遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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影六武衆楽しい

部屋に飾るように[ハツメ]と[リハン]、[影忍術]と[フウマ]があと二枚ずつ欲しいです。


第五十話  Heavy-Heart

詩織を抱えるカムイは背中で慎也の罵声を受けていた。目的の曲がり角を進むと、そこには待機させていた大勢の部下が息を殺している。

 

無言のままその軍勢の間を通ると、初めて後ろを振り返った。何かを期待していたような表情を見せたが、すぐにいつもの笑顔に戻る

 

 

「.....仕方ない、待ってるよ。我が母国、"月下"でね」

 

 

誰に話すわけでなく、虚空に呟いた。

そしてその声の主は、詩織と共に闇に消えていった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数秒後の出来事だ、慎也そこに姿を現したのは

すぐ前にカムイを見送った大勢の«цпкпошп»勢力を前に絶望の表情を見せた

 

闘志に燃えていた瞳が色を失うのに時間はかからず、既に敗色は濃厚だった。

 

 

 

3人相手を前にしても動じなかった慎也だが、今目の前にいるのはその10倍にも届くような勢力。

 

勝てるかどうかではない、敵の組織の規模を測ろうとしていたのが馬鹿らしくなった。

 

 

 

「...あぁ!作戦は成功だ!」

「さっさと俺らも...」

「俺が最初にやるぜ!」

 

「.....」

 

 

 

 

勝てるかどうかではない、詩織の元へまで果たして間に合うか。連れ去ったカムイの姿は既に見えない。己の無力さを噛み締めるのも馬鹿らしい

 

 

 

 

「なんだ?こいつビビっちまって声も出せねぇのか?」

「...決闘(デュエル)しないならそれに越したことは無い、さっさとこいつも...」

「駄目だな。こいつは俺らの仲間を何人も...ここで確実に仕留める!」

 

 

「......もう」

 

 

 

構えかけていたディスクを下ろした

彼には戦う気が見えない。

 

それでも戦いに飢えた大勢の怒号が青年の注意を引いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎也ァァァァァァァッ!!!」

 

「きみ!止まれって言ってるだろう!」

「はぁ...はぁ.....なんて足の早い子だ...」

 

 

「な...おい!あいつら!?」

「チッ.....S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)か?」

 

 

「......え?」

 

 

あれだけの足音に何故今の今まで気づかなかったのだろうか。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が慎也と«цпкпошп»勢力が睨み合う曲がり角までたどり着いたのはすぐだった。

 

 

「...っ!慎也!大丈夫か!!?」

「は...灰田......」

 

「きみ!本当に勝手なことを.....で、君たちはなんなんだい?」

「お前達がこの子が言っていた.....報告は本当だったんだな」

 

 

「チッ...こんな早いとはな.....やるしかねぇ!」

「あのガキはいい!S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)からだ!」

 

 

「好戦的だな...化野さんに連絡を入れるんだ!」

「君たちは早くビルから出なさい!危険だ!」

 

「慎也、こっちだよ!」

「.....そっか...やっと来たのか......」

 

 

 

灰田に手を引かれ四歩五歩下がった。変わりに国が定めた制服で揃えた大人達が前に出ていった。慎也の理解が追いついた頃には既に何名かが決闘(デュエル)を始めている。

 

例の如く光の糸で繋がれており、«цпкпошп»側から挑んた事が分かる

 

 

「慎也!何ぼーっとしてんの!?皆木は!?蛭谷は?黒川は?知樹は?」

「......西条も心配してやれ」

「で!?西条はどこに行ったの!?」

「......」

 

 

灰田に引っ張られながら重い足を動かす。

足だけでなく、灰田に今までのことを話している口も重かった

 

再会は出来た、でも負けた

 

たった今目の前で連れ去られた

 

 

それを聞いていた灰田は珍しく狼狽の色を見せた

 

 

「えっ.....連れ去られたって...どこに!?」

「.....分かんない.....すぐ追いかけたけど...もう.....」

「なにやってんだよ!!」

 

 

灰田が怒鳴る

このビルに来てから多くの感情をぶつけられてきた

 

 

驚愕、不安、憤怒、疑惑、哀愁

 

 

その身で受けたそれらは消え去ることなく、慎也に積もっている

 

 

怒り狂う«цпкпошп»は特に多かった。友であるはずの灰田から新たに怒りの言葉が飛ぶと分かっていても、何も言えない

 

何も出来ない

 

 

縋るような気持ちで見た灰田の顔は、怒りと形容できるものではなかった

 

 

 

 

 

「なんで追いかけないんだよ!?」

「......え?」

 

 

 

 

 

...こいつは俺の話を聞いていたのか?

もう俺1人が走ってどうにかなる問題じゃないんだよ.....もうどうしようも...

 

 

 

 

 

「逃げられたなら追うんだよ!追いつくまで走るんだよ!」

「......でも奴らの技術は計り知れないんだよ、«цпкпошп»とか決闘(デュエル)の強制開始だとか......あんなに早く逃げられるわけない。きっとなにかまだ見せてない何かが......」

 

 

 

 

 

 

灰田、お前は何にもわかってないんだよ。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)がなんとか出来るわけでもない.....こんな下っ端達を倒してももっと強いヤツらがいる...そういうヤツらは...もう逃げたんだ......詩織ちゃんを連れて......

 

 

 

 

 

 

「慎也は何もわかってないよ!!」

「......は?じゃあお前には分かんのかよ、だったら教えてくれよ!俺に何が出来るんだよ!」

 

「何でもできるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

既に歩く足は止まっていた。

 

少し後ろでディスクが奏でる機械音が聞こえる

警察の守護対象である灰田らがこんな所で会話している事自体がまずい。

会話の雲行きも暗い

 

それでも2人の青年は睨み合う

 

 

本当の敵は他にいる、仲間同士で言い合いをしている暇は無い。それでも灰田は自分の思いをぶつける

 

 

 

「慎也は何でもできるよ!美味しいご飯作れるし、俺の散らかった部屋も片付けてくれるし、朝起きれない俺を起こしてくれるし、煙草吸ってるくせに運動だって出来るじゃん!英語の発音も上手いしさ!なんだって出来るじゃん!」

 

「......それはお前ができないから仕方なく...」

 

「そうだよ、慎也の事だから勝手に責任感を感じたんでしょ!?」

 

「......」

 

「部屋散らかしっぱなしだと兄ちゃんに怒られるから一緒に片付けてくれるんでしょ?大学に入りたてのころ、俺が遅刻繰り返して単位落としたから朝起こしてくれるようになったんでしょ?俺が慎也に合わせて少しレベルが高めの大学に入ったと思ったから必死に卒業させようとしてるんでしょ?」

 

「そんな...そんなの関係無いでしょ......」

 

「関係あるよ!慎也はいっも自分がなんとかしなくちゃいけないと思ってるんでしょ!?」

 

「...だってそうだろ!詩織ちゃんが連れ去られたのは俺が負けたからだ...俺が.....弱かったからだ......お前だってそうだよ、放っておいたらすぐラーメンばっか食べるし、朝は寝過ごすし、部屋は汚い。俺が居なかったら......」

 

「...」

 

 

 

灰田に説教されるとは思ってもいなかった。いつもと違う声のトーンも、違和感しか感じない。

 

 

「慎也は弱くないよ、俺だってこないだの講義中の決闘(デュエル)で久しぶりに勝ったもん」

「...」

「慎也は強いし、頭もいいし、優しいし、責任感ある良い奴なんだよ!」

「......俺を慰めてどうするんだよ......」

 

 

やっと灰田が笑った。散々見せられたカムイのそれとは違う、優しく素直な笑顔を見せた

 

 

「だから追いかけるんだよ!今はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は手一杯だから慎也が行くんだ」

「でも...」

「出来るかどうかじゃなくて!行きたくないの!?詩織ちゃんを助けたくないの!?」

 

 

 

 

 

 

 

「.....助けたい」

 

 

 

 

 

俯きかけていた慎也も顔を上げた。慎也自身もやるべき事が何なのか分かっていたはずだ。必要なものは後押しの一言だったのかもしれない

 

 

「ディスクの代替え機探して走ってた時もそうだったじゃん、とりあえず走って、走りながら考えてよ!」

「......どうやって追いつくかを?」

「走りながらって言ったじゃん!?ほら、いくよっ!さっきの場所だね!?」

 

 

 

再び灰田に手を取られ、走り出した。

その方向はさっきまで歩いてきた道、後戻りだ

 

気がつけば重かった足取りも軽い

 

 

...このアホに諭されるなんて

 

 

 

慎也は灰田の手を振りほどいた

 

そして加速を経て前に出た

 

 

「え?」

「そんなに足遅くないだろ、もっと早く走るよ!」

「...うん!」

 

 

慎也の後ろ姿を追う形になった灰田、例の曲がり角にたどり着くと、改めて戦場を目の当たりにした。

 

いざ戻ると、その空間は混沌としていた

 

殺意すらも感じる

 

それでも慎也は躊躇無く人混みに飲まれて行った

 

 

 

 

「...あ、こら君!早く逃げなさい!」

「よそ見してんじゃねぇぞ!」

「くっ...」

 

 

「...っ!灰田!」

「慎也!」

 

 

灰田は人混みの先に白黒の青年を見つけた。

慎也だ、灰田も少し無理やり人混みをかき分けそこまでなんとかたどり着く。慎也はそれを見届ける前に走り出していた。

 

 

少しずつ後ろで聞こえる戦闘音が遠ざかっていく

 

だが、まだそれが遠巻きで聞こえるほどの距離で慎也が減速し出した

 

 

「...」

「はぁ、はぁ...どうしたの慎也!?」

 

 

目を凝らせばまだあの戦場が見えるくらいの場所で、慎也が止まった。まだ気持ちに迷いがあるのかと不安そうに灰田が名を呼ぶが、どうやら違うらしい

 

 

「...カムイがどこに消えたかを考えてて」

「なにか分かったの!?」

 

 

灰田の質問に答える代わりに、慎也はポケットから携帯を取り出した。なにか操作する必要なく、電源を付ければ目的が遂げられた。

 

ビルに入った時見つけたビル内の見取り図だ

 

 

「.....やっぱりおかしい」

「それって...見取り図か何か?」

「うん、そもそも五階より下の階が非常口に繋がってない所もそうなんだけど.....やっぱり違和感が」

 

 

慎也は端末を覗き込む灰田に見やすいように携帯を傾けた。やけに広いビルだが、やけに壁が厚い。分厚いという表現も当てはまらないかもしれない

 

灰田が何か言う前に、慎也は壁に走っていた

 

 

「慎也?」

「.....」コンコン

 

 

壁には特に何も無い。それでも慎也は触れ、耳を当て、叩いていた。灰田も真似してみたが、よく分かっていなかった

 

 

「...?」

「...」コンコン

 

 

慎也はそのまま平行移動していた。まだ壁を叩き続けている

 

やがてある箇所で止まった

 

 

「...」コォン

 

「......ねぇ慎「空洞がある...」

 

 

答えが先に帰ってきた。ここまで言えば流石に灰田も分かったようだ。

 

「マジで!?隠し部屋って事.....?」

「もしかしたら.....っ!?」

「どうし「静かにっ」

 

 

先程同様言葉は遮られてしまった。慎也が何を考えているかは分からないが、仕方なく灰田は黙った。

 

 

........

.......

......

 

 

やがてなぜ黙らなければならなかったかも理解出来した。この壁の先に人の気配がする。

 

よく耳を凝らしてみると、衣擦れの音や、唸るような低音。話し声らしきものも聞こえた。

 

 

しかし、慎也達がいる場所からでははっきりと聞こえず、本当に隠し部屋があるかどうか断言しかねる。

声や物音もS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)達のそれかもしれない

 

それでも隠し部屋を疑うのには、やはり見取り図の違和感が根源となっていた。息を殺したまま、慎也は壁の探索を続けた

 

 

 

「......」

(あいつが姿を消すまでに時間はかかってなかった。いくら詩織ちゃんが小柄だからって担いで全力疾走は......)

 

 

こんな異質な境遇でも、慎也は自分の出来ることを探し続けた

 

そもそもインターンシップの説明会に来ていたはずが、よく分からない組織の襲撃を受け、謎の技術を目の当たりにし、命懸けの決闘(デュエル)を強要され、さらには大事な友も連れ去られている

 

 

 

「.....」

(特別大きな物音もしていなかった。それほど大掛かりな仕組みでは無さそうだ...)

 

 

 

ショックな敗北を経て、絶望の淵にのまれていた慎也も、今では冷静な判断の元に動いている。

 

だが、本当に冷静な思考だろうか

 

 

 

「...」

(一見壁に違和感は.....?)

 

 

見取り図を確認しながらゆっくりと壁を観察した。長い廊下のため、壁も比例して長く伸びている。次の分かれ道が見えてきた頃、一部壁が変色している箇所を見つけた

 

 

 

「...ここ、なんか変だな」

「えっ、そう?」

 

 

灰田から同意は得られなかった。それでも気になる慎也は手を伸ばし...

 

触れた

 

が、感触としては言うことは無かった。普通の壁だ

 

 

「...」

「......し、慎也!あれ!」

「え?」

 

 

盲点だった。勝手に目の前の箇所が開くとばかり考えていた慎也はすぐ隣の壁の変化に気が付かなかった。

 

灰田に促され目をやると、そこには壁はなかった。

 

まるで元から入口だったかのように、綺麗に壁が途切れ、奥に続いていた

 

 

 

「っ!...本当にあったのか......」

「うん...でも慎也なんで分かったの?」

「.....何となく変な感じがした。行こう」

 

 

 

慎重にあらたに現れた道を進む

 

今まで徘徊してきた廊下とは違い、薄暗く息苦しい

 

 

ろくに掃除されていないのか、床にはチラホラ染みや埃が目立つ。振り返ると先程までいた綺麗な床が見えた

 

名残惜しいが、今はこの汚れを踏みしみて進むしかない

 

 

 

「あ!カードだ!」

「カード?」

 

 

さほど進む事無く灰田が何かを発見した。

慎也も灰田越しにそれを確認すると、確かに遊戯王のカードがこれまた汚い机の上に広がっていた。

 

椅子は倒れ、チラホラ床にもカードが落ちている

中には踏みつけられたものもあり、よほど急いでこの部屋出たのだろう。

 

もしかしたら先程感じた人の気配は、今の今までこの部屋に誰かいた事を示唆しているとも考えた

 

 

 

 

「やっぱりアジトとして使ってたのか.....ん?」

 

 

手に取って見ると、どこでも手に入る他愛の無いカードだった。それは慎也自身も持っているカードだが、何かが違う。

 

 

「...薄い?いや柔らかい?」

「確かに!.....でもディスクに通るよ?」

 

 

試しにそのうちの1枚を灰田が自身のディスクにあてがってみた。決闘(デュエル)中でないため、カード内容のみの表示だが、問題なく機能した

 

 

「...いや、これ違法カードだ」

 

 

そんな灰田を尻目に机の引き出しなどを開けると、そこにはカードになり損ねたものがあった。

 

テキストや名前が書かれていない、イラストのみの紙

 

逆にイラストがあるべきはずの場所が真っ白なカード

 

 

中には大きさだけ遊戯王カードと同じただの金属板も見つかった

ここで違法カードの製造をしていたのだろう。同時に灰田が見つけたカードも違法なものだと推理した

 

 

 

「違法カードって.....最近よくニュースで聞くけどこんな感じで作ってたんだ....」

「なんでそんな団体が聖帝の生徒を襲ってるんだ.....いや、今は詩織ちゃんを!」

 

 

持っていた端末にそのカードらを写真に収め、再び走り出した。

 

敵の目的も知りたいが、自分の目的を見失ってはいけない。詩織の救出のため、まだ奥に進めないか部屋を見渡した。

 

程なくしてまた一層じめっとした通路を見つけ、奥に進もうと1歩踏み出した

 

 

 

 

それもイレギュラーの出現により遮られた

 

 

「...っ!?おい、貴様ら!そこで何をしている!?」

 

「し、慎也!」

「っ!」

 

 

先程慎也達が見つけた入口に1人の黒服の男が屹立していた。あらたに見つけた奥への通路に注目していた慎也は1つ反応が遅れてしまった

 

違法カードを隠している隠し部屋。それがまさか見つかるとは思っていなかったであろうその男は、既に慎也目掛けてディスクを構えていた

 

 

例の如く光の糸が飛ぶ

 

 

「どけ、慎也!」

「おい灰田!?」

 

 

それは慎也のディスクに届かず、代わりに灰田のそれと繋がれた。

 

灰田が慎也を庇ったのだ

 

 

 

「チッ.....ようやく撤退の命が出たというから来てみれば...違法カードまで見られてるじゃねぇか!もう貴様らは生きて返さん!」

「うるせぇ!慎也、俺が相手している間に早く!」

 

「灰田.....」

 

「早く!間に合わなくなるよ!?」

 

 

灰田は初めてこのオーバーテクノロジーを体感した。それでも光の糸よりも慎也に進軍を促している。

 

ジリジリと慎也の前に位置し、黒服の男と睨み合う。

そして激励の言葉で慎也を送った

 

 

「.....気をつけろよ、こいつら«цпкпошп»とか訳の分からない事するからな!」

「よくわかんないけど分かった!ここは任せろ!」

 

「あ、待て!」

 

 

敵の言葉に耳を貸さず、灰田を残して慎也は去った

ここから慎也は独り。詩織を求めて1人走り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

 

「......うぅ...」

 

 

1人の女性が身を覚ました

 

ゆっくりと瞬きをしていたが、まだ視界が曇っているようだ。何度か繰り返すとやっと元の視力を取り戻し、辺りを見渡した

 

不安定に揺れ、景色が勝手に変わっていく

 

自らか歩いている訳ではない

腹部の感触から、やっと誰かに担がれ移動していることに気づいた

 

 

「......ここは....」

 

「カムイ様、こちらです」

「はいはいーっご苦労さまっ!」

 

 

 

すぐ側で明るい声が聞こえた。

あまりにも近い

 

 

その時カムイがその女性を担ぎ直すために右肩を動かした。黙って担がれていたならば問題はなかったが、目を覚ましていた彼女はバランスを崩し、思わず声を上げて驚いた

 

 

「わわっ!?」

「んー?あ、皆木さん起きたっ?」

 

 

詩織の覚醒に気がつくと、カムイは丁寧に降ろした。まだ足がおぼつかない詩織に手を貸すが、まだ1人で歩けそうにはなかった

 

 

「まだ歩けないかっ、んー...ボクが担いでもいいんだけどねっ」

「......」

(そうでした.....私はこの人に...)

 

 

詩織が己の敗北を思い出した時、カムイが詩織から目をそらして部下らしき人物に声をかけた。その男がすぐ側のトラックに乗り込むと、代わりに女性が現れ、詩織とカムイの元へやってきた

 

 

「"バシュ"、彼女が"希望"だ、彼女の事はキミに任せるよっまずはトラックまでお連れしなさいっ!」

「......」コクッ

 

 

"バシュ"と呼ばれた女性はビルでよく見た男達と同じ、黒いロングコートを着用していた。明らかに異なる点は、フードを被らず顔や髪型まで分かる所だろう。

 

彼女はカムイ同様に他の部下と差別化されている。詩織がまだ黒川と同行していた時に出会った、初老の男も素顔を出していた。

 

隣にいるカムイもそうだが、なにか序列のようなものを感じる

 

 

「...村上さん」

 

 

分からない事だらけの中に詩織はいる。

自分の置かれている状況よりも、先に敗北した慎也の事が気になる。

 

最後に慎也の顔を見たのはほんの数分前のはずだが、異端の空気の中で恋しく思えた

 

 

「......」

「ひっ...」

 

 

ふと気がつくと、目の前にバシュの顔があった。

ハイライトの無い瞳は深く濁っていて、見ているだけで吸い込まれそうな色をしていた。

 

 

鼻先が触れそうなくらい近い

お互いがお互いの吐息を感じる

 

同性だが意識せずにいられない詩織は、黙って頬を赤らめるだけだった

 

 

「あ、あの.....」

「......」スンスン

「えっと........あの....//」

 

 

会話には発展せず、詩織が一方的に匂いを嗅がれていた。小刻みに上下する小ぶりな鼻先、後ずさりもままならない詩織はそれを見ているだけだった

 

よく見ると同じような黒いロングコートに見えたが、所々異なる箇所が見られた。

 

腹部にあたる箇所にポケットがあり、肩に当たる部分にはなにかのエンブレムが刺繍されている

 

詩織の手の甲がバシュの衣服に触れた時、それの材質の違いにも気がついた

 

 

コートと言うよりも、パーカーと言った方が相応しいかもしれない。サイズも合っていないようだ。袖口から手が現れていない

 

 

 

「......」

「.....//」

 

「バーシュっ!その辺にして早くお連れしてっ!」

 

 

カムイの制止が聞こえているのだろうか、バシュは構わず詩織の匂いを楽しんでいた。最早楽しむための行為かも分からないが、とにかく詩織の髪、耳、首元と鼻を近づけて回っている

 

そして

 

 

「.......」ペロ

「ひゃっ!?///」

 

「積極的だねっ?そんなに気に入ったのっ?」

 

 

詩織の鎖骨をバシュの舌がなぞった。詩織があげた今日1番の悲鳴に驚いたのか、バシュの瞳孔が少しだけ開いたように見えた。

 

 

それ以上に詩織は目を見開き、バシュを見据える。しかし彼女は何事かと小首を傾げた

 

 

「な、何するんですか!?」

「........あなたをバシュが舐めた」

 

 

初めてバシュが声を発した。優しく、少しかすれた声が、詩織の質問に答えた。しかし、求めているのは行為の説明ではなく、その動機のはずだ

 

 

「え、いや...」

「......?」

 

 

「おい、早くしろ」

「すみませんボス。バシュがちょっとっ!」

 

 

ボスの言葉に詩織が反応した

 

この騒動の諸悪の根源とも言えるだろう存在がすぐ近くにいる。さきほどバシュが出てきたトラックからその声は聞こえ、1人の男が降りてきた

 

 

カムイにボスと呼ばれていたその男は若く、青年とも言える容姿をしていた

 

詩織は言葉を失った

 

 

「......え?」

「.....皆木、こっちに来い」

 

 

詩織は動けない

 

 

「...なにかの冗談ですか?」

「........いいや、俺がボスだ」

 

 

詩織の目の前にいた人物は...

 

 

 

 

「詩織ちゃん!!」

 

 

「む、村上さん!」

 

 

詩織を揺さぶるかのように慎也が現れた

 

トラックの後方の闇から見せる必死の形相。先程まであんなにも会いたかった存在だが、今はそれどころではない

 

 

「お前は......っ!?」

 

 

カムイやバシュに阻まれていたが、詩織とボスと呼ばれた青年の存在は確認できた。

 

慎也もそのボスを見ると、怒りの表情が安堵のものに変わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知樹.....お前も無事だったのか!?」

「.....」

 

 

 

 

 

 

知樹から慎也に目を合わせにいった

そして一言だけ放った

 

 

 

 

 

 

「........遅かったな、慎也?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




知樹くん...?

ぶっちゃけどうですか?

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