遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる! 作:v!sion
◐月下-南側大通り / 午前7時30分
「結衣!」
南が倒れる様を少し離れた位置から確認できた友奈は走り出し、何とかさし伸ばした手が南の体と地面の間に間に合った
しかし何度呼びかけようが低い呻き声が帰ってくるだけ
やはり
「南さん!」
「余所見は良くないねっ!«цпкпошп»で攻撃だよっ」
「くっ...っ!」
島崎を庇うようにカムイの前に出ていた優介も、本当ならば今すぐにでも友の元へ駆け寄りその目で安否を確認したいものだった
しかし目の前の
それもそのはず
縋る気持ちで応援を急かしたものの、帰ってくるのは妙な雑音だけ
意味もなく辺りを見渡してみても、見慣れた敵ばかり
ここまでか
南側の戦いに貢献出来なかったことを悔やみ俯くと、誰かの足音が耳に届いた
「...おやっ?」
「あら」
「...」
「あ...あなた、は?」
その男はくたびれたスーツを着崩し、細い眼で優介達を見渡している
左手には随分燃えた煙草があり、彼が辿った軌跡に小さな灰が舞っていた
誰もが無言だった
新たな増援かと身構える
やっと現れた
謎めいた沈黙を破ったのは、優介とアンカーで繋がれているカムイだった
「おやっシッド君、こっちに来たのかいっ?」
「あー、人手がたんねーのは
白のスーツを灰で汚しながら現れたのは
残された若き戦士にとって、駄目押しという言葉も形容に値しない絶望だった
ーーー
ーー
ー
???-??? / 午前6時19分
「本当にこっちにいるんだな?」
《うん!》
時は少し遡り、北の大通りでも無く南でもない月下の何処か
ここからだと本部がもう見えなくなる程の距離。来た南の戦地から随分離れた位置で2人の男女が道を急いでいた
1人は強面の巨漢な男性
片腕には
その男性はもう1人の女性の導きに従って何処かを目指して歩を進めている
彼が何者で何が目的なのかは、今月下にいる人間でも極少数のものしか分からないだろう
《急いでください!》
「あぁ、だかまさか本当に...」
謎めいているのは男性の方だけでもない
その男性の前を歩いて...いや浮遊して移動するのは明らかにこの世のものでは無いそれだった
しかし容姿はまだ幼い少女
男性の
《見えた!あそこあそこ!》
「何...いやあれはどう見ても...」
目的地に到着した
しかしそこには大地が存在しなかった
荒れ果て崩れ壊れた大地だった物が地面に乱れている
余程大きな地震でも疑うような破壊後だ
「何があったらこんな事に」
《彼の
「そうか...だが」
口振りから探し求めているのが”誰か”という事も分かる。しかし生存等希望の果てにも生まれない程に荒れていた
少し下を除けば漆黒の闇
一体何処まで続いているのか検討もつかない奈落がここにある
落下したのならどんな力があっても死は免れられない。精霊の言葉があっても生存は信じる事出来ないでいた
「...」
《諦めちゃだめ!まだ生きてるの!》
「そうか...なら」
《あぁ!まってってば!》
男性は何を思ったのかその奈落へ自ら身を投げなどそうと足を踏み入れた
足の踏み場が現れるまで降りていくつもりで居たのだが、それを後押ししたはずの精霊にシャツを引っ張られ止められた
ならどうすればいい
ため息を挟んでから講義の言葉を準備して振り返ると、そこにはその精霊とは別の女性が共にその男性のシャツを引っ張っていた
《危ないから行っちゃだめ!》
《し、下まで行かなくて平気ですから!》
「...誰、だ?」
《あっ!私の名前ですか?やっぱりみんな知りませんよね...私は...って今はそんな場合じゃありません!この人をっ!》
1つの質問に予想よりも長い答えだった
そして結局正体が分からないままその女性は自らの用件を口にする
だがそれについては語らなくともすぐ合点がつく
傍らに倒れている血まみれの青年
その彼こそが探し求めていた”誰か”だったのだ
うつ伏せで顔を見えず衣服も特殊なものだが、それでも男性にはそれが誰なのか分かる
「まさか本当に...無事なのか?」
《はい。ですが早く適切な処置を!私ではそこまで致せませんから》
「あぁ、分かった」
それだけ答えると男性は器用にその青年を方に担いだ
ここまでの移動方法は徒歩だ
ならば無論帰りも徒歩
行きよりも随分と荷が重いと覚悟もしたが、不意に目に入ったとある物体がそれを杞憂に終わらせた
一台のバイクだ
泥汚れや傷が目立つが、この荒れた地の上でも尚原型を保っていた
《あれは拝借したものです。多分動きますよ!動かせますか?》
「随分でかいが...何とかなる」
意識の無い青年を自らの肉体に括り付けると、男性は試しにエンジンをふかしてみた
整備が行き届いているとは言い難いが、走らせる事は十分だろう
「さて、戻るぞ」
《うん!》
《お願いします!》
戻る
その男性は傷だらけの青年と共に、ある場所を目指し進み始めた
ーーー
ーー
ー
???-??? / 午前7時19分
「...頃合いだな」
「何がですか?」
間接照明だけが灯りを主張し、古びた寝具と汚れた壁が生活感を醸さない一室
何よりも漆黒の牢がそれを後押ししていた
そんな異端な状況に身を置いているのは2人の男女
男性が沈黙に呟くと女性の方はキョトンとした様子で何が何だか分からないといった表情を浮かべた
しかし男性は質問に答えること無く、突然自分自身の指を口の中へと無理やり押し込み始めた
「うぐっ...がぁっ!」
「ちょちょちょ!なにしてはりますの!?」
痛々しい嗚咽と吐瀉物を備え付けのトイレにぶつけると、しばらく咳払いを続けた
最後に短く息を散らすと立ち上がり、彼らを束縛する牢へと歩き始めた
相変わらず何も説明を経ず行動に移している
最早言葉も無くし男性の背中を見守る事しか出来ないでいると、女性の耳に聞き覚えのない音が届いた
施錠を解いた音だった
「えっ...鍵?」
「出るぞ」
「その鍵何処で...?」
「飲み込んでいた」
「そうじゃなくて何処で手に入れてたんですか!」
その質問も答えられることは無かった
ただ一言「後で話す」とだけ残すと、仏頂面の男性は一足先に外へと足を踏み出した
ーーー
ーー
ー
◐月下-北側大通り / 午前7時37分
「...チッ」
化野は珍しく焦りを覚えていた
終盤にも差し掛かりつつあるこの戦争
お互いに戦力を消耗して来た中、このタイミングでの敵の増援
それも本部で孤立している秋天堂達の報告では力のある
日本にいる安山からの通信にも満足のいくような報告を返せていない
南側からの通信も途絶えている
「...俺は南に行く」
「え?ちょっと!」
誰かに言ったつもりは無い独り言に東野が反応するが、案の定それを無視して化野は重い足取りで乱戦に背を向け歩き始めた
彼が南側への加勢を選んだのには2つ理由があった
1つは彼が日本から月下に来た大きな目的、«цпкпошп»化解除装置を北以外の
2つ目は何よりも南側の戦力が足りていない事
劉輝によれば永夜河が先に向かってらしいが、優介の報告では
北の戦力を回すにも目の前には味方だったはずの
氷染と系谷
一次月下潜入任務に派遣されたプロ2名が何故か
「...これが洗脳か」
北をあとにする前に一度だけ彼らの姿を目に移した
すると劉輝と皇が氷染と形谷と退治している所だった
反対に皇達は土壇場で協力を仰いだ関係
彼なら大丈夫だろう
プロAランクの実力者にも対等に渡り合えるだろう
それは化野らしくもない願望に近いものだった
ーーー
ーー
ー
◐月下-南側大通り / 午前7時34分
「これは」
一方南側には永夜河がおっとり刀で到着した所だった
そして驚愕していた
突如現れた
対して
闘叶の南も優介も友奈も、暁星の島崎までもがその地に付して敗北を身で表していた
「おっ?新しい敵さんだよっ!グラスさん、シッド君」
「みたいだな、カムイの旦那に譲るぜ。俺は一服する」
「もうしてるじゃない」
こちらに気づいた
数が優っているからか、
やるしかない
何人が相手だろうと、誰が相手だろうと任された以上やるしかないのだ
そう決意した所で永夜河もディスクを構えた
やはり相手はカムイと呼ばれた男のようだ。糸目で笑みを浮かべながらゆっくりとこちらに向かってきている
「じゃあ...僕がお相手するよっ」
「構いません。誰が相手であろうと」
敵だらけに囲まれながらそれは始まると思われた
「...おや」
カムイが構えていたディスクを下げると、とある方向へ目をやった
永夜河にはそれの招待が見えなかったが、音で何となく何があるのかは理解した
バイクだ
何も無い方向からエンジンの音が聞こえている
「申し訳ないねっやっぱり君の相手は僕じゃないやっ」
「理解てきません。どういう意味ですか」
「それは」
突然カムイは振り返った
永夜河に背中を見せる形で彼はこれから来る何かへ顎をしゃくると無言に落ちる
永夜河も何があるのかと体を傾けカムイの視線の先を確認すると、いつの間にかこの地までやって来ていたエンジン音の持ち主達がそこにいた
随分と巨漢な男だ
その男はバイクから降りると大事そうにもう1人いた男性に肩を貸しながら歩み始めた
「あら、
「あぁ、知らねぇ顔だな」
シッドとグラスはその人物が何者か分からない様子だが、カムイと永夜河には分かっていた
永夜河は数時間前
カムイは数日前にその顔を見ていた
「君は...あのビルで皆木さんと一緒にいた子だねっ」
「貴方は
2人の視線を束ねる巨漢の男は口角を上げた
それは2人が記憶辿りに推測したことを工程すると同時に、何が歪な運命のようなものに嗤ったのだ
「永夜河と...カムイと言ったか?」
「やっぱりねっ、見間違うはずが無いよ!君みたいな個性的な人はね」
「確か聖帝の...えと」
名前までは思い出せない様子
永夜河は記憶力に自信があったのだが、どうしてもその男の名前が思い出せずにいた
そして記憶を探るうちに答えにたどり着いた
聖帝の
出発前の会議には参加していたが、安山に唯一名前を呼ばれていなかった人物
そして負傷していたため、直前までこの戦争に参加するかどうかすら分かっていなかった人物
名前を聞くタイミングかどうかも分からずに永夜河が困っていると、その男性は自らをな乗り出した
「そうだ、聖帝の...渡邉だ。渡邉速之、よろしくな」
渡邉速之、聖帝のアロマ使い
一次日食では皆木や他の生徒を死守するため自らが
まだ松葉杖の力を借りていたものの、秋天堂らと共にトラックに乗り込み月下まで辿り着いていた男
「渡邉さん、ですね。ですが今までどこにいらしたのですか。北にいたと伺っていましたが」
「すまないな、勝手に外して」
理由を答える代わりに渡邉は左手に担いでいる傷だらけの青年を見えるように主張した
永夜河にとってはどこかで負傷した
「やっぱり...やっぱりねっ!」
「あら...」
「ほう」
カムイが嬉嬉とした声を上げると、その声が響いたのか青年は低く唸った
意識はあるようだが、遠目から見てもその傷は酷いものだった
衣服は泥だらけ
頭髪は黒い塊がいくつか見える
左肩には何周も巻かれた包帯があり、右目にも同じ事が言える
真っ黒な血で染まり、あるはずの眼球による膨らみが無い
その慧眼の青年がゆっくりと顔を上げると、カムイは子供のような笑顔で彼に拍手を送りだした
「素晴らしいっ...素晴らしいよっ!”君”は本当に生きているし、何よりもその異端な
「ぅっ...うぅ......」
「大丈夫か?」
カムイが言う異端な
1人は渡邉の頭に座る小さな少女
もう1人はその慧眼の青年の肩に手を添え、体を案ずる緑髪の女性
いずれもこの世のものでは無い
「その子はジャスミン、そしてその子はスフィアードだねっ?」
《えぇっ!私達のこと見えてるよ!?》
《私の名前を知っているなんて.....っ!》
ジャスミンは言わずもがな渡邉に宿った精霊
そして残るスフィアード、[ダイガスタ・スフィアード]はその慧眼の青年に宿る精霊だ
反応こそ違えど、とにかくカムイには彼らの精霊の事をしっかりと認識出来ていた
一次日食の時もそうだ
慎也のシエンや詩織のシザー・タイガーが見えていた。そう言う人間もいる。それは草薙家に仕える蒼助もそうだった
「こ..ここは...っ!」
青年が意識をハッキリと取り戻した
まずは状況の変化に戸惑い、そしてカムイの顔を見ると驚愕に変わった
「カムイ.....っ!」
「久しぶりだね...」
カムイは嫌らしく笑みを浮かべると
その青年の名を叫んだ
久しぶりの再会を素直に喜ぶような声色だった
「村上...村上慎也!」
「カムイ...詩織ちゃんを......よくもっ!」
ぶっちゃけどうですか?
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読みたいからやめて欲しくない
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読みたいけど無くなったら読まない
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普通
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無くてもいい
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読むのが億劫