遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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遅れました!
ちょっと長いです!



第五十一話 磊魏の救世主

果てしない気まずさがあった

 

何も知らない慎也と詩織

それを見ているカムイとバシュ

 

 

そして知樹は双方から期待を受けている

思いがけない戦友と我らがボス

 

形は違えどカムイも慎也も知樹を便りにしていることに変わりない

 

 

「知樹、丁度いいところに!そいつら...」

「分かってる慎也。皆まで言うな」

 

 

歩を止めない慎也に対して知樹は右手で制した

慎也がその場で止まると、それを合図に四方から黒服の男達が一斉に現れた

 

 

「くっ!...まだこんなに残っていたのか!?」

「あぁ、今回の作戦の醍醐味だからな」

 

 

答えが帰ってくるとは思っていなかった

それも知樹からの返答に慎也は困惑の色を見せた

 

何を言っているんだ

お前は聖帝の生徒だろ

 

 

「は...?なんで知樹が......」

「そうか、まだ言っていなかったな」

 

 

知樹がゆっくりと語り出した

 

 

「今回このビルを襲ったこの集団、そのボスは俺だ。俺の命令で皆動いていたんだ」

「...笑えないよ、何訳のわからないことを」

「...」パチン

 

 

知樹が指を鳴らすと周りの黒服が同時にディスクを構えた。唐突な臨戦態勢もそうだが、それよりも今何をトリガーにこの集団は動いのだろうか

 

 

「っ!?」

「む、村上さん!?」

 

「安心しろ、慎也に手は出さない」

「.....さっきからなにを言ってるんだよ!?」

 

「...そうだな、あとは何を見せれば分かってくれるかな」

 

 

少しだけ悩む素振りを見せたあと、知樹はそばに居た黒服の男から何かを受け取った。それをすぐに慎也に提示した

 

 

「これが何か分かるか?」

「...決闘(デュエル)ディスクだろ」

「あぁ、皆木の物だ。これは返しておく」

「え、あ...はい」

 

 

 

ディスクからデッキを抜き取ると詩織に手渡しした。全く行動がよめなく、詩織も素直に受け取っていた

軽く確認しただけだが、確かに詩織のデストーイだった。見覚えのある[七皇の剣(ザ・セブンス・ワン)]が確信させた

 

 

肝心の決闘(デュエル)ディスクは知樹が握っているため、今の詩織にはこの場から脱出する事が出来ない

知樹はその決闘(デュエル)ディスクを改めて慎也に見やすいように掲げた

 

 

「受付で配られた名札の発信機は黒川が気づいたようだがな、実はこのディスク本体にも付けてあったんだ」

「発信機だと...?」

 

 

ディスクの裏側、それもカードを読み取るモンスターゾーンと本体をつなぎ止める部品の裏。言われても気づけないようなそこには小さな黒い破片があった

 

知樹は器用にそれを外すと、1度慎也に見せた。その後はパーカーの上着にしまい込んだ

 

 

「.....本当にお前が主犯だっていうのかよ?」

「...あぁ、そうだな」

「いつから...いつからだ!こんな事を!?」

「発信機を取り付けたのは昨日だ。休講の中わざわざ大学に行ったんだぞ?」

「違う!いつからこんなことを!」

 

 

牙を向いて怒りを表す慎也。いつもの様に冷静な知樹だったが、すこしだけ困った表情で頬を掻いている

 

 

「そうだな...この作戦は3年前から計画されていた」

「さ...3年だと?」

 

 

一朝一夜の作戦だとは考えられなかったが、伝えられた時は想像以上のものだった

それは丁度慎也達が聖帝に入学し、今に至るまでに該当する

 

 

「これだけの事をするんだ、歳月は必要だろ?」

「...こんな事をしといてこれからどうするつもりだよ?これだけの組織が警察やS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)から逃げ切れるわけがないだろ!?」

「逃げるつもりは無い」

 

 

詩織のディスクを側の部下に預けながら知樹は宣言した。これだけの事をしておきながら逃亡を図るつもりは無いと彼は言った。そしてこの作戦は3年前から計画していたと。

無謀とも浅はかとも理解できない発言だ

 

 

「さっきから何言ってるかわかんねぇよ!お前は何がしたいんだよ、何が目的なんだよ!なんで詩織ちゃんなんだよ!?」

「そんな怒らないでくれよ」

 

 

今にも噛み付いてきそうな剣幕で慎也が怒鳴り散らす。周りを囲んでいた黒服の男達も慎也の前に立ちはだかり、ボスを庇う陣形をとった

 

 

「悪いが今はそんな時間が無い。皆木も連れていく」

「ふざけんな!結局逃げんのかよ!?」

 

 

言葉を選んで発言していたようだが、今回は違った。

横目で詩織を見ると、真剣な眼差しを慎也に向けた。そして言い放った

 

 

「逃げるとは違う、帰るんだ」

「...なんだと?」

 

 

今まで見た事の無い目をしていた。

3年間同じ大学に通い、同じ学科に所属し、同じ時を過ごしてきた。それを踏まえても知樹がこんな事をしたとは信じられなかった。信じたくなかった

 

彼の発した「帰る」の意味も分からない

帰るべき場所は他にあるはず

 

 

「帰る.....どこにだよ」

「”月下”だ、俺達が本来居るべき場所だ」

「...”月下”?」

 

 

どこかで聞いたことのある単語

慎也も覚えていた。カムイも同じ名前を呼んでいた

 

 

「とにかく今は時間が無い。月下で待つ」

「あっ!む、村上さ...ん.....」

「ま、まて!」

 

 

知樹が振り向き、奥にあるトラックまで歩き始めた

それを合図にカムイや何人かの黒服の男達がそれについて行く

 

詩織も抵抗を見せたが、それも叶わずバシュに抱き抱えられ慎也から離れていく

慎也もコンクリートの床を蹴り、知樹の元まで走るが数人の黒服はそれを阻んだ

 

 

「そこをどけ!」

「それは出来かねます。ここは引いてもらえませんかね?」

「いいからとっとと強制開始をしろ!」

 

 

敵には慎也達には無いオーバーテクノロジーがある。散々受けてきたが、あの光の糸と決闘(デュエル)の強制開始は厄介極まりない。この人数を相手にしていたらいくら時間があっても足りない

 

 

「くっ...クソォォ!」

「おら!俺たちと遊ぼうぜ!?」

「や、やめ...グッ!?」

 

 

集団の中でも人1倍気性の荒い男が慎也のディスク目掛けて光を放った

ディスクを庇うおうとしたが、後方からの衝撃によって慎也は前のめりに倒れ込んだ

 

この人数差で好きは見せられない

倒れた勢いを殺さぬまま一回転し、立ち上がることに成功した。その体制のまま背後の人物は確認出来た。

 

思わぬ増援だった

 

 

「早く立てよ!」

「...は、灰田!?」

 

「村上さーん!!」

「く、草薙様!」

「うっ...まだあんなにいる.....」

 

「草薙...?遠山に西条まで.....」

 

 

数分前には足止めをしてくれた灰田が再び慎也を助けに現れた。少し遅れて女性陣3人も登場し、慎也の元まで駆け寄ってきた

 

 

「村上さん?ご無事でして?」

「草薙達も...来てたのか...俺は大丈夫だ」

「草薙様...そこまでその男の事を...」

「そ、それよりこれはどういう状況.....?」  

 

 

灰田の突進によって決闘(デュエル)の強制開始は逃れられた。宛先を失った光の糸はゆっくりと消滅し、それを放った当人は唖然としていた

 

慎也に加勢した新たな戦力に、黒服の男達は困惑を隠さなかった

 

 

「お、おい...作戦は終わったんだよな?あいつらはどうすればいいんだ?」

「関係ねぇ!こいつらも拘束すりゃーいいんだ!」

「待て、あいつらはリストに乗っていない。無闇な決闘(デュエル)は避けるべきだ!」

 

 

敵側の意見は割れていた。

少し離れた場所でエンジンのかかる音が聞こえた

慎也がトラックに目を向けると、今にも発進しそうな状態にみえた。時間が無い

 

 

「灰田、また時間稼ぎを頼む!」

「あのトラックに皆木が!?」

「そうだ!」

「せーので行くよ!」

 

 

2人の青年が低い姿勢から床を思いっきり蹴った。そのまま黒服の男達目掛けて頭からぶつかる

 

完全に隙を突かれた何名かを巻き込んで床に倒れ込んだが、灰田と慎也は止まらない。すぐに起き上がりトラックまで距離を詰めようと駆ける

 

 

「ま、待ちやがれ!」

「逃がすな!」 

 

「む、村上さん!?」

「草薙様、お待ちを!」

「あ、危ないよ!」

 

 

2人の青年の勇姿を見た者達がとった行動は同じだった。黒服の男達は慎也達を止めるために、草薙達はそれを擁護するために走り出していた。

 

だが女性陣の脚力では男達に届かず、草薙達が慎也の元へ他取り付いた頃には既に囲まれかけていた

 

 

辺りのディスクから光が漏れていて、敵が強制開始を施そうとしている。黒服の男達が狙うのは慎也。だが動き回り、周囲に他の生徒がいるため慎也を狙えていない

 

そして灰田が慎也の代わりに光の糸を受けた。1人の青年の自由が消滅した瞬間だった

 

 

「チッ!てめぇじゃねえんだよ!」

「慎也、そのまま走れ!」

「...頼んだ!」

 

 

灰田を背に、慎也はさらに加速する。友が担ったものを無駄にはできない。詩織と知樹はもうすぐそこまでの距離にある。

 

だが敵の数はやはり多かった。灰田1人が相手できる人数も限りがあり、それに溢れた数人が慎也に立ち塞がった。流石にこの程度では慎也を自由にはさせてくれないようだ

 

集団の1人が慎也目掛けてまたあの光の糸を放った

それは別のディスクにたどり着き、決闘(デュエル)の強制開始を機能させた...

 

 

慎也が光の糸を目で追うと、肩で息をする草薙のディスクが点灯していた。また友人に助けられた

 

 

「く、草薙!?」

「後でご説明頂けますわよね?あのトラックに用があるのでしたらお早めにどうぞ」

「ここは任せろ。草薙様は何としてもお守りする!」

「わ、私も...怖いけど戦うよ!」

 

 

3人の女性達も参戦するようだ。

草薙は凛と、遠山も多少目的がズレているものの戦う構えをしていた。西条も怯えてはいるが、覚悟は慎也に伝わっていた

 

 

「遠山に西条もありがとう、気をつけろよ!」

 

 

道は開けた

友に背を向け、あとは走るのみ

 

残された灰田達は慎也を信じ、戦うだけだ

草薙に決闘(デュエル)を強要した黒服の男は肩を震わせ、全身で怒りを表現していた

 

「貴様ら.....良くも!」

「おもいび...友人を助けただけですわよ」

「そうだそうだ!」

 

「違う...貴様らはあの男を死にに行かせてようなものだ.....っ!」

 

 

不穏な言葉と同時に、慎也が目指すトラックが発進しだした。乗車人数が多いのか、不安定ながらゆっくりと前進していく

 

慎也も負けじと加速し、何とか距離を保っている

 

そのまま薄暗いコンクリートのフロアから消えていった

トラックの轟音と慎也のシューズの音だけが不安げに反響していた

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ.....はぁ...っ!」

 

 

目的のトラックは走り出してしまった。公道に出る前に何とか追いつきたい。慎也は疲労を感じ始めた足腰に鞭を打つ。

 

灰田と見つけた隠し部屋から随分走らされていた。今はどの階層にいるかも分かっていない。このコンクリート造りの部屋はスロープが多く、上り坂に苦しめられている。その事から恐らく地下と言えるほど下に降りていたのだと推測した。

 

 

そんな考えは今では意味なく、前方のトラックは徐々に慎也と距離を稼ぎ出した

今までに無いほど急な斜面を前に

 

 

「はぁ...はぁ.....ま、待てよ!!」

 

 

 

大粒の汗を振り払うように左足を強く踏み込んだ。まだ青年は走る

 

斜面に厳しいのは慎也だけでなく、大型のトラックも速度を落としているように見えた。今しかない、慎也は必死に喰らつく

 

 

 

 

坂の終わりが見えた

今までの屋内を思わせない眩い光が差し込んでいる

このまま外へ繋がっているようだ

 

トラックの速度は相変わらず安定していない。不適な機械音を鳴らし、車体が少し浮いた。車内にどれだけの人数がいるかまでは分からないが、総重量はなかなかのようだ。中にいる詩織の身を案じながらも、重さのハンデがある事を幸運に思った

 

 

少しずつ距離が狭まっていく

肺は苦しく、呼吸も荒い

足だけでなく、体全身が重く億劫に感じる

 

それでも慎也は走るのを止めない

 

 

「あ...あと少し......っ!」

 

 

トラックの後部。取っ手の部分に手を伸ばすとその距離の近さを感じた。走る体制を変えつつ、必死に手を伸ばす

 

 

慎也の指先がトラックに届いた。すかさず力いっぱい握り、跳躍を経てトラックの後部に体を預ける

 

 

「...っ!?」

 

 

ちょうどその瞬間、自然の明かりをその全身で受けた。

気がつけば屋外に出ていた

 

辺りの景色は正面玄関でも裏の非常口でも無く、見たことの無い場所だった。

 

 

地下を移動するに当たって随分ビルから離れていたようだ。改めてあのビルの構造に疑問を抱いた時、慎也の体に衝撃が走った

 

 

トラックから手は離れ、無慈悲に空へ投げ飛ばされる。地に倒れ込む直前、取っ手のあったはずの場所にいた黒服の男達と目が合った

 

 

「なっ!?」

「なんて奴だ.....付いてくるなんてな」

 

 

慎也が掴まっていたあの箇所は開閉が可能な扉だった。いきなり開いたそれの反動により、受け身をとる暇も無く慎也は大地に叩きつけられた

 

 

「グッ...く、くそ!」

 

 

すぐに立ち上がると進み始める。だが、整った道路を走るトラックは、今までの速度とは違った。安定した走りで慎也との距離をどんどん離していく

 

 

このままでは...

 

 

 

 

 

「慎也ぁ!」

「っ!?」

 

 

突然の声が慎也を振り向かせた

足を止めるつもりは無かったが、目の前に黒い物体が現れ、思わずそれを受け止めた。

 

手元にあるこの黒い物体を確認する前に、慎也の元に低く唸るエンジン音が近づいてきた

 

大型のバイクに跨る長身の人物が慎也を見据え、エンジンを吹かす。

 

 

シールドの部分を開くと鋭い垂れ目が合った。見えている顔の部分は少ないが、慎也には誰だかすぐに分かった。

今日初めて合う蛭谷だった

 

 

「ひ、蛭谷!?」

「話は光明から聞いてるぜ、早く乗れ!」

 

 

先ほど蛭谷が慎也に投げつけたものもヘルメットだった。少ない説明だが理解は容易く、慎也はすぐに頭部を守り、蛭谷のタンデムと化した

 

慣れない慎也を後ろで感じると、蛭谷は慎也の腕を自身の腹部にあてがった

 

しっかりと力が入った事を確認すると、もう1度エンジンを勢いよくかけ、一気に走り出した。

目的のトラックは辛うじて遠くに小さく見える

それもどんどん大きくなっていった

 

 

蛭谷が操るバイクのスピードは凄まじいものだった。ギアが一つずつ上がっていく感触を慎也は腰の振動で味わい、蛭谷に渡されたヘルメットをより深くかぶり直した

 

 

ある程度スピードが出始めたところで、トラックは曲線の道に消えた。それを追う側である蛭谷は当然そのカーブに入っていく

 

風を切る音、エンジンの唸る音でよく聞こえなかったが、蛭谷が「しっかり捕まってろ」と言ったように聞こえた。

 

右腕のディスクが自身の肉に食い込み、嫌な痛みを抱えながら蛭谷にしがみつく

 

 

 

 

「....うおっ」

「あのトラックでいいんだな!?」

「あぁ、頼んだ!」

「...ディスクは仕方ねぇか、まだ飛ばすぞ!」

 

 

 

この世界では、車やバイクの走行中に決闘(デュエル)ディスクの着用は認められていない。

 

アニメやドラマで度々行われる演出、運転中の決闘(デュエル)が影響し、事故を招くケースが多くあったからだ。違反したものは運転中の携帯電話の操作と同じように罰せられるが、この法律は道路交通法ではなく、決闘(デュエル)関係の法律に属している

 

現代の決闘(デュエル)ディスクは軽量化せれているものの、取り外しや装着は手間を要する。走行中の現在は外している暇などない

 

 

それを踏まえた上で

慎也達は違反と共に«цпкпошп»を追っている

 

 

 

「...悪いな蛭谷」

「光明からはあんま聞いてねぇけどよ、皆木がいるんだろぉ?俺の免許なんか気にすんな」

「.....」

「で、どうすりゃいいんだ?ビタずけするか、あいつらが止まるまで追いかけっこするかぁ?」

 

 

心強い言葉だが、慎也にバイクの知識はあまり無い。何となくで理解した単語は蛭谷の技術が問われるもの。どらか選択する前に今乗っているバイクについて尋ねた

 

 

「ビタずけ...出来るのか?」

「自慢のXVS950Aだぜ、追い越すのも余裕だ」

「...なるほど、でも今はこれくらいの距離を保ってくれ」

「おう」

 

 

現在の距離は3メートル弱。慎也を振り落としたように、あまり近づきすぎると何をされるか分からない。ガソリンが切れるまで走り続けるつもりもないが、今は維持を選んだ

 

曲線の道が終わりを告げる時、加速の手を緩めた。今の十分な距離を保つように走っている

 

 

 

そのまま少し走っていると、慎也は右肩の痛みに気がついた。さきほどトラックから振り落とされた時に出来た怪我だ。加えて頭痛も感じる。カムイに敗北した時から体調はあまり優れず、右肩の痛みも重なり辛く思えた。

現在は慎也もトラックも同じスピードで走行中のため、同じような妨害でも孕む危険性は段違いだ。万全の状態であろうと交通事故は避けたいだろう

 

 

 

慎也は右腕のディスクに視線を移した時、最悪の事態が思い浮かんだ。絶対に起こってはいけないこと、トラックと距離を離せと言うには些か遅かった

 

 

 

トラックの後方部の扉が開き、例のごとく黒服の男が姿を現した。慎也が想像した通り、決闘(デュエル)ディスクをこちらに構えている

 

 

「し、慎也!」

「うそだろ...」

「しつこい奴等だ...仕方ねぇから遊んでやるよ!」

 

 

決闘(デュエル)の強制開始。何度も見てきた光の糸が今では脅威とも言える存在に感じる。いまあの糸で繋がれてしまえばバイクの走行は今迄にないほどに危険なものになる

 

それはあの黒服の男も慎也も蛭谷も分かっている。回避が可能な人物は蛭谷のみ。トラックの追跡は非常に厄介になってしまった

 

 

「蛭谷、あの強制開始は知ってるか!?」

「あぁ、俺も戦った。やった事はねぇけどよ、あんなんに繋がれながら走ったら慎也が耐えら...っ!捕まれ!」

 

 

早速光の糸が慎也のディスク目掛けて放たれた。

どれほど正確なものなのかは分からないが、蛭谷はバイク全体で回避した。突然の横移動に慎也は揺れ、風に持っていかれそうになる。それでも必死に耐え、解決策を模索し出す

 

 

引き返すという選択肢は無かった

そして突破口も一つしか無かった

 

 

「...蛭谷」

「なんだ?」

 

 

蛭谷が背中越しに慎也から聞いた作戦は突飛なものだった。出来るはずがない、危険すぎる。運転手である己ではなく、慎也自身の命すら解離見ないような内容だった。蛭谷もそれには否定しかできない

 

 

「無理だ、危なすぎるぜ!」

「でもそれしかないだろ」

「...本気かぁ?」

「あぁ」

 

 

後ろを振り返るとすぐそこに慎也の顔がある。控えめに覗いた慎也の眼は、とてもじゃないが制止を受けるとは思えなかった。

 

黒服の男は相変わらず慎也のディスクを狙っている。対する慎也達の作戦は至ってシンプル。そのために蛭谷が行う事は細かく蛇行する動きを止め、まっすぐ男と向き合い走る。

 

これでは黒服の男が狙いやすくなっただけである。ゆっくりと狙いを定めるその男を見ながら黙って走るだけ。

 

 

何度目かの放光は、避けることなくディスクが受けた。

慎也は避けない。

 

蛭谷は一瞬だけブレーキをかけた瞬間、慎也のディスクにその光が届いた。

 

 

「やっと観念したか!?」

「あぁ、相手してやるよ」

「慎也こっちによこせ!」

 

 

光の糸を蛭谷は掴むと、ハンドル部分に巻き付け、慎也の負担を減らした。これで慎也が直接トラックに振り回される事はなくなったが、それでもバイクとトラックが結ばれていることには変わりない。ここからの運転は命懸けとなる

 

トラックの男も近くにあった突起物のような物に糸を絡め、双方ゆとりを持ちながら決闘(デュエル)の強制開始が施された

 

 

「今すぐそのバイクから振り落としてやるよ!」

「すぐ終わらす。それまで頼むぞ」

「気をつけろよ...!」

 

 

走行中の決闘(デュエル)などもってのほか。危険性よりも法律で禁止されている。それも今は敵の技術による光の糸が自由を奪う。

 

ビル内での«цпкпошп»戦とは一味も二味も違った危難を孕んでいる。命すらも失いかねない行動は、友を追う代償としても高価と言えるだろう

 

今目の前の敵を倒した事で、詩織の救出に繋がるとは言えない。それでも逆境の中で、理不尽且つ果てしない業を、まだ若い青年は背負うと体現した

 

 

「正気の沙汰じゃねぇな...悪く思うなよ、貴様らが引かないのが悪いんだぜ」

「早くしろよ、俺は負けない」

 

 

慎也は強く放った

普段の温厚な笑顔を思い出す事すら今では困難だろう

 

異端な決闘(デュエル)は路上で行われる

それを拒むかのように風は吹き、青年の頭髪を煽った

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

«цпкпошп» LP 8000

慎也 LP 8000

 

 

 

「俺が先攻だ!手札から«цпкпошп»を召喚!フィールド魔法«цпкпошп»を発動してターンエンドだ!」

 

 

«цпкпошп» 手札:3枚 LP 8000

 

モンスター/ «цпкпошп»

 

魔法・罠 / なし

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

 

「慎也、なるべく穏便にな」

「わかってる。俺のターンドロー!」

 

 

敵は静かにターンを終え、慎也にターンを返した。最早«цпкпошп»の表記に安心感を覚える程にそれを見てきている。

 

«цпкпошп»を相手にする以上必要なものはこちらに与える影響。慎也が行わなければならない処理はディスクが表示し、それは大きなヒントになる。

 

今ある情報はフィールド魔法と攻撃表示モンスターを通常召喚したという事だけだ。

 

 

 

「[超戦士の萌芽]を発動!手札の光属性の[開闢の騎士]とデッキの闇属性の[宵闇の騎士]をリリースし、儀式召喚を行う!天と地は始まりに過ぎず、見えぬものは虚偽に過ぎん。照らせ闇よ、呑め光よ!超戦士をここに導け!儀式召喚、現れろ[超戦士カオス・ソルジャー]!」

 

 

[超戦士カオス・ソルジャー] ATK 3000

 

 

「くっくっ...攻撃してきたらどうだ?」

「...」

 

 

挑発にも思えた。お互いモンスターは1体ずつしか存在せず、恐らく攻撃力は[カオス・ソルジャー]の方が上だろう。«цпкпошп»で見えていないとはいえ、リリースを要さない通常召喚可能なモンスターだ。それも[カオス・ソルジャー]の効果を用いれば壁にもならない

 

 

「慎也、落ち着けよぉ?リクルーターかもしれねぇ」

「あぁ、でも戦闘して見ないとずっと分からない」

 

 

光の糸が繋ぐ2つの車両は安定した走りをしていた。蛭谷もいつもと違う重さに苦戦しつつも、慣れをその身で感じ始めていた。

 

«цпкпошп»との決闘(デュエル)の痛みは蛭谷も慎也も知っている。今は繋がれているのは慎也であり、痛みに踠きバイクから転落する恐れも考えられた。

慎也の実力や慎也自身の事を知っている蛭谷だからこそ、冷静になる事を促した

 

 

「慎也、除外しねぇのか?」

「...出来ない。対象に取れないみたいだ」

「高城のマジェスペクターみたいなモンスターか?」

「いや、多分あっちのフィールド魔法だと思う...」

 

 

友と«цпкпошп»の特定を試みた。[カオス・ソルジャー]の効果対象が居ないことからディスクは発動を拒み、慎也は発動を諦めた。それは相手モンスターは効果対象にならない永続効果を持っていると分かる。後は発動している2枚のカードのうち、どちらがその効果を与えているかだ

 

 

「[カオス・ソルジャー]の効果発動!その手札を次のエンドフェイズまで除外する!....バトルだ![カオス・ソルジャー]で«цпкпошп»に攻撃!」

 

 

モンスターの戦闘は大きな情報が得られる。モンスターの攻撃力や、効果によってはこのタイミングで発動する。控えめに[カオス・ソルジャー]が敵のカードを切っ先でなぞる様に斬った

 

 

「俺の«цпкпошп»は戦闘では破壊されねぇ!」

「ダメージもないだと...厄介なやつだ、メイン2...」

 

 

ライフに変化は無かった。戦闘で破壊されず、ダメージも受けない。さらに効果対象にならず、非常に強力な壁モンスターだ。慎也が次なる手を打とうとメイン2に移ろうとした瞬間、次なるヒントが現れた

 

 

「バトルフェイズ終了時、«цпкпошп»の効果発動!相手フィールドのカードを1枚デッキに戻し、500ポイントのダメージを与える!」

「なっ!ぐっ!?うぅ.....ゲホッ!」

「し、慎也!?」

「はっはっはっ!滑稽だな!」

 

 

蛭谷の操作するバイクが大きく揺れだした。予想していなかったダメージに苦しみ、慎也が起こしてしまった遠心力は、トラックとバイクの距離を離し、光の糸をピンと張り詰めた。スピードを落しながら蛭谷は必死に持っていかれないように力を込める

 

慎也が肩で息をしだすと、蛭谷は再びトラックの真後ろに位置し、風から逃れた。落ち着いた慎也が一言謝罪すると、蛭谷の頬を一筋の汗が滴った

 

 

「...大丈夫か?」

(不味いな...この調子だと横転する...)

 

 

自分の身が心配なのもある。それ以上にタンデムである慎也の身を案じていた。通常二人乗りをする場合、運転手よりも後ろに乗車する2人目に最も危険が及ぶ。加えて今は決闘(デュエル)中、やはり決闘(デュエル)を受ける事は無茶だった、蛭谷はそう後悔していた

 

たった500のダメージも命取りに直結しかけた

対して慎也は

 

 

「...っ」

([カオス・ソルジャー]が居なくなった...あのモンスターのトリガーは恐らく戦闘した事...対象を取らない除去が必要だ)

 

 

敵を倒すことのみを考えていた。考えている事はそれに必要な事だけ。バイクの走行中である事すら見えていないのかもしれない

 

 

「メイン2だ、[クリバンデット]を通常召喚。エンドフェイズに入る。[クリパデット]の効果発動だ、リリースしデッキトップ5枚をめくる。[グローアップ・バルブ]、[針虫の巣窟]、[戒めの龍]、[コラプサーペント]、[原初の種]...」

 

 

あまりいいデッキトップとは言えなかった。モンスターカードはなかなかのものだが、魔法・罠の選択肢は二つ。慎也は選んだ

 

 

「[原初の種]を手札に加える。ターンエンドだ」

 

 

慎也 手札:1枚 LP 7500

 

モンスター/ なし

 

魔法・罠 / なし

 

 

「...」

(一手遅れるが[針虫の巣窟]の方がいいんじゃねえのか?手札も無いのによぉ...)

 

 

蛭谷は選択を疑っていた。[原初の種]はフィールドに[カオス・ソルジャー]モンスターがいる時発動可能な魔法カード。効果はアドバンテージの取れる強力なものだが、いまはそもそも発動が出来ない

 

不安の先には敵のターンがある

 

 

 

「俺のターン!ドロー!」

 

 

慎也に除外された手札を数えず、3枚。慎也の3倍多い手札から何が放たれるか分からないが、まずはドローフェイズの次、スタンバイフェイズに移った

 

 

「スタンバイフェイズに«цпкпошп»の効果発動だ、デッキに戻る」

「...やっぱりか」

 

 

限定的なデメリット効果。記憶を探る必要も無く、条件が当てはまるモンスター...いやテーマは一つしかない

それに伴い、フィールド魔法も分かった

 

 

「俺のフィールドにモンスターがいない時、«цпкпошп»は特殊召喚できる。«цпкпошп»を特殊召喚!」

 

«цпкпошп» DEF ?

 

 

「効果発動!リリースし、デッキから«цпкпошп»を手札に加える。そして通常召喚!」

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「カードを1枚セットし、除外されたていた手札を戻してターンエンドだ」

 

 

«цпкпошп» 手札:1枚 LP 8000

 

モンスター/ «цпкпошп» ATK ?

 

魔法・罠 / リバース2枚

 

フィールド/ «цпкпошп»

 

 

「俺のターン...」

「ちょっと待て慎也!」

 

ドローフェイズに入る時、急なカーブに差し掛かった。デッキに置いた手を引っ込め、蛭谷の肩に置いた。しがみつき、横からかかるGに耐え忍び、カーブが終わるのを待った。

 

歯を食いしばり、痛みを覚える肩で重力を受け続ければ、やがて道はまっすぐな道に続いた

あれから痛みは増しているように感じた

 

長期戦は望めなさそうだ

 

 

「...ドロー!」

「何をひいたんだぁ?」

 

 

蛭谷が気になったのは勿論ひいたカード。2枚のうち片方はさきほど手札に加えた魔法カード。慎也が語る前に

効果が発動した

 

 

「«цпкпошп»の効果発動!相手がドローした時、1000ポイントのダメージを与える!」

「うわっ!?」

「慎也!」

 

 

再びバイクが暴れだした。

直線の道路かつ、他に走っている車両が無いからこそ持ち直せた。せめていつバーン効果が襲うかさえ分かれば対策できるが、«цпкпошп»がそれを許してくれない

 

改めてこの決闘(デュエル)が危険だと理解し直した所で、慎也はカードをプレイした

 

 

慎也 LP 7500→6500

 

 

「[光の援軍]を発動!デッキトップの[超戦士の魂]、[超戦士の盾]、[フェリス]を墓地に送り、デッキから[ライデン]を手札に加える!」

「...相変わらずすげぇ引きだな?」

「まぁな、[ライデン]を通常召喚!」

 

 

[ライトロード・アサシン ライデン] ATK 1700

 

 

「効果発動だ、デッキトップの[ツインツイスター]...[トリック・クラウン]を墓地に送り、攻撃力を200ポイントアップさせる!」

「[トリック・クラウン]...」

 

 

[ライトロード・アサシン ライデン] ATK 1700→1900

 

 

墓地に送られた[トリック・クラウン]の効果を発動すれば、ランク4や、レベル8シンクロが可能になる。ライフに余裕のある今なら通常は迷うこと無く発動を選択するが、バイクが横転してしまっては元も子もない

 

 

「...慎也、無理すんなよ」

「すまん蛭谷、少し無茶をする。[トリック・クラウン]の効果発動!自身を特殊召喚し、1000ポイントのダメージを受ける...っぐぐ!」

 

慎也 LP 6500→5500

 

 

 

自らが発動した効果のため、心の準備は出来ていた。それでもバイクは揺れ、蛭谷はすぐに運転に集中することとなった

 

 

「...ふぅ、俺はレベル4の[ライトロード・アサシン ライデン]と[Em(エンタメイジ)トリック・クラウン]でオーバレイ、エクシーズ召喚!現れろ[ライトロード・セイント

ミネルバ ]!」

 

 

[ライトロード・セイント ミネルバ] ATK 2000

 

 

「なんだ、わざわざ自分からダメージを受けてまでまだ墓地を肥やすのか?」

「違うな、ドローをするんだよ」

「ハッ!やってみろ!」

 

 

慎也は[ミネルバ]の効果を手札回復目的で発動するようだ。メインデッキにライトロードが採用されている以上、狙えないとのでは無い。先程から慎也のプレイングに違和感を覚え始めた蛭谷は、一つの仮説を立てた。慎也の狙いと、敵の狙いについて

 

 

「慎也、落ち着け!敵は...」

「[ミネルバ]の効果発動!デッキトップ3枚を墓地に送る」

 

 

慎也には何も聞こえていなかった。ただ己がすべき事を順々にこなしているだけだった

デッキがさらに3枚削られる

 

 

「デッキトップは[ヴォルフ]、[フェリス]、[ルミナス]。3枚ドローする!」

「な、なんだと!?」

「...まじかぁ」

 

 

脅威の3枚ドローもそうだが、さらに2体のモンスターがフィールドに現れる。今までのどこか雑なプレイングを拭うかのようなドローは、蛭谷を安心させるより、さらに不安にさせた

 

いつもの慎也では無い。蛭谷は古賀との決闘(デュエル)で荒れた時を思い出した

 

 

「[ウォルフ]と[フェリス]の効果を発動。特殊召喚する」

 

[ライトロード・ビースト ウォルフ] ATK 2100

 

[ライトロード・アーチャー フェリス] DEF 2000

 

 

「俺はレベル4の[ライトロード・ビースト ウォルフ]にレベル4の[ライトロード・アーチャー フェリス]をチューニング、シンクロ召喚!現れろ[ゼラの天使]!」

 

[ゼラの天使] ATK 2800

 

「今度はシンクロ召喚か」

「まだだ、墓地の[開闢の騎士]と[宵闇の騎士]を除外し、[カオス・ソルジャー-開闢の使者-]を特殊召喚!」

 

[カオス・ソルジャー-開闢の使者-] ATK 3000

 

 

「除外された[開闢]と[宵闇]の効果発動、デッキから[超戦士カオス・ソルジャー]と[超戦士の萌芽]を手札に加える」

「次は儀式か?」

「まずは墓地の[超戦士の魂]の効果発動、除外し、デッキから[宵闇の騎士]を手札に加える。さらに[原初の種]を発動。除外されている[宵闇の騎士]と[開闢の騎士]を手札に加える」

 

 

手札が大幅に回復した。サーチと回収効果により、3枚の騎士が集まったが、[宵闇]を2枚持ってきたことに意味はあるのだろうか

 

 

そして[超戦士の萌芽]を発動!手札の[宵闇の騎士]とデッキの[ライトロード・ビースト ウォルフ]をリリースし、儀式召喚!現れろ[超戦士カオス・ソルジャー]!」

 

 

[超戦士カオス・ソルジャー] ATK 3000

 

「[ウォルフ]の効果で特殊召喚する」

 

[ライトロード・ビースト ウォルフ] ATK 2100

 

 

デッキから墓地に送られたため、[ウォルフ]が起動した。フィールドにモンスターが埋まりつつあるが、戦闘ダメージも受けず、効果対象にならず効果破壊もできないモンスターが立ちふさがっている。いまのモンスター達では対応出来ない

 

 

「フィールドの[ミネルバ]と[ゼラの天使]を墓地に送り、[旧神ヌトス]を特殊召喚!」

「ゆ、融合までだと!?」

 

 

[旧神ヌトス] ATK 2500

 

 

「墓地の[グローアップ・バルブ]の効果発動。デッキトップを墓地に送り、特殊召喚する」

 

 

[グローアップ・バルブ] DEF 100

 

 

「そういえば落としていたな...」

「俺はレベル4の[ライトロード・ビースト ウォルフ]とレベル4の[旧神ヌトス]にレベル1の[グローアップ・バルブ]をチューニング、シンクロ召喚!現れろ[氷結界の龍 トリシューラ]!」

 

 

[氷結界の龍 トリシューラ] ATK 2700

 

 

「[トリシューラ]の効果にチェーンし、[ヌトス]の効果を発動!そのフィールド魔法を破壊する」

「なるほど、対象を取らない除外にチェーン...だが«цпкпошп»を[トリシューラ]を対象に発動!その効果を無効にする!」

「なら[ヌトス]の効果でそのフィールド魔法を破壊する」

 

 

[トリシューラ]の効果が通らない代わりにフィールド魔法を破壊した。リバースカードがモンスター効果に反応するものであれば、チェーンの関係上[ヌトス]で躱せたのだが、逆に[ノトス]の効果のみが通った。

 

 

「....[ブレイクスルー・スキル]かぁ?」

「だろうな」

 

 

フィールドのモンスターを直接対象にとる効果。こちらはそれが出来ないが、敵は効果対象を狙っていたようだ

残りリバースカードは1枚。まだ妨害が飛び交う恐れがある

 

 

「[超戦士カオス・ソルジャー]の効果発動、残りの手札を除外する!」

「チッ...«цпкпошп»を発動!手札の«цпкпошп»を特殊召喚する!」

 

 

«цпкпошп» ATK ?

 

 

「[カオス・ソルジャー]の効果は不発だ!」

「...」

「慎也、なんで手札除外の方を使ったんだぁ?」

 

 

蛭谷は疑問を抱いていた。今いる[カオス・ソルジャー]は素材に[宵闇の騎士]と[ウォルフ]を使用しているため、付与された効果はフィールド上のモンスターの除外か、手札の一時的な除外。

 

戦闘も効果破壊できないモンスターがいるため、選ぶ方はモンスター除外の効果のはずだ。

 

 

「あれは時械神だ。もしリバースカードが[光神化]だとして、バトルフェイズに発動されたらこのターンに勝てないからな」

「.....随分警戒したな...っておい、やっぱりこのターンにやる気かよ!?」

「あぁ、もう終わる。[カオス・ソルジャー-開闢の使者-]の効果発動!«цпкпошп»を除外する!」

「チッ...」

 

 

やっと対象がとれるようになった。カオスの名に恥じない除外効果を用いると、敵の肉体は混沌の中に消えゆく。あと1体だ、その時黒服の男はよろめき、膝をついた。

 

 

「うおっ」

「...慎也、スピード上げるぜ」

「あぁ」

 

 

敵の乗るトラックはスピードをあげ始めていた。光の糸で繋がれている手前、蛭谷も速度を上げざるを得ないが、速度だけでなく、徐々に運転が荒くなっているように見えた。

膝をついていた男もゆっくりと立ち上がり、側の適当な部品を掴んだ。追いかけっこも終盤に差し掛かっているようだ

 

 

 

すでに見たことの無い地域、当然走ったことも無い場所まで走っていた。目の前には大型のトラック、道路はさほど広くない。先程から何度もガードレールにぶつかりかけている

 

 

慎也が決闘(デュエル)する中、蛭谷はただ闇雲に走っていた訳ではない。緩やかな坂道を登っていたことにも当然気がついていた。どこに向かっているかまでは分からないが、そろそろ下りの坂が現れる事は予測していた

 

下りは今まで以上に猛スピードでの決闘(デュエル)になる。もう1度慎也に注意を促すと、蛭谷は彼自身の役目を果たす

 

 

「...慎也、これ以上は危険だぜ」

「あぁ、分かってる。俺はレベル8の[超戦士カオス・ソルジャー]と[カオス・ソルジャー-開闢の使者-]でオーバレイ、エクシーズ召喚!現れろ[神竜騎士フェルグラント]!」

 

 

[神竜騎士フェルグラント] ATK 2800

 

 

「効果発動、そっちのモンスターの効果を無効にする!」

「くっ...」

 

 

慎也曰く、相手のデッキは時械神。効果無効になった彼らは恐れる事は無い。ただの攻撃力0のモンスターが1体いるだけでは慎也の猛攻は耐えられるはずがない

 

しかし、いまの慎也のフィールドには攻撃力2800の[フェルグラント]と2700の[トリシューラ]のみ。些か初期ライフには届いていない。

 

が、慎也はこのターンに倒すと宣言していた

 

 

「俺の墓地にモンスターが10体以上いる時にこのカードは特殊召喚できる.....」

「...ま、まさか!?」

「無は無限に、そして無限の光は時を越える。陰りの知識よ、我が悪しき肉体に、時の神を顕現させよ!現れろ、[究極時械神セフィロン]!」

 

 

[究極時械神セフィロン] ATK 4000

 

 

「き、貴様も時械神を...?」

「お前のは«цпкпошп»だろ、[セフィロン]の効果発動!墓地の[ゼラの天使]を効果無効にし、攻撃力を、4000にして特殊召喚する!」

 

 

[ゼラの天使] ATK 4000

 

 

 

[ゼラの天使]の帰還と同時に、再びトラックの運転は荒れだした。それに合わせて蛭谷も小刻みにハンドルを操作するが、そこで驚愕の地形が見えた

 

 

「.....まじかよ」

「...」

 

 

彼らが思ってた以上に高地に来ていたようだ。そこから見える先の道路はとてもじゃないが走りたいとは思わないものだった。急な上り下り、連続の急カーブ。走り屋を試すかのようなものを前に、蛭谷は恐怖すらした

 

 

慎也の決闘(デュエル)もクライマックスに差し掛かった所で、蛭谷の運転技術が問われることとなる。

後ろの慎也が振り落とされない程度の動きでセーブし、尚且つ荒れる敵のトラックに近すぎず、離れすぎずの距離を保つ。

 

それはいまの速度を上げることも落とすことも出来ないという事。ハードモードもいい所だ

 

 

 

「...蛭谷」

「すまねぇが....っ!?」

 

 

弱気な発言をしかけたが、後ろの慎也の顔を見たら最後まで言いきれなかった。慎也はまっすぐの瞳で蛭谷を見ていた。そして短く尋ねた

 

 

「この状況でいけるか?」

「...」

 

 

不安からの質問では無かった。その一言で蛭谷は逃げる事など出来ない事に、やるしかないことに気がついた。後ろの慎也は自分に命を託しているのだと

 

 

「.....流石にこのままだとカーブがきついなぁ...それまでに止めを指してくれ!」

「すぐやる!バトルだ、[セフィロン]で«цпкпошп»に攻撃!」

「チッ!」

 

 

«цпкпошп» LP 8000→4000

 

 

スピードは落ちること無く、下り坂に突入した。上り終えた道から急激に降りると、トラックでさえ数センチ浮いた。それよりも軽いバイクは飛翔したかのように錯覚すらした。着地と同時に慎也達は腰に強い衝撃を受ける

 

数回バウンドすると蛭谷はすぐに走りを安定させた。またトラックとの追いかけっこが始まる

 

 

蛭谷が警戒しているカーブの地獄はもうすぐ見えている。最後の一手は急を要している

 

 

「[ゼラの天使]でダイレクトアタック!」

「ぐっ...くそがぁ!」

 

 

LP 4000→0

 «цпкпошп» LOSE

 

 

「お、おい!早く扉を閉めろ!」 

「しっかりしろ!」

 

 

トラックの内部から別の黒服達が現れ、たった今慎也が勝利した男を引きずり出した。この難関な道路を猛スピードで走る以上、敵も必死のようだ。慎也達を睨むように見据え、男達は逃げる様に闇へ消えていった

 

 

肝心の光の糸はまだ消えていない

 

 

「はぁ...はぁ.....」

「まずいぜ...もうカーブに入っちまう!」

 

 

決闘(デュエル)は終了し、ディスクもそれを示していた。だがまだトラックとバイクは繋がれたまま。

 

すでにトラックは曲がる体勢を見せている

 

 

「...」

「慎也、かなり攻めるぜ.....」

「....まかせた...よ」

 

 

このまま繋がれたままカーブを攻めようだ。見えているだけで3箇所ある。一人で走っていたとしてもこのスピードでは攻めないだろう。それでも蛭谷は覚悟を決めた

 

 

「いくぜ!」

 

 

左に曲がるカーブ。限界まで端を走り、車体を斜めに傾ける。横移動の際、少しだけトラックに引っ張られ、変に揺れてしまったが、ガードレールにはぶつからずに済んだ。

 

 

カーブの最中は常にガードレールスレスレの位置を走り続ける

 

その先には豊かな緑が広がっていた。数十メートル下のそれはなんの安心感も無く、真下には何も見えないほど。例え、底で柔らかいクッションが迎えてくれたとしても、命はないだろうと嫌に想像した

 

 

慎也の冷や汗がその奈落に飛び、すぐに見えなくなった。景色を見る事すら危険だと感じた慎也は、しっかりと蛭谷にしがみつき、小さく体をまとめた

 

 

次は落ちる心配の無い右へのカーブ。それでも灰色の壁が無機質にそびえ立っている。このスピードでぶつかれば勿論無事では済まない。無論左側を攻めすぎれば転落の恐れもある

 

 

「...っ!?」

 

 

ここでトラックは新たな行動に出た。

単純な加速と言ってしまえばそれまでだが、このタイミングでだ。ドリフトとも言える運転でカーブを曲がり切るつもりらしい。

 

突然の加速は繋がれた光の糸を張り詰め、蛭谷のバイクを強引に引っ張っていた。ハンドルの自由がきかず、蛭谷の心拍音は高鳴り出す

 

 

このスピードで引っ張られれば角度が足りない。曲がりきれず壁にぶつかる。ならばやるしか無いと蛭谷は深く息を吸った

 

 

「慎也、限界までしがみつけ!」

「今でも結構本気なんだけど...」

 

 

腹部に慎也の力を感じると、蛭谷は車体を傾けた。

それも膝が道路に擦れるまで。通常膝すりと言われるこの行為は、2人乗り、ましてや前方の車両と繋がれている状態では考えられない行為。それでも壁との衝突を避けるためには、トラックに止まってもらうかこれしかない。

 

 

今までにない強力な重力、向かい風は慎也を無慈悲に襲う

 

たった数秒の事だが、慎也には数分にも感じられるほど苦しいものだった。頭痛が増した気がした

 

 

「くっ...ぐぅ.....」

「気張れよ...」

 

 

蛭谷はどんどんコンクリートの壁に近づいていく

車体と壁の間は5cm、4cmと迫り、やがてタイヤが掠るほどまでの位置を走った。そこからはトラックに持っていかれないようにと、さらに加速する

 

あまりにも急な角度に、慎也のディスクが道路にぶつかり、一部が欠けて後方に飛んでいってしまった。瞳を閉じている慎也はそれを確認出来ない

 

 

 

 

角度が上がっていくのを感じると、慎也は瞳を解放し、噛み締めていた顎を緩めた。

この時ディスクのランプが消灯した。それに比例し、今まで苦しめられてきた光の糸も原形を無くし、消滅した

 

これで後はただの追いかけっことなる。残りのカーブも難なくと突破して見せた

 

 

 

「やっと消えたか...」

「あぁ、後はあいつらがどこまで走るかだなぁ...」

 

 

先程からトラックに速度を抑える気配が無い。随分加速を経て走り続けてきたが、ここで慎也は人間らしい心配をした。

 

 

「......そういえば人通り少なすぎないか?」

「...たしかになぁ、対向車すら一台も居なかった.....」

 

 

 

もはや元の八皇地駅までの帰り道すら分からない

道中一切人と出会わなかった事が無茶な走行を可能にしていたが、いざ乗り越えてみると奇妙な事だ。

 

いったいここはどこなのだ

 

 

 

「慎也、周りになにか見えるか?」

「......トンネルが見えるけど」

「やっとあのトラック速度を落としやがった、そろそろ着くのかもしれねぇ」

 

 

急な高低差やカーブでも速度を落とさなかったトラックが今減速しだした。あたりには建物もなく、美しい自然とコンクリートの壁に大きく空いた穴があるだけ。

 

慎也はトンネルと表現したが、それすら正しいのかも疑わらしかった。整備されている後は見えない

 

 

 

「やっぱりあのトンネルに入るみてぇだな」

「...うん」

 

 

トラックに合わせて蛭谷もゆっくりと走っていた。前方のトンネルは無論トラックが先に侵入する事になる。

トンネルの深い闇に車体が呑まれていく光景を見届けると、蛭谷も再び加速し、後を追った

 

 

当然彼らもトンネルを通過するつもりだったからだ

 

しかし、それは叶わなかった

 

 

 

あったはずの入口は無くなっていた

1度、たった1度だけ瞬きをした瞬間にはすでに壁が現れていた

 

ーぶつかる

 

 

「なっ!?く、くそぉ!」

 

 

ブレーキは間に合わない。それほど突然現れた壁は、蛭谷達の侵入を拒ぶ

 

間に合え

そう願いもういちど車体を傾け減速を試みたが、壁までの距離は長くなかった。既に手遅れだった

 

 

バイクごと青年らは衝突した

劈くような爆音があたりに響き渡った

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

「...うっ......つぅ...」

 

 

慎也は動けなかった

壁に跳ね返された衝撃で随分後方へと飛ばされてしまったようだ。吠えるような頭痛が襲っている。体中が痛みを訴えている

 

 

うつ伏せのまま蛭谷を探すと、少し離れた位置に倒れていた。意識を失っているだけなのか、それとも...

 

今すぐにでも確認したいが、起き上がることすらもできない。ただ、炎を撒き散らすバイクの熱を眺め、意識を保つしか出来ない

 

 

 

「はぁ.....はぁ...っ!」

 

 

呼吸が苦しい

視界も悪くなっていた

 

意識も遠のいていく

 

 

薄れゆく意識の中で、青年は声を振り絞った

 

 

「...ひ、蛭谷.....」

 

 

それは疑問だった

 

 

 

「今...何にぶつかったんだ?ただのトンネルだったよな.....」

 

 

 

 

青年の疑問に答える者は存在しなかった

 

その瞬間、忌々しい頭痛が収まった。

そのまま慎也の意識は深い闇の中に溶けて行く

 

 

その元へある人物が歩み寄ってきた

 




※運転中の決闘(デュエル)は危険ですのでやめましょう



〜おまけ〜


「あの...皆さん」


西条が放った言葉に、講義の合間を緩く過ごしていた慎也達が注目した。
いつものメンバーが揃う中、西条は一つの願いを口にした


「申し訳ないのですが...木5の小テストの範囲、誰か教えてくれませんか?」
「あーそう言えば居なかったね」


慎也が言う通り、前回の講義を欠席していた西条はテストの範囲を把握していない。当然欲しい情報のため、控えめに訪ねてきた


「今度LIN〇で送っとくよ」
慎也が約束した
日時は指定していない


「覚えてたら俺も送っとく!」
灰田もつづけて言った
恐らく今日中に忘れるだろう


「あぁ...確か教科書の3章辺りじゃなかったかぁ?」
蛭谷は範囲を覚えていた
少し曖昧だが



「何言っているんだ、4章からもでるぞ」
知樹が情報を追加した


「...ふぇ!?来週もテストなんですか!?」
詩織はそもそもテスト自体を把握していなかった


「...らしいわね」
黒川もだ
彼女はそもそも前回の講義に出ていない


「あ、ありがとうございます...」




ーーー
ーー




数時間後、本日の講義を終えた西条は帰路についていた。バスを待っている最中、背後から声をかけられ、振り向いた。そこには高城と古賀がいた。


「麗華ちゃーん、おっは〜」
「おっは〜」
「あら...高城さんに古賀さん...こんにちわ」


使用する駅が同じのようだ
当然話題は気になるテスト範囲


「あの...突然質問で申し訳ありませんが、お二人は木5の講義、取っていますか?」
「およ?木曜日は全休だよぉ〜」
「俺は4限までだね〜村上ちゃん達に聞いたら?」
「そうですか...いえ些か不安でして...」



ーーー
ーー




さらに数時間後、自宅まで歩いている最中に、草薙らと出会った。家が近い彼女たちは別に珍しい事ではなく、世間話をしながら帰路を共にした

西条はどうしてもテスト範囲がきになるようだ


「あの...草薙さん、木5の講義なんですけど...」
「木5でして?多読ですわよね」
「はい...その来週のテスト範囲を知りたいのですが...」


やっと信頼できる人物に聞けたと安心した
が、告げられた内容にすぐに絶望させられる


「...多読のテストは先週ですわよ?」
「えぇーっ!?」



その夜。慎也から約束通りテスト範囲の写真が送られてきた。
講義内で配られるプリントの写真だった


他に送られてきた写真は無かった
他に送ってきた人物も居なかった

ぶっちゃけどうですか?

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