遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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第六十五話 侵撃

◐月下-S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)補給地点周辺

         /11時55分

 

 

安山の声が聞こえなくなった端末をしまうと、慎也は一先ず表に出た。2度目の補給地点からの脱出は慣れたもので、さほど苦にならず成功した

 

梯子を登りきると1度深呼吸してみた

よく澄んだ美味なる空気だが、ハリケーンは勢いを増しているように思える

 

 

「...」

 

 

途方に暮れるとは今の状況に相応しい

やりたい事は沢山あるが何1つ出来そうにない

 

一ノ宮達は無事だろうか

聖帝は無事なのだろうか

詩織は無事なのだろうか

 

そして自分はどうなってしまうのか

不安の上位互換の言葉は浮かばないが、敵地での孤独はそれだった

 

 

「...ん?」

 

 

何か音が聞こえる

暴風のそれに混じり、何か機械音がこもって響いている

 

慎也の持つ端末では無い

そして辺りには機械音を鳴らすようなものは無い

 

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の残した1台のトラックを除いて

慎也はそれに近づくと音がそこから鳴っていると確信した。敵の通信器具だ

 

 

 

 

 

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◑日本-聖帝大学

        /午前11時39分

 

 

「秋天堂さーん!」「今日も素敵ですね!」

「この後ご一緒に昼食でも!」

 

「は、はは...」

 

 

聖帝大学の昼頃

秋天堂の周りには人の壁が成り立っていた

数多のファンをもつ彼女にとって、日常的な光景ともいえるが、今日は祝日。そのため心做しかいつもよりその人の数が少ないように思える

 

だが、祝日であろうと人を集める彼女の魅力には脱帽せざるを得ない

 

 

「それしても秋天堂様!祝日なのにどうして大学に?」

 

「今日は人と会う約束をしてるんだ、だから皆悪いんだけどこのままは...」

 

「人と...?」「誰だろ...」「まさか彼女...っ!」

 

 

ファン達の中でざわつきが生まれた

彼らが崇拝すらするその秋天堂にまさか恋人がいるのか、わざわざ祝日に赴くほどの相手なのかと

 

歯切れ悪く解散を願った秋天堂も、余計に自体を悪化させてしまったとため息を付いた

 

するとその集団に2人の男が近づいてきた

 

 

「おうっ!秋天堂!」

「こんにちは」

 

「おや...やぁ、早乙女君に斎藤君じゃないか」

 

 

聖帝の構内大会にも参加していた4年生達だ

早乙女は相変わらずジャージ姿で、斎藤は普段通りの服装に小さなビジネスバッグを片手に現れた

 

その3人の様子を見ると、秋天堂のファン達も合点がついたようにそれぞれが散っていった

 

 

「なんだご友人でしたか」「ちょっとホッとしたわ」「お邪魔しちゃダメだよ!」

 

 

「はは...相変わらずすごい人気だね?」

 

「ガハハハッ!」

 

「うん...少し疲れちゃうよ」

 

 

自らの肩をマッサージしながら秋天堂は疲れを隠さなかった。祝日のためキャンパス内に人通りが少なく、彼らは広い道をいっぱいに広がって話を続けた

 

それでもちらほらと生徒や教授の姿は見られる。大学内の図書館に向かうものや、親しい者達と煙をくゆらすもの。グラウンドでラクロスをやるものたちや、本構自慢の決闘棟(デュエルパ-ク)に向かうものなど様々だ

 

 

「それにしても祝日なのに奇遇だね?秋天堂クン」

 

「僕は人と会う約束があって来たんだ。まぁ、多分祝日なのは忘れてるんだと思うんだけどね」

 

「ガハハッ!俺も祝日なのを忘れとったからの!そいつとは気が合いそうだのう!」

 

「ボクは教授と話したいことがあって来たんだ。終わったら早乙女クンとあったからちょっと決闘(デュエル)でもって感じかな」

 

「へぇ...うん?」

 

 

各々が祝日の登構話も終わりを迎えた頃、秋天堂は何かに気がついた。人の気配、足音だ、当然他にも生徒はいるのだが、それはあまりに歩速が早い。こちらに向かって猛スピードで迫ってきている

 

秋天堂は振り返ってみた

時計を見ると、待ち合わせ時間はギリギリだ

 

 

「...君は」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

◑日本-S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部内一室

         /午前11時45分

 

 

「...なぁ」ボソッ

 

「どうしました?」

 

 

純白な一室

汚れ一つないその部屋に、4人の男女がいた

各々が己のデッキを並べたり、読書をするなど思い思いに過ごしている

 

一貫しているのはそれぞれが手元に同じ資料を持っている事。そこには月下潜入任務についての概要が記載されており、彼らがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)だということが分かる

 

その内の1人の男性が隣に座る若者に声を潜めて何かを訪ねている所だ。若者はそちらに向くと、持っていた書物を閉じた

 

 

「...どう思う?」

 

「どうって...何がですか?」

 

「今回の作戦だよ」

 

 

その若者よりも年をとった男性は近くの書類を手に取ると、そこに書いてある月下の文字を手の甲で叩いた

 

彼らは第1次月下潜入任務に選ばれなかった者達。つまり日本に残り、一ノ宮たちの帰還を待つことを命じられていた

だが、その各々の時の過ごし方を見ると、どうも持て余しているように感じられる

 

 

「一ノ宮先輩達が戻ってくるのを待つしかありませんよ」

 

「そうじゃない。あれから須藤の様子がおかしくないか?」

 

 

その男性は辺りを見渡し、その須藤という男が居ないことを再確認した。

それが気になったのか、話に参加していなかった残り2人の決闘者(デュエリスト)も何事かと様子を伺い始めた

 

 

「いつもと違うゲートを使う、だから予備の補給地点の確認とついでに月下の様子を見てきてくれ。ここまでは分かる、だがどうして須藤を残したのが解せない」

 

「.....確かに須藤さんも月下によく行ってましたし、今回も当然行くのかと思ってました」

 

「そうなんだよ。あれから須藤ずっとどこかに連絡してるみたいだし...上もなんにも言って来ないだろ?何か怪しい」

 

「...それは”鬼禅(きぜん)”さんの考えすぎでは?」

 

 

鬼禅と呼ばれた男は、何か思いふけるように顎髭をなぞり出した。

 

だが、暫く唸り続けると暗い表情も晴れた

 

 

「...考えすぎか、そうだよな」

 

「えぇ、俺達もいつ呼び出されるか分かりませんし、戻ってくるのを待ちましょう」

 

 

その言葉に対し鬼禅が何か言おうとした瞬間

無機質な部屋の扉が大きく開かれた

 

バンッと突如響いたその音は、室内にいた全ての人間の視線を奪った

そしてその扉を開いた人間を鬼禅達は知っている。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の巡査だったはずだ

 

 

「み、皆さん緊急事態です!」

 

「落ち着けよ、どうしたんだ?」

 

 

この中では1番年上の鬼禅は、その汗だくの男を宥めようと腰を上げた。その男は肩で息をし、必死に平常に戻そうと喘いでいる

 

それも叶わないまま、ゼェゼェと拙い口取りで語り出した

 

 

「せ...聖帝大学及び秀皇、闘叶、暁星大学が失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)と思われる集団に襲撃されています!」

 

「聖帝大学....っ!?」

 

 

鬼禅の驚声が響くと、他のプロ達全員が立ち上がった

 

予期せぬ事態だ

今日S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の5人が月下に旅たったばかりだというのに、その月下からほぼ同時に日本が襲撃されたのだ

 

どうなっている

それも聖帝はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部、大神が運営する大学であり、村上慎也が籍を置く大学だ。その周辺という事は都内の有力な大学が同時に標的にされたということ。それらの大学で行われる関東大学対抗戦も控えている

 

偶然だろうか

兎に角タイミングも場所も最悪だ

 

 

「聖帝!?不味いですね...聖帝ってついこないだも記憶操作で誤魔化したばかりじゃないですか」

 

「あぁ...秀皇大学のやからの時か」

 

 

彼らが話しているのは恐らく一樹らの襲撃について。あまりディスクの改造など世間に露呈させたくないS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)はやはり記憶操作によって隠蔽に図ったようだ。

 

加えて、その聖帝が今度は月下の失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)に襲われている。これこそ国が秘密裏にしなければならない事実であり、恐らく記憶操作は免れない

 

鬼禅らはそれを心配している様子だが、汗だくの男は一刻も争う事を必死に主張し始めた

 

 

「既に周囲のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を派遣していますが、人手が足りていません!至急各大学に向かえとの指示が出ています!」

 

「...分かった」

 

 

鬼禅は脱いでいたスーツの上着を羽織るとすぐに準備を済ませた。ディスクとデッキ、それだけあれば戦える

 

他の決闘者(デュエリスト)も同様に済ませると、鬼禅は汗だくの男に怒鳴った

 

 

「直ちに向かう。須藤は!?」

 

「須藤様は既にお伝え済みです!先に向かっております!」

 

「よし、俺達はどこに行けばいい!?」

 

 

鬼禅の後を追うように全員廊下に飛び出した

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)専用の駐車場、そこに移動用の車がある。皆でその場所を目指し、走りながら目的地を問うた

 

より勢いよく飛び出した鬼禅においてかれぬよう、本部の人間は汗を拭いながら叫んだ

 

 

「聖帝大学です!未だS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が誰も到着していません!」

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

◑日本-S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部司令室

 

 

 

「...!」

 

「......っ!」

 

 

混沌たる空間だ

大の大人達が走り回り何かを叫んでいる

 

端末に向かって何か指示をするもの

地図を広げ必死に何か書き記すもの

慌ただしく退室と入室を繰り返すもの

 

安山はその中のどれにも当てはまらず、その部屋の奥地で黙って座っていた

 

 

「...」

 

「総帥!秀皇大学にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)5名到着し、決闘(デュエル)を開始した模様です。しかし苦戦しています!敵の数が多すぎるようです!」

 

「総帥、聖帝大学から繰り返し応援要請が!」

 

「暁星大学にも人が足りていません!」

 

 

安山は冷静にノートパソコンを操作しているように見えるが、内心は穏やかではなさそうだ。丁度S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)専属のプロ4名が月下に向かっているため、今抱えている戦力について悩まされているのだろう

 

せめて村上を残していればよかったと少し後悔すらしていた。

彼なら聖帝にいても何も問題なく、尚且つ実力も申し分ない。隠蔽と鎮圧が少しだけ楽になっていたかもしれない

 

 

「...月下潜入任務待機中の鬼禅慶文(よしぶみ)近藤虎徹(こんどうこてつ)を聖帝大学に向かわせ給え。山本薫(やまもとかおる)を秀皇大学に、須藤余彦は暁星大学に」

 

「「「はっ!」」」

 

 

各大学担当者に命じると、安山は背もたれに体重を預けた。悩んでいる時の癖なのだろうか、その体勢のまま背後にいた大神に目をやった

 

何か言いたげなそれを浮かべていた

 

 

「...安山さん、私を聖帝に向かわせて下さい」

 

「個人的な感情で動かす事は出来ない」

 

 

未だ怒号は鳴り止まない

無理もない、突然の出来事にまったく対応できていないのだから

 

そんな状況下で幹部1人の私的な要望は聞き入られない事は本人も分かっていたはずだ。だが彼は言わずにはいられなかった

 

安山は少し困った様子を見せると、背もたれから離れて大神に命令を下した

 

 

「大神忍、命令だ」

 

「はい」

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)幹部として、決闘者(デュエリスト)として聖帝に向かい給え。聖帝内にいる失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)殲滅に貢献するのだ」

 

「...はい!」

 

 

大神は短くはっきりと返事をすると、すぐに司令室を後にした。その背中を見送ると、安山は己の仕事に戻る。同じ都内の大学とはいえそれぞれが近い位置にある訳では無い。何処の誰をどの大学に向かわせるかは重要だ

 

派出所にいるS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間で対処できるに越したことはないが、やはりプロの力は必須だろう

 

 

現在S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の派出所勤務の決闘者(デュエリスト)達をそれぞれ近場の大学に向かわせている

 

闘叶大学は都内中央に建てられている事もあり、既に21名のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を派遣できた。プロも間もなく到着する模様だ

 

秀皇大学も非番の者を引っ張り出し、18名到着した。加えて偶然居合わせたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)専属のプロ決闘者(デュエリスト)も参加し、何とか抑えられている

 

暁星大学は、その周辺に住むプロが数名いたため、既に3名が到着した。しかし近くに派出所が無く、プロを合わせても未だ8名しか集まらず、聖帝大学に至ってはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間誰1人としてたどり到着していない

 

 

一先ず月下潜入任務の待機中のプロを送ったがまだ心持たない。大神らの実力は確かだが、本当にこのまま事態の鎮圧と隠蔽まで上手く進められるだろうか

 

こんな白昼堂々とした犯行

鷲崎も必死になっているようだが、最悪の場合月下の事が日本中...世界中に露呈する恐れも考えられる

 

 

「...灰田輝元に連絡を」

 

「先程繋がりました。既に聖帝大学に向かわせましたが...いかがなさいますか?」

 

「それでいい」

 

 

安山は目まぐるしい勢いでS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のデータを漁っている。現在派遣可能なプロもそれらで確認している

 

だが、今考えている事は日本の事ではなく月下の事だった。何名か人材を割いてでも村上慎也を救出に向かわせるべきかと

 

日本と月下間にそこまでの時差は無い

奪われたトラックは放棄し、慎也1人だけでも日本に連れて帰る事は不可能ではない

 

だが慎也が現在どこにいるか分からない

既に移動してしまっている可能性もあり、また捕縛されている事も考えられる

 

以上の事をふまえるとやはり救出はまだ難しい

たった1人の兵士の為に割ける時間も労力も持ち合わせていないからだ

 

 

「...やはり1度こちらを片付けなければならないか」

 

「総帥!大変です!」

 

 

改めて慎也の放置を決意すると、また安山の元に叫声を放つ男が尋ねた

 

しかし、その男は他の男達とは異なり白い白衣を纏っていた。ブロ決闘者(デュエリスト)でも警察でもない、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)直属の技術者だ

 

 

「何事かね」

 

「例の子達ですが....」

 

 

白衣の男は苦顔する安山と向き合った

 

”例の子達”とだけで安山にそれら伝わった様子だが、それをわかった上で安山はあまり聞きたくない姿勢を見せた

 

今はそれどころではない

都内の大学が狙われている、こんな時にこれ以上イレギュラーな事態は起こさないで欲しいと苛立っている

 

 

「希望と同じ別神経が検出されました...彼らには記憶操作が効きません!」

 

「...なんだと?」

 

 

思わず表情を崩して驚きを表してしまった

記憶操作が効かない人間

それは高決闘力(デュエルエナジ-)の持ち主達に見られる特異体質のようなもの。

 

今回記憶操作を促す対象は6名いたはずだ。その6名全員が決闘力(デュエルエナジ-)による干渉を受けないなどありえるはずがない

 

全員精霊を宿しているとでも言うのか

 

 

「確かなのか?彼らにそのような情報は無いが」

 

「はい...こちらがデータなのですが」

 

 

脇で挟んでいたノートパソコンを安山にむけて丁寧に開くと、すぐスリープモードから解き放たれた

 

画面には正四角形の枠がいくつかあり、それらに人物名と見慣れない記号、謎の折れ線グラフ等その他多くのデータがあった。7つそれが並んでいるが、安山にはどれ同じものに見える

 

7つある名前が全て異なっているからこそ、それらが別の物だと辛うじてわかった

よく見ると村上慎也の名前もある

 

 

「これは?」

 

「希望の決闘力(デュエルエナジ-)の周波数と、あの子達の周波数の比較です。別神経から通常の神経に分かれる決闘力(デュエルエナジ-)の速度や循環ルート等を数値化したものがこちらで、今回は...」

 

「時間が無い。結論から言い給え」

 

 

歯切れの悪い白衣の男を急かすように問いかけた

周波数や決闘力(デュエルエナジ-)の原理など説明されても理解に苦しむ。

 

時間もない。その男の話は各大学に派遣する決闘者(デュエリスト)達を選別する片手間に聞くことにした

 

白衣の男も意を決したように語った

 

 

「一言で申しますと...彼らの決闘力(デュエルエナジ-)が変化していました」

 

「変化だと?」

 

「はい。3年間掛けてゆっくりと性質を変え、中にはほとんど原型の無い子もいました」

 

「......記憶操作が出来ないのなら仕方ない。彼らはそのまま待機させておくんだ...」

 

「はっ!」

「いや待ち給え!」

 

 

白衣の男が踵を返した所で安山にある考えが生まれた。非常に突飛で褒められるものでは無いが、気がつけば呼び止めてしまっていた

 

今は猫の手も借りたいぐらいだ

それに加えこの作戦なら人手不足と記憶操作不可両方の問題を解決できるかもしれない

 

 

「...」

 

「.....!?」

 

 

ゆっくりと告げたその考えは、辺りの人間達を混乱させしまった。だが、総帥の決定だ、否定的な事を言うものなどいなかった

 

 

「...分かりました。直ちに準備を!」

 

「急ぎ給え。それと灰田輝元には秀皇大学に向かうように伝えろ」

 

「はっ!」

 

 

また背もたれを酷使してしまった

安山は白衣の男を見届けると一瞬だけ休んだ

 

これでなんとかなるだろうか、考えても仕方の無い事ばかりが脳裏に浮かぶ

 

あの白衣の男が言ったこともだ

3年、決闘力(デュエルエナジ-)の変化、記憶操作を受けない体質

 

 

”例の子達”と近しい人間であり、それらのワードから繋がる人物は1人しかいない

 

我が国の希望の顔が頭から離れない

 

 

 

「...”伝染”」

 

 

虚空に呟いた意味の無い単語には誰も反応しなかった

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

同時刻、大神は廊下を疾走していた

 

今なら鬼禅らに間に合う

何年ぶりかの全力疾走も苦にならず、初老の男は本部の廊下を力いっぱい蹴りしめた

 

未だなれないその廊下を走りながら、大神の脳裏には数時間前日本を発った慎也の事が浮かんだ

 

 

(すまない......村上君...)

 

 

月下に1人残された彼の事もまた心配だ

未知の環境下で、敵の本拠地でたった1人になったあの青年は無事なのだろうか

 

やはり送り出すべきではなかったのか

 

 

 

...いや違う

生徒を信頼しない教師がどこにいる

 

 

(こっちは任せてもらおうか...だから君も無事でいてくれ...)

 

 

もう黙って見ているのも終わりだ

彼は聖帝大学の学園長であり、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部、そして1人の決闘者(デュエリスト)

 

そしてまた戦士でもあった

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

◑日本-聖帝大学

        /正午

 

 

 

「な、なんだよあいつら!?」「やばいって逃げろ!」「きゃぁああっ!」

 

 

祝日の大学内は生徒よりもその悲鳴の方がより目立っていた。決闘棟(デュエルパ-ク)に備え付けられた警報機が鳴り響き、生徒の悲鳴に混じって怒号も飛び交っている

 

私服の生徒らの他に、明らかに異質な集団が紛れ込んでいた。

 

顔を覆うような深いフード

膝まで伸びるロングコート

それら全て黒に統一されている

 

分かる者が見れば一目で失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)だと認識する集団が聖帝大学を闊歩している

 

 

「皆!早く逃げるんだ!」

 

「しゅ、秋天堂さんは!?」

 

「僕も後から行く。だから早く!」

 

 

秋天堂は力一杯叫んだ

あの謎の集団は先程から生徒や教授だろうとお構い無しに決闘(デュエル)を強要している。詳しくはわからないが何故か敗北した生徒は起き上がらない

 

明らかな異常事態

待ち合わせ時間が来たと思えば現れたのは奴ら。それに攻撃的だ。望まれる行動は避難、内側から鍵をかけてしまえば決闘(デュエル)ディスクしか用意していない彼らには開城できまい。

 

そう考えた秋天堂達は、近場の構舎に逃げ遅れた生徒達を誘導していた

なれない絶叫に喉は疲弊している

 

 

「秋天堂ぉ!あっちにまだ大勢おるわい!」

 

「分かった、僕も行こう!」

 

 

地鳴りを起こしながら早乙女がダッシュしてきた。4年生らは分担して後輩らを逃がしていたが、早乙女の報告からまだ逃げ遅れた生徒が多く残っているのだと把握した

 

咄嗟に走り出そうとしたが、斎藤に腕を掴まれてしまった。そちらを向くと、斎藤も早乙女も不安そうな表情をしている

 

 

「違う、敵の方!業者用の出入口にもたくさんいるんだよ!」

 

「なんだって...バスロータリーは?」

 

「それも無理だったわい!」

 

 

聖帝大学は広い

構内にはコンビニが2件、売店が3件あり図書館や決闘棟(デュエルパ-ク)もあるため、比例して出入口も多くある

 

バスロータリーも2つあり、近々新たにもう1つ追加される話もある。祝日のためコンビニは閉まっているが、搬入用の出入口は使えるはずだった。が、奴らはそこも封鎖しているらしい

 

業者の搬入用出入口等生徒でも知らない者は多い。何故そこまで熟知しているのだろうか

 

 

「数が多すぎる...S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)には連絡したけどまだ来そうにないよ」

 

「うむ、だが俺は良い作戦を思いついた!」

 

「作戦...?」

 

 

幸い今日は祝日

被害に遭う生徒は比較的少ないが、それでも危険に代わりない。

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)も来ない

ならばどうするべきか

そんな不安を拭うかのように早乙女は声を張った

 

腕を組み、ずっしりと構えているが、一体どんな作戦なのだろうか。秋天堂が早乙女の言葉を待っていると、そのどうにかしなければならない対象達が現れた

 

 

「おい!あっちにまだいるじゃねえか!」

「チッ...なんだよ男だけかよ!」

 

 

「不味い、ここにも!」

「くっ...斎藤君、早乙女君逃げるよ!」

 

 

ジャラジャラと不快な音を鳴らしながら例の集団が姿を見せた。至る所に付けた漆黒のアクセサリーが不規則にぶつかり鳴らした音だった

そして彼らはこちらに気づいた様子で、真っ直ぐ向かってきている

 

早乙女の作戦とやらも気になるが、今は逃げるべきだ。それに我らは聖帝大学の生徒、土地の利はこちらにある。何とか逃げてみせようと秋天堂は走り出そうとした

 

だが、斎藤しか付いてこない

振り返ると早乙女は仁王立ちの構えで動かないでいた

 

 

「なっ、早乙女君早く!」

 

「俺は逃げん!!」

 

 

その力強い一言に敵も秋天堂らも肩が震えた

何を言っているのだ

まさかそれが作戦では無いだろうかと斎藤も秋天堂も戸惑っている

 

だが戸惑うのは敵も同じだった。ある程度近くまでは来たが、歩を止めて早乙女を見据えている

 

 

「なんだこいつ...」

「我々を前にして逃げないつもりか?」

 

「その通りだ!俺は真正面からお前らと対等する!」

 

「...早乙女クン、作戦ってまさかそれじゃないよね?」

 

「うむ!敵が多くて逃げられんのなら敵を倒して減らしてしまえばいいのだ!さぁ、来いぃ!!」

 

 

早乙女以外の全員が呆れ返っていた

黒服の男達は頭上にクエスチョンマークが浮かび上がりそうな表情で沈黙し、秋天堂らは渇いた苦笑いを浮かべている

 

そうだ、この男はそういう人間だったと

秋天堂は既に決闘(デュエル)ディスクを構えている早乙女に並ぶと、習って構えた

 

これは彼を肯定する行動であり、臨戦態勢に入ったことを証明した。少し遅れて斎藤も並んだ。聖帝の生徒は戦闘を受け入れるようだ

 

 

「...そうか、なら狩りの時間だ。お前ら行くぞ!」

「あぁ、邪魔が入らない内に仕事を終わらせよう...」

「行くぞガキ共!」

 

 

両者戦闘態勢に入った

今の所は戦力が拮抗しているように見える

 

敵がどれだけの規模で動いているか分からず、なんの目的かも分からない。だがそれも全て鎮圧してしまえばいいと、早乙女の理論に毒されていた

 

異論は無かった

愛すべき母構と後輩達を守るためには避けられない戦闘なのだ

 

その時、敵のディスクから謎の光が彼らを襲った

今日S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)にも導入されたアンカーだ

 

 

「ぬっ!?なんだこれは!」

「触れる...それに熱い?」

 

 

斎藤ら3名はそれぞれの敵とアンカーで繋がれた。それから解放されるには決闘(デュエル)を終えるしかない

 

初めて見る、触るそれの感触にとまどいながらも斎藤らはそれを察したようだ。ディスクの画面には「決闘(デュエル)開始」とある

 

 

「まぁいい!行くぞぉ、斎藤ぅ秋天堂ぉ!!」

 

「....うん、準備は出来たよ」

 

 

聖帝は頼もしい友達と守るのだ

秋天堂もそれは分かっている

 

だが1つだけ気がかりな事がある。待ち合わせ時間を過ぎても何1つ連絡の無い”彼”の事だ。こんなことになってしまった以上今は来て欲しいとは願えない

 

 

(待ち合わせ場所に来ないで欲しいって思うのは初めてだね...)

 

 

意を決すると秋天堂はディスクの確認ボタンに力を込めた。渡された5枚のカードを左手に添えると、よく通る声で放つ

 

戦闘開始だ

 

 

「行くよ、斎藤君早乙女君!」

 

 

「「「「「「決闘(デュエル)!!」」」」」」

 

 

 

 

 

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◐月下-???

         /正午

 

 

 

「ボス、終わったぜ」

 

「ご苦労だった」

 

 

黒いロングコートの服装が目立つ空間

重々しい機械や無数のモニターにそれぞれが向かっており、時折誰かと通信している様子だ。その部屋には高低差があり、比較的高台に設置された高級感溢れるテーブルに知樹は肘をついていた

 

そして立ったまま知樹と向き合っているのはシッド。相変わらず眠そうな表情をしているが、呂律はしっかりとしている

 

 

「それでどうだった、プロは手強かったか?」

 

「えーそりゃぁもう。4人も居るなんて聞いてなかったからな」

 

「4人?思っていたよりも多いな...慎也を合わせてか?」

 

「いんや、希望は居なかった」

 

 

シッドの報告に知樹は眉をひそめた

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)のボスとして色々と推測していたようだが、シッドに否定されてしまった

 

シッドが命じられたのはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)の捕縛。知樹の予想ではシッド1人と数人の部下で戦力は足りる計算だったらしいが、実際シッドは4人も相手した

 

流石に危なかったのか、疑い深い目でシッドは知樹を見据えた。知樹も居心地が悪そうに見える

 

 

「そうか、悪かった。俺の見立てが甘かったな...」

 

「頼むぜボス、危うく優秀な(フロ-)1人失うところだっぜ」

 

「そこまで苦戦したのか?」

 

 

シッドはポケットから筒状の何かを取り出すと、蓋を開け、自らの喉にそれを噴射した。

 

当たりどころが悪かったのかむせて咳き込んでいる。知樹が黙ってその様子を見ていると、シッドは何度か咳を経て語り出した

 

 

「ゲホッ...いや、問題なかった。昨日の睡眠時間はほぼ完璧だったからな、絶好調だったぜ」

 

「珍しいな、良く寝れたのか?」

 

「あぁ、理想の25分に近かった」

 

 

それは最早仮眠とも言えない

言いかけた言葉を飲み込み、知樹は苦笑いで返しておいた

 

知樹にはシッドが実力者である事も、不眠症な事も分かっている。彼が自傷気味に放った優秀な(フロ-)というのにも異論は無かった。現にプロ4名を瞬殺しているのだから

 

所で目当ての補給地点破壊は済んだのだろうか

手はずではシッドが帰還する頃には完了しているはずなのだが

 

 

「シッド、補給地点破壊は見届けたのか?」

 

「いんや?先に帰還した」

 

「そうか、誰か連絡してみろ」

 

 

短く返事をすると知樹は黒服の部下に命じた。その部下は通信係を担っており、命じられたのは補給地点破壊に向かった部隊に連絡する事だ

 

慣れた手つきで目の前の機械を操ると繋がるのを待った

 

 

...中々出ない

機械音が鳴るばかりで一向に繋がらない

 

異常事態か?

背後で報告を待つボスに伝えるか

そんな事が頭を過ぎった時、唐突に繋がった

 

風の音が目立つが声は聞こえる

やっと繋がったそれに向かい、男は一気にまくしたてた

 

 

「こちら本部、報告が無いぞ?S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の補給地点の破壊はどうなった?」

 

 

少し間をおいて返答があった

先程向かった部隊にいた(クレイ)の声だった

 

 

《すまない、ハリケーンの影響で少し手間取った。だが問題無く破壊は完了した。直ちに帰還する》

 

「了解、帰還せよ」

 

 

一先ず胸をなでおろした

最も難易度の高いプロの殲滅はシッドが成し遂げた、そこで補給地点の破壊に失敗するなど報告したくも無い

 

マイク付きのヘッドホンを外すと、椅子を回転させてボスと向き合った。相変わらず無表情だが、報告を待っているのだろう

 

 

「ボス、すぐに帰還する模様です。破壊は成功したとの事です」

 

「分かった」

 

 

男がまた椅子を回転させ、業務に戻ると知樹はシッドに向き直った。彼らにはまだ仕事が残っている。補給地点の破壊よりも重要な事の方が多い

 

例えば捕縛したプロ達

加えて前回の日本襲撃時に捉えた聖帝の生徒達についてだ

 

 

「シッド、あれから皆木は?」

 

「随分落ち込んでるみたいですぜ。バシュちゃんが付いてるみたいだけどあんまり部屋から出ないな」

 

「そうか...」

 

「無理もねぇよ、あんな話聞かされたらな」

 

 

知樹はあの会食を思い出した

(フロ-)7名に詩織を招いた時の事だ。見事な食べっぷりもそうだが、やはり”あの話”はまだするべきではなかったのだろうか

 

だが話さない訳にも行かなかった。知樹にとって詩織は捕虜では無いようだ

 

 

「...シッド、後で様子でも見てきてくれ」

 

「はいよ、失礼しますぜ」

 

 

軽い返事でシッドはその部屋を後にした

残された知樹はパーカーのポケットから煙草を取り出した

 

慎也も吸っていた銘柄だ

 

それに火を灯す訳でも無く、ただ無意味に指先で弄んでいた

 

 

「...慎也、お前何処にいるんだ?」

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

 

同時刻、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の補給地点周辺。そこの景色に何の変化も無く、森とトラックがあるだけだった

 

補給地点には誰も居ない

恐らく森の中にも人は存在しないだろう

 

だがトラック内には青年が1人いる。その青年は初めて触れる通信器具を片手に、短く何かを発した

 

 

「すまない、ハリケーンの影響で少し手間取った。だが問題無く破壊は完了した。直ちに帰還する...」

 

 

縋る気持ちで返答を待った

すると帰ってきた言葉は「了解、帰還せよ」だった

 

 

 

上手くいった

通信が切れた端末をその場に投げ捨てると、慎也は咳払いをした

 

 

「うっ..ケホッ...まさか本当に上手く黙せるなんてね...」

 

 

まさか月下で得意の声帯模写を披露するとは思ってもいなかった。初めて聞く声の模写など、ましてや大した会話もしていないあの男の声真似などできる自信は無かった

 

通信が繋がらなければ増援が来る恐れもある。声を見破られる恐れと天秤に掛けてみたが、慎也の事を隠すためにはやってみるしかなかった

 

そしてそれは成功した。一時的な時間稼ぎにしかならないが、それでもいい。

今は少しでも考える時間が欲しかった

 

 

「....」

 

 

既にポーチに入るだけ食料を詰めておいた。大凡だがあの(フロ-)を乗せたトラックの進行方向も分かっている

 

自分は今敵に知られていない

それは慎也が持つ唯一のアドバンテージとも取れるもの。ここに居てはいつか敵がやって来る、待機は出来ない。ならばやるべき事は1つしか無い

 

 

「待ってろよ...知樹」

 

 

進撃だ

慎也には進むしかない

 

情も恐怖も無い。ただ進撃するのだ

踏みなれた月下の土の感触を味わいながら慎也は進んでいった

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