笑顔のポーカーフェイスは通常運転です 作:燕子花(かきつばた)
・誠凛高校二年
・笑顔のポーカーフェイスを常備
・銀色の長髪に、金色の瞳
・身長165㎝
・儚げな美人
・リコにバスケ部のマネージャーに勧誘され続けるうち、いつの間にか親友に
・虹村とは遠距離恋愛中
・青峰、桃井とは幼馴染み
・特に桃井のことは妹のように可愛がってきたためかなり慕われている
無断早退した翌日の放課後。
担任にどうにかこうにか「お咎めなし」と言わせ……言ってもらい、いつも通りヒマだった私は今日もバスケ部に顔を出していた。
「シャツを脱げ!!」
体育館の扉を開いた瞬間に聞こえてきた命令に思わず苦笑する。入部希望の一年生達への、なんだかとてもリコちゃんらしい一言。
「「「えええ~~~~!!?」」」
まぁ、当然の反応だと思う。
とはいえ二年生のリコちゃんに逆らうことも出来ず、大人しく──というか半ば呆然と──シャツを脱ぐ一年生。
それをリコちゃんはまじまじと観察し、的確に状態を判断。一人一人に、バスケ選手として足りていない部分を次々と言い当てていく。
リコちゃんのこの能力は、努力だけでどうにかなるものではない。おそらく特異な環境で育ったことと、天性に寄るところが大きいのだろう。
不意に、リコちゃんの動きがある男子生徒の前で止まった。
そこには燃えるような赤い髪の、目つきが悪い少年。
まず、他の子とは体つきが違った。これは特別な〝目〟を持っていなくても分かる。
そして纏っている空気。これは〝キセキの世代〟と同種のものだった。
リコちゃんが思わず足を止めたことからも、相当高いスペックをもっている。
最も、それを使いこなせているかどうかは、全くの別問題なんだけど。
「きゃぁぁあ!?」
突然、リコちゃんの悲鳴が体育館に響き渡った。
何事かと思い、いつの間にか下がっていた視線を上げる。
──その光景を見た瞬間、全てを悟った。
リコちゃんの目の前には、黒子くんがいたのだ……つまりは、そういうことだった。
黒子くんの影の薄さは中学時代と変わらず健在らしい。あの存在感の無さ、そろそろどうにかするべきだと思う。
「……え? じゃあつまりコイツが!? キセキの世代の!?」
「まさかレギュラーじゃ……」
「それはねーだろ。ねえ、黒子君」
日向くん、なかなか酷いこと言うね。もっとオブラートに包んであげないと、さすがに可哀相かな。
仮入部届けの出身校でも見たのだろうか、新入生に帝光出身がいることを知っていたようだ。バスケ部のブースには必ず一人、受付係がいたはずだが、なぜ誰も黒子くんの顔を知らなかったのだろう。
「……? 試合には出てましたけど……」
なぜそんなことを聞かれているのか分からない、といった感じでサラッと帝光バスケ部のレギュラーだったことを明かす黒子くん。
「だよなー、……うん?」
「え? ……え!?」
「「「えええ~~~~!?」」」
今日は悲鳴が多い。驚いてしまう気持ちも分からなくはないけど。私も帝光のマネージャーをしていなかったら、黒子くんが強豪校でレギュラーを取れるとは思えなかっただろう。
そのくらい、あの子は特殊なのだ。
リコちゃんがもう一度、黒子くんの身体を見る。
そして絶句した。
きっと、予想を遥かに下回る結果だったのだろう。何せあの帝光で鍛えてきたとは思えないほどに筋力がついていないから。
「あの、白金先輩」
目の前にはシャツを着直した黒子くん。周囲からは好奇の眼差しが贈られてくる。
わざわざ視線に晒される方法を取ってくるなんて、さすが黒子くん。頼むからこの状況でおかしなことは言わないでほしいな。
「昨日は、すみませんでした。先輩の事情も考えず、勝手にボクの主張を押し付けてしまって……」
これは予想外。まさか先に謝られてしまうとは。
頭を下げ続ける黒子くんの後頭部に手を乗せ、優しく撫でる。
すると、驚いたように顔を上げた。
以前は同じくらいの目線だったはずが、今では少し高い位置から私を見下ろしていた。
私たちの卒業式以来、黒子くんを含めたキセキの世代とは一切、会っていなかった。それどころか、連絡すら取り合っていない。私の知らない空白の一年間で体格はもちろんのこと、技術的にも格段に成長しているだろう。あの子たちの成長速度は黒子くんの比ではない。その大きすぎる才能に、まだまだ未熟な精神。果たしてあの子たちの心は、のしかかる様々な重みに耐えることが出来ただろうか。
「謝るのは私の方。逃げちゃってごめんね。マネージャーのことも……引退する前、キセキの世代を中心に部が回り出した時に私たち皆で決めたことなの。過度な干渉はしないって」
「そう、ですか。残念ですけど、先輩らしいですね」
「──ちょっと、四季?」
名前を呼ばれて振り向くと、そこにはバスケ部二年生が勢揃いしていた。どうやら全員で私たちの会話を聞いていたらしい。なんて悪趣味。ちょっとくらい聞かなかったふりをしてくれたっていいじゃないか。
一様に顔が引きつっている。言いたいことは分かってる。まったく、黒子くんは大変なことをしてくれた。分かっててここで話しかけたなら質が悪い。可能性は五分ってところかな。
「……なーに、リコちゃん?」
とりあえずニッコリと微笑んでみるが──これでどうにかなるわけがないのは私が一番よく理解してる。
「なーに、じゃないわよ! 〝先輩〟ってどういう意味よ!?」
うん。やっぱり笑顔じゃどうにもならなかった。
「どうもこうも、そのまんまの意味」
「ってことはつまり、白金は帝光出身なのか?」
色々と面倒なことになりそうだったから、とりあえず隠してた私の素性。どちらにしても面倒なことになった。
「どうなの黒子君!?」
「あ、はい。白金先輩は帝光バスケ部の一軍マネージャーでしたから、ボクもお世話になってました」
私だとまともな答えが返ってこないと踏んだリコちゃんは、あろうことか黒子くんに聞いてしまった。
もちろん、黒子くんは答えた。聞かれてもいないことまで詳しく。
問い詰める気満々のリコちゃんに背を向ける。そして私は校外を目指して走った。
最近は逃げてばかりだけど仕方がない。面倒事は嫌いなんだもの……まぁ、明日に持ち越されるだけなんだけど。