遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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元々こっちを先に上げようとしてたのですが、急遽「Deadly Vice」と順番を変えました

そのため、少し間が空いてしまったことと、一話が長くなってしまいました。申し訳ありません

今回も決闘(デュエル)なしです...



第六十一話 collying

1人の女性が息を殺して泣いていた

その女性1人では明らかに余る大きさのベッドの片隅で、必死に声を抑えて喘いでいる

 

傍らにはその女性の倍の年齢もありそうな男がいびきをかいて眠っている。命を包んだテッシュのゴミの匂いも、時折触れるその男の素肌も彼女にとって不快でしかなかった

 

 

腹部の下が痛む

ズキズキと、まだ生きている事を懸命に主張している

 

もう殺してくれ、死んでくれとまで女性は願っていた

 

 

「.....グスッ..ヒグ...」

 

 

その女性もまた体液を拭った

数枚のティッシュを濡らすと、まとめてゴミ箱へと投げ捨てる。既にティッシュのゴミは山積みになっており、それが女性の体液なのか、その男のモノなのかは到底分からない

 

わかる事は、今日純血を失った事だけ

 

時計を見ると、時刻は午前3時過ぎ

日が変わる前から蹂躙されていたため、今日失った訳では無いようだ。昨日から失い続けていたのだ

 

 

「.....グス...」

 

 

太ももに何か液体が触れる感触があった。手で触れてみると深紅のそれが付着しており、すぐに自分のものだと分かった。

 

無意味にそれを眺めても痛みが和らぐ事は無い

彼女の体は汚れてしまったのだ

 

 

鈍痛を抱えながらよろよろと立ち上がると、熱を帯びた肉体を冷まそうと台所へ歩いて行った

冷蔵庫の中を検めようかと考えたが、それに貼ってあった4桁の数字が彼女の手を止めた

 

有料なのだ、中身を見る気も失せる

仕方なく備え付けのコップを手に取り、流しの蛇口から滴る水をそれで受け止めた

 

先ほどから体温が高い事は分かるのだが、何故か体中の末端が凍るように冷たい。水を出す簡単な作業でさえ、指先が震えて上手くこなせない

 

足もそうだ。指先に力が入らず、立っているだけでも億劫だ。いい加減渇きに耐えられない喉に水を流し込むと、コップが空になるまで続けた。

 

だが渇きが潤うわけでなく、体温が下がるわけでもなかった。ただ噎せて、力一杯喉を痛めただけだった。

大粒の涙を瞳に浮かべたと思えば、それはすぐに頬をつたい重力に身を任せて落ちて行った

 

それを見届けると無気力に呟いた

 

 

 

「...グス...なんで.....私はただ...」

 

 

広い台所に1人

朝日が昇る頃には後にするはずのホテルの一角だ。どれだけの金額を支払えばこれ程の一室を借りることが出来るのだろうか

 

彼女自身、このようなホテルに泊まったことはなく、これからもないと思っていた。完備された調理器具は、彼女の自宅にある物よりも多い

 

優越感のようなものは一切無く、ただただ自分を惨めにさせる材料にしかならない。彼女が見つめる先には、常設された調理器具の一つ。誰もが見たことも使ったことのあるそれがあった

 

 

「.....ヒグッ...」

 

 

怪我防止のためか、普段目にするそれとは違うプラスティック包丁。正確にはセラミック製の包丁は彼女自身も初めて触る

 

指先に刃をあてがい、ゆっくり引いてみると赤い一線が生まれた。これでも十分に肉を裂ける事は証明された

 

問題はその鋒を向ける対象だ。自らの喉仏を脅してみたが、やらずともそれが間違っている事は分かっていたはずだ。

 

 

「.....」

 

 

この部屋に唯一存在する自分とは別の人間

いまベッドで深い眠りについているあの男はどうだ。憎しみだけでなく、殺意はあるか。包丁を向けてみればそれは判明した

 

 

「........」

 

 

あった

先ほどまでは死にたいとまで思っていた願望も、気がつけばその男への殺意がそれを上回っていた

 

包丁を手放さないまま、その男が眠るベッドまでゆっくりと歩いて行った

何も考えないつもりだったが、脳内にきっと楽しかった過去の記憶がめぐり出した

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

ー 

 

 

 

 

 

1990年の夏、彼女は生まれた

 

生まれた時は平均よりも軽い体重だったが、その後大きな病気にもならず、大きな怪我もなかった。人並みに学び、人並みに遊び、人並みに決闘(デュエル)を楽しんでいた普通の女の子だった

 

強いてあげるなら、人一倍決闘(デュエル)を愛していた。その広くない地域では誰しもが知るほどそれは有名だった

 

10歳を迎えた頃には、周りに親しい友が当たり前のように存在し、念願だった自分のデッキも持っていた

 

 

「あっ、«ꫨꆣ(0?0?0?)»ちゃん!今日も決闘(デュエル)する!?」

 

「うん、勿論だよ!」

 

 

その少女の名を誰かが呼んだ

当然名を呼ばれたのなら反応を示す。だが、彼女自身何と呼ばれていたか思い出せない

自分の名前を思い出せないのだ

 

 

その頃は学校が終われば帰路の途中で決闘(デュエル)の誘いを受けるばかり。それ以外のものに興味を示さないほどまで熱中していた

 

 

「今日も獣さんのデッキ使うの?」

 

「勿論!」

 

「あ、決闘(デュエル)するの?俺も見たい!」

「俺も俺も!」

   

 

普通の事だと思っていた

広い友好関係も、楽しく決闘(デュエル)をする事も

家に帰れば優しい両親が迎えてくれ、暖かい食事と暖かい家庭がある

 

柔らかい布団に潜り朝を待てば、また楽しい1日が始まる。それが当たり前だと思っていた

 

大好きなテレビ番組もあった

同世代に人気なアニメでも、顔立ちのいい青年達が披露する歌番組でも無かった

 

遊戯王のアニメや、最新ニュース。複雑なルールを学ぶ教育番組が大好きだった

 

特に齧り付いていたのは、プロデュエリスト達による決闘(デュエル)の大会。そこには絶対に決闘(デュエル)に必要のない筋肉を携えた巨漢の男や、派手なドレスを身にまとったきらびやかなら女性。使うデッキに因んだモンスターのコスプレをする者や、何も着飾らない者もいた

 

そういった個性のぶつかり合いも少女は大好きだった

そして憧れでもあった

小学校の卒業文集にも将来の夢にはプロデュエリストと記されている。

 

 

少し決闘(デュエル)以外の事も考えなければならなくなったのはそれから5年後だった。高校受験は難なく突破できた彼女だが、大学受験は簡単には行かなかった

 

勉学が苦手なわけではない。だがプロデュエリストを目指すためには上京は強いられていた。親からの反対こそ無かったが、彼女自身も悩んでいた

 

両親は共働きであり、自分のためにそこまでお金をかけてもらう事に抵抗があった

両親と向き合い、相談した事もある。

 

 

「行きなさい」

 

 

その時言われた事はそれだけ

彼女の腕と愛を知っている両親に反対する理由は無かったようだ。彼女自身の決意を改める結果となり、必死の勉強の末、彼女は見事大学受験を成功に収めることが出来た

 

 

既にプロデュエリストを世に送り出している聖帝大学と、より多くの企業とのパイプを持つ秀皇大学とで進学先は迷っていたが、彼女は後者を選んだ

 

 

 

「は、初めまして...«듨ꆣ ꫨꆣ(0?0?0?)»と申します!よろしくお願いします!」

 

 

初めての地に初めての一人暮らし

慣れないことばかりだった。幸いにも、ゼミで選んだ教授は理解のある人間であり、周りの生徒らも1人上京してきた彼女を手厚く歓迎してくれた

 

折角勝ち取ったこの生活に慢心せず、彼女は在学中必死に単位修得に専念した。決闘(デュエル)関係の講義は勿論、他学部の講義にも積極的に参加した

 

そして3年後。そろそろ就活やインターンシップの事を視野に入れなければならない時期に差し掛かった

 

当然高校過程で将来について熟考済みの彼女は、プロデュエリストを目指す志を変化させていなかった

 

あらゆるガイダンスを経て、遂にインターンシップを受け入れてくれる事務所を手に入れた

 

 

「初めまして、秀皇大学から参りました、«듨ꆣ ꫨꆣ(0?0?0?)»と申します。これから1週間よろしくお願いします!」

 

「はい、よろしくね」

 

 

インターンシップ期間、秀皇大学からは公欠が許されていた。1週間と長くない期間だが、彼女はそれに集中する事が可能だ。

 

プロデュエリストは特殊な公務員のような扱いであるため、インターンシップは通常の職とは異なる。この期間で体験できる業務はあくまでプロデュエリストを管理する事務所での仕事になる

 

彼女が目指すプロデュエリストになるにはいくつか方法があり、在学中に必要なライセンスを習得し、国家試験に合格する事。または事務所から直接スカウトという形で籍を貰い、そこからプロデュエリストに変換させるケースもある

 

ひとまずインターンシップ期間をイタズラに過ごす事を嫌った彼女は、事務職を体験しておく事にしたようだ。大学からもそれを進められていた

 

 

今回実習先に選んのは”サイブート”という名の事務所。ここは都内にある有力かつ巨大な事務所だ。必ず得られるものはあると、期待に胸を踊らせながら彼女のインターンシップは始まった

 

 

 

「あの...」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 

初日の朝、早速違和感を覚えていた

掃除の行き届いたオフィスや、テレビで見ていたプロデュエリストの姿や、それを管理する大人数のスーツの人間達。どれもプロデュエリストの事務所を裏付けるようなものばかりだが、彼女には解せない点があった

 

 

「えと...私以外の生徒はいないのでしょうか...?」

 

「...なんだいそんな事か」

 

 

定刻になってもインターンシップ参加者は彼女以外に現れなかった。初めは自分だけが何かを間違えて閉まったかと不安に駆られたが、社長と名乗る男が現れた地点で杞憂に終わった

 

だがやはり気になる。社長がわざわざ出てきた事よりも、こんな大きな会社に対し、インターンシップ希望者が自分一人なはずがないと

 

 

「君の他にも5、6人いるよ。ただ君にはこの1週間私に付いてもらうからね」

 

「は、はぁ...付くとは?」

 

「そのままの意味だよ。君はプロ志望なんだろ?なら事務職をやらせるのは違うだろう。実際にプロの世界を見せてあげるよ」

 

「そうですか...ありがとうございます」

 

 

幸先は闇に包まれていた

プロの世界ならプロデュエリストに付けてくれてもいい。社長が腰を上げる必要があるのか。

そもそもの話自分1人に贔屓が許されるのか、プロデュエリストを目指しているとはいえ、何も無いただの学生だ。

 

何も無いただの学生故に、異論など唱えることは出来なかった。ただ不安な流れに身を任せることしか出来なかった

 

 

「今日は社内の見学と軽い説明で終わろうか。ほら、こっちだよ」

 

「キャッ..な、何を...」

 

「なんだい、軽いスキンシップじゃないか」

 

 

腰に男の感触がした

身を引こうとするも、それ以上の力で引かれた

スキンシップと称されたその行いから逃げ場を失った彼女は、やむ無くその男に連れていかれる事となった

 

 

 

 

 

 

 

だが、その後インターンシップは順調に終えることが出来た

表面上でしかなかったが、彼女には確かに学ぶ事があった

 

それは社会の不条理と自分の無力さ

気がつけば彼女に与えられた選択肢は一つしか残っていなかった

 

これはインターンシップを終え、通常通り秀皇大学に戻った初日での教授との会話

 

 

「«|듨ꆣ»君、先方が随分君を気に入ってくれたみたいでね、来週にもう1度機会を設けてくれた。君を直接指名しているんだ、当然行くよね?」

 

「...お言葉ですが私は」

 

「あのサイブートから直接オファーが来ているんだ。まさか断らないよね?」

 

 

彼女はあの事務所が嫌いだった。あの場で彼女が見せられた風景がそうさせている

 

テレビでは見せないプロ達の裏の顔もそうだが、何よりあの社長が気に入らなかった

 

21年間大事に育てられてきた我が身を貪るような手つきも、まるで物のように見定める目付きも

 

「気に入られている」のが彼女の体の事だと言うことは恐らく誰もが理解しているだろう。始めは1週間という期間があったからこそ通い続けられた。次も同じ事が出来るかは自信が無い

 

 

「ですがプロ試験の勉強の方も...」

 

 

彼女が言い訳に選出したのは勉学の理由。

インターンシップ先とも将来の夢とも辻褄があう一言だった。だが、今まで手厚く面倒を見てくれた教授の一言は思いがけないものだった

 

 

「君は馬鹿なのか?」

 

「え?」

 

「あれだけ大きな事務所のインターンに行けただけでも凄いんだ。さらに直々にお声がかかるなんて今までにもなかった。これはスカウトと言ってもいいんじゃないのか?」

 

「スカウト...ですが私の...」

 

 

大学側としては是が非でも彼女に行かせたいようだ

秀皇大学は様々な企業と数多くのパイプを持っているため、彼女にはその看板が汚れるのを恐れているように見えた

 

尚更インターンシップを切り上げ自分の勉強をしたい

素直な人間味溢れる考えだ

 

だが、その教授は冷酷に続けた

 

 

「...自力でプロになれると本気で思っているのか?」

 

「そ、それはどういう意味ですか?」

 

「はっきり言って君の実力は中の下だ。うちの大学はレベルがそこまで高くない。君はその中で中の下だ。頑張ってはいるようだがプロの世界は甘く無い。だからこそこの話は受けるべきだ。このチャンスは二度とこない」

 

「.....私は」

 

「行きなさい」

 

 

あの時両親が送り出してくれた言葉と同じものだった

同じ後押しする為に放ったものだが、それは天と地ほどの差があった。これ程冷たい言葉を掛けられたのは生まれて初めてだった

 

この21年間、周りの人間に恵まれてきた彼女だが、上京3年目にして世の残酷さを味わった

 

 

 

 

 

「やぁ、来てくれたんだね」

 

「...また宜しくお願いします」

 

 

彼女は抗えなかった。結局2度と来たくないと嘆いたこの場所に踏み込んでしまった

 

今回の参加者は彼女たった1人、実習期間も知らされていない。それが公欠扱いになるかも確かめる気力もなかった

 

 

「前回と大体同じことをしてもらう。またよろしく頼むよ」

 

「はい...」

 

 

 

汚い大人達に舵を取られ、暗黒の航海が始まった。

 

その日その日の作業も頭に残らず、ただ毎日の汚い海原を眺めていただけだ。社長と同じ部屋に置かれ、秘書のような仕事をさせられる。それだけだった

 

この長旅に終わりは見えないが、実習終了の事だけは考えていた。終了と同時にこの事務所からは距離をおき、他のプロ事務所で事務職、あるいはそこからプロを目指そうと。大学側はこのまま就職を勧めてくるだろうが、もう彼女自身にその気は毛頭無い。4年生ももうすぐ近いが、この事務所に落ち着くくらいなら就活に苦しんだ方がマシだと言うことだろう

 

 

教授が煩いようならあのゼミに出るのも辞めればいい。卒業要件はもうほとんど満たしている

 

そうやって少しでも未来に希望を持ち、全く興味のない仕事を続けた。早く時が進めと1日、1日を卒なく流した

 

抵抗は無かった

だがその時間の無駄使いを嫌ってのインターンの参加だったはずだ。知らぬ間に抱えた矛盾と共に彼女は生きた

 

 

「«ꫨꆣ(0?0?0?)»君、例の決闘(デュエル)ディスクの件はどうだって?」

 

「はい...電話で確認した所月末までにはとの事でした...」

 

「そうかい。今頃寝ないで頑張ってるんだろうね、あの男は」

 

 

彼女の職場は何故か社長室だった

社長本人のパソコンを操作し、サイブートの下請け会社へ依頼していた仕事の催促の電話を命じられていた

 

依頼時にはいなかったが、この男は「オリジナル決闘(デュエル)ディスクの開発」と教えた。それがプロデュエリストの事務所に関係するかも、社長自らが行う仕事なのかも疑問だった

 

 

「...そう言えば君と同じ名前の娘が最近うちの事務所に来たんだよね、知ってる?”ティーンデュエリスト”っていう雑誌で専属モデルをしてた...」

 

「はぁ...」

 

 

加えてこの男の話し相手になる事

己の会社の大きさを自慢する様な内容ばかり聞かされている。中には興味が引かれる話もあったが、今のようにそこまで話す必要性が無いようなものが殆どをしめている

 

そんな雑誌は知らない、今まで勉学に勤しんできた身だ

そんな事を考えていると、この男は突然口を閉じ、少女をソファーに座らせ自分も隣に座った

 

何かと思えば、体を密着させ真剣な面持ちで語り出した

 

 

 

「...«|듨ꆣ»君、私は君をとても気に入っているんだ」

 

「...ありがとうございます」

 

 

大事な話だろうとは分かっているが、頭の中は大学のことでいっぱいだった

 

あれから大学から何も言われていない。もう何日講義に出ていないが、自分は今何をしているのだろうか。甚だ疑問だった

 

 

「此方としてはすぐにでも君を受け入れたいと思ってる。君さえよければ卒業を待たずにうちの事務所に入らないか?」

 

「...」

 

 

両親の顔が浮かんだ

実際に彼らが働いている姿を見たこともある。必死になって安くない学費を稼いでいるのだ。

 

ここで彼女に忘れかけていた抵抗が生まれた。震える喉を必死に隠しながら、ゆっくりと言葉を発した

 

 

「...折角のお誘いですが...私は大学はちゃんと出たいと.....」

 

「おや、学費の事かね?」

 

 

やはりこの男は嫌いだ

すべてを見透かしているかのような言動も、それの真偽もそうだ。先ほどから彼女の太ももに触れている男の右手は、己の欲求を満たす行為では無く、彼女を逃がさず捉えるためのものにも思えた

 

嫌悪感を拭いきれぬまま、彼女は静かに抵抗を続けた

 

 

「...それもありますが、私はプロデュエリストとし.....」

 

「分かっている。君のご実家があまり裕福でないことも君がプロを目指しているという事も」

 

 

その瞬間、男の口臭が彼女の鼻腔を嬲った

瞳孔が動かせない。少しでも動かしてしまえばそれが見えてしまう恐れが有るからだ。

 

まるで獣のようなそれから目をそらす...目をそらすことも叶わず、ただ静かに怯えていた

 

 

「...大丈夫だ。私が全てなんとかしよう」

 

「.....」

 

「全て考えてある。世間体も考慮している。だから私に任せてみないか?」

 

「そ...それはどういう...?」

 

 

手遅れだったかもしれない

それは何時からだ

 

インターンシップの受け入れ先をこの男の事務所に選んだ時か

秀皇大学への入学を選んだ時か

 

そもそもプロデュエリストを目指し始めた時か

 

 

前に子供の頃テレビで見ていたプロをこの目で見たことがあった。明るく前向きな決闘者(デュエリスト)という印象は、この事務所の廊下で変わっていた

 

マネージャーに対し暴力を振るうその男の姿は、彼女の中のプロへの憧れを酷く汚した。自分が目指していたものはこれなのかと

過去の行いを精算していると、男は臭い口で言葉を続けた

 

 

「まずは...学費やらは全部私のポケットマネーで工面しよう。プロ入りの件も信用できるパイプがある。なんならうちの事務所からプロ入りしてもいい」

 

「そ、そんなことしたら...」

 

「当然世に知り渡れば私も君もただじゃ済まない。だがね...」

 

「!?」

 

 

男は1枚の大きな紙を提示した

実物を見るのは初めてだが、それが何の儀式に必要な者かは誰しもが知るのものだ

 

彼女の名字すら変える1枚だ

 

 

「私の愛人...いや本妻になってもらえれば全て上手くいく。プロライセンスに必要な書類は偽装できる。君が各所の大会で功績を残したという書類さえ残っていれば君はなにもせずにプロになれる」

 

「そ、そんな...」

 

「書類試験も各事務所が管理する。君は君の筆跡で試験用紙に答えを写すだけでいい。あぁ、テレビに出たいんだったね?なら結婚発表をメディアに取り上げさせて充分に注目を引いてから適当な大会に席を作らせよう」

 

 

彼女の頬を伝った一粒の汗は、すぐ下の男の甲を濡らした。男はそれを気にすること無く話を一方的に続けた

 

 

 

「お金は大会の賞金という形で振り込もう。他には何かあるかい?そうだ、大学を中退させてまでスカウトしているんだ、そういう名目の経費も作ろうか?...おっと、両親にも連絡しないとだね?なんならご挨拶にも行こうか」

 

 

昨日見た夢の話でもされている気分だった

この男が語りかけているのは自分ではない他の何かだと必死に転換しようと試みたが、男との物理的な距離がそれを失敗に追いやる

 

まだ若く、未来に希望を持った彼女の人生は、たった今汚く淀んだそれに変わりかけている

 

 

「あ、あの!」

 

「ん?まだなにか不安かね?」

 

 

熱を帯び始めた脚部から男の手を引きはがすと、少し距離を取り男と向き合った

 

言うのだ

今言わなければ一生後悔することになる

 

 

「わ、私は...貴方と結婚出来ません!」

 

「...そうか。確かに卒業も待たないと言うのは早すぎかね?」

 

「そ、そうじゃありません!私は...昔テレビで夢を与えてくれたプロデュエリストみたいになりたいんです」

 

「なれるさ。私が居ればね?」

 

「ち、違います!私は...自分の力で経験を......胸を張ってプロになれたと思いたいんです。ですからその...そういった近道のような事は...」

 

「端折れるならそれに越したことはないだろう」

 

「...私は今の子供たちに夢と希望を与えたいんです。私がそんな事をしてプロになっても...それは出来ない...と思います」

 

「...”そんな事"ね」

 

 

本当ならこの男の頬を引っぱたいてやりたいくらいだった。それをしなかったのは社会的地位を知っていたのと、それに対する理性が残っていたからだろうか

 

男は彼女の内心を受けると、少し目を伏せた

自分の思いが通じたのかとその時は思ったが、これ程図々しい男が納得するのかと同時に不安だった

 

少し気まずい沈黙が続くと、男は2人がけのソファから立ち上がり、言い放った

 

 

「...君の言う通りだね」

 

「...」

 

「大学も有るだろうがね、今日までは一緒に働いてもらえるかな?最後の仕事だ」

 

「.....わ、分かりました。何をすれば...?」

 

「ちょっと出るよ。下に車を用意するから荷物をまとめて降りてきてね。あぁ、持ってきたやつ全部だよ」

 

 

高級そうな椅子からスーツの上着を手に取ると、男は先に社長室を後にした。最後の仕事と告げられたそれは不安だったが、これであの男とも合わずに済むのなら残り数時間も我慢できそうだ

 

彼女も脱いでいた上着を纏うと、私物全てを鞄にまとめてエレベーターを目指した

 

もう何日も通った社内は慣れた。たまにすれ違うプロデュエリストを見てもなんにも思わなくなっていた

何も感じないはずだったが、エレベーターに同車した一人の男だけは違った

 

昔テレビでも見たことのある決闘者(デュエリスト)。彼女がプロを幻滅したきっかけでもあるその男は彼女を見ると、聞こえない程度に舌打ちをした

 

 

「...何階」

 

「い、1階をお願いします」

 

 

ぶっきらぼうに話しながらも、彼女の目的地のボタンは押してくれた。良くもこの男はメディアの前であそこまで明るく無邪気に振る舞えるものだと関心すらしていた

 

そんな目で見ていると、男は突然振り返り彼女を見据えた

 

 

「お前最近いつも来てるけどさ」

 

「は、はい...」

 

「社長のこれ?」

 

 

小指を立てて見せてきた

少し理解が追いつかなかったが、遅れて彼女は必至に否定をした

 

 

「い、いえ違います!私は秀皇大学の学生で...」

 

「...ふぅん」

 

 

エレベーターの振動が止まった。彼女が見上げると、階数は8と表示されていた。恐らくその男が降りるのだろうと理解すると、男は懐から1枚の小さな紙を彼女に向けてきた

 

 

「八百長、ステージの相談。個人的に聞いてやるよ」

 

「え?あ、はい...ありがとうございます...」

 

 

名刺だった

サイブートの名前などは書いておらず、プロデュエリストである証明のエンブレムが小さく記載されていた

 

残りの大きなスペースを埋めるように、大きくゴシック体で”一ノ宮一也”と書かれていた

ここで初めて名前を思い出した。余程印象が無かったのかもしれない

 

 

「でも...どうして?」

 

「......」

 

 

エレベーターの扉が開き、一ノ宮は黙って降りていってしまうかと思われた。彼女の質問は虚空に消滅されるかという瞬間、一ノ宮は微かに呟いた

 

 

「...同じ被害者だからな」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

 

同時刻

琴乃巡査は何もしていなかった

 

正確には何も出来なかった。結衣に連絡先を渡したが、あれから連絡は来ない。そのためこちらから連絡を取ることも出来ないでいた

 

幸いにも事件は無く、ただ始末書を黒く潰して時間を過ごしている。今見ているのはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の組織化についての資料。化野が言っていた通り、本日の朝にこれが公になり、改めて琴乃の耳に入った

 

そのため、今朝から部署内では化野や見たことの無い男が忙しなく荷物をいじっていた。あの口ぶりから化野もS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に異動する事は察しがついている

 

そのため特別気になる行動ではない

 

 

「...結衣ちゃん」

 

 

化野らがサイブート社長を逮捕出来るとして、彼女達被害者は救われるのだろうか。結衣は再びティーンデュエリストに載れるのだろうか

 

それともサイブート自体は存命するのか、とにかく変化は起こって見なければわからない。説明は受けたがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の規模は未だ計り知れないからだ

 

 

「化野さん!」

 

「なんだ」

 

 

また見た事の無い顔が現われた

人の顔を覚える事は苦手で無いが、最近は新顔が目立つ気がする。

 

その男が部署内を大股で走り抜けても、琴乃は何の反応を見せなかった

 

 

「あの男がまた...」

 

「...ハァ、別の女か」

 

 

これには流石の琴乃も動いた

「あの男」、「別の女」この二つのワードだけで敏感な琴乃には何の事か察知する

 

サイブートの社長が、また強姦紛いの事を

 

 

「...っ!」

 

 

一瞬席を立とうとしたが、しなかった

自分が行って何が出来るのか

大人しく化野らに任せるしかない

 

だが現在の時刻は17時49分

予定ではまだ逮捕はしないはずだ

 

ではどうなるか、今危険にさらされているその女性はどうなってしまうか

考えたくもなかったが、彼女の正義感がそれを止められなかった

 

気が付けば化野の目の前にいた

 

 

「.....お願いがあります」

 

「...分かっている。俺だって出さなくていい被害者は出したくねぇ。だがまだ違法ディスクの証拠が揃って...」「私を使ってください!」

 

 

その場の全員が琴乃に視線を向けた

それほど張り詰めた声だった

 

 

「...何を言ってる」

 

「必ず言う通りに動きます。ですからどうか協力させてください!もう黙って待つことは出来ません...っ!」

 

「...」

 

 

無茶な要望だ

既に琴乃は化野の部下ではない。部署どころか組織として違う。琴乃にはサイブートの事件に関与する事は叶わない、絶対にだ

 

そこで彼女がとった行動は 

 

懇願だった

 

 

「お願いします...無理も承知です.....運転手でも見張りでもなんでもいいんです.....あの男逮捕のために...何かさせて下さい...っ!」

 

「...」

 

 

何時も強気な彼女が取るとは思え無い行動に、恐らく化野も困惑しただろう

 

数分黙っていた

その際も琴乃は頭を下げたまま身動き一つしなかった

 

 

「これを書いておけ」

 

「..は、はい!」

 

 

琴乃が渡された紙を確認する前に化野は数人の部下を連れて部署を去った。恐らくもう戻ることは無いだろう

 

そんな事よりも仕事だ

報告書か?礼状申請か?綺麗な字には自信がある。与えられたのなら何だってする

 

デスクに戻り、ボールペンを握った所で彼女は気付いた

この紙は想像していた物のどれにも当てはまらないものだった

 

 

「...これは」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、少女は社長の操縦する高級車にゆさられていた。

行く先もまともに伝えられず、見たことの無い場所ばかりを走ったが、一つ大きな建物が見えた所で男は足りない説明を補い始めた

 

 

「仕事と言っても接待先の下見だ。肩の力を抜いていいよ」

 

「下見って...社長ご自身が?」

 

「勿論。まぁ全部が全部できる訳では無いけどね、君が色々手伝ってくれたお陰で私の手が空いたんだ。だから...君へのご褒美も兼ねてかな?」

 

「はぁ...」

 

「私もそこには初めていくんだ。前よくつかっていたのは...まぁこの話はいいか」

 

 

見たことの無い数の守衛を横切り、地下の駐車場へ車を停めた。駐車場から受付まで行くのにもエレベーターを使う必要があり、やっとたどり着いたそこには、無数のエレベーターがまた存在している

 

傍から見えている以上にこの建物は広いようだ

横に移動するエレベーターなと彼女は知らなかった

 

彼女の倍の高さもありそうな観葉植物も、謎のオブジェも興味を引いたが、それらをすべて見る前に男は戻ってきた。予想以上に早くチェックインは済まされた

 

 

「あの...下見とはいったい」

 

「うちの事務所からの移動とか、先方の趣味とかかな?まぁ、君は気にしなくていい。部屋に行こう」

 

 

男が指先で回す鍵には11451とあった。どれだけの客室があるのか、驚くのにもいい加減飽きていた。

だが、男はエレベーターの数々が並んだ空間を素通りし、さらに奥へ向かっていった

 

まさか階段を使うはずはないと思うと、少し進みまた同じようなエレベーターの扉が並んだ空間に出た

 

足元には4と大きく書かれており、少なくともエレベーター乗り場だけでも4つ以上ある事がわかる。もし他の乗り場でエレベーターを使用してしまったらどうなるのだろうか。考えるのはやめ、必死に11451号室は4番乗り場と記憶しておいた

 

 

エレベーターの乗り心地は快適の一言だった

全く揺れの不可を感じず、気がつけば目的のフロアにたどり着いた。少しだけ歩くと男がなれた手つきで解錠し、部屋へ入って行く

 

後を追う形で彼女も入室したが、また驚かされてしまった

 

 

「す、すごい...」

 

「これなら満足するよね?」

 

 

いい意味で生活感が感じられない部屋だった

些細な汚れ一つすら存在しない純白な壁

如何にも高級そうなカーペット

ガラス越しから見える絶景

 

そして何よりもキッチンの存在が大きかった

数日過ごすだけの一室に必要あるのか疑問に思うほど見事なそれがあった

 

 

「下にレストランもあるけどね、シェフを直接読んでここで料理してもらうことも出来るらしい」

 

「す...すごいですね...」

 

 

キッチンに見とれている彼女の手を引き、男は部屋の説明を始めた。風呂とトイレは勿論別途。リビングとダイニングまで離され、サウナやカラオケルームまであった

 

流石に必要性を感じられない空き部屋まで存在し、少し小さめの部屋も二つあった。

 

だが、最後の部屋に連れ込まれた時、急激に憎悪感に襲われた。

 

そこはベッドルームだった

 

 

「あ、あの...」

 

「キングサイズのベットだ。ここにも冷蔵庫があるし、延長できるテレビもある。ここだけで生活できちゃうね」

 

 

冷や汗が止まらなかった

体の動かし方を忘れてしまったかのように固まってしまった。後ろでなにか金属音がしたが、鍵を閉めたことは見ずともわかった

 

力強く背中を押され、ゆっくりと忌々しいベットに追いやられる

 

 

「あ...あの!」

 

「君に選択肢は無い」

 

 

今までとは別人の声だった

低く、なにかに飢えた獣のそれ

 

気が付けば体を密着させ、ベッドに二人並んで座っていた。吐息がすぐそばで感じられる

 

 

「秀皇大学を卒業した所で君を受け入れる事務所は無い」

 

「ど...どう...どうして」

 

「2度目のインターンシップ。あれはどこにも応募情報を載せていない。無論大学側も公欠処理ができない、つまり私の個人的な収集になっている。君は自主的に我社に赴いていたんだ」

 

「そ、それが何か...」

 

 

男の手が彼女の両肩を捉えた。恐怖の振動を両手で感じ取ると、男は対照的に優しく女性の上着を脱がした

 

丁寧にそれを傍らのテーブルに載せると、薄いシャツを肩の形になぞり出す

 

 

「プロデュエリスト事務所の力の有無は何だと思うかね?強い決闘者(デュエリスト)の数か?人気決闘者(デュエリスト)の数か?違う、結局はそれらを作り出す金だ」

 

 

徐々に男の手が下がっていく

それに比例するかのように女性の体温も熱を忘れていくように感じられる

 

 

「我社は都内で一番大きな事務所だ。その社長が個人的に気に入っている女を他所が受け入れると思うかね?」

 

「...」

 

「先月は2つの事務所私の機嫌を損ねたせいで潰れた。今月も既に1つ雑誌出版社を潰した。もういい加減周りもわかっている頃だ。私が君に目をつけた以上、君はプロになるためにはうちに来るしかないんだよ」

 

 

女性の豊満な乳房に男の手がかかった

小さく体を震わせ、抵抗しようとしたが男の力が優った

 

両肩をベッドに押さえつけられ、男は馬乗りになった

女性の怯える表情を独り占めすると、満足そうに舌なめずりをする

 

暴れてみたが全く結果が伴わない

むしろ男を満足させてしまったようだ

 

 

「力づくで逃げれると?」

 

「ゆ...ゆるして...下さい。それだけは.....」

 

「君は”そんな事”なんて言っていたね?やっと重大性を理解したか」

 

「っ!?」

 

 

女性がまた何か発しようとした時。男の唇がそれを塞いだ。口呼吸を望めなくなり、必死に男を引き剥がそうともがいた

 

だが等々男の舌先は口内に侵入し、ただ女性の虚しき嬌声がこもって響いただけだった

 

 

「ゲホッゲホッ!何...何を!?」

 

「私は別にいくつも会社を持っている。例えば君の両親が働いているあの小さな印刷会社...あそこも私の会社の下請けだったな」

 

「...酷い」

 

 

女性は泣いていた

いったいこの男は自分の何を知らないのだろうかと。親の勤務先も手玉に取られ、必死に伸ばした腕も軽々しくいなされた

 

シーツを濡らす涙も、彼女が抱く嫌悪感も恐らく男は理解しているだろう。知ってる上での行動なのだろう

 

考えると余計虚しく思えた

 

 

「もういい加減理解しただろ?分かったら全部脱げ」

 

「.....ヒッグ」

 

「......そうかい」

 

 

女性が涙を浮かべ、何も出来ないまま固まっていると。男は一息ついた。一度腰を上げ、彼女を天井の証明で照らすと高い位置から見下ろした

 

彼女も涙越しにそれを見た

その男は醜く嗤っていた

 

 

 

「私が脱がしてやろう...っ!」

 

「い、嫌.....や、やめて.....」

 

 

男が女性の胸を鷲掴みにすると、女性は物理的に危険を感じた。薄々分かっていたことだが、これは避けられようのない非道なのだろうか

 

昔から発育のよかった彼女は同級生にイタズラをされることはあった。だが、その時胸に感じた異性の掌とは全く違い、ただただどす黒い姓の闇をその身で受けた

 

両親から授かった大事に肉体だ。

だが、この時ばかりは男の手から溢れる、女性らしい豊かな胸か恨めしく思えた

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

食事もろくに取らなかった

まだ日が暮れる前にこのホテルに来たはずだが、時刻はやはり3時をすぎていた

 

あの男は財力だけでなく、精力も無尽蔵なのかともはや関心できる

 

局部の痛みはもう感じられない

あるのはひたすらあの男への殺意のみ

 

 

「...」

 

 

セラミック製の包丁をしっかりと握りしめ、男の喉仏を捉えた。知識はないが、そこを刺せばおそらく死ぬだろうと考えた結果だ

 

 

「.....お母さん...お父...さん.....」

 

 

後悔しかなかった

もう自分に生きる理由も目的も意味も感じられなかった。これからこの男の慰安婦として生きていくのであれば、いっそ殺してしまおうか、それとも自らが死のうか

 

 

「.....グス...」

 

 

天秤にかけて見ると、彼女には前者は選べなかった

どれだけ非道な人間を前にしても、彼女に人を殺める事は出来ないようだ

 

ゆっくりと包丁を引こうとした時

 

 

眠っていたはずの男の目が開いた

 

 

「っ!このアマァ!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

包丁を持っていた手を弾かれ、その痛みに怯んだ隙に頬に重い一撃を受けた

 

手も頬を赤く腫れており、男の力が身にしみた。また新たな痛みが出来てしまった

 

 

「いい度胸じゃないか?寝込みを襲われるんじゃ寝てられないね?」

 

「ち、ちが...」

 

「うるさい!お前は体だけは大したもんだが頭が足りねぇみたいだな。こいオラ!」

 

「や、やめて!」

 

 

純白だったはずの汚れたベットに投げ捨てられた

逃げようともがくが、すぐに男に頭を押さえつけられ力を失った

 

今命を襲われたというのに対し、視界の端に映った男の陰茎には血液が活発に流れていた。

 

既に彼女の内部には男のモノが示されているのにも関わず、まだそれを残そうとするのか。彼女の両足を力強く開くと、男は自らのモノを彼女の開いたばかりの蜜壷に押し付けた

 

 

「お前には躾が足りない。朝まで俺が叩き込んでやるから覚悟しろ!」

 

「も、もう......」

 

 

涙越しにひたすら本能に従う獣の姿を捉えると、彼女は抵抗の力を紐解いた

 

抵抗する気力も失せてしまった

 

 

 

 

だが、いつまで経っても男のモノが彼女に侵入する事は無かった。せめて一思いにとせがみ、瞳を開くと目の前には先程の男はいなかった

 

代わりに眼鏡をかけた二重の若い女性が必死に何かを叫んでいる

 

 

「...た。貴女、大丈夫!?」

 

「.......?」

 

 

追い付くことを諦めている理解を急かし、何とか頭を働かせてみた。いくつか分かったことがあった

 

聴覚が目の前の女性が自分を心配している事を知らしめた

視覚は彼女を貪ったあの社長がスーツ姿の男達に取り押さえられている所を提示した。全裸のまま暴れている

嗅覚は相変わらずだった。性が入り交じったような臭いがこもっている

 

 

彼女が頭をフル回転させ、何も語らないでいると、眼鏡の女性は自らの上着を被せてくれた。ここでようやく自分を助けてくれたのだと把握した

 

自ずと言葉も生まれた

 

 

「...わ、私.....」

 

「もう大丈夫なのよ!...酷い怪我、それに貴女...」

 

 

打たれた頬を優しくなぞられた。シーツの汚れと、全裸でいる彼女と男から状況を察したその女性は、悲観を隠さず見せた

 

涙が乾いてしまった彼女の代わりに、眼鏡の女性は大粒の涙と嗚咽を放った

 

 

「.....どう...して?」

 

「グス.....あの男はね、表の顔はプロ決闘者(デュエリスト)事務所の社長だけど...裏では違法なカードやディスクの制作と販売を行ってたの」

 

 

まだ多く語れない痛い気な彼女のために、眼鏡を直しながらその女性は事の詳細を語り出した

 

男は相変わらず吠えている

 

 

「自分の事務所を大きくするために、わざと違法ディスクを他事務所に送り付けて潰していたの。公式大会でディスクに反応しない違法カードを使わせ、他のプロを蹴落としていたのも分かった」

 

「...」

 

「...貴女のような被害者も知ってたの.....でも千葉県警の本部長や警視庁に揉み消されて助けられなかった...遅れてごめんなさい...」

 

 

口振りから警察なのだろう

よく見るとスーツの胸ポケットには見慣れないエンブレムが刺繍されている

 

だが、あの男が悪い人間だと言うことなどとっくに知っている。そして彼女らがたどり着く前に既にあの男に食されてしまった

 

何も言うことも無く、ただ無気力に惚けていると、例の男は彼女に向って牙を向いた

 

 

「おい!どういう事だ!?まさかお前がサツを...このアマァ!」

 

「よしなさい!見苦しいわよ!」

 

 

震える全裸の女性を庇うように眼鏡の女性は吠える男を一喝した。だが、男に静まる様子は見えず、怒号の勢いは増すばかりだった

 

 

「覚悟しろよ!俺だけじゃない、お前も終わりだ!もうお前を受け入れる事務所なんか無い!俺が居なくなればこの辺りの企業は全部お前を拒むだろう!」

 

「黙りなさい!」

 

「田舎に帰っても同じだ!既に手は打ってある。俺をこんな目に合わせやがって...てめぇも道ずれだ!」

 

「ヒッ.....」

 

「あんた...」

 

 

恐怖が再び彼女を襲った

全身で震えているのは何も衣類を纏っていないからではない。体の心の底から男を拒絶している

 

眼鏡の女性は今も尚叫び続ける男を睨み、大股で近付いていった

 

広い部屋だが、たった3歩でその男の元までたどりついた。2人がかりで押さえつけられている男を見下し、握った拳をそのままふりおろした

 

 

「いい加減にしなさいこの外道!」

 

「ぐぇ!?」

 

「もう私は見てるだけじゃないの...あんたの悪事を裁けるのよ!」

 

 

鈍い音がした

女性の力とは思えない程の一撃が男のこめかみに響いた。あまりの勢いに眼鏡がずり落ちたが、女性は気にすることなく二撃目、三激目をくりだした

 

 

「...これはあの子の分と結衣ちゃんの分...ごめんなさいね、最後のは個人的なものよ」

 

 

一撃目より深い音がなったが、それをトリガーに男は沈黙した。男の意識が途絶えたことを確認すると、眼鏡を拾うこと無く真っ直ぐベッドまで戻ってきた

 

 

「...怖かったよね」

 

「...っ?」

 

 

裸眼の女性は震える女性を抱きしめた

力強く、その上優しく抱きしめた

 

 

「え...?」

 

「私達が.....もっと早く動ければ...っ」

 

 

まるで自分の痛みの様に苦しんでいた

すぐ耳元ではその嗚咽が聞こえ、背中に回された腕も震えている

 

非常に不安定な抱擁だ

それなのに何故か安心させるものだった

 

一瞬腕に力が入ったかと思うと、泣き顔が目の前に移った。唖然とした全裸の女性と、涙でファンデーションが落ちてしまった女性が見つめ合う形になった

 

 

「会社ぐるみの犯行なの、もうサイブートは絶対に再起出来ないわ.....もう貴女は怯えなくていいのよ...」

 

「...ほん..本当に?」

 

「えぇ...っ!」

 

 

何かに耐えきれなくなった彼女は、気付かぬ間に抑えていた悲しみを爆発させた

 

乾いたと思っていた涙は止まることを知らず、押し殺した声も思いのままふり絞った

 

まるで幼子のように彼女は泣いた

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

よく晴れた日の午後

都内の公園に彼女はいた。

 

淡い色のカーディガンの下はリクルートスーツ。手元には理不尽に叩きつけられた大学からの手紙

隣にはあの時抱きしめてくれた眼鏡の刑事がいる

 

青々とした木々によく映える大きな噴水の前に彼女達はいた

 

 

「両親は上からの圧力で色々大変だそうです。必要のない異動を繰り返されて、辞めようにも退職金は出ないと...それでも私の学費を払うために.....」

 

「...そんな事が」

 

「大学の方もインターンシップ先で失礼を重ねた事と...講義を重ねて休んだ事やらで進級は諦めろと」

 

「.....酷い話ね。あの男の根回しがそこまで進んでいたなんて...」

 

 

眼鏡の女性は憤りを顕にした

が、それをすぐに辞めた

 

代わりに見せたものは怒りではなく、彼女に対する謝罪だった

ベンチから腰を上げ、黄昏る女性に向き合うと頭を下げた

 

 

「...サイブートは違法カードの件と余罪が世に出て潰れたわ...でもS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)としても各企業の方針までは手を加えられなかった...貴女の家族も貴女自身も...結局助けられなかったごめんなさい」

 

「.....」

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)と口にした女性は涙まで浮かべていた。彼女はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間である前に、彼女を思いやる一人の女性として心の底から悲観しているのだ

 

だが、謝罪を受けた女性は相反して否定した

 

 

「...頭を上げてください。悪いのは全部私なんですから」

 

「何を...貴女は何も!」

 

 

カーディガンを脱ぎ、適当にまとめるとそれをベンチに置いた。そのまま上はシャツのまま両手を広げると、少し肌寒い風が彼女をくすぐった

 

 

「今やっと0に戻ったんです。今度こそ自分の意識で、自分の夢を追うんです...っ!もうこれを正す必要も無いね」

 

 

そう言うと第3ボタンまでシャツを開けた

育ちすぎた女性らしいさを押さえつけていたそれは勢いよく開き、彼女自信も楽そうに伸びをした

 

非常に魅力的だった

同性であるこの刑事も思わず見とれる程に

 

 

「...刑事さん。お名前、聞いてなかったですよね」

 

「.....そう言えばそうだったわね」

 

 

眼鏡の刑事も立ち上がった

まだ着慣れないスーツのエンブレムを見せると、無理やり作った笑顔で名を語った

 

 

「私はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘(デュエル)違法取り締まり課の巡査、琴乃唯衣(ことのゆい)よ」

 

「唯衣...」

 

 

彼女にとって始めてこの刑事の名を知った時だ

この自分のために泣いてくれた刑事の名だ

 

そう言えば自分も名乗っていなかった

名も知らない自分のために、この刑事は共に悲しんでくれたのだったとあの時の記憶がよぎった

 

唇を噛み締め、耐え抜くと自らも名を語り出した

 

 

「.....私は秀皇大学経済学部の神瑞希唯一(かんみずきゆい)です。...同じ名前ですね」

 

「貴女もゆいちゃんなのね...なんだか偶然とは思えないわ」

 

 

2人のユイ

だが琴乃にとってユイとはもう一人いた

 

彼女がサイブートの悪事を知るきっかけになったもう一人の被害者。あれからも連絡は無いが、彼女はいったいどうしているのだろうか

 

自分の無力差故に、2人のユイはあの男の牙に噛み付かれた。それほ、どう足掻いても消せない過去となってしまった

 

 

「どうしました?」

 

「...うぅん、何でもないわ」

 

 

たがその1人のユイが立ち直ろうとしているのだ

自分が弱気になってどうする

 

自分は化野から手渡されたあの書類で正式にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間になったのだ。もう後戻りはできない

 

 

「...実はね」

 

 

そして、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間として今日は唯一に会いに来たのだ

 

いつまでも自分のやりたいことばかりでは駄目だ

貫いてきた正義感は捨てず、足元に置いておこう 

 

唯一にはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)からある誘いが来ている。その話は琴乃自信に与えられた仕事

唯衣の新たな道となるか、それともまた選択に苦しめてしまうか

 

どちらかは分からないが、話してみようと考えていた

 

 

「貴女に月下へ行かないかって話が来てるの」

 

「...えっ、えっと.....よく分からないんですけど...」

 

 

琴乃が口にしたワードは、彼女自身も最近聴いたばかりの物だった。既にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に在籍し、一通りの説明は受けたとはいえ、初めて月下の事を聞かされた時は唯衣と同じ反応をしていたものだ

 

一般人である唯一には、永世界の事や精霊の事は話せない。化野は、あくまで開発中の土地への派遣と偽るよう言われている

 

そして唯一を呼ぶ理由は、彼女の決闘力(デュエルエナジ-)と適合が関係していると

適合者が極端に少ないデッキを使い、なおかつ平均よりも多く決闘(デュエル)原子を集める彼女の体質は、国としても特別処置をとるに値するものらしい

 

そのためこれは一種のスカウトだった

理由も裏も明かせない一方的なスカウト

 

無論国としてもそんな怪しすぎる誘いを受けるはずがないという見解だ。まだ学生であるのも踏まえて、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は誘いを断るのならこれ以上関与しないとの話だ。もし勧誘を受けるのであれば大学面の授業料も踏まえ、可能な限りのサポートはするつもりらしい

 

琴乃としては複雑な心境だった

これ以上彼女の人生に介入していいのか、それとも日本にいるよりかは月下で新たな人生を始めるべきなのか

 

結局の所、明かされた材料で唯一自信に決断してもらうしかない

琴乃から話せることはすべて話した 

 

後は唯一が決めるのだ

 

 

「.....私は」

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

「なにぼーとしてんの?」

 

「.....いいえ、何でもないわ」

 

 

眼鏡の女性は、ガンリに急かされ彼女の髪のケアを再開した。昔はあんなに素直だったのに、今では少し男勝りな所も見える

 

それは月下が原因だ

彼女自身が決断した事だったが、琴乃は後悔すらしている。やさぐれてしまったのも、月下のあの制度が悪かった...

 

 

「はい、終わったわよ」

 

「...ん」

 

 

礼を言うわけでもなく、ぶっきらぼうに鏡の前から立ち上がった。何か言ってくれてもいいのだが、それが照れ隠しなのは琴乃には分かっている事だ

 

日本にいた時を含めると、琴乃とガンリの付き合いは長い。名前が変わろうと、性格が変わろうと、揺るがない絆があった

 

 

「...まだこんなの持ってんの?」

 

「.....えぇ」

 

 

ガンリが顔を顰めたものは、クローゼットにある黒いS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のスーツ。あまり思い出したく無い事もあるのか、怪訝そうに琴乃に尋ねてきた

 

だが、琴乃自身それを二度と着るつもりは無い

今は失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の人間なのだから

 

 

「あんたも物持ちいいよね...」

 

「...唯一、心配しなくても私はもう失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)よ。貴女と離れないわ」

 

「ガンリだってば」

 

「じゃあ私の事も名前を呼んでちょうだい?あんた呼びは寂しいわ...」

 

「...」

 

 

イタズラめいた表情で琴乃が願うと、ガンリは目を逸らして黙り込んでしまった

分かっている。嫌なのではない、恥ずかしいだけだ

 

そんなガンリが愛おしく思え、表面に出さないように笑っていると、誰かが琴乃の部屋をノックした

どうぞと琴乃が返答すると、控えめに扉が開かれ黒いフード姿の男が現れた

 

 

「失礼します。”グラス”様...ガンリ様もいらしましたか。本日10時、白《フロ-》に収集がかかっておりますので遅れないようお願いします」

 

「えぇ、分かったわ。ありがとう」

 

「それでは失礼しました」

 

 

グラスは琴乃の月下での名だ

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の立場ではなく、唯一のために月下に赴いた琴乃は、唯一と同じように名が変わってしまった

 

今ではすっかりその名に慣れたが、何故かガンリは嫌そうな顔をしている

黒服の部下が去ると、そそくさとその扉まで歩き出した

 

 

「...戻る」

 

「えぇ、ちゃんと10時に来るのよ?」

 

「......分かってるよ...琴乃姉ちゃん」

 

 

出会いの名を使うと、ガンリは部屋を去っていった。

その名で呼ばれたことよりも、恥ながらも素直に名前を呼ぶ事に心が揺らいだ

 

残されたグラスも、(フロ-)収集まで己の準備を進めることにした。あまり悠長にはしてられないからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 

 

 

 

◐???

 

 

とても明るいとは言えない狭い室内

1人の青年と、1人の女性が体を密着させ、額に汗を滲ませている

 

 

「そうよ...そこ...んぅ違うわ、そっちの穴じゃないわ...」

 

「こ...ここですか...?」

 

「ふふふっ...そこよ、入れてみて...」

 

「はい...入れます.....」

 

 

女性の指示に従い慎重に動いているが、青年は困惑した様子を隠さない。その青年にとってこれは初めての試みであり、良く見えない穴を求めて必死に体を動かしている

 

角度が悪いのか、ただでさえ薄暗い室内で、硬いソファーの上では難航を極める作業だった

その青年よりも年上の彼女は、その不器用な仕草を楽しそうに見つめ、我が子のように見守っている

 

 

「...っ入りました」

 

「んっ...上手よ」

 

 

青年の指先...

 

が摘んでいた1本の白いモールが黄色のモールの塊を貫いた。これにより、1つモールアートが完成を期した

 

白くふわふわとした花が青年の手の中で生まれ、達成感でその花を包み込むと、満足そうに青年は伸びをした

 

 

「ふふふっ...慎也クン上手ね?」

 

「いえ氷染さんが教えるの上手いからですよ」

 

「んもぅ...菫って呼んでよ?」

 

「は、はは...」

 

 

月下へ向かうトラック内での会話だった

予想以上に月下までの道のりは長く、プロによるデッキ調整も終えとうとう時間を持て余してしまっていた

 

形谷と編風は仮眠をとっており、一ノ宮は先程から何かの資料に釘付け状態だった

 

そこで慎也は隣で1人モールアートを勤しむ氷染に捕まり、新しい試みに挑戦させられていた

 

 

「...疲れましたよ」

 

「ふふふっ...お疲れ様〜」

 

 

正直な感想だった

単純に細かく精密な作業が続いた事と、初めて触る鮮やかなモールの性質にだ。ちょっと力で変化してしまい、集中力を途絶えさせられなかった

 

それに加えて、この女性にもあった

吐息がかかるほどの距離

慎也の手を握る滑らかな肌

右肩に当たる女性のモノ

 

鈍感な慎也でさえ勘違いを起こしてしまいそうな時間に、疲労さえも感じてしまった

 

だが、完成した花は見事なものだった

あの細いモールが肉体を得るとは思えなかった慎也は、氷染の腕に溜息が出るほど心を打たれた

 

 

「...モールアートが趣味なんですか?」

 

「んぅ...趣味と言うよりルーティーンかしら?」

 

「ルーティーン?」

 

「なにか大きな仕事の前には必ず一つ作るの。例えば大会前とかね?その時の調子に合わせて作るのを変えるのよ」

 

「はぁ...」

 

 

慎也が見ていた物は、氷染の手の中にある花。慎也の物とは一線を画し、見事な立体と表情である。力の差を感じていると、その花は上昇した

 

氷染がその花を顔の高さまで上げると、小さく口付けをした。そのままこちらに笑顔を見せ、小首をかしげた

ひどく魅力的だ

 

 

「...これ何の花ですか?」

 

「ふふふっ...パセリよ♪」

 

「パセリ......」

 

 

これには苦笑いで返しておいた

慎也が言葉に困っている事を察すると、氷染は自分のペースを乱さず語り続けた

 

 

「言ったでしょ?その時の調子に合わせて作るって。元気が無い時は好きな物を作るの、リンゴとかケーキとかね?やる気満々の時はモンスターを作るわ」

 

「はい」

 

「そうするとね、自分が作った物を見るだけで色々わかるようになるの。より重要な仕事の時ほどアートは大きくなるし、不安な時ほど使う色が少なくなるの」

 

「なるほど...花を作る時はどういう時ですか?」

 

 

そのパセリの花を指先で弄びながら、氷染は意味有りげな表情を見せた。慎也にはその表情の意味は分からず、氷染もすぐにいつもの笑顔に戻した

 

氷染は自分のパセリを慎也のポケットに仕舞うと、人差し指で唇を抑えて片目だけでウインクをして見せた

 

 

「.....好みの子がいる時かしら?ふふふっ」

 

「からかわないで下さいよ」

 

 

 

長かった日本と月下を繋ぐゲートも、もうすぐ終わりが近づいていた。慎也にとっては初めての土地であり、これから戦うべき敵の領地

 

己の目的と覚悟を改めると、慎也も今作ったアートをポケットに仕舞った

 

 

 

 

 




最近僕もモールアートを始めました
意外と楽しくてのめり込めますよ



シリアスブレイクしたいと思います
↓僕が初めて作ったモールアートです。ひよこを作りました




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