笑顔のポーカーフェイスは通常運転です   作:燕子花(かきつばた)

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第6Q 今の仲間と昔の仲間

「はぁ………」

 

 今日は雲一つ無い晴天。

 ま、雲があろうが無かろうが、晴れていようが雨が降ろうが、たとえ槍が降ったってバスケ部には関係ないんだけど。

 

「おいおい、カントク。これから試合だってのに、なーに溜息なんて吐いてんだよ」

 

 前を歩いていた日向君がいつの間にか私の隣に並んでいた。

 

「そりゃ溜息くらい吐くわよ……せっかく誘ったのになぁ」

「誘った……? あぁ、白金の事か」

 

 そう。私は今日、海常との練習試合に四季を誘っていた。

 臨時のマネージャーとしては来てくれないだろうから、せめて試合を見に来て欲しいと頼んだのだ。

 

「来てないってことは、断られたのか?」

「たぶん」

「たぶん?」

 

 四季の返事はと言えば、

 

 〝気が向いたら行く、かもしれない〟だった。 

 

 かもって何よ、かもって。

 

「四季の考えてることは、私にもよく分からないわ。来るかもしれないし、来ないかもしれない」

 

 

 四季とは去年、同じクラスだった。

 今は怪我で離脱している鉄平に、マネージャーとしてバスケ部に入部するよう熱烈な勧誘を受けていたのが、四季だった。

 私もバスケ部からは勧誘を受けてたし──断ったけど──同じような状況だった四季には親近感があった。

 それからしばらくして、私はバスケ部のカントクを引き受けた。

 そのとき鉄平に、四季が中学でマネージャーをしていたことを聞いて、私も一緒になって勧誘を始めた。マネージャーがいれば色々と楽かもしれないと思ったのもあるけど、女子がいなくて寂しかったってのも理由の一つ。

 結果はご覧の通り。

 四季をバスケ部に引き入れることは出来なかった。のらりくらりと笑顔で躱され、半年ほどでこちらが折れた。

 四季を一言で表すなら〝掴みどころがない〟。飄々としていて、何を考えているのか分からない。

 いつも笑顔なのに、心の底から笑っているところなんてほとんど見たことがない。好かれているのか嫌われているのか、それすらも分からなかった。

 だから初めて私のことを〝友達〟だと言ってくれた時は、嬉しかった。四季の心に初めて触った気がした。

 今年はクラスが離れてしまったけど、今でも昼食は一緒に食べている。部活にも顔を出してくれるようになった。冷やかしに来ているだけで、あんまり手伝ってはくれないけどね。

 一年前よりは明らかに親しくなったはずだ。

 それでも、四季の過去については全くと言っていいほど知らない。聞いてもはぐらかされてしまう。

 帝光中の出身だというのも、知ったのはつい最近のこと。どうりで鉄平があんな熱心に勧誘していたわけだ。

 

「お、着いたみたいだな」

 

 海常高校。

 私達にとって、間違いなく格上の相手だ。

 でも今年は火神君や黒子君がいる。二年生の皆だって、確実に成長してる。

 勝てるかどうかなんて、やってみなきゃ分からない。

 それに、もし勝てたら四季の考えだって変わるかもしれない。

 黒子君は四季を尊敬しているらしい。

 黄瀬君の反応も、ただのマネージャーに向けるようなものではなかった。

 四季がマネージャーになってくれたらきっと、今よりずっと誠凛は強くなれる。そんな予感──いいえ、確信をしている。

 

「皆いるー? 黒子君は?」

「……カントク、ボクならここにいます」

 

「よっし、じゃあ行くわよ!」

 

 四季が来るのか、来ないのか。それは楽しみに取っておきましょう。

 それより今は、この練習試合に集中しなきゃね!!

 

 

****

 

 

「……うん、ゴールデンウィークに。ん? ……ふふっ、大丈夫。お金ならお祖父様が出してくれるって……ええ──うん。また連絡するね、修くん」

 

 今日は誠凛高校と海常高校の練習試合。

 リコちゃんには一緒に行かないかと誘われていたが、毎週日曜日の午前中は修くんと電話をする約束がある。

 まあ、気になるから試合は途中からでも見に行くけど。

 

 おそらく、そろそろ第3Qが終わる。

 もしかしたら第4Qが始まっているかもしれない。

 海常は誠凛よりも確実に強い。そこに黄瀬くんも加わる。

 ただ、誠凛も弱くない。今年は黒子くんもいるのだ……あ、それから火神くんも。

 

 黒子くんの行動は予測がつき難い。だからこそ、逆転も十分にあり得る。

 

「オマエが占いなんか見てたからだろが!!」

 

 後ろから怒鳴り声が聞こえた。

 何となく振り返って見るとそこには──リアカー、かな?

 

 そう、リアカー。正確にはリアカーを引いた自転車。漕いでいるのは、男の子。

 あの制服は確か、秀徳高校?

 その顔には見覚えがある。一年生にして秀徳のPGを担っている高尾和成くん。

 ……そして後ろのリアカーに乗っている緑色の髪をした子。あの子にはもっと見覚えがあった。

 声を掛けようかどうか、問題のリアカーをチラリと見て迷う。中学の頃から変な子だと思ってたけど悪化してないかな、これ。

 

「面白い物に乗ってるね、緑間くん」

 

 結局、リアカーが真横に来たときに声を掛けた。

 

「──っ!? ……お久しぶりです、白金さん」

 

 酷く驚いてはいたものの、挨拶はきちんとする緑間くん。

 礼儀正しいのは黒子くんと同じだけど、この子のは堅苦しさがある。

 

「久しぶり。それより早くしないと試合、終わっちゃうよ?」

「……何のことですか?」

「見に行くんでしょう? 誠凛と海常の練習試合。きっと、今はもう第4Qに入ってるわねぇ」

「……」

 

 苦い顔をして黙り込んでしまった。

 この子は私のことが苦手みたいだから、仕方が無いことだけど。

 

「あなたとは初めまして、ね。高尾くん」

 

 とりあえず緑間くんのことは置いといて、隣の彼に話しかける。

 

「うぇっ!? 何で知って……ま、いっか。オレ、真ちゃんの親友で相棒の高尾っす──おねーさんは?」

 

 高尾くんの雰囲気が変わった。

 やはり警戒はしているのだろう。緑間くんが信頼するわけだ。本人は認めないだろうけど。

 

「私は白金四季。緑間くん、友達が出来て良かったわね……あ、私も〝真ちゃん〟って呼ぼうかな」

「やめてくださいっ!!」

 

 全身全霊での拒否。

 高尾くんはお腹を抱えて爆笑している。緑間くんに負けず劣らずの変わった子だね。

 

「あ、試合が……そろそろ行かないと」

「じゃあ乗って行きます? コレ」

 

 コレ、と高尾くんが指差したのはリアカー。

 少し考えて、次の信号まで乗せてもらうことにした。

 

「へぇー真ちゃんの先輩なんですか。ってことは帝光出身っすか。あ、そう言えば知ってます? この間の部活で真ちゃんが──」

「おい、やめるのだよ高尾。ありもしないことを言いふらすな!」

 

 意外と仲は良いようだ。

 高尾くんの高い協調性で、バランスの良い関係が保てているのだろう。独りではないようで、安心した。

 あ、そろそろ次の信号に着くみたい。

 

「うわっ、すっげー渋滞してる!」

 

 ここの信号はいつも渋滞してる。今日だけ都合よく空いてる、なんてことあるわけないよね。

 

「じゃ、私はここで」

「オレも一緒に行きます」

「え? ちょっとお二人さん!?」

 

 緑間くんも降りるとは予想外だ。

 ……思ったよりも苦手意識は持たれていないのだろうか。

 何はともあれ、私たちは高尾くんを残して徒歩で海常へと向かった。

 後方で渋滞に捕まり、リアカーと共に注目を浴びている高尾くんが何やら叫んでいるのだがまぁ、心の中でエールだけは送っておこう。

 

「ねぇ、緑間くん。今、バスケは楽しい?」

 

 移動の最中、黙々と後ろを歩く緑間くんに質問をしてみた。

 

「楽しいかどうかは分かりませんが、充実はしています」

 

 この子は素直じゃないけど、とても分かりやすい。

 昔と変わらぬ答えに自然と口角が上がる。

 

「高尾くんのことは、頼りにしてるの?」

「チャラチャラと浮ついたヤツですが、バスケには真剣です。普段はともかく、試合では特に問題ありません」

 

 質問の答えにはなってないけど、おそらく照れているのだろう。なんとも微笑ましい。

 そうした会話を繰り返していると、あっという間に海常高校が見えてきた。

 試合終了まで、残り十分もないだろう。

 

 体育館へ入り得点を見ると、僅かに海常がリードしていた。誠凛は思った以上に奮闘しているようだ。

 あら? 黒子くん、怪我をしているみたい。試合に出ているのなら大丈夫なのだろうけど。

 

「あの~、すみません」

「なに、……っっ!?」

 

 近くにいた海常の人に声を掛けた。

 黒子くんの怪我の理由、聞いておかないとね。

 で、聞いたらすぐに教えてくれた。

 私は良い意味で、とても人目を集める。言ってしまえば、人並み外れて容姿が優れているらしい。

 自覚してる分、こういう所で役に立つ。

 

 怪我の原因は黄瀬くん。

 事故なのだろうけど、あの子のことだから落ち込んでいるかもしれない。

 

 残り数秒で同点。

 そのすぐ後、試合終了のブザーと共に最後の点を入れたのは──火神くん。

 誠凛の勝利だ。

 最後のあの跳躍。あれはキセキの世代にもない才能だった。

 あの子たちに勝ちたいのならば、それに気付く必要がある。おそらく自身では気付けないだろう。

  やはり彼の成長はリコちゃんが手を加えなければならない。リコちゃん優秀だから、きっとすぐに気付くはず。

 

「黄瀬、泣いてねぇ?」

「いや、悔しいのは分かっけど……練習試合だろ、たかが……」

 

 黄瀬くんは泣いていた。

 帝光という強豪校でバスケを始めたあの子にとって、チームとしては初めての敗北。

 それを知らない周囲の人間にとって、練習試合で負けて涙を流すことが理解出来ないのだろう。

 

「っのボケ、メソメソしてんじゃねーよ!」

 

 そんな黄瀬くんに、笠松さんが蹴りを入れた。

 あの子を笠松さんに頼んだのは、間違いではなかったようだ。

 整列を終え、体育館の外へと姿を消す黄瀬くん。

 

「私は黒子くんの所に行くけど、緑間くんも一緒に来る?」

 

 やはり、怪我の具合を聞いておかないと落ち着かない。

 

「オレは黄瀬の所に行きます」

 

 緑間くんと別れ、黒子くんの元へと向かう。

 

「黒子くん」

「白金先輩」

 

 ゆっくりと話したいけど、のんびりしていると緑間くんが帰ってしまう。

 

「怪我はどう? 何か違和感があったりしない?」

「はい、大丈夫です」

 

「あ、四季!!」

「それじゃまたね、黒子くん」

 

 リコちゃんに見つかっちゃったから退散退散……捕まったら長くなりそうだしね。

 

 

「残念だがリベンジは諦めた方がいい」

「…………」

 

 険悪な雰囲気の時に来てしまった。

 向かい合っている黄瀬くんと緑間くん。

 そしてやっと海常に着いたのかヘトヘトになっている高尾くん……と、リアカー。

 

「お疲れ様、黄瀬くん」

「あ、四季センパイじゃないっスか!」

 

 嬉しそうな顔は一転、すぐに複雑そうな表情へと変わった。

 負けてしまった試合を見られたくはなかったのだろう。

 

「黒子くんの怪我は心配ないと思うよ。意識はしっかりしていたから、大事にはならない。それでも心配なら、病院の場所を教えるから行ってらっしゃいな」

「そう、っスか」

 

 試合については、私がどうこう言うつもりはない。だから、黒子くんのことだけ伝えた。自分で怪我を負わせてしまったのだ。気にしていただろう。

 黄瀬くんの緊張が解けたような笑顔に、私の頬も綻ぶ。

 

「さて、では行きましょうか──秀徳高校に」

 

「「「は!?」」」

 

 わぁ、見事なハモり。仲良しだねぇ。

 

「センパイ! 緑間っちに着いていっても楽しくないっスよ!?」

「おい、どういう意味なのだよ黄瀬」

「まぁまぁ、喧嘩すんなよ二人とも! あっ、四季さんリアカー乗って行きます?」

「ありがとう。ちょっと距離があるし、お言葉に甘えて乗せてもらうね」

 

 リアカーに乗り込む。

 恥ずかしくないわけではないけど……高尾くんなら緑間くんのこと、ペラペラ喋ってくれそうだから。

 

「さぁ、緑間くんも早く乗って。秀徳は午後から練習でしょう? 早くしないと遅刻しちゃうよ」

「何で知っているのだよ!」

「あの、四季さん。もしかして漕ぐの、またオレ?」

 

 抗議する緑間くんと高尾くんを言いくるめ、リアカーは再び走り出した。

 今度は秀徳に向かって。

 

「え、オレのことは無視っスか!?」

 

 もちろん、しょんぼりと項垂れる黄瀬くんに笑顔で手を振るのも忘れずに。

 

 

 東の王者、秀徳高校。

 果たして帝光の練習と、どちらが過酷なのかしらね?

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