笑顔のポーカーフェイスは通常運転です   作:燕子花(かきつばた)

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第7Q 銀髪の少女は侮れない

 学校の都合で、今日は午後からの練習だった。

 いつもはオレが一番に来るんだが、珍しく先を越された。

 途中で合流した大坪と体育館に入ると、緑間と高尾がすでにアップを開始していた。

 そして体育館の端から端まで全力疾走をしている二人の傍らには、白いワンピースに水色のカーディガンを羽織った女子が一人。

 

「……何、女連れ込んでんだ」

 

 女に見守られて練習とか、気が緩んでんのか。

 そう思い、いつから走り込んでんのか知らねぇが汗だくの二人に近づこうとした時、隣にいた大坪に止められた。

 

「待て、宮地──あの子、見覚えがないか?」

「見覚え? ……そーいや、どっかで見たような気がすんな」

 

 ここからだと少し距離がある。それに横顔しか見えない。

 だというのに、銀色の長い髪に横顔だけでも分かるほどの整った顔立ち、ニコニコと楽しそうな笑顔。確かに見覚えはある。だが、どこでだ?

 大坪と昔の記憶を探っていると、不意に彼女が振り向いた。

 ふわっとした笑顔と共にお辞儀をされ、反射的にオレも頭を下げた。

 

「お話しするのは初めてですね、主将の大坪さんに宮地さん。帝光中学出身、誠凛高校二年の白金四季(しろがねしき)です。お邪魔してます」

 

 緑間と高尾にそのまま走っているよう指示し、悲鳴を上げた高尾と青ざめている緑間を無視して白金はオレ達の目の前まで来た。

 そうしてされた挨拶に、オレ達の疑問はあっさり解けた。

 

 〝帝光中学出身〟

 

 そう言った。

 中学の頃、何度か帝光と試合をしたことがあった。

 彼女はマネージャーとして、常にベンチで待機していた。

 当時から整いすぎた容姿をしていた白金は、チームメイトの間で話題になっていた。

 そして帝光との試合は、全敗だった。一度も勝つことはなく、手も足も出なかった。正直、良い思い出は無いに等しい。

 当時、気になる噂があった。

 〝帝光の偵察には気をつけろ〟

 帝光の偵察はマネージャーが行っているらしい。

 そして〝銀髪の女に情報を与えるな。与えた瞬間、その学校の負けが確定する〟

 オレは噂を信じていなかった。

 情報を与えただけで負けるなんておかしい。馬鹿げた噂だ。そう、思っていた。

 だが実際に試合をして、嫌というほど思い知らされた。

 オレ達の動きは全て読まれていた。

 面白いくらいに点が決まらない。そもそもボールが取れない。たまに取れても、すぐに奪い返されて点を取られる。

 ただでさえ化け物じみたヤツらが、こちらの動きを完璧に読んできやがる。

 たった一度、選手が控えているベンチに座っていた銀髪の女──白金と目があったことがある。

 その時、コイツは目を細めて笑っていた。

 全て知っている。何をしても無駄。そう、言われているようだった。

 オレ達は実力でも負けていたが、情報の面でも負けていた。

 完敗だった。負けて当たり前、そう思ってしまうほどに。

 

 忌々しい思い出を残してくれた元凶が、目の前にいる。

 しかし恨み言を言う気にはなれなかった。

 毒気を抜かれてしまったのだ。彼女はそのくらい、優しげな笑みを浮かべていた。

 

「緑間くんがお世話になってます……あの子はある一点に置いて〝少しだけ〟頑固で我が儘な子ですからね」

 

 そう、苦笑を交えながら言う。

 ある一点、というのは恐らくおは朝とそのラッキーアイテムのことだろう。

 少しだけ、と強調していたが断じて少しではない。あの占いに対する執着は異常だ。

 

「中谷監督が課した一日三回までのワガママ、という縛り。なかなか巧みな戦法ですね。とても参考になります」

 

 ……は? なぜ、それを知っている? こんなこと、緑間が自分で言うわけがない。ということは、高尾か?

 コイツに情報を与えるわけにはいかない。

 誠凛高校とは去年の大会で試合をしている。オレはベンチだったが、秀徳の圧勝だった。誠凛は新設校にしては強い。その程度の印象しかない。

 だが、コイツが誠凛に情報を渡したら?

 あの時、帝光中に負けた時の記憶が蘇る。

 

「誰からそれを聞いた? 高尾か、それとも緑間か」

 

 オレが聞こうと思ったら、大坪に先を越された……つーか高尾、信用ねぇな。

 

「どちらも違いますよ……お二人は、どうやら誤解をしているようですね。私が収集した情報。これは私のための情報ですので、誰かに教えるつもりなどありません。たとえ私が誠凛のバスケ部と仲が良いのだとしても、例外はありません」

 

 どういうことだ? 安心するべきなのか、警戒するべきなのか。

 

「四季さーん! オレ達、いつまで走ってればいいんすかー!?」

 

 高尾が叫んでいる。

 高尾も緑間も、全身汗でびっしょり濡れているのが遠目でも分かった。シャワーでも浴びて来たかのようだ。

 

「全体練習が始まるまでよ。頑張って!」

 

 練習が始まるまで、まだ三十分もある。ずっと走らせるつもりなのか?

 

「おい、アイツらいつからやってんだ?」

「お二人が来る一時間前から全力疾走してますよ」

 

 一時間、全力疾走。しかもまだ三十分も走らされんのか!?

 コイツ慈愛に満ちた笑顔してっけど、言ってることヤバいな。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ? お祖父様が言ってました。〝若いうちは何をやっても死なん〟って」

 

 ……なに教えてんだ、コイツのじいさん。何の疑いもなくとんでもねぇこと信じ切ってんぞ。

 

 それから三十分。全体練習が始まるまで、高尾と緑間は白金の監視の下、走らされ続けた。もちろん、全力疾走で。

 さすがに可哀相だと思ったのか、大坪が止めに入ったのだが……

 

「あ、大坪さんも参加します?」

 

 その言葉に、あっさりと身を引いた。

 

 練習が始まると、白金は監督に挨拶をして体育館を去って行った。

 高尾と緑間はというと──

 

「はぁ、はぁ。うっ、気持ち悪ぃ……」

「……情けないのだよ、高尾。あれくらい、帝光では普通だぞ」

「いや、しゃがみ込んだまま言われても説得力ねーけど」

「大の字で寝ているお前には言われたくないのだよ……はぁ」

 

 すでに疲労困憊だった。

 いつもはムカつく後輩だ。始めはざまーみろ、と思って見ていた。

 だが、さすがに今は──同情せざるを得ねぇな。




 第7Q”銀髪の少女は(あなど)れない”
 宮地sideです。

 少しだけ四季の〝お祖父様〟に繋がる言葉を入れてみたのですが、気付いていただけたでしょうか。


 第8Qは、『パンとゴールデンウィーク』

 どうぞお楽しみに。
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