エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
中庭に降り立って見たは良いが、反応がおかしい。
私としては珍しいドラゴンを羨望の眼差しで見られることを期待していたのだが、兵士達は真逆の反応をしていた。恐怖のあまりその場でうずくまる者、悲鳴を上げ死を覚悟する者、距離を取り様子を
わざわざエルフの国から女王が来たのだから歓迎してくれても良いのに。他のギルド拠点地までドラゴンやワイバーンに乗って来るのは良くあること。怖がる設定になっているのかな。
「こんにちは、エルフの国から来た――と申します。ジルクニル皇帝陛下に会いに来ました」
全長10mを有するドラゴン。その背から飛び降りると高さは7mくらいになるだろうか。女王を名乗るエルフは飛び降り、落下する直前に羽が生えた様にふわりと浮遊し、大地に降り立った。
側に控えていたエルフは
すぐさまメイド服を着た女性が走って来た。以前の惨劇を知っているからこそ、その顔には悲壮な表情を色濃く浮かべていた。
「お、お待ちしておりました! ――女王、陛下が部屋でお待ちです!!」
震えながらも大きく声を掛けるメイドに付き添い王城を進むと、一際豪華な作りの扉で立ち止まった。
エルフの国は昔滅んだ都市を再利用して住んでおり、王城として扱われている屋敷はお世辞にも豪華とは言えない。それに対して目の前に広がる光景は煌びやかで、一体どれほどの金額を出したら住めるのだろうか。私個人としては六畳一間くらいが落ち着くのだが、たまの旅行でなら住んでみたいものだ。
扉が開かれると中には執務官の男性、魔法使いが着るような外套に身を包んだ男性、鎧を纏った騎士。そして中央に陣するは右肩を出したヘンテコな服を着た成年。
その煌びやかな装飾を見るに、この人が皇帝だろうか。
私はこの国の皇帝、ジルクニフに挨拶をした。通常であれば目下の者から名乗るのが礼儀で、私から名乗りを上げると言うことは自分を不利な立場として下げかねない。しかし挨拶は大事、古事記にもそう書いてあるのだ。ならば先立って名乗ることで、自らの存在を主張するべきであろう。
「始めまして、エルフの国の女王――と申します」
◆
「こちらこそ始めまして。バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。気軽にジフクニフと呼んでくれると嬉しいかな」
魔導王とは違い、今回はエルフの女王が交渉を行う側だ。下手に出る必要はあるまい。先ずは同じ立場として接するべきか。
「そう……じゃあジルクニフ皇帝と呼ばせて貰うわね。よろしくねジルクニフ皇帝」
「ああ、こちらこそよろしく、――女王」
「立ち話もなんだ、席について話そうか」
側に控えているメイドはキャンドルに飲み物を注いだ。オレンジの絞り汁からは甘酸っぱい香りが漂い、鼻孔を酸味の効いた香りが突き抜けた。
「さ、飲み物で口を濡らしてここまでの疲れを癒してくれたまえ。長旅で疲れただろう」
「うん、果肉の入った美味しいオレンジジュースね。美味しかったよありがとう」
「喜んで貰えて嬉しいよ。果樹園で丹精に栽培した自慢の果物なんだ」
この前のダークエルフと同じく豪奢な服装の割りに食事は普通なのかな。また不味いと言われた時には自信を無くすかと不安だったが、どうやら杞憂に終わったようだ。やはり美味しいと言われ方が嬉しいな。
さて、気を引き締めて交渉に入らなくては。このエルフが本当に強いのかどうかはまだ分からないのだから。
「先触れでエルフの奴隷解放を要求するのは聞いてるよ。ただ、私の一存では勝手に決められないんだ。他の貴族達の言い分や、何千何万と金貨を払った連中から文句が出かねない。なにか……それに見合った対価があればと考えているのだよ」
「うーん、大量の金貨を持ってくるのは無理だけどそれに見合った宝石は持ってきてるよ」
そう言うとエルフの女王はごろんと、大きなルビーやエメラルド、ダイヤモンドにまん丸な真珠を取り出した。それだけじゃない。緻密な細工が施された鳥の形をした水晶もある。
これほどの宝石は皇帝である私ですら見たことがない。奴隷のエルフに使った金貨を余裕で上回るだろう。だがそれを受けとるわけにはいかない。奴隷解放を餌に仲間として引き込まなくてはいけないのだから。
「ありがとう女王。でもこれを受け取るわけにはいかないな。今、この帝国……いや人類存続の危機に扮しているのだよ。それを知っている貴族達はお金より命の方が大切だからね。少しでも力になるエルフを渡したがらないんだ」
「で、だから何? それ私に関係ないよね。下出に出れば貴族がどうだのって言い訳がましいことを。解放しないなら力ずくでも良いのよ?」
「どうぞご自由に。でも私を殺したところで問題は解決しないよ。魔導王と言う強大な魔法使いが居てね。そいつが人類、ひいては生命存続の危機になると私は考えているのだよ」
「魔導王……りゅうおうやゾーマみたいな存在が居るの?」
「ああ、その強大な魔法は先の戦争で十万人以上の人間を皆殺しにしたほどさ。それもたった一つの魔法で、さ。今は帝国の同盟国に収まってくれてはいる物の、いつまでも大人しくしているとは思えない。なんせ魔導王は生者を憎むアンデッドなのだから」
「ふーん、それってジルクニフ皇帝にメリットが大きくない? 人間が滅ぶなら、その隙にエルフだけ救出してその後に魔導王を殺せば良いよね」
「ははっ、面白いことをいうね。まだ魔導王は様子を伺っているのか動いてこないんだ。このまま動かないなら有り難いし、もし動いたとしたら……その時は手遅れさ」
「うーん……」
ここに来てようやく考え込んだエルフの女王。そうだ、お前は魔導王を倒すしかない。例え無理だとしてもはいそうですかと言って諦めるわけにはいかない。彼らと協力すれば或いは……道が開ける可能があるのかも知れないのだから。
少しでも打破できる希望があるんだ。おいそれと逃して溜まるものか。
「仕方ないなぁ……これも追加クエストの内かな」
「ん? どうかしたかい」
「あー、うんこっちの話。分かった、その討伐任務受けるよ」
「その言葉を聞けて嬉しいよ。ありがとう」
「魔導王だけど、彼が治めるエ・ランテルに漆黒と言うアダマンタイト級の冒険者が居るんだ。彼は『魔導王と側近、どちらか一人なら倒せる』と豪語したらしい。――女王が弱いと言っている訳ではないが、リスクは……不安は最小限にしておきたい。漆黒の彼らと協力して倒して欲しいんだ」
「漆黒……? アダマンタイト級冒険者? ちょっと詳しく聞かせてくれない?」
ジルクニフは漆黒と呼ばれた冒険者の存在。そして彼らの活動拠点が魔導国の支配下と成ったことを説明した。
「……なる程、共同作戦って訳ね。今から漆黒の人達に会いに行っても良いの?」
「彼らも組合の仕事で一時的に離れているかも知れない。エ・ランテルに着いたら、この宿で待機してくれないか。彼らが利用している宿だ」
「他にやることはある? ジルクニフ皇帝の名前は出さない方が良いんだよね」
「そうしてくれると助かるよ。仮に失敗しても帝国が関わっていると感づかれなければ、この国のエルフ達まで危害が及ぶことは無いからね」
帝国と同時にエルフの名を出すことにより「べ、別に帝国のために名前を出さないんじゃ無いんだからね! 奴隷として囚われたエルフの為なんだから!!」とエルフを庇うことで間接的に帝国も守られる算段を取り付けた皇帝であった。
「よし、ほならば行ってきますか!」
「検討を祈る……どうか、人類を救って欲しい」
◆
「魔導王……レイドボスか何かなのかな?」
帰り道、私はジルクニフ皇帝に言われた名を口にした。魔導王。つまりは魔王だ。魔王討伐の依頼を受け、道中仲間になる(予定の)漆黒なる者と共同戦線を結び、共に魔導王と戦うのだ。
ゲームだとこの手の展開は、その漆黒が魔王を倒す決め手――若しくは弱体化の手立てを持っていて、最後は漆黒が命を張って魔王を倒し……漆黒が散り行く展開が待ち受けている。お涙ちょうだいのテンプレだ。
もしくは漆黒が黒幕で、裏ボスとして
「あ! ……あー……ヤバい」
道を聞いていない。東京から大阪まで行って欲しいと言われて順路を教える人が居ないのと同じで、ここでは常識なのだろう。
よし、困ったときのエルフ頼みだ。同伴している何時ものエルフに聞くとするか。
「エ・ランテルまでの道は……」
「存じ上げておりません」
「だよねー」
知らないなら知らないでさっき助言してくれても良かったのに。なんて言うか干渉したがらないエルフだよね。
仕方がない、近くにいる騎士に聞くとするか。なんて言うか脅えてて話しづらいんだよね。それも仕方のないことか。目の前に首輪のないライオンが座っていたら誰だって怖いよね。
「あ、あのー」
「はっはい! なんでしょうか!!」
「もう、そんなに声張らなくても良いから。ここからエ・ランテルってどう行けば良いのかな」
「はい! ここからですと――」
何時ものエルフが地図を持ってきていて助かったわ。地名は書かれてないから知らない人が見るとさっぱりだけど、帝国騎士にマークを付けてもらったからもう安心。
まあ要人に道を訪ねられて断る騎士なんか居ないよね。なにより皇帝からの依頼なのだから。
エ・ランテル……一体どう言う所だろう。まいっか、クリア不可能なクエストなんて用意してないよね。
◆
「あ……あぁ……貴女は…………い、いや、そんな……まさか……!」
黒よりも深い漆黒の鎧で全身を纏った男性が突然悲鳴を上げた。
いや、悲鳴と言うのは間違っている。驚きのあまり、思わず声を上げてしまったと言った方が正しいだろう。
いきなりの事態に驚いた私だったが、その身なりと首から下げるプレートがアダマンタイト級冒険者“漆黒”を物語っている。
隣に控える女性は非常に美しく、美姫の二つ名は彼女の為に存在すると言われても否定の言葉を見つけられない。同じ女性の私ですら見とれてしまう程の美しさだ。
急激な冷静さを取り戻した漆黒が再び口を開いた。
「明美……さん!?」