十分なのだ。一流大学の主席卒業生と格闘技の総合チャンピオンならどちらが強いかを競うのと同じ。優秀な指揮を執ることは大事だが、それだけでは勝てない。逆もまたしかりだ。

 

 ふと見上げると、一匹の羊が円を描くように空を走っている。

 夜も遅いし寝ぼけているのか? そう思い頬を叩こうとすると、隣にも空を見上げる仲間が居た。

 

 羊はニ匹、三匹と数を増やしていく。

 

「マズイ! 敵襲ダ!!」

 

 異変に気づき慌てて鐘を鳴らそうとするが、羊が空を飛び回った時点で全てが遅すぎた。

 結果、鐘は鳴ること無く辺り一帯を深い静寂が覆った。起きている者は眠りにつき、寝ている者は深い眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 彼は戦士として多くのモンスターと戦い、その実力はかの王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに匹敵する。

 オークとしての種族(クラス)レベルを含めるとそのレベルはガセフをも凌ぐ程だ。最も、人間との接点のない彼らがその名を知る由もないのだが。

 

 戦士の勘と言えば良いのだろうか。目覚めた彼はざわついた空気を感じ取り、剣を片手に外へ飛び出した。

 辺りに異変は無いな、そう思いつつふと空を見上げると羊が走っていた。

 

「空飛ぶ羊……一体何が起きていると言うのだ! ……うっ、や、やばい!!」

 

 猛烈な眠気に耐えようと片足に剣を突き刺した。咄嗟の判断が命を救う。本来であればるび《催眠》(スリープ)の魔法は抵抗(レジスト)されるが誰が知るであろう、それが英雄の領域とされた第5位階魔法を遙かに凌ぐ最上位の集団催眠の魔法だと。

 

 ――《天駆ける羊たち》(ソァリング・ザ・スリープ)

 

 すやすやと気持ちよさそうに眠る戦士のオーク。彼の目の前には一本の植物の根が生えていた。

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