エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
国へ戻ると大勢のエルフが駆け寄り、もう二度と会うことはないと諦めていた彼女達の元へと走り寄った。両親に抱かれると、張り詰めた緊張が解かれたように崩れ落ち、胸の中で頬を熱く濡らしていた。
「素晴らしいです陛下! これで我が国は……我が国はやっと、やっと安堵の日々を迎えるのですね」
オークに守られていたとは言え、何時裏切られるとも知れない日々に怯えていたのだろう。嗚咽混じりに喋る彼は、昨日まで見せていた仕事人とは違う。今まで溜め込んでいた物が爆発したのだろう。
私の中で安心するのは勝手だけど、まだ見ぬ世界。冒険心がくすぐられるのよね。旅に出てみたいけど……この国を置いて出るのもなあ。そんな気持ちで板挟みにされる彼女であった。
「ありがとうございます陛下! ――様がこの国をお救い下さったのも神のお導きでしょう! 嗚呼なんとお礼を言って良いものか」
皆々がお礼を述べる中、一つだけ残る不安を口にする者が現れる。
「彼女達はオークと……血の交わりはあるのですか?」
ざわ……。落とされた爆弾により空気が変わった。もしオークを孕んでいたらどうすか。それよりオークと行為をした女を抱きたいと思う男は現れるのだろうか。
「不安には及びません。魔法で彼女達はオークへ連れて行かれる以前の身体に戻っていますから。もちろん純白なままですよ」
「な……なんと陛下は高位の神官ですら不可能な神の領域にまで達しているのですか!?」
処女。それは汚すことの許されない絶対的な領域として存在する。一度失われれば二度と再生はされず、神官魔法を修める一部のエルフですら叶わなかった。怪我をしていたので治療しましたとは訳が違うのだ。格が違う。彼女こそ神に選ばれしエルフに違いない。周りの人達も顔を見合わせ、口にはしないが納得の表情を浮かべていた。
◆
王室に戻った彼女は暇だった。オークがこの国を守っていたと言うことは、オークより強い敵が周囲には居ないということ。あの収穫の魔法は高レベルのモンスターには効果が薄く、体力を減らせれば御の字。第9位階以上の魔法が基本の上位ダンジョンでは巻き付いた根がモンスターの装甲を破れないので効果すらない。
追加効果が付与された果物が素材として利用できるため覚えているに過ぎない。そのためチームに一人覚えてる仲間がいれば十分とも言える。ギルドには参加していなかったが、共に旅をする友達は居た。その時に重宝される魔法だ。一人で進むには困難な場所も共に歩む者が居れば怖くはない。
「次は何をしよう……うーんクリスタルで召還したモンスターにここを守らせて、NPC達と外の世界を見てみたいなあ」
モンスターが封印されたデータクリスタルは所詮アイテムに過ぎない。実際に彼女が手掛けたNPCを置いて離れるのは不安だ。本拠地として守っているとは言え、いつ攻め落とされるかは分からないからだ。昨日までは問題なかった。だが他のプレイヤーが来ない保証は何処にもない。それなら人間のように動き、言葉を交えるNPCを側に置いておきたいのは当然の心理とも言えよう。
コンコンコン
「失礼します陛下。お客人が陛下に謁見したいと申しております」
どうぞ、と私が言うと何時ものエルフが入ってきた。まるで一つのイベントを選びクエストを進めているのかと言わんばかりのタイミングだ。
「相手は誰なの? まさかオークとは言わないわよね」
「旅のエルフで御座います。陛下に頼み事があると申しておりました」
クエスト受注をしなくても勝手に発注されるとは便利なシステムだ。
とは言え用件を聞いてからでないと……もし無理難題を押しつけられればクエスト失敗の烙印を押されてしまう。
「女王陛下、初めまして。旅をしているエルフのシュナイダーと申します。本日は陛下にお目にかかれたことを光栄に思います」
「よろしくねシュナイダーさん。それで用件はなーに?」
シュナイダーは心の中で、意外にフランクなお人だ。凛々しい姿とは裏腹に親しみある感じが好感を持てる……などと思っていた。
「それが……この山を越えた先にある国で、エルフが奴隷にされていることを耳にしまして。それで詳細を調べてみると捕らえたエルフの売買をバハルス帝国が行っていることを掴みました」
「バッファ帝国?」
「バハルス帝国です。私の知るエルフの集落に助けを求めたのですが、かの帝国は第6位階を修める人間に守られていて手が出せないと言われて……。私も腕には自信があるのですが、逸脱者とも超越者とも言われ英雄ですら届かない領域に手を掛けた魔法使いが相手では勝つことは不可能です」
不可能なら私を頼らないで欲しい……え、ちょと待って今なんて言った!?
「第6位階が凄いって……そう言いましたか?」
「ええ、魔法は全部で第10位階まであるのですが、存在が確認されているのは極僅かで第6位階以上の魔法は数えるほどしかありません。それどころか実際に行使できる領域は帝国の人間が修めている第6位階が限界です。旅をし、数多ものモンスターと戦ってきましたが、私が修める第5位階より高い領域を実際に目にしたことはありません」
「そんな凄い魔法使いと私が戦えと言うの? 勝てっこないじゃない」
勝てないなど嘘だ。だが第6位階が限界と思っているのなら私やNPC達が限界位階まで使えることを言う必要はない。情報は何よりの武器。なら教えなくても良いよね。
「ここのオークは非常に強い。そう他のエルフ達は口を揃えて答えていました。同胞を救いたいと思う者は多くも、己の力に自身が無く救えず……。私もこの地を征するオークの強さを知るだけに半ば諦めていました」
シュナイダーは言葉を続けた。
「しかし陛下は違う。屈強なオーク達に臆することなく立ち向かい、無事にエルフ達を救われました。陛下なら……陛下なら帝国から仲間達を救う術を持っているのではないでしょうか」
救いたい救えなかったと言いつつも結局は人便り。まあクエストって自分じゃ無理だから発注するのだけどね。
「ふーん、受けても良いけどもし私が死んだら……この国はどうするの? 私の居ない間は誰が守ってくれるの?」
「私が居ます。この周囲に生息しているモンスター程度なら私と、共に旅をしてきた仲間達となら守れます」
「覚悟は分かりました。でもオークと同等の集団が居ないと言い切れるの? ここの地理に詳しくないからあなた達の力が有効かは知らないわよ」
「かつてのオーク達は戦闘面では知恵が回り、コロニーが大きくならないように間引きをしていました。脅威になる敵が居ないのではなく、成長する前に芽を摘んでいたのです。オークとそれ以外の者達には力の差が開いていました。なので私達でも問題がない訳です」
「成る程……それなら任せても大丈夫そうですね。でも過信をするつもりはありません。信用してはいますが、それでも民の命が懸かっているのです。過剰なくらい心配しても良いでしょ」
「仰るとおりです。それで、どのようにしてお守りに? そちらで控える騎士殿に守らせるのですか?」
「いえ、彼女は命の次に大事な存在。捨て駒にするつもりはありません。このクリスタルです」
目の前に出されたクリスタルには小さなドラゴンが入っていた。これこそ課金ガチャで手に入れたレアアイテム。リアルラックを持つのか乱数が偏っていたのかは知らないが少ない課金でニ個も手に入れたのだ。使役する場所が無いのでこれまでボックスに仕舞い込んでいたが、娘のように動く
「これを彼女に渡し、もしもの時はドラゴンを召還し敵を倒します」
「ド……ドラゴンを使役できるとは。まさかとは思いますが……いえ、何でもありません。では私達と彼女のアイテムで、陛下滞在の時分はこの国を守るで宜しいでしょうか」
まさかって何よ。気になるけど勝手に納得してくれたのならそっとしておきましょう。
「それで、今から帝国に攻め込むの?第6位階くらいなら何とかなるわよ」
「先ずは交渉から始めましょう。その武力を盾に話せば、帝国も悪いようにはしてきません。いっそのことドラゴンで帝国まで乗り込むのが一番です。交渉なので向かう前に先触れを送る必要がありますね。どうなさいますか?」
ドラゴンで行くとか勝手に決めないで欲しい。隣に居るエルフもそれが良いと頷いてるし。
「良い物があるわ」
彼女はアイテムボックスから鳩を取り出した。
何も無い空間から取り出すのは不自然に思われるので服の中から出すことにした。それでも十分怪しいが。
「この伝書鳩で手紙を届けるわ。この鳩には魔法・物理攻撃を完全に無効化する能力があるから墜とされる心配も無いの」
「せ……世界には便利な物もあるのですね。伝書鳩の名は初めて耳にしました」
本来はタイプライターに打ち込んだ文字を伝えるのだが、何故か鳩と共に便箋一式も付いて来た。神は言っている、これで書くべきだと。
手紙を綴るにもこの世界の文字が書けない。なのに今私が書いているのは、帝国に翻訳魔法を使う魔法使いが居るからだ。
控えているエルフが共通語を書けるが、一国の王が自ら書いた方が効果的とのこと。
「よし! これを鳩に持たせて……ジルクニフ皇帝によろしく!」
飛び立つ鳩を見送るエルフ達。無事に届くのかは神のみぞ知るだ。
「お腹空いたでしょ。リンゴが沢山あるから料理にするわね」
「い、いえ、陛下がわざわざお作りになられなくても……下の者に作らせるので陛下はごゆるりとしていて下さい」
先ほどの会話に参加しなかった彼。面倒を看てくれるエルフが止めに入る。上の者はどっしりと構えて料理が出来るのを待つの一般的だ。そう思えば彼が止めるのも理解できる。
「ふふっ、こう見えて料理は大得意なんだから! 言いたいことは食べてからにして欲しいわね」
調理場を借りるね、と言い残し部屋を後にした。
◆
シュナイダーと二人きりの部屋。旅人なんかと話す気はない。奴隷解放とか余計な仕事を増やしやがってと思うが顔には出さない。
しばしの沈黙の後、芳ばしい香りと共に扉が開かれる。
「お待たせ! アップルパイしかないけど良いかな?」
「わあー! 美味しそうなパイですね」
普段から側にいるエルフは何も言わない。この人は何時もそうだが考えが読めない。
感情を出さないタイプなのかな。
「美味しい! こんな美味しいアップルパイを食べたのは初めてですよ。濃厚なリンゴが口の中で広がってきますよ」
「良かった! ここに来て初めてだから不安だったけど上手に作れたみたい」
旅のエルフはその美味しさに驚き口いっぱいに頬張っている。喜んでくれたようで何よりだ。問題ないなら後でNPC達の分も用意しなくちゃね。
片や無言のエルフ。食事中は喋らないタイプなのかな。
「えぐっ……ひぐっ……ううぅ……ごじゅじんざま゙あぁああああああああああああ」
「きゅ、急にどうしたの? 美味しすぎて感極まったのかな」
「うぅっ……うう……昔……遠い昔に食べた味を想い出してしまって…………。その、お恥ずかしい所をお見せしました」
お袋の味みたいな感じかな。今は亡き想い人の料理に似ていたのだろう。
クールなエルフの意外な一面だ。