遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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伏線回収回です


第九十七話 六重目の囮

◑聖帝大学-学園長室 / 午前4時36分

 

 

「ぐっ...ガハッ...」

 

 

聖帝を担う初老の決闘者(デュエリスト)大神は片膝をついていた。無理もない、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)天禍五邪鬼(てんかのいつき)の幹部らを連続で相手する苦しさは計り知れない

 

そして彼の決闘(デュエル)ディスクのランプが消灯した

決闘(デュエル)終了の合図だ

 

 

「く...クク...がっかか...ッ!」

 

 

傷だらけの男1人のみが屹立を保っている

低く苦しむ大神を見下すように嗤う姿は不気味だが、大神の凛とした目付きはそれから目を離れないでいる

 

 

「タイした...ものだ...」

 

「...はぁ、はぁ...」

 

 

残り3名は既に物言わぬただの黒と化している。辛うじて意識を保っているのは大神とその男のみ

 

まだ戦いの火蓋が切られてから30分ほどしか経過していないにも関わらず、戦力の削り合いの終焉も目の前にあった

勝者はいずれか

 

最後の力を振り絞って大神が立ち上がるかに思えた瞬間、ガルナファルナの男は膝から崩れ落ちた

 

 

「我ワレ...天禍五邪鬼(てんかいつき)をタッタ1人で.....グフッ...」

 

「はぁ...はぁ.....私もまだまだ現役という事だ...っ!」

 

 

大神が残っていた

あの短時間、勝機はほぼ存在しなかったはずの窮地に、彼は抗い貪欲にも勝利を掴んでいた

 

異論の無い強者だ

敵の幹部との連戦をものともしない無類の強さを見せつけ終えた大神は、呼吸も荒いまま倒れた最後の敵まで向かった

 

大神は禍々しい荒波の中でも、自らの任を全うしたのだった

 

窓から見える異質な空間も、心做しか元の澄んだ闇夜に変わりつつある。あと少しすれば日も登るだろうか

 

 

「しかし...生身で別次元を行き来出来るとなると拘束も困難なものだ...」

 

「ククッ...ガハッ...」

 

 

試しに端末に手を伸ばし画面を確認すると、微量ながら電波が通っているのが分かった

どの男が持っていたのかは忘れてしまったが、移植余事象(アウターフェイト)の力が消え始めているのは確かだ

 

何度か通信を試みると、3度目でやっと声が繋がった

鬼禅の声だ

突然連絡の途絶えた大神が気になっていたのだろう、あちらからも通信を願っていたようだ

 

 

《...ッ!大神さんか!?》

 

「あぁ...敵の余事象体質(アウトフェイト)で通信が途絶えていた。だがもう問題ない」

 

《そうじゃない!》

 

 

鬼禅は必死の叫声をあげている

何があったのか、こちらの安否を伝えるのもままならないまま大神は早くも混乱に陥っていた

 

嫌な予感がしてならない

端末越しに聞こえるのは鬼禅だけの声ではなかったからだ

 

 

《ぐぅっ!...大神さん!そっちが片付いたなら早く降りてきてくれ!》

 

「どうしたのだ...そっちで何が...」

 

《ガルナファルナだ!突然多勢のガルナファルナの部隊が現れやがって...数十分前...も通信を入れ.....ッが切れちまッ...ザザッ》

 

「...まだ通信が不安定なのか」

 

 

学園長室の窓を勢いよく開くと、少し離れた位置から決闘(デュエル)の音が確かに聞こえる

 

何度目だろうか

三次日食は隠密少数だとばかりに思っていたが、それすらも過ちだったようだ

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)が幹部を使ってまで囮を引き受けたのも驚いたのも馬鹿馬鹿しく思える

 

ガルナファルナもまた天禍五邪鬼(てんかのいつき)を囮にしていたのだ

すぐ側で低く笑うその男はそれで肯定しているように見える

 

 

「ククク...幾らニホンの突起戦力と言エド...我ら天禍五邪鬼(てんかのいつき)ガ出れば事足りルと思っていたノダガな...」

 

「貴様...」

 

 

最後まで立ち尽くしていた男の首元を掴むと、大神は乱暴に起こした

今にも拳を振り上げそうな気迫だが、彼の中でまだどこか冷静差は失われていないようだ

 

いい加減に苛立ちはピークを迎えている

一体いくつの囮を重ねられたらこの読み合いは終わるのだろうか。1つ2つの話ではない、最早この天禍五邪鬼(てんかのいつき)を合わせれば実に6つもの囮が重なりひしめき合っているのだ

 

 

「言い給え!貴様らの本当の目的は何なのだ!」

 

「ソレにツイテは言ったはずだ...ニホンの突起戦力の洗脳だト...ッ!」

 

「では何故他のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が狙われている!」

 

「万が一...万が一我々がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)幹部に敗北シタ場合のホケンだ...」

 

 

洗脳やら幹部やら突起戦力

はたまた日本の決闘者(デュエリスト)のデータや二代目決闘王(デュエルキング)のそれ

 

考えられるものは上げ尽くした

加えていざ対立した際に大神自身の洗脳だとこの男達は確かに発言していた

それが今になって鬼禅や藍原達が狙われている

 

わざわざ深夜に、そして囮を重ねてまで狙っている真の目的は何なのか。男は大神の洗脳を否定すること無く、ガルナファルナの三次日食の第二の作戦を語りだした

 

 

「聖帝大学...」

 

「何だと?」

 

「確かにS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)幹部の洗脳ハ今作戦の目的ダ...ダガ我々が真の狙いトしているのハ聖帝大学そのものダ....」

 

 

何を言っているのか

理解に苦しんでいるとも混乱しているとも取れるその大神の態度を見て、傷だらけの男は愉快そうに口角を上げている

 

そして改めて言葉を口にした

非常に突飛なそれだった

 

 

「我々ハ...聖帝大学そのものを奪いに来た

 

「何を言っている...そんな事...」

 

「デキル」

 

 

大神に掴まれたまま男は震える右手で上半身を起こした。実に苦しそうだが、同情する時間すら勿体ない

 

歪な笑みを浮かべたまま男は大神の瞳を覗き込んでいる。何を言うつもりなのか、聖帝大学を奪う等戯言にしか聞こえない

 

 

LL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)ト...聖帝大学の次元を繋ギ...この地に我ラ本拠地LL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)を”持ってくる”ノダ...」

 

「何を...そんな事が可能なはずが!」

 

「コノ地には多彩な決闘力(デュエルエナジ-)が溢れてイル...生徒の決闘力(デュエルエナジ-)を図る装置ダカなんだか知らんガ...ソレさえあれば、その気になレバ!難しくもナイ事ダ...ッ!」

 

「.....だったら何故今までそうしてこなかった!本当は不可能なのでは無いのか?」

 

「ククク...」

 

 

何故そこまで聖帝大学を?

純粋な怒りと疑問をぶつけたつもりだったが、答えは大神の中にも存在していた

 

前回の二次日食

関東に位置する4つの大学が狙われた際の部隊はガルナファルナだった

なにか果たしたわけでは無かった日食だが、それもまたこの時の為だったのだろう

 

まるで答え合わせをするかのようなタイミングで男は口を開いた

 

 

「ソンナもの...この大学がS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の駐屯区カラ最も離れ、手が回りにクイからだ...」

 

「...その為に2日前...」

 

「あァ、前回の作戦ハ四大のうち最もS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の手が回りにくい大学を見極めるタメだった...」

 

「聖帝大学なら私や優秀な決闘者(デュエリスト)のデータという”おまけ”もある、そういう事か...っ!」

 

「ククク...」

 

 

大神が男から手を離すと、男はそのまま床に落とされた。だがまだ笑っている。

 

そんな事よりも大変な事になった

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の精鋭達は現在月下に向かっている。日本に残った戦士達も少なくは無いが多いとも言えない

 

ガルナファルナが、LL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)が本拠地を日本に作る等、最早戦争を示唆しているとも言える

 

こんな状況下で二国と同時に戦争など出来るはずがない。縋るような気持ちで安山に通信を放つが、すぐ背後に感じる気配がその手を止めさせる

 

振り向くと黒服の集団があった

 

 

D∵At=O-llhuGa(ディエイトオルガ)様、第二部隊到着しました...」

 

「...やれ!ソコのS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)幹部ヲ!汝の衣を、罪の色を、その者の酔狂なる鮮血で塗り替えろ!」

 

「.....」

 

 

口ぶりからこの天禍五邪鬼(てんかのいつき)の部下なのだと分かるが、そんな事よりも鬼禅らは無事だろうか

あの調子では恐らく本部への報告も済ませていないだろう

 

だが結局の所、一足先に全てを知った大神に出来る事は目の前の敵を殲滅する以外に他無い

一刻も早く

鬼禅らに加勢するのも勿論だが、早急に本部へこの事を知らせなければ手遅れになりかねない

 

日月戦争までのカウントダウンも進んでいる

 

 

「...そこをどきたまえ!」

 

 

新たな敵に向かう大神だが、その背中からは焦りしか読み取れるものがなかった

 

 

 

 

*

 

 

 

目の前に倒れているものは敵だった者。周りには同じ格好をした複数人が同じように地に身を預けている。その中に1人だけ立ち尽くす初老の男がいる、それは彼が勝者であることを証明していた

 

 

「ハァハァ...なんという事だ...」

 

 

その男の腕にあるデュエルディスクにはランプが灯っていない。決闘(デュエル)は終了したという事だ。疲弊の色を見せながらも拙い動作でデッキを片付けると歩を進めだした

 

 

「行かなければ...私が、私が行かなければならない...っ!」

 

 

暗い一室を抜け、出口を目指して歩き続ける。しかし、一つの怒号が彼の行く手を邪魔する

 

 

「いたぞ!貴様ぁ、タダで帰れると思うなよ!」

 

「まだいたのか...私は急いでいる。そこをどきたまえ!」

 

 

再びディスクは起動する。決闘(デュエル)開始の宣言がまた響いた

 

安山への報告は一体いつになるのだろうか

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部 / 午前4時41分

 

 

「安山総帥、聖帝にガルナファルナの増援が現れた模様です...っ!」

 

「止むを得ん、待機している他の班も聖帝大学に向かわせ給え」

 

「はっ!」

 

 

この時、まだS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部の者達は未だLL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)の真の目的について何も知らない

 

唯一知る大神と連絡がつかないのだから仕方の無い事なのだが、彼らが知らない間にも事態は一刻と深刻な状況に陥りつつあるのも事実だ

 

だが、嫌な話ばかりでは無かった

化野が例のカードショップから帰還してから少し経つが、どうやら解析は早くも終了しているらしい

 

いつもの様に自身のノートパソコンを大事そうに抱え、大泉が安山の元へ現れた所だった

 

 

「総帥、例の決闘(デュエル)ディスクの解析が終了しました」

 

「報告を」

 

 

安山がそういう前から大泉はデスクトップを開いていた。またよく分からない画面を見せられるかと安山は身構えたが、それは案の定よく理解できないデータの羅列だった

 

 

「例の決闘(デュエル)ディスク自体は、型こそ少し古いものでしたが普通の造りでした。が、日本で確認されていないデータ...パッチと言うべきでしょうか、それが組み込まれていました」

 

「それで?」

 

「そのパッチはカード情報の更新に関する物でした。通信時の表示画面に送られるイラストやテキストデータを全て消去させるものでした」

 

「だがそれなら通信相手の決闘(デュエル)ディスクに合わせてデータは更新されるはずだが?」

 

「通常ならその通りです。そこはアンカーのオフライン強制が関係しているかと」

 

「...なるほどな」

 

「奴らは相手にデータを送る際は不具合を生じさせ、相手から送られる更新データはオフライン強制によって受け付けない、という事です」

 

 

散々苦しめられて来た«цпкпошп»のギミックが判明したらしい。

 

要はデータベースを更新させるか否かの話だ。アンカーのギミックについては既に判明済みだ。全てを管理するデータベースの存在があるにも関わらず、カード情報が更新され無いのにも納得がいく

詰まるところ都合の悪い更新は行わないパッチなのだ

 

明るみに出れば簡単な話だった

 

 

「対処方はどうなっている?」

 

「解析が済んでいるので今から始めた場合は30分以内には対«цпкпошп»パッチは完成するかと」

 

「...どういう意味かね?」

 

 

何か含むような言い方に安山は疑問の槍を挟んだ。30分かかるのならそう言えば良い

 

 

「実は...その例の決闘(デュエル)ディスクにはもう1つ適用されていないパッチがありました」

 

「適用されていない...入れるだけ入れてあったという事か?」

 

「はい。それこそが対«цпкпошп»を担うパッチでした」

 

 

2つの未知なるパッチが導入されていたという事

それが最近できたばかりの、本当に運営されていたかも曖昧な店舗に置かれていたとなるといよいよ意味が問われてくる

 

誰が何の為にそんな事を?

謎は深まるばかりだが、大泉はその対«цпкпошп»を担うパッチの正確性について続けた

 

実際の決闘(デュエル)でのテストは勿論、その道のスペシャリストを混じえた解析も充分に済ませたとの事

 

だが直ぐにS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の戦士が使用する決闘(デュエル)ディスクに組み込むための処置は未だ模索中らしい

 

 

「ですがここからが...灰田光明が所持していた代替え機にもそのパッチは組み込まれていました。ですがその後に支給したS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のディスクには勿論そんなパッチはありません」

 

「...だが灰田光明はその後の決闘(デュエル)でも«цпкпошп»は無かったと言っていたが?」

 

 

大泉はもう一度パソコンの位置を変えた

この話がどうやらこのよく分からない画面に関係するらしい

 

 

「はい。ですが調べてみると...我々が彼に支給した決闘(デュエル)ディスクにも同じ信号が送られる様にシステムが変わっていました...」

 

「...そのパッチは入っていないのだろう?」

 

「はい...ですがこれは最早組み込まれているのと同じ様なものです」

 

「なんだと...」

 

 

次に大泉が指さした枠内のデータは、先程見せられたものとも対処変化はないものだった

 

そもそも3つあるうちそれらに大きな変化はない

波線で現せられた何かの波長のようなものだった

 

 

「彼自身の別神経にも似たような波があります...どうやらこのパッチが組み込まれた決闘(デュエル)ディスクを使用した決闘者(デュエリスト)にこの特殊な信号が...その」

 

「...”伝染”する、かね?」

 

 

その言葉が相応しいのか判断し兼ねるのか大泉は不承不承といった具合で頷いた

 

突飛な話だからだろうか

使用者の体にまで伝染するパッチ等聞いた事もない。彼らが言葉を選ぶのに苦労するのも無理は無かった

 

 

「ー以上です。既に月下に向かった決闘者(デュエリスト)達に支給するにはまだ難しいですが、この伝染が解明できればもしかすると...」

 

「.....分かった。最悪新たに人員を派遣し、手渡す事も視野に入れ進めて給え」

 

「了解しました」

 

 

大泉にそれを命じると、«цпкпошп»についてひとまずは解決したと言えた

 

«цпкпошп»を打破する力は手にしたも同然

灰田がもっと早くこれについて伝えていれば、既に送り出してしまっている戦士達にこのパッチが渡せたかもしれないとも過ぎるが、過ぎた欲なのだろう

 

そして大泉にはもう1つ重要な役割がある

月下で単独行動を続ける慎也のサポートだ

 

あれから連絡がつかないとの報告は受けたが、諦められることでは無い。直ぐにでも安否を確認したい安山はそれを急かそうと口を開きかけたが、本部への通信がそれを妨げた

 

 

「...安山だ」

 

《ガガッ!こ...ザッ.....ちら大神忍!》

「総帥!!」

 

 

大神の声が遠いと顔を顰めていると、今度は白衣の男が安山の元へかけてきた

 

辛うじて聞こえた大神の声も、今目の前で汗を流している男も同じように焦りを抱えている

 

 

「...先に大神の報告を聞く、しばし待ち給え」

 

「はぁ...はぁ.....は、はい」

 

《.....ザザ...こちらはLL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)の目的が分かりました》

 

 

白衣の男に待機を命じると、先ずは大神の声を求めた

 

が、耳に入る情報は思わず顔を顰めてしまうものばかりだった

 

六重の囮作戦

次元を繋げる

日本との戦争

 

序盤に聞こえた幹部の洗脳等どうでも良くなるほどに事態は悪化していた。あと数分もすれば送り出した戦士達が月下に辿り着くが、このままでは奇襲が可能だというアドバンテージ等無いに等しい

 

だが幸いにも聖帝への増援は派遣済みだ

大神に一任する形にはなるが、何とか殲滅出来ればまだ勝機はある

兎に角日本か月下、どちらかに明確なヴィジョンが見たい。このままどちらも後手に回り続けるのも、指揮をする安山すら持たないからだ

 

 

「そうか...分かった。そちらは大神忍、君に一任する。何としてでも夜明けまでにガルナファルナの部隊を殲滅せよ」

 

《...了解》

 

「あっ!大神さんにも私の報告を!」

 

 

白衣の男の話に耳を傾けるために大神との通信を切断しようと安山が指を伸ばした瞬間。その白衣の男が保っていた沈黙を自ら破り捨てた

 

一刻を争うのは彼の報告も同じらしい

大神にも聞こえるよう通信の音量を操作すると、安山は顎で報告を催促した

 

 

「希望の件についてです...」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

◑聖帝大学-学園長室 / 午前4時51分

 

 

「...な、なんだと?」

 

《ですから...》

 

 

報告が聞こえなかった訳では無い

とてもではないが信じられない話に自身の聴覚すら疑ってしまっているのだ

 

それを汲んだのか、研究員の男は端的に、結論だけを再び口にした。大神の生徒でもある、我が日本の希望の今についてを

 

 

《月下にいる希望付近に規格外の決闘力(デュエルエナジ-)を観測しました。今まで見たことの無い災害が予想されます》

 

「村上君は無事なのか...?」

 

《あまりに大きな規模でして...希望の反応が読み取り難く分かりません...日月戦争に支障をもたらす可能性が大きいです》

 

 

災害をもたらす決闘力(デュエルエナジ-)

慎也が初めて降りたエリアにもハリケーンが発生していた...いやさせていたのだ

 

可能性はあった

単独行動を続ける彼が意図せずそれに巻き込まれる危険性は

 

 

「こ、こちらの増援は必要無い...希望の救出を優先してくれ!」

 

《そ、そんな直ぐには派遣できませんよ!》

 

「こちらは私で充分だ...頼む...」

 

 

その報告は聞きたくも無い事に加え、今の大神はそれを聞いて何かできる訳でもなかった

無意識のうちに通信を切ると、途方にも暮れていた

 

先程の幼稚な願いに疑問を抱くこともせず、複雑な呼吸をするばかりだった

いつもの冷静な彼なら月下で一人どこかに居る慎也を助けろだ等と無茶は言わない。疲れに加え、罪悪感もあるのだろうか

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

 

どっと疲れを感じる

自分がどれだけ必死に戦おうと、全て無駄なように感じてきていた

 

敵の囮作戦を見抜けなかった

日本を任せさせ、月下に送った希望の安否も不明

最終目的である人質の奪還等この調子で可能なのだろうか

 

 

「...いや」

 

 

大神の答えは、前に踏み出した右足にあった

 

進むのだ

今出来ることは今この地を土足で踏みにじる野蛮な輩の排除だ

それが済めば直ぐにでも月下に行くのだ

そして若き戦士達に加勢するのだ

止まるな、一分一秒も惜しいのは分かっているはずだ

 

自分自身を叱咤するように重い足を何度も前に出し続けた。学園長室を後にすると、外への道にでた

 

 

「ハァハァ...」

 

 

長い廊下を1人の初老が行く

 

限界はとうに迎えており、荒い息遣いで重い足を動かしている

 

 

「ハァ...ハァ...グッ!」

 

 

足がもつれ壁に手を付いた。苦しそうな表情で胸を抑えている。息を整える暇も無く、壁に手を付きながら再び移動を始めた

 

 

「...早く、しなければ...!」

 

 

初老の男性が行く廊下は、まだ先が長かった

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)-刑事部 / 午前4時50分

 

 

「...やはり映っていませんね」

 

「......チッ」

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部

化野が主に活動する刑事部のとある一室は急遽察知されたテレビで随分狭くなっていた

 

八皇地駅にある例のカードショップについて彼らは調べている。ショップ内の監視カメラはハリボテだったため、街中の監視カメラの映像を若い衆が必死の形相で改めているようだ

無論そのための部屋も設備もあるのだが、少なくのもこの5日間の映像を全て確認するだけでもモニターの数が足りなかった

 

どんな人物がそのカードショップを運営していたのか、顔だけでも映っていれば少し早いのだが、不気味な程に店主や店員の姿が映っていないのだ

 

 

「市役所にいった奴はどうした」

 

「もう少しかかるかと...」

 

 

既に化野は映像に頼るのを諦めている

彼が求めているのは市に提出されたであろう営業許可証や、土地の登記事項証明書のようなもの

 

商店街の外れとはいえど、あのカードショップは駅周辺のいい立地にあった。土地の所有者と建物の所有者は恐らく異なっているだろう

 

故に前者への期待が比較的大きかった

決闘(デュエル)ディスクの修理や代替え機の貸付まで行う店舗の開業はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)下請けによる厳しい審査の上にあるため、偽名等は使う事が出来ない。つまり信用出来る情報があるはずなのだ

 

そしてその情報を得るのも難しくはない

明け方だが非常時だと無理やり協力させればいいだけの事だ

そんな事を思っていると化野の端末に通信が入った

やっとかと舌打ちをしながら耳にあてがった

 

 

「分かったか」

 

《は、はい!》

 

 

すべての過程を捨て去り結論を急かす口調に部下は戸惑いつつも返答をする

だが化野が聞きたいのは彼の声では無く、得た情報、あのカードショップの運営者についてだ

 

舌打ちをもう1つすると、部下の方から恐る恐る語られた

 

 

《あっ!えと、許可書を申請した人物の名前が分かりました!》

 

「時間がねぇんだ、早く言え」

 

 

名前が分かるのなら本部のスパコンと照らし合わせ、決闘者(デュエリスト)としてのデータを決闘(デュエル)ディスク越しに探す事ができる

 

今どき決闘(デュエル)ディスクを持たない、決闘(デュエル)をしない人物は多く無いし、カードショップを運営するぐらいなのだから先ず決闘(デュエル)ディスクを登録しているだろう

 

苛立ちを声に乗せながら再び催促すると、部下は自分自身も信じられないように続けた

 

 

《えと、”海堂晶”という男です。保険証のコピーも控えてあります》

 

「......なんだと?」

 

 

冗談を言う時ではない

いい加減怒りに近い感情が沸き立つのをその身で感じながら化野はまた舌打ちをする

 

海堂晶だと?

そいつが許可書を申請するはずがない

 

その言葉を端折って化野は否定するための材料を得るために質問を繰り返した

 

 

「...申請日はいつだ」

 

《丁度一週間前、6月20日の火曜日です!これで例のショップについて分かりますね!》

 

「...ハァ」

 

 

申請者の名が判明し、謎のショップについて何か分かりそうだ

が、化野は浮かない表情を浮かべている

 

それは何故か

その海堂という人物について調べることは可能でも、本人に会うのは非常に難しいからだ

 

化野は知っていた

恐らく一部の人間、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)関係者以外でも知る人ぞ知る出来事が関係しているのだ

 

化野は気だるそうに部下へ

 

 

 

「...海堂晶は丁度その日に捜索願が出されている。それから今も尚行方不明だ」

 

 

オーナーは行方不明者

振り出しに戻るどころかまた謎が増えるだけだった

 

気がつけば化野は火をつけたばかりの煙草を握りつぶしていた。熱による痛みよりも、謎が晴れない事による憤りが優っていた

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

◑聖帝大学構内 / 午前4時56分

 

 

 

.......どれ位歩いたのだろう。後ろに目をやるとその考えがおかしくなるくらい長い長い道だった。途方のくれるような距離を歩き、その男性は心身共に疲弊しきっていた

 

「はぁ...はぁ...」

 

「いたぞっ!!」

 

 

やっと終わりが見えてきた頃、その方向から同じ服を来た集団が駆け足でやって来た

 

 

「ま、まだ...」

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)です!助けにまいりました!」

 

 

まだ戦えると力なく構えるが、どうやらその集団は敵ではないようだ

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が...なぜここに...っ!?」

 

 

本来自分を助けに来てくれた存在。しかしその男性は安堵よりも先に何かに気づいた様子だった

 

 

「君たちがここに居るということは...き、”希望”はどうしたんだ!?」

 

「...」

 

「私の事なんてどうでもいい!早く”希望”の救出に向かってくれ!」

 

「その事ですが...」

 

 

1人の若い隊員が言いにくそうに顔を顰めている。初老の男性の視線に耐えられなくなり、視線を外しながら続けた

 

 

「...残念ですが、”希望”の反応は消えました。間に合いませんでした」

 

「...なんだって」

 

 

月下に残っていた希望(慎也)の反応が消えた

それは死した以外に何があるのだろうか

 




はい、
三十八話、三十九話、四十〇話と十四〇話の伏線でした

章をまたがっていますね...長かった

ぶっちゃけどうですか?

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