遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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最近季節が迷子ですよね


第八十話 微かな勝機 

◑聖帝大学 / 午後15時16分

 

 

「はぁ...はぁ.....やりましたわ、村上さん...」

 

 

[レインボー・ドラゴン]の虹色の輪郭が薄れ消えていくと、草薙の決闘(デュエル)ディスクから紫色に光る糸のようなものも形を失った

 

これでまた自由になる

だが休むつもりはなかった

 

すぐ近くでまた決闘(デュエル)終了のブザーが聞こえる。そちらに目をやると同じく聖帝の戦士がまた1人«цпкпошп»を撃破した所だった

 

自分も負けていられない

競っている訳では無いが、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)と慎也に託された仕事だ。全うする以外に選択肢は無い

 

 

「村上さん、ご武運を...っ!」

 

 

また1つ決闘(デュエル)開始のブザーが鳴り響いた

一体この地の争いはいつ終わるのだろうか

 

 

 

 

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◐??? / 午後15時16分

 

 

あの戦地からまだそこまで離れていない位置で、慎也の意識を削ぐ出来事が起きた

 

それは聞き慣れない機械音

腰のバックパックから篭って聞こえるその音を目掛けて背中越しに探ってみると2つの端末が手に触れた

 

2つとも取り出すと受信用が着信を知らせている

先程充電器を差し込んだばかりなのだがもう出番か、そう思い恐る恐るあちらの声を待つと、安山のものでは無い聞いたことの無い声が聞こえた

 

 

《...っ!村上か!?》

 

「...はい」

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)だ、安心してくれ。私は技術支援・対策課の決闘力(デュエルエナジ-)観測部責任者、大泉(おおいずみ)という者だ。今の状況を伝える》

 

 

技術支援・対策課という事は草薙総司の部下にあたるのかと一瞬だけ考えた。が、捲し立てる相手の剣幕にそんな時間はない事を知らしめられてしまう

 

一ノ宮らが連れ去られた事と、日本が同時に襲撃されていることについて話したのはもう二時間も前のことだ。

何か進展があったのだろう、それが良いものだと信じながら慎也は言葉を待った

 

 

《まずはこちらの報告だ。秀皇大学に攻め入った失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)はほぼ鎮圧完了。闘叶も時間の問題だろう》

 

「...暁星と聖帝は?」

 

《暁星大学にはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)専属の須藤と他12名の決闘者(デュエリスト)が到着した。知っているだろう?君も会議室出みたことがあるはずだ》

 

 

知っていると言えるほどではないが、確かに見た記憶はある。第一次月下潜入作戦の会議中、慎也が月下に行く事に大きく反対していた若い男だ

 

一ノ宮と共に月下に良く赴いていたらしいが、もし慎也では無く彼が今回の作戦に参加していたら結果は変わっていたのだろうか

 

そんな事が脳裏をよぎった時、肝心の聖帝がどうなったのかが気になった

 

 

《聖帝にも先程第2次月下潜入作戦待機中の数名のプロが到着済みだ。加えて...灰田君達も決闘(デュエル)を始めたそうだ》

 

「っ!?灰田が!?どうしてあいつが...」

 

《落ち着いてくれ。彼らには...記憶操作を行わなかったんだ。その代わりに人手の足りない聖帝に向かってもらった。彼らなら大学にいても自然だし、何よりも«цпкпошп»と実際に戦っているからね...安山総帥の決定と彼ら自身の意思だ》

 

 

決闘力(デュエルエナジ-)による記憶の操作

月下の存在、決闘力(デュエルエナジ-)や英世界の存在を隠す以上必要不可欠なものだと理解している

 

だがそもそもの始まり、あのビルでの戦いの記憶は一般市民には過ぎたものだ。つまり灰田らの記憶操作は免れないとまで考えていた

 

それが今になってなぜ記憶を保つ事にしたのだ?

 

記憶操作が効かない人間とは精霊を宿した者、つまり既にある程度認知している人間がそれにあたるわけだ

まさか灰田達にも精霊が?そんなはずはないとは分かっているはずだったのだが憶測は歯止めが効かないでいた

 

 

この男は記憶操作が”出来ない”では無く、”行わなかった”と言った。つまりそう言う事なのだが、もし本当は出来なかったとすると話は別だ

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)は慎也に何を隠すつもりなのだと

 

 

「...」

 

《この話は君が次の補給地点に到着してからだ。村上、君には2、3聞きたいことがある》

 

「はい?」

 

《まずは...なぜ端末の電源を落としていた?こちらはずっと通信を試みていたんだぞ?》

 

 

それはこちらも同じだ

本部の指示を仰ぎたくなかった時期などない。何処に向かえばいいのかも分からず大雑把に歩いてきたのだ。端末の操作等も試した

 

やや疑いの声で大泉が問うと、慎也はその気持ちを抑えつつ反論を始めた

 

 

「切った記憶なんてありませんよ。2時間くらい前に通信してからそのままです」

 

《...村上、送信用の端末の右上にアルファベットと数字が表示されていると思うんだが、なんて書いてある?》

 

「数字...?」

 

 

今耳にしているのは受信用

つまり、バックパックに眠るもう1つの送信用を確認する必要があった

 

そこには大泉が言うように、

 

L DE 56

 

と表示されていた。何のことかさっぱり分からなかったため、慎也はそのまま伝えた。

 

 

「L...DとEの56って書いてあります」

 

《なんだと...村上、月下で充電は?》

 

 

草薙総司から渡されたあの充電器の事だろう、たった今使ったばかりだ

 

その事と何が関係するのか依然不明だが、これも正直に答えておいた

 

 

「数分前に失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)2名と戦闘中に充電しましたが...」

 

《...おかしい》

 

 

あちらは驚いてばかりいる。いい加減教えて貰いたいものだ

慎也がそううんざりしかけてたその時、大泉は思いもよらない事を告げた

 

全く考えもしていなかった事だった

 

 

《村上、端末に充分な充電がされていないようだ》

 

「えっ...いや、でもここに来てからまだ全然使ってないのに...?」

 

《L DE56は少なすぎる。恐らくさっきまで充電切れだったのがその決闘(デュエル)で一時的に復活したんだろう》

 

「単位が分からないのですが...」

 

《その端末の満タンはH(ハイ) DE(デュエルエナジ-) 990だ。L(ロ-)は残り少ない事を告げる値で、H(ハイ)は充分な量だと示すものだ。56は...携帯だと通知がでて、バッテリーがセーブされているくらいだな》

 

 

大泉の口調は、1回の通信でそこまでの充電を消費する様なものではなないと言っていた

 

慎也自身もそう思う

それに日本にいた時も何度か使用したが、その度に本部で充電していた

 

最後に充電したのも日本を立つ寸前、この決闘(デュエル)ディスクを受ける前にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間に渡して済ませたばかりだ

 

それがどうして充電器切れなんて起こす

軽い混乱のようなものを覚えていると、大泉の方から告げだした

 

 

《...仕方ない。まずは充電が先だ》

 

「しかし...そんな都合よく決闘(デュエル)は出来ませんよ」

 

《分かっている。今の位置は分かるか?あの補給地点からどちらに進んだ?》

 

 

判断材料は太陽ぐらいか

携帯が普及してからというもの、日没の事など考えたことも無かったが今は役に立ちそうだ

 

自身の進行方向を見上げてみた

太陽は沈み始めており、その方向を目指して歩いている。これは西に向かっているということか

 

 

「例のトラックのあとを追いかけました。西に進んでいるはずです」

 

《西か...それは良かった。東なら戻ることになっていたよ。なら...背の高い樹木が生えた森は見えないか?》

 

「遠くに見えますね」

 

 

トラックのタイヤ痕も薄れている

ここで新たに目的地が設定できたのは非常にありがたい

 

それも元々慎也が目指していた場所だ

 

 

《端末には頼れない。補給地点の入口は根が深い樹木の近くには無く、痩せた樹木の近くにある。あまり深くもないから頑張って探すんだ。そこで充電を済ませたらまた連絡をくれ、いいね?》

 

「分かりました」

 

《...ん?村上、君はどうやって西を...っブッッ》

 

「...切れた?」

 

 

草薙総司から聞いた事を思い出した

通信は3分で自動的に切れてしまうと

 

確か盗聴を防ぐための処置だったか、とにかく大泉との通信はここで終わった。

 

 

「...とにかく西を目指そう」

 

 

もう一度通信を試みたが、既に端末にそこまで力は残っていないようだ。DEは15にまで下がっている

 

だが充電すれば問題無いだろう

ひとまずはそこを目指すことにした

 

今まで随分距離を稼いだかいもあり、その森まではそう遠く無い。あと数分も歩けば辿り着くだろう

 

 

 

 

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◑暁星大学 / 15時20分

 

 

「...そうかわかった。手当り次第本部にぶち込んでくれ。乗用車とかトラックを混ぜて、周囲の市民に違和感を与えないようにな...あぁ、頼んだ」

 

「...」

 

 

黒い大地の上に屹立しているのは須藤と皇だけだった

須藤が電話でなにか指示をしている間、皇は1人夢中で黒服の男達のディスクを弄っていた

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間がいる目の前で中身までは検めないが、余程中身が気になる様子だ

 

叩いてみたりボタンを押してみたりと忙しなく何か行動している

 

 

「...よし、皇君。助かったよ、ありがとう」

 

「いや、俺も66とキリのいい数字で終わったからな」

 

「66って不吉な数字だろ........っ!?」

 

 

辺りが静かになったからか、聞き覚えのある音が遠くで聞こえた。それは決闘(デュエル)ディスクが奏でる決闘(デュエル)終了のブザーだった

 

大学で聞こえても自然なものだが、今は別だ。この戦場と化したこの地でのその音は、誰かが戦ったことを意味する。

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の仲間が逃げた敵を捕縛したのか?それとも生徒か

どちらにせよ無視できるでき事ではないのは確かだ、須藤は皇をその場において走り出した

 

 

「この辺りか...」

 

 

地の利は無いが、いくつか曲がり角を経たところで開けた場所に出た。円形に並べられたベンチから、生徒らの憩いの場所なのだろうと推測できるが、やはりその場所に生徒と黒服の男らが2名ずついた

 

須藤はそれを見てひとまず安堵した

立っているのは私服の男女だったからだ

 

 

「君達...無事かい?」

 

「む、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人か。俺たちの心配をするぐらいだからな」

 

「そうだね~」

 

 

須藤が声をかけると、水色の頭髪の男性が一瞬だけディスクを須藤に向けた。が、すぐに敵でないと分かるとそれを下げ質問に答えた

 

自分達は無事だと

 

 

「暁星の生徒だよな?」

 

「俺はそうだ。こいつは違うが」

 

「私は聖帝の聖帝だよ~」

 

 

どこに在学しているかなど興味はなかった。例の如く手帳とバッヂを提示し自らを説明すると、須藤はその生徒2名の身柄を手にしようとした

 

この戦いに巻き込まれてしまった以上、記憶は弄らなければならない。そこまでが今回の任務なのだから

 

 

「俺は須藤余彦、悪いんだがこれからS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部に来てもらいたい。今回の件で色々と話が聞きたいんだ」

 

「了解、そういうことなら仕方も無い。お前もいいよな?」

 

「うん」

 

 

時計を確認すると、すぐさま須藤はその2人を誘う準備に取り掛かった。

 

 

暁星の入口に待機させている乗用車まで案内すると、まずは2人を乗せた。自分も乗ろうと言う所でひとつ思い出す

 

皇も連れていかなければならない

 

 

「...すまん、用事が残ってた。部下に運転させるから君達は先に行っててくれ」

 

「了解」

「は~い」

 

 

最後に失礼と放つと、扉を閉めた

近くにいたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の部下に運転を命ずると、須藤は暁星にまた戻った

 

他の生徒も順々にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が保護している。後は構外に逃走した数名の失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)を捕縛すれば暁星の作戦は終わる

 

実際に戦った皇達は必ず保護しなければならない

まずは皇の身柄をと、先程の場所目掛けて歩き出した

 

 

「...まだあそこにいるといいが」

 

 

2度目だが須藤に暁星の地の利は無い。

逃げたりはしないだろうが、何故か不安げに皇を探し始めた

 

 

 

 

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S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)第二補給地点付近

 / 午後15時35分

 

 

「これかな?」

 

 

あれから数分

慎也はようやく第二の補給地点を発見した

 

いざ例の森に辿り着けば、その地にある補給地点を探すのにそこまでの労力はかからなかった

 

明らかに土の色が違う箇所がすぐに見つかったからだ。掘り返してみると案の定黒く無機質な鉄板が現れた

それも既に鍵は開いている。今回も一ノ宮から貰ったメモを使う事無く侵入可能だ

 

例の如く慎重に梯子を降ると、やはり広めの空間にでた

 

だが異質だ

生活感が感じられる

 

 

「誰かいたのか...?」

 

 

散らかされたゴミ、倒れたままのパイプ椅子など誰かがいた形跡がある

 

携帯食料らは殆ど食されており、唯一無事なのは慎也が求めていたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の通信器具だけだ

 

それなら問題は無い

早速端末の充電器を差し込むと、音も立てずに始まった

 

 

「...ふぅ」

 

 

慎也は久しぶりに座った

長く歩いたこともあり、足腰は随分悲鳴をあげている。起こしたパイプ椅子の座り心地はあまり良くないが、それでも休息はとれそうだ

 

初めの補給地点から持ってきたものでは無い、この地にある水の入った水筒のようなものを開けると、少しだけ喉を潤した

 

できる限り物資は温存しておきたい

大事に飲み込むと慎也はあるものを探し始めた

 

この補給地点にいたであろう人間の痕跡だ

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間ではないだろう。ならば失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)か?だとするとここに長く居座ることも出来ない

 

それではその二者以外は考えられるだろうか

自分で考えておいて自分で一蹴するが、恐らくあまり考えにくい

 

 

しかし失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)ならみすみすこの地点を見過ごさないだろうし、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)ならここまで荒らす意味もない

 

だとすると第三者となる

一体この補給地点に誰がいたというのだろうか

 

 

「...ん?」

 

 

部屋の隅で何かの欠片の様な物を発見した

黒く、実に黒いその破片は持ち上げてみると嫌に重かった

 

先は丸みを帯びた突起状、反対側はその断面が見える。元はもう少し大きな物だったが割れてしまったのだろう

手を傷つけないよう観察すると、何処かで見た事のあるように思えた

 

 

「...」

 

 

観察に集中しすぎたせいか、突如聞こえた音に慎也は体全体で驚きを表した。もう充電が終わったのかと振り向くが通信器具に備わったそれは依然充電を続けている

 

どこで鳴った音だ

確認するよりも早く、その音の正体は姿を見せた

その人物は既に梯子を下り、慎也と同じ高さまで降りていた

 

 

「なんで俺様の寝床にお客さんがいらっしゃるのかね。呼んだ覚えは無いンだがナニモンだ?」

 

「寝床...お前こそ誰だ」

 

 

その男の服装は個性的と言い表せる物だった。

上は体のラインが分かるほどピッタリとしたサイズ。血の色のようなノースリーブであり、首元は鎖骨が見えるまで開けている

 

腰には太いベルトを2本巻き、何故か腹部と左肩にも同じようなそれが巻き付けられている

パンツは一見自然だが、良く見ると右側にだけ夥しい数のポケットがある。左側には痛々しいチェーンがぶら下がっている

 

どういうファッションセンスなのだ

第一印象はそれしかない

 

言葉を失っている慎也に対し、その男は腹部のベルトを前に回した。すると決闘(デュエル)ディスクが姿を見せた

 

決闘(デュエル)ディスクを付ける為のベルトのようだが、その決闘(デュエル)ディスクもまた少し異質だった

 

刺々しい見た目はともかくデザインだ

返り血のように赤黒く雑に彩られている

 

 

「俺様は”D∵At=0-NINe(ディエイト ゼロナイン)”と呼ばれている。死 が無い風来坊さ」

 

「...失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の人間か?」

 

 

慎也も静かに決闘(デュエル)ディスクを構えると、その複雑な名前の男は口角だけで笑みを表現した

 

嫌に落ち着きのある男だ

そして只者ではない、慎也は確信した

 

だが敵だと決まった訳では無い

避けられる戦闘ならば必要も無い

慎也も敵に習って冷静になってみた

 

今の所はファッションセンスと名前が奇抜なだけの男だ

 

 

「質問攻めか?俺様あまり慣れてない、順番にしようゼ?」

 

「.....何が聞きたい?」

 

「俺様の名前が知れたンだ、次はお前の番だ。”人に名を尋ねたら次は自分の番”だろ?」

 

「聞いた事ないけど...」

 

 

悪い人間では無いのかもしれない

所々気になる事はあるが、戦わなくて済みそうだ

 

できるだけ相手の機嫌を損ねないよう、ここは素直に返答する事にした

 

 

「...慎也だ」

 

「シンヤ、か。...いい名前だな」

 

 

クククと低く笑うと、その男は次に残念そうな表情を見せた。下の名前だけで何が分かったと言うのだ、慎也の事を下から上へと舐めるように見上げると、構えかけていたディスクの標準を合わせ直した

 

臨戦態勢だ

何が彼をそうさせたのかは一切分からないが、つられて慎也もディスクを構えてしまった

 

 

「戦わなくていいならヤリたくはナカったんだぜ。でもお前が悪いンだ」

 

「何を...っ!」

 

 

一瞬鮮血かと判断したそれは、捕縛用ツールのアンカーだった。慎也のディスク目掛けてまっすぐ放たれたそれは案の定決闘(デュエル)の強制開始を施した

 

慎也は避けることが出来なかった

そのアンカーも戦闘も

 

 

「もう少しこの地に居たかったモンだが、仕方ない。やるか」

 

「くっ...」

 

 

先の戦闘からデッキは変えていない

またカオスライロに託すことになる

 

チラリと視線を移した先の通信器具はまだ端末の充電を終わらせていない。どちらにせよこの男とは戦わなければならないようだ

 

意を決すると慎也は視線をその奇抜な男に戻した

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

D∵At=0-NINe(ディエイト ゼロナイン) LP 8000

慎也 LP 8000

 

 

 

 

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S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部 / 午後15時50分

 

 

「灰田輝元、帰還しました」

 

「ご苦労」

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部の最高責任者である安山は、今も尚キーボードを叩きつけながら秀皇から帰還した輝元を迎えた

 

視線はずっとモニターに向いている

白衣の科学者らしき人間達の忙しない報告に耳を傾けながら、輝元の報告も同時に受けた

 

 

「秀皇では(ダ-ト)と思わしき50名を捕縛しました。順々に到着するかと。現在は他の警官らに周囲の聞き込みと称して目撃者を探しています。捕らえた者達も時期に到着するかと思われます」

 

「上々だ。随分早かったな」

 

「現場に居合わせたC5の永夜川文佳と他2名の生徒の協力が大きく、私が到着した時には殆ど落ち着いていました」

 

「そうか...」

 

 

4つの大学の内、もっとも早くS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を派遣できた秀皇大学に攻め入った失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の殲滅が完了したという報告だった

 

それは日本にとって非常に良い進展なのだが、安山の表情は硬いままだった。報告が終わった輝元も、何処か人で語りていないのならそちらに向かいたいと考えている。しかし安山の重い口から告げられたのは、聖帝に向かわせたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)についてだった

 

 

「実は灰田輝元、君の実弟である灰田光明と他の生徒らを聖帝に向かわせた」

 

「彼らを?それはどういう...」

 

「村上慎也と同じ別神経が検出された。彼らには記憶操作の処置が施せない。ならば協力してもらった方が話が早い」

 

 

一般市民を巻き込んだ事に罪悪感のようなものがあるのか、輝元の視線を交わしながら安山は語り出した

自らの上司も上司だ。異論を唱えたりはしないのだが、やはり実弟の安否は気になって当然

 

詳細も含めて安山から直々に話を聞くと、一先ず輝元は納得した様子に落ち着いた

 

すると、ノックも挨拶も無しにある人物が入室してきた

その格好から技術支援・対策課の人間だろうと考えられるが、それ以上は何の印象もない初老の人間だった

 

 

「総帥!月下にて単独行動中の村上慎也と連絡がつきました!」 

 

「続け給え」

 

「それが...第一次補給地点から東に向かってしまった可能性があります!」

 

「東...」

 

 

輝元に対する報告では無いが、耳には入る

実の所輝元は月下に赴いた事は無い

 

しかし、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の深部に身を置く事から大抵の事は把握していた。だが、その情報だけでは何が言いたいかまでは分からない

 

輝元が口を閉ざすと、すぐ近くの科学者が驚きの声を上げた

 

 

「東だって!?その地域は確か”あの男”が...」

 

「”あの男”とは?」

 

 

耐えきれず輝元が尋ねると、その男はばつの悪そうに顔を顰めながら語り出した

 

東とあの男について

 

 

「これは須藤さん達の方が詳しいのですが...月下にある補給地点の確認や、その周辺の探索時に不審な男がいるとの報告がありまして...その時はまだ無名のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が数十名確認に行きました」

 

「それで?」

 

「誰も帰還しませんでした...」

 

 

それは慎也がまだS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に加入するよりもずっと前の話なのだろう。

 

失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)が襲撃してくるまでは一ノ宮と須藤を中心に月下の研究と探索をしていた。あの頃ではまさか使う事になるとは思わなかった補給地点の確認や、まだ見ぬ土地の探索に力を入れていたのだった

 

確かその時には既に輝元はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)ととして働いていたはずだ。そのような報告は一ノ宮から直接聞いた記憶もある

 

 

「...確か須藤さん達が向かった際にはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の人間が倒れているだけだったと?」

 

「そうです。結局詳しく調べる前に失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)が日本を襲撃したので後回しにしていたのですが...一先ず危険区域と設定しただけです」

 

「...ではどうして慎也が東に向かったと分かった?」

 

「彼の端末は何故か充電が満足にされていないようです。加えたトラックを放棄した報告を受けていたので彼が方角を知る術は無い事になります。それでも彼は西に向かっていると...」

 

「.....日没か」

 

「はい。彼は月下と日本とで日没の方角が正反対だと教わっていません!太陽が沈む方向に向かっているのでしたらそれは危険区域の東となります!」

 

 

これにより全て繋がった

月下にある危険区域の理由と、慎也がそこに向かってしまった理由

 

後は安山がどう判断し、何を命令するかだけだ

 

 

「...大泉玄(おおいずみげん)

 

「はっ!」

 

 

安山がモニターから視線を移すと、その後から入室した科学者の名前を呼んだ

 

当然大泉も何が命を受けるのであろうとそれを待つが、与えられたのは予想していたものを遥かに超えるものだった

 

 

「今から2時間後、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)決闘者(デュエリスト)及び協力者を月下に向かわせる。予定していた第一次、第二次月下潜入任務は破棄し、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)と全面的に戦う。準備に急ぎ給え!」

 

「はっ...そ、それでは日本の方はどうなさるおつもりで?」

 

「後1時間以内に秀皇以外の三大も全て片付ける。出来なければそもそも今回の作戦は失敗だ」

 

 

モラルが欠如した非現実的な発言と作戦だった

協力者と称したのは光明らの事だろう。まさか一般市民を月下にまで送り出すというのか、その発言を聞いたその場にいる全員が耳を疑ってしまう

 

それよりも今の報告にあった慎也と謎の男についてはどうするつもりなのか。疑問をぶつけるか悩んでいると安山の方から語られた

 

 

「村上慎也についても同じだ。これ以上優秀な決闘者(デュエリスト)を失うわけにはいかない。一刻も早く月下にいる希望と合流し、失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)を叩く必要がある。これは日本と月下の...いや、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)の戦争なのだ!」

 

 

安山が椅子を倒し勢いよく立ち上がると、”戦争”という単語が発せられた。その言葉の重みに誰しもが戦慄を覚える。

 

若き戦士達に託すのは月下の隠蔽作業などでは無く、日本の未来そのものなのだと、改めて事の重大さに気付かされる

 

賛同の言葉も、批判の声も何も生まれない

ただ静寂な空間と化した

 

嫌に長く感じられる沈黙だった...

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

 

するとその無音を破る機械音が響いた

それはその部屋の外からなっており、段々と近づいてきている

 

音と共に現れたのは機嫌の悪そうな化野だった

片手にはタバコ

もう片方の手には音と振動で着信を告げている端末が握られていた

 

 

「あのガキから通信だ」

 

「...」

 

 

化野から安山へと手渡された端末は、安山の手によって沈黙する。安山はその端末をデスクの上のパソコンと繋ぎ、スピーカーモードにしてその場にいる全員に聞こえるよう処置をとった

 

少しの間もなく若い声が聞こえた

紛れもない慎也の声だった

 

一先ず無事のようだ。輝元や大泉が安堵した様子でいると、安山は慎也の報告を促した

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部安山だ。村上慎也か?」

 

《あっ、えと...はい。大泉さんが言っていた別の補給地点に到着しました》

 

「...村上慎也、君のいる補給地点の通信器具に添付されているラベルにはなんて書いてある?」

 

《えぇっと...》

 

今その話をしていたばかりだ

慎也は補給地点までは到着した。後は安否が気になる

 

端末の充電は無事済んだようだが、結局東に進んでしまったのか、まずはそれを確認したいようだ

安山の言うラベルには、それが分かる個体ナンバーが記されている。それが分かれば大凡の場所も判明可能

 

大泉がパソコンを開き、告げられたナンバーを直ぐに照会出来るよう待機していると、慎也もたどたどしく告げだした

 

 

《SDTの16675って書いてあります》

 

「大泉玄、確認を」

 

「はい...やはり東の危険区域周辺の補給地点です」

 

「村上慎也...よく聞いてくれ」

 

 

やはり慎也は危険区域に入ってしまったようだ

だが少なくとも今は無事な様子

 

安山は今一度日本の戦況や、慎也が今いる場所について、日没の方角など全て説明しだした

 

話の最中慎也も時々驚いた反応を見せていたが、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)が結局調べられなかった謎の男についての話の最中には言葉を失っていた

 

あらかた説明を終えると、通信時間も残り少なくなっていた

 

 

「...と言うわけだ。村上慎也、君にはもう少し月下で単独待機してもらう。なるべくその補給地点からは出ないようにな」

 

《...はい、わかりました》

 

「幸運を祈る...では」

《あっ!待ってください!》

 

 

慎也の方からまだ何か報告することがあるようだ。安山は残り時間を一瞥すると、延長の処置をとった。本部と補給地点間での通信のみ有効な手だ

 

 

「何かね?」

 

《その...よく分からない男についてですが》

 

 

歯切れの悪い慎也が何を発しようとしている

まさか接触したのか

 

安山ら本部の人間が固唾を飲んでいると、慎也は控えめな口調で語りだした

 

やはり、出会ってしまっていたようだ

 

 

《...倒しました》

 

「.....何だって?」

 

 

聞き間違えかと安山は自らの耳を疑った

しかし、確かに慎也はこう言っていた

 

その例の男なら倒した、と

 

一方的に捲し立てる安山の剣幕を前に、タイミングを失いかけていたようだ。慎也は気まずそうに、場合の任意効果の如く後から語り出したのだ

 

 

《その...この補給地点についてからその男が来て...どうやらS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の補給地点を根城にしてたみたいです》

 

「...倒したとは、その男をか?」

 

《はい》

 

「...腕はどうだった?」

 

《別に苦戦するほどでは...》

 

 

今度は安山が気まずく感じる番だった

あれだけ啖呵を切って置いて慎也は無事かつ危険分子までも排除済みだったのだ

 

どうしていいか分からず、取り敢えず椅子を元に戻しそれに深く座り直した

誰も何も言わないでいると、咳払いを挟んでもう一度慎也に命令を与えた

 

 

「...上々だ。だがその男が危険なのは変わらない。その男は1人だったか?」

 

《あ、はい。今は取り敢えず...》

 

 

最も気まずいのは、その男の危険性を強く語っていた大泉なのかもしれない

 

それとも第三者視点で観測していた、輝元だろうか

 

 

 

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