エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
「ここが……オークの住む場所ね」
時は二十。太陽が沈んでから三時間が経過した時刻だ。一面闇に覆われ、夜目の効かない人間種が生きられない世界。モンスターが支配する夜の世界。
オークも同じく闇夜を見通せるが、交配する人間種に合わせた生活をするのが基本だ。そのため寝静まった夜に襲うことを提案された。
オークを滅ぼしエルフを救出せよ、口で言うのは簡単だが実行するのは困難を決めると言っても過言ではない。
エルフを人質に取られるのは目に見えており、エルフを傷つけでもしたら国で何を言われるか分かったものじゃない。自分達が何もしてこなかったのが悪いのだが、感情論は理屈では通らない。
エルフを救出したところでオークが逃げ出すのもいけない。逃げたオークが再びエルフを襲わないとも言えないからだ。
結果、オークが寝静まる夜中に奇襲作戦が行われた。
完全不可知化と言いつつも最上位のモンスターには見破れる存在もおり、完全な魔法ではない。
彼女が装備した仮面は
初期のユグドラシルでは探索中何も無いところにぶつかるバグが報告されており、魔法や物理攻撃すら何かに当たることが希にだが発生していた。
これに対し運営は「そこに存在する者に当たった」と見えないモンスターを連想させる回答をしており、ドロップするアイテムを求めて大規模な捜索が行われた。
しかし見えないものは探しようが無く、透明な“はぐれメタル”が徘徊したらこんな感じだろうと冗談混じりに言われていた。いつの間にかぶつかることが無くなり、運営が「見えない何かはプレイヤーにより倒されたのでイベントは終わりました」と日記に書かれた時は「誰が倒したんだ! 討伐報告をしない人間の屑」などと嫉妬のコメントで溢れ返っていた。
アインズ・ウール・ゴウンですら一部のメンバーしか詳細を知らず、忘れられたイベントと化していた。
“見えざる敵”と名付けられ判定のみ存在する敵。それは偶然にも、覚えたての魔法の練習中に倒されることとなった。
耐久力の高いモンスターだったが、多くのプレイヤーとの戦闘? が積み重なり体力が尽きてしまった。ドロップとして入手した
これほどのアイテムが何故ワールドアイテムでないのか。それは最初期にワールドアイテムの名は存在せず、後のアップデートで一部のゴッズアイテムが昇格されていた。その時に
「さて……始めよっか!」
――
彼女が保有するスキルの一つを発動させた。
ユグドラシルにはツヴェークと言うカエルに似た種族が存在する。そのツヴェーク族の討伐報酬として低確率で覚えられるスキルだ。
時間すら止まってしまったのかと錯覚してしまう程の静寂。この後起こる惨劇など誰が予測したか。エルフを殺さずオークを殺す。そんな魔法を……。
大地へと埋められた種は芽となり木へと成長する。張り巡られた根は栄養を求め周囲の生命体を蝕むのだ。
自然魔法を得意とするエルフには効果がないこの魔法は最も効率的にオークのみを殺せると言っても過言ではない。
攻撃を受ければ眠りから覚めるのなら一撃で殺せば良い。それだけのことだし、ゲームで敵を殺すことに何の躊躇いがあるだろうか。
大木は真っ赤な果実を実らせ、赤々と熟していく。この魔法によって実る果物は様々で、時にはパンの木の実が成ることもある。
モンスターの種族やその数によって多種多様だが、同一の種族のみを養分とするのは非常に珍しい。種々雑多にならず同一の果物を実らせた。
サクッ
「うん、美味しい!」
サクサクと食べ終え、残った芯を投げ捨てた。
「うーん、このオークじゃ追加効果のある果物は実らないみたい。レベルが足りないからかな?」
私は夜目が利くけど他のエルフにはただの暗闇。部屋まで戻るか……うーん、それも手間だし野営にして朝まで待とうかな。
◆
「うぅ……うー眩しい」
一見するとただのテントだが、その中は魔法による空間拡張が施されホテルの一室となっている。広いだけでその造りはテントには変わりなく、天上からの朝陽が眩しい。
「さてと、明るくなったことだし捕らわれのエルフはどこかなーっと」
探知魔法を使い周囲の生体反応を探る。目の前にレーダーの様な物が浮かび上がり、点々と光っている。
この魔法はMP消費が少ない代わりに位置しか分からず、種族や強さまでは探知できない。その上レアエンカウントの敵や不可視なモンスターも分からない魔法だ。
ドンドンドンドンドンドン
「おはよーございまーす! エルフくん居ますかー?」
ガチャッ
「やあエルフくん元気? 女王の――だよ!」
「私は助けなんか興味ないんだ、二度と来んじゃねえよ!」
「あ……あの、そうだもしよかったら」
バタンッ!
爽やかに助けようとしたのが裏目に出たのか、逆に怪しまれる結果になってしまうとは。
でも諦めない。フラグは立ってすら居ないのだから。
ドンドンドンドン!
「おはよーございまーす! エルフくん? おはよー!」
こうしてエルフ達を無事救出した。
聞くところによると以前にもエルフが助けに来て、渡り船に助け船だと付いて行ったら姿を変えたオークに朝から晩まで犯されたと言う。
そりゃ疑心暗鬼にもなる。仕方ないわね。
全部で百人前後のエルフが捕らわれており、その半数は身ごもっていた。
でも安心アンコールワットよ。
本来は卵を持つモンスターや、寄生され体内に寄生虫を宿してしまった状態をリセットする用途として使われる。どうして本来の魔法の効果を知っているのかは彼女自身、よく分かっていない。
「あ、あの……女王陛下だと名乗られましたが、他の国のエルフ達が助けに来られたのでしょうか?」
オークに王が殺されたのは一昨日。それなら連れていかれた彼女達が知らないのも無理はない。
私が新王となりオーク達を駆逐しに来たことを説明すると彼女達の目に光が戻り、力が宿る。この世界は奪われてばかりじゃない。その証拠にオークから奪い返してやったのだ。既に死んでしまったオークに奪うも何も無いのだが。
「さ、こんな所で話していても仕方がないし帰るわよ。私たちの国へ」
帰る場所がある。それがどんなに良いことか。彼女はゲームの世界、ここはゲームの世界だと思うことで心を保っていたのだ。ゲームを遊んでいたら突然異世界に転移されました。そんなことを言われて誰が信じるだろうか。信じたところで現実を受け入れられるのか。そんな人が仮に居たとすれば現実に未練のない……愛する者の居ない寂しい人しか居ないだろう。
考えることを捨てゲームの延長線だと思うことでなんとかまともな思考を残してはいるが、そんなことが何時までも続くはずがない。彼女自身知っている。だけど今はまだ考えたくはない。
数日後、彼女は絶望を知ることとなる。