エルフの国に舞い降りしプレイヤー 《完結》 作:ラッキー鍟(らっきーきんぼし)
空の旅パート2。今回は帝国首都からエ・ランテルまで空の旅をお送り致しま……せん。
前回は力を誇示する必要があったが、今回は目立つ行動は控える必要がある。そのためドラゴンでの移動は避け、馬車での移動となった。
恥を忍んで騎士に道を訪ねたのに、帝国から借り受けた馬車で移動しては聞いた意味がない。隠密行動だから馬車の方が良いよねって最初から気づけよ私。
御者の男性が道を知っているので、後はモンスターや夜盗に襲われないように対策を練れば良い。通常であれば護衛として帝国騎士や冒険者を雇うのだが、幸いと言うか帝国最強が第6位階程度の魔法使いなので問題にすらならない。襲われる前に撃退する方法なんて幾らでもあるし、仮に襲われたとしても被害を覆うのは相手の方だ。基本、この世界の住民は雑魚ばかりだ。
魔導王へのダンジョンは強大なモンスターに護られているとは思うが、その辺りは慎重に行動することで対処するしか無い。死にリセットだけは避けねばならない。一度きりのイベントだと全てが水の泡となってしまう。
「おじさん、帝都からエ・ランテルまでってどれくらいかかるの?」
「おいおいエルフの女王さんよぉ、バカ言っちゃいけねえぜ。ここから片道一週間はかかる距離ですぜ」
「いいい、一週間!? そんなにかかるの!?」
手綱を握るおじさんは軽く笑いながら答えた。ドラゴンとは違い、馬での移動は非常に時間がかかる。車や電車と違い休憩を必要とするし、日が暮れる前には野営の準備をしなくてはならない。
それを聞いてはい分かりましたとは言えない。いくら何でも一週間は長すぎる。
よし、魔法をかけるか。
「お馬さんお馬さん、速くなーれ!
「ヒヒーン!(パカラッ、パカラッ、パカラッ……)」
「う、うわああああああ! お馬さんが猛スピードで走りおった! エルフの女王さんも大胆なことをするねえ!」
第3位階に位置するこの魔法は単純に行動速度を上げるものだ。動きが速くなった所で思考速度は変わらないので、人によっては使いこなせずに終わってしまう。私? 今使いこなしてたよね。
「このスピードだと明日には着くかしら?」
「速すぎだよ女王さん! もうエ・ランテルまで着いちまった!!」
「はええ……」
一週間が一瞬とはコンドルも驚きの速度だ。冗談半分で強化魔法を使ったせいだろうか。未だに耳がジンジンしている。
◆
門の前では守衛らしき男性が数人立っていた。昼前なこともあり検問待ちの人は誰も居ない。行列で時間を無駄にすることはバカのやることだ。その点私は違う、人が込み合う時間帯を避けて来たのだから。いやごめんなさい来たの初めてな上に検問も初体験です。
この街では直接中に入れてくれず、守衛から訪問理由等を聞かれた。この手の質問は定番の返し方がある。よし!
「観光で来ました!」
「よし! 入……いや待て! 念の為にマジックアイテムが無いか検査する。武器を持ち込まれる危険性もあるからな」
検問所の奥からは外套を纏った暑苦しい男性が現れた。長い杖を握りしめ、魔法使いだと一目瞭然で分かる姿をしている。
マジックアイテム……うーん、何か持ってたかな。収納してるアイテムは探知魔法じゃ分からないよね。
「
魔法使いは鋭い目つきでこちらを凝視し、すぐに視線を憲兵に移した。これがイケメンだったら良かったのに。
「安心せい、子奴らからはマジックアイテムの気配は微塵も感じられん。通しても問題なかろう」
「では通行料として銀貨――枚を頂きます」
銀貨ね。はいはい……ってええぇ!? ちょっと待って、私金貨しか持っていないんだけど。これってあれでしょ、ラーメン店に諭吉を持っていくと万両と揶揄されるのと同じで嫌な顔されるんでしょ。ラーメン食べたこと無いけど。
どうしようか迷っていると、御者台から降りたオジサンが懐から巾着を取り出し、数枚の銀貨を手の中で数え守衛に差し出した。
「ひいふうみい……はい。問題ありませんね」
隣の守衛も枚数の確認を済ませると、門を開けて馬車を誘導した。
「はい。では旅のお方……エ・ランテルにようこそ」
エルフを乗せた馬車が門を通り、中へ入っていくのを見届けると魔法使いは口を開いた。
これが数ヶ月前……まだ王国領だった時であれば、エルフなど書状も無しに通すことは有り得なかった。しかし魔導王国となってからは
「お前はあのエルフ達を……どう思った?」
「豪華な身なりだったので、貴族の方かと思いました。武器の類を保有していなかったので、王国に危害を与えるつもりは無いでしょう」
「じゃと良いのだが……どうも胸騒ぎがしてな」
「魔法では問題無かったのですから、ここから先は我々の管轄外ですよ。それに問題を起こそうにも漆黒の目の黒いうちは手の出しようがありませんよ」
「おお! そうじゃったな、漆黒が滞在中なら杞憂に終わるじゃろう」
話はそれくらいにして仕事仕事、と守衛達は持ち場に戻った。
◆
さっきはマジックアイテムを持っていないと暑苦しい魔法使いに言われたけど、実は
以前この服で冒険したときにドロップしたアイテムだけど、ポケットに入れたまま忘れてたの。まあコイントスで表を出し続けたら強くなる武器なんて使い所が無いんだけどね。
運が良くても5回くらいしか連続で表にならないし、攻撃力に+1×5とか意味がない。失敗すれば攻撃力1の枝切れとなってしまう。
「持ってない……うーん馬車が速すぎて明後日の方向に飛んでいったのかなあ」
行きは入っていたポケットに手を当てるも何もなかった。そのお陰で魔法探知を逃れたと思えば悔しくもないか。使い所の無い武器なんて邪魔なだけだし。
「それじゃ女王さん、馬車を置いてくるからまた用があったら声をかけてくれよな」
オジサンと会うのはこれで最後……そんな気がしないでもない。
「ここまで送ってくれてありがとうね。漆黒の人と魔導王の所まで向かうときは宜しく頼むよ」
「それは出来ない相談だぜ。余波で俺まで巻き込まれたら溜まったもんじゃねえ」
そりゃそうか。万一にも討伐に失敗すれば、関係者諸共皆殺しなんてありがちな展開。それなら徒歩で向かってもらうか、現地調達をした方が手っ取り早い。自分以外が死ぬのは問題ないのだから。
初めて来た街を散策したい気持ちを抑えつつ、漆黒が常駐する宿へと歩みを進める。
後回しにしても良いが、私の性格だと時間ぎりぎりまで先送りにしかねないので、心を鬼にして用件を優先させる。
人混みが割れるように道を開けている。お偉いさんでも通るのだろうか? ふと視線を向けると、私ですら見惚れてしまいそうな絶世の美女が歩いていた。連れ添う戦士は黒よりも深い漆黒の鎧を身にまとい、胸に掲げるプレートがアダマンタイト級冒険者“漆黒”を物語っている。
◆
「モモンさ――ん、今日はどうしますか?」
後ろに束ねられた長い髪を揺らしながら、彼女は隣の戦士に声を投げかけた。
「組合には新しい仕事の依頼は入っていないし……そうだな、この街を廻って声を聞くのも勉強になるだろう」
仕事のない冒険者はモンスター退治をするのが基本だが、アダマンタイト級冒険者が刈り尽くしては下の冒険者の食い扶持を無くすことに繋がってしまう。依頼がないのは安全の証。まだ納税は課していないが、安定した収益が見込めれば無理に依頼を受ける必要も無くなると言うことだ。お金は多くの者に回って初めて経済が潤うのだから。
人混みでも道を譲って貰えるのはある主、上位冒険者の利点を言って良いだろう。人類をモンスターからの驚異から守る救世主なのだから、本能として好かれる行動を取るのだろう。
魔導王権限でアダマンタイト級冒険者は宿代を免除する法律を作るのも悪くはないな……いや、その免除した宿代を国が負担したら結局は同じ事。世の中そう簡単に楽はさせて貰えない。
思いふける中、自分達を見つめている視線の色が一箇所だけ違うのを感じ、ふと顔を動かした。アインズは目の前の存在に思わず目を疑うこととなる。
「あ……あぁ……貴女は…………いや、そんな……まさか……!」
想像していなかった事態に声を荒げてしまったが、すぐさま落ち着きを取り戻す。
幻覚じゃない……彼女の名は――
「明美……さん!?」
「ふぇ!?」
突然名前を呼ばれ、目の前のエルフは思わず裏返った声を上げてしまった。
そりゃそうだ、初対面の人からいきなり名前を呼ばれたら誰だって驚いてしまう。胸のプレートを見て声の主に気づいたのか、彼女から声をかけられる。
「漆黒の方……ですよね? あ、初めまして。エルフの国女王の明美と申します」
「分かりませんか? お……私のこと」
「ごめんなさい、貴方は私のことを知っているみたいだけど、漆黒の名前を知ったのは今日が初めてなの」
そりゃそうか。姿を隠して、更には戦士職として振る舞っている。声も変えているので気づかないのも無理はない。
しかしここでは人目についてしまう。宿のテーブルで説明した方が安全だろう。防音魔法をかけておけば盗聴の危険性もない。
「立ち話もなんですから――もし良ろしければ宿屋の1階で話しませんか?」
「あー、うん。私も漆黒さんに用件があってエ・ランテルまでやってきたの。ここへ来たのは初めてだから、宿屋までは漆黒さんに任せるわ。」
漆黒さんって……そんな呼び方されたの初めてだよ。いや漆黒は尊敬と敬意を込めた呼び名に近いから、ただのチーム名だと解釈すればおかしくは無いけどさあ。
◆
アインズの馴染みの宿屋へ入ると、そのまま奥の……人目の少ない4人掛けテーブルに腰掛ける。注文した飲み物をご用聞きがテーブルまで運び終え、当面は声を掛けられることはないだろうとアインズは口を開いた。
「さて――」
アインズの視線を受け、ナーベは周りに声が漏れないように魔法を発動させる。薄い膜が張られた感覚がするが、もちろん視認出来るわけではない。
情報がお金になるこの世界において、盗聴対策はある程度の地位を持つ人間なら当然行っている。魔法使いであれば魔法で防ぐし、高貴な者達の会合には鉄板に覆われた部屋が用いられる。アダマンタイト級にもなれば重要な話くらいするだろうと他の人達は思うし、うっかり重要な情報を耳にしたばかりに厄介事に巻き込まれては御免だ。聞こえないのであれば、それに越したことはない。そう周りの人達も思うだろう。
「改めまして明美さん。私が漆黒のモモンこと……アインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガです。今の私はアダマンタイト級冒険者モモンですので、呼ぶときはモモンでお願いします。そして彼女が――」
「プレアデスがメイド、ナーベラル・ガンマと申します。今はナーベと名乗っておりますので、ナーベとお呼び下さい」
おお! 人間のことを昆虫名でしか呼ばない虫博士がまともな挨拶をするとは。ナザリックと関わりのある者にはきちんと挨拶が出来るのだから、普通の人にも演技してくれれば俺の気苦労も減るんだけどなあ。
「モモンガさ――じゃなかった、モモンさんとナーベさんですね。ご存じの通り、明美と申します。こちらが――名前なんだっけ?」
「レゴラスです。失礼、初めまして。私はレゴラスと申します」
オリキャラなので名前に深い意味はありません、と言っていた気がしなくも無くもない。なんのこっちゃ。
「いやあ、まさか明美さんまでこの世界に来ているとは。私はナザリック毎転移したのですが、プレイヤーは私一人だったんです。過去にプレイヤーが転移した形跡は遺されて居ましたが、実際にこうして会えたのは明美さんが初めてですよ」
王国や帝国にプレイヤーの気配はなかったし、法国は可能性が高いが敵対を恐れアプローチは取っていない。
初めて出会ったプレイヤー。しかもギルドメンバーやまいこさんの妹明美さんとは心図良い限りだ。安定化された精神が再び高揚する。
「ユグドラシルとは違う異世界で不安も大きかったんですけど、明美さんはどうでしたか? お互いに情報交換が出来ればと思うんですが。あ、そう言えば何か用件があると仰ってましたよね」
「いせ……かい? いやいや、まさか……あの何か悪い冗談でしょ? そんな、ゲームを遊んでたら突然別世界に飛ばされるとかあり得ないでしょ」
焦点が定まらず、震えながら喋る明美。
何をそんなに焦っているのだろう? ユグドラシルのシステムとは全く異なる世界。それをゲームだと思う方がどうかしてる。きっと俺をからかってるんだ。
「いやいや、どう見たって別世界、異世界ですよ。だってNPCはプログラムした動作しか出来ないのに、ほら――」
アインズはナーベラルに目を向け、言葉を続けた。
「ナーベだってこうして人間と変わらない。NPC達もこの世界では生きてるんですよ。そんなことゲームじゃ有り得なかった。私はアンデッドなので痛みは感じませんが、痛覚や嗅覚まで存在する。空気は美味しいし緑の広がる大自然。ここは私たちが住んでいた地球とは違う別の世界ですよ」
「げげげゲームじゃなくていせいせいせ異世界違う違う違うそんなはずがない! だって! だって私は最終日だから記念にと思ってログインしただけで……そんな……そうよ! これは夢! きっと悪い夢を見てるのよ! 夢なら覚めるのが普通でしょ! 覚めてよ!! なんで……なんで私が何をしたって……」
「お、落ち着いて下さい! ナーベ!」
「
数秒の沈黙。覚悟を決めたのかは分からないが、彼女が再び口を開いた。
「モモンさん、バハルス帝国のジルクニフから“魔導王を殺して欲しい”と依頼されたわ」