遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる! 作:v!sion
◐月下-南側大通り / 午前9時24分
化野side
「終わったな」
「...」
銀の少女がシッドを屠った時、
咥えている煙草の長さから、つい先程火をつけたばかりのようだ
「...こっちは殲滅した。医療班のトラックを一台よこせ」
《は、はい!》
早すぎる勝利の報告になんの優越感も持たず、化野は端末に告げた
しかし南側だけで随分と被害を出してしまった
敵戦力の分断は上手くいったが、プロ1名に精鋭6名も倒れた
だが敵幹部3名を打破できた
残る幹部1名と、何故か敵に回り北にいる氷染と形谷。さらには
「...行く」
「道知ってんのか」
「知らない、けど」
銀の少女はまるで化野の言う事を聞くつもりが無いらしい
何か目的があるのか、
道を知らないと言う割には真っ直ぐ北川をめざしていた
「知らないけど分かる...この子が導く」
「...そうか」
*
◐月下-北川大通り / 午前9時31分
「俺は秀皇の劉輝透織だ」
「あ、俺は聖帝の村上慎也...です」
随分と気の抜けた邂逅だった
敵の軍勢を目の前にしてまずは自己紹介から始まるなど、
しかし実際にそうだった
御丁寧に挨拶する事を擁護する訳では無いが、慎也と劉輝は初対面も初対面
赤いブレイズヘアーの劉輝と、白と黒のこれと言った特徴の無い髪型の慎也は何処と無く気まずげに言葉を交わした
慎也に至っては名前すらも知らなかった
が、劉輝は本部で本当に名前だけは知っていた
「あんたが村上慎也か...生きてたのか」
「何とか...です」
続きの会話に困った慎也はふと
するとそこには顔なじみが居た
いつか再会出来ると朧気に信じていたが、まさかこんな形になるとは
共に戦うはずだったプロ
全滅したと聞いていた
「氷染さんに...形谷さん!?」
「ふふふ」
「...村上?」
一次月下潜入任務で共にこの地まで来た仲間
頼れる先輩とも表現できる
荒くれるタイフーンを突き抜ける形谷のドライブテクも、勘違いしてしまいそうな程魅力的な氷染の指先も、まだ昨日の出来事だった
「どうして...なんであなた達がそこに!?」
「ふふふ...そんなに怒らないで」
「どうして...だったかな?」
嫌になるほど自然体だった
おっとりと言葉や感情を交わすような氷染の態度も、何処が抜けている子供のような形谷の言動も
もはや疑う事も無い
これがこの戦争に至るまで、現在にまで苦しめられてきた最凶の技術、記憶操作もとい洗脳なのだ
《あの時日本に残ったプロの鬼禅、山本、灰田、近藤は全員一次日食の後私が直接観た。何れも内通者でないことが分かっていたため日本に残したんだ》
《氷染、編風、形谷は確認できていなかった。だからこそ月下に送ったんだよ》
いつかの大泉との会話
あの時は内通者の炙り出しの為だけに氷染達をいたずらに失ったと憤慨もしたが、今こそそれら全てが間違っていたことが分かる
氷染達は内通者では無かった
しかし味方でもなかった
そしてその事を認識するしていなかった
これが洗脳
「...そういう事だったのか」
カムイの言葉も思い出した
その中に氷染達のような
初めは単純な
しかしそれらを知らしめた今その洗脳済みの
答えはあった
「...」
「なんだ、やるのか?」
しかし氷染達と戦う意味も無い
結局は
ならば踊るまでだ
そう決めたのは数分前渡邉と離れた時
用意された台本だろうと、倒す必要も無い敵だろうと演じると決めたのだ
彼もまた
「...やる気があるのは結構だが」
慎也が前に出ようと2歩目を上げた時、劉輝が慎也の肩を掴み、とある方向を指さした
それは新たな
同窓会でもあったかと皮肉りたくなるような再開の連鎖だ
「あ...あれは...」
「多分、あの二人もだろ?」
劉輝が警戒しているのは2名の男女
真っ直ぐこちらに向かって歩み寄っているその2人に劉輝は見覚えが無い
しかし慎也はある。そして何となくだが慎也と面識がある事なら劉輝は知っていた
氷染と形谷が居るならこの2人も勿論月下にいるはずだった
だが考えたくも無かったのだ
これ以上敵への増援が現れるのを
「い、一ノ宮さん...編風さん...っ!」
「...なんて顔してやがる」
「ほんまほんま」
一次月下潜入任務で絶対の潔白を持っていた一ノ宮までもが現れた
これであの時の5名が慎也を合わせて揃ったのだが、状況は最悪だ
今この場にいる精鋭をこの4人のプロにぶつけた所で
このままではいつになったら本部に辿り着くのだろうか
「一ノ宮さん達まで...くっ!」
「何を抜かしてる。久しぶりの挨拶がそれか?」
「....一ノ宮さん、皆さん...今俺が!」
「おい」
予想外の痛みがつむじ付近に走った
本気では無い
本気では無いが確かに痛みを覚える一撃だった
眼帯や包帯に包まれ、見るからに痛々しい慎也を気遣ったのか何も無い頭を軽く小突くだけに済ましたのだろうが、意味が分からなかった
いつの間にか近くまで来ていた一ノ宮がやったのだ
いつも通りの不機嫌な顔で慎也を見下していた
「っ!」
「身構えるな、いい加減にしろ」
「一ノ宮さん、これ洗脳されとると勘違いしてはるわ」
「...え?」
洗脳の有無は判断出来ない
現に眼前の氷染達や、日本に残る鷲崎の部下のように対応出来てこなかったのが証拠だ
だが何故か慎也には一ノ宮達にそれが施されていないと感じた
そしてそれは事実だったようだ
「...洗脳されてないんですか?」
「そうだ」
「...ぶ、無事だったんですね」
「今更気遣うな」
戦うつもりで一杯だったのだが拍子抜けだ
そもそも洗脳を経て敵として現れたのなら
アンカーを使用する素振りも無く、ただ慎也と同じようにいつの間にか対峙していた氷染と形谷に向いている
氷染達が
何も語らないが、一ノ宮が彼自身の手で止めようとしているのが伝わった
「村上、俺に譲れ」
「...一ノ宮さん」
「ウチもな!」
慎也と劉輝の前に出るよう一ノ宮と編風が進んだ
狙いはかつての仲間である氷染と形谷
そのカードに異議を唱える者は誰もおらず、強気な劉輝や一樹も黙って身を引いている
「お前は行け」
「...え」
「ウチらも途中から通信聞いてたんやで!彼女ちゃんトコいってき!」
「...」
時間が許されればもっと話したかった
あれからどこに居たのか、どこまで事態を把握しているのか、本当に無事なのか
だが慎也の信念が一ノ宮に
いや
なら我儘でも何でも貫こう
頼れる諸先輩方がお誂え向きに道を開けているのだから
あとはどのタイミングで利き足を前に出そうか
そんな事を考えていると控えめに声をかける女性が現れた
「村上さん」
「...草薙」
「ご無事...とは言い難いですわね」
「草薙こそどうしてここに...」
感動の再会とはいかなかった
敵地での戦争の最中にある事は言わずもがな、草薙と慎也は今に至る前に契りを交わしていた
それは無事に帰ってくる事と日本に残る事
しかし慎也は五感の1つにもある視力を失い、草薙は日本を飛び出し交戦に身を任せている
「...」
「...」
複雑な心境だ
だがお互い地に足つけて再会出来た事には安堵していた
だとすればそれだけで十分だろうか
「...いよいよですわね」
「うん」
約束を引き裂いた事を咎める必要もない
意思の確認も今更だ
「なぁ、村上」
「ん?」
劉輝もまた常に通信を耳にしていたため、カムイの語った内容も全部把握している
慎也が何を目的に本部に行くのかもだ
「お前よ、彼女助けるためにこんな事してんだって?」
「少し語弊あるけど...そうだよ」
「...そうかよ」
劉輝が見ているのは慎也の眼帯や夥しい包帯
一度は死すらも覚悟していた
だが、そのために払った対価や通り抜けてきた修羅場は彼の痛々しい体が物語っている
そんな慎也を見て感じたのは島崎の事だった
彼女を巻き込まないため等と抜かし、自己犠牲でこの戦争に参加した島崎の事だ
劉輝は否定的な意見を隠さずにぶつけたのだが、それも考え直させられた
南側からの通信が途絶えたのは随分前に感じる
島崎も最期まで戦い抜いたのだろう
生半可な考えだと一蹴したのを少し後悔していた
「...絶対に助けてやれよ」
「うん...っ!」
口にしてみるとこそばゆく恥ずかしかった
だからそれを誤魔化すように慎也の背中を叩いて無理矢理会話を終わらせる事にした
これ以上そういった感情論は充分だった
島崎には全てが終わったら労いと謝罪の言葉をかければいい
そして託しても尚散ってしまった永夜河は思いっきり抱きしめてやろう
「...結構来るもんだよな」
正直不安で仕方ない
永夜河でも通用しないような敵など相手にもしたくない
何よりも今も冷たい大地で眠っているであろう永夜河の身体が心配だ
早く終わらせなければならない
そのためには自分はここで
「...俺がやるよ」
「え?」
日本に貢献するつもりはなかった
だが気づかぬ間に知らない愛国心のようなものが彼の背中を押していた
「行ってこい、村上!」
「あ、うん...っ!」
北の乱戦が再開した瞬間
覚束無い青年の足取りを阻むものは何も存在しなかった
早くもアンカーを氷染に放つ一ノ宮を
1秒でも長く戦おうとする草薙を
背中を押してくれた劉輝を
そういえば何も話していなかった西条を追い越して走った
やがて意図的に慎也を見ようともしていなかった一樹の背後まで辿り着いた
本当なら何か再会の挨拶ぐらいはしたかったと過ぎるが、一樹にはその意思が無いのだろうか
「...チッ!慎也ぁ!」
「えっ」
突如響いた怒鳴り声は慎也を呼んでいた
しかし足を止めることが出来ない慎也は振り返るだけで答えた
すると何かが慎也目掛けて放たれた
咄嗟に出した左手が受け止めたそれは、ハードケースのタバコだった
慎也の愛煙するメンソールだ
「次死んだら殺すからな!」
「...無茶言うねっ!」
勝手に日本から持ってきていたのだろう
まだ開けたばかりだったと記憶していたが、箱の中には三本しか入っていない
相変わらず勝手な男だ
*
◐月下-
「...んっ」
1つの寝具を2人の少女が共有する一室
そこに愛くるしい言葉の切れ端が聞こえた
外は
「...外はもう」
片方の少女が寝息も立てずに瞳を閉じている中、もう1人は先に覚醒していた
呟いたのは戦争の事
まるで客人のようにもてなされ麻痺していたが、今まさに戦士達が
今の今まで熟睡出来た事すら疎ましく思える
そこに諭すわけでも肯定する訳でもないノックが響いた
無礼の無いようにと心がけた
「...はい」
「皆木様、失礼します」
名を呼ばれるまでまるで自分が皆木詩織である事を忘れていたのだろうか、詩織は曖昧な反応だった
現れたのはこれまた見飽きた黒色の男
白い衣纏う者達は
「もう、お見えになるかと」
「はい...え、誰が...っ!」
詳細など聞くのも野暮だ
誰がいつどこに現れるのかはもう知っている
慎也だ
待ち焦がれた存在がこの場所に来るのだ
「それは...」
「はい」
敗北や勝利を示唆するような表情では無い
ただ無機質に歪な礼儀で男は詩織に向かって短く告げた
「間もなくこの戦争も終わります」
ぶっちゃけどうですか?
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読みたいからやめて欲しくない
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読みたいけど無くなったら読まない
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普通
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無くてもいい
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読むのが億劫