笑顔のポーカーフェイスは通常運転です   作:燕子花(かきつばた)

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第3Q 新たな光

 今日は生憎の雨。朝から静かに降り続いていた。

 昨日の放課後以来、私はリコちゃんを避け続けている。クラスが違うから逃げやすいね。

 とは言え、お昼休みのチャイムが鳴って教師が教室を去った瞬間、リコちゃんが息を切らせて乗り込んできたのには流石に驚いた。そこまでするかと思ったものだ。幸いにもリコちゃんが入ってきた扉とは反対側の扉付近に座っていた私は無事、逃走成功。辛うじてお弁当は持ってきていたので、静かな図書室で食べることにした。

 しかし安寧の時はすぐに消えてなくなった。

 

「やっと見つけたわよ、四季(しき)!……って、何でこんなところで食べてるのよ。ここ飲食禁止でしょ」

 

 あー、見つかった。もうあっさりと。

 しかし今は逃げられない。もうお弁当を広げてしまっているのだ。また逃げるとなると、昼食を抜くことになりそうだ。この楽しい楽しい〝鬼ごっこ〟にそこまでする必要は感じない。と言うより、そろそろ逃げるのも飽きてきた。

 私の正面に座り、同じようにお弁当を広げるリコちゃん。自分で飲食禁止とか言っておきながら、どうやらここで一緒に食べるつもりらしい。

 

「もう、何で逃げるのよ」

「追いかけられたから」

「追いかける前から逃げてたじゃない」

「追いかけられる気がしたの。実際、追って来たでしょう?」

「逃げられれば追うわよ! まったく……」

 

 狩猟本能全開ね。

 

「あのね、四季。中学の時に何があったのかは話してくれないみたいだし、無理に聞き出したりはしないわ。マネージャーをやるつもりがないっていうのは分かったから。本音は、四季がいてくれた方が助かるんだけど……避けられるのはかなり困るから。ってか傷つくから! だから、これからも部活を覗きに来てくれるなら我慢する」

 

 親友は思ったより大人だった。逃げる必要、なかったかな。……いや、逃げたからこそのこの言葉、かな?

 

「……そう。もちろん、今まで通り時々には顔を出すよ。今年からは黒子くんもいるし。それに、良い暇潰しにもなるしね」

「ちょっと。最後の一言、余計よ」

「ふふっ。冗談よ、冗談」

「冗談に聞こえないわよ、まったくもう」

 

 そりゃあ、冗談じゃないからね。

 

 

****

 

 

 放課後。未だに降り続く雨は止む気配など見せず、むしろ強さを増していた。

 雨の影響で練習時間が余ったバスケ部は、リコちゃんの提案でミニゲームするらしい。

 しかしチーム分けが実に〝らしい〟。

 一年生VS二年生だなんて、普通なら始まる前から結果は決まってる。

 特に誠凛は新設校としてはかなり強い。二年生は負けるだなんて露ほども思っていないだろう。

 数分後、リコちゃんの猛々しい笛の音を合図にミニゲームが始まった。

 先に点を取ったのは一年生チーム攻撃の要、火神くん。やはりスペックは相当なものを持っている……が、荒削りにもほどがある。あれではキセキの世代に遠く及ばない。

 

 11対8

 

 一年生がリードしていた。ほとんどが火神くんの得点。荒削りでここまで圧倒している。これからの成長は、おそらくリコちゃん次第だろう。……もちろん私はノータッチで。

 中学時代の可愛い後輩と大好きな恋人以外にはあんまり興味が持てない私は今、全体を見ていても特に注視するのは黒子くん。ミスを連発して元から薄い存在感を徐々に、そして確実により薄くしていく。様子見、と言ったところだろうか。

 

 後半に差し掛かったとき、急速に流れが変わった。

 二年生が、唯一の得点源だった火神くんに三人のディフェンスを付け、動きを大幅に抑制する。三人もいては躱すことも出来ず、じわじわと点差が広がる。バスケは個人戦ではないのだから、当然こうなる。

 

「……もういいって……なんだそれ、オイ!!」

 

 二年生側に点数が入り、自然と一年生が一カ所に固まったときだった。相談でも始めるのかと思えば突然の怒号。火神くんが一人の男子生徒──確か降旗くん──に掴みかかっていた。

 試合中に何をやっているのでしょうね……

 今は遠い地にいる恋人も、日常的に言うことの聞かない困った後輩を痛めつけていた──というか、ボコボコにしていた。けれど流石にそれも、試合中は控えていた……ああ、いえ。控えていただけで、全くなかった訳ではないのだけど。

 そしていくら未熟な精神と言えど、キセキの世代と呼ばれたあの子たちも、癇癪を起こして暴力を振るうことなど決してなかった…──ああ、いけないいけない。いくら似ているからといって、比べすぎるのは良くない。火神君があの子たちと才能が近いからとはいえ、まだ掘り起こされてすらいない原石なのだから。

 

「落ち着いてください」

 

 静かな声と共に、火神くんへ膝カックンをお見舞いする黒子くん。冷静かつ意外と大胆な手段を好むところは相変わらず。

 騒ぎが一段落つき、再び試合が始まる。すると、開始早々に黒子くんへパスが回った。

 前半の数分以降、まったくパスが回らなくなった黒子くん。パスをした一年生の顔は浮かない。仕方なくといった感じだ。おそらく黒子くんの指示だったのだろう。

 しかしここでパスを受けた、ということはつまり──それが反撃の合図。

 黒子くんがゴール付近にいた一年生にパスをする。ボールを受け取った子はキョトンとするも黒子くんの声に気を取り直し、その手に持ったボールはリングをくぐった。

 次のボールも、その次のボールも。黒子くんを仲介したボールは、全てゴールへと吸い込まれていく。 

 さっきまでの劣勢が嘘のようだった。

 

「どう、なってるの……ねぇ、四季?」

 

 私に問うリコちゃんは、それでも試合から目を離すことはない。

 

「もう気付いているでしょう? それで正解」

「で、でも。あれは……」

 

 戸惑うのも無理はない。だって黒子くんが連続で行っているあれは──

 

「ミスディレクション。手品師が使うテクニックの一つ。この方法を見つけたのは、どうやら偶然らしいけど──ふふっ。あの子の言葉を借りるのなら〝運命なのだよ〟ってところかしらね」

 

 ミスディレクションに行き着かなければ、黒子くんがキセキの世代と同じ舞台に立つことは不可能だっただろう。よくもまあ、そこに行き着いたものだ。

 

 それからの展開は、ずいぶんあっさりとしたものだった。結果は一点差。まさかまさかの一年生チームが勝利。

 二年生にとって、これは色んな意味で誤算だっただろう。このミニゲームで大きな収穫があったのは間違いない。彼らは悔しそうではあったものの、嬉しそうにも見えた。

 ……最後、黒子くんのパスでゴールを決めた火神君。あの時、新たな光の誕生を見た気がした。

 以前の光である青峰くんとは、今はもうチームが違う。だから黒子くんは次の光を見つける必要がある。

 それは黒子くんの力を最大限に引き出すためには欠かせないもの。そしてこの誠凛でそれが可能なのは、今のところ火神くんのみ。

 黒子くんは彼を、新たな光として認めるだろう。

 

 だって彼は青峰くん(以前の光)に良く似ているのだから。

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