遊戯王が当たり前?→ならプロデュエリストになる!   作:v!sion

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暦的にはまだ夏...
すみません間に合いそうにありませんw
当初予定していたものをだいぶカットしていますがそれでも...

相変わらず決闘(デュエル)なしですが、少し長いです



第九十一話 Brains by the Washer

◑日本-S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部 / 午前0時 

 

 

「...いい加減何か話したらどうだ」

 

「...」

 

 

S・D・T《スペシャル・デュエリスト・チ-ム》の中でも地下深くの一室。高い位置にある小さな通気口と簡易すぎるベッドが数個。全体がコンクリート造りのとても客をもてなす内装でないそこに数人の男達がいた

 

一線を画しているのは服装であり、整えられた白衣の男と黒いロングコートを纏う人物で分けられる。白衣の男達はその部屋の外、一部金網で中が伺えるその箇所から内部の黒服達に話しかけている最中だった

 

居心地の悪い部屋にいる割には黒服達には疲れは見えない。代わりと言わんばかりに白衣のS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)達はろくに睡眠が取れていないのか眠気は疲れを隠さず対峙していた

 

 

「全く...失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)はもっと素直だったんだがな、このままだと本当に拷問も考えられるぞ」

 

「別に構わない。我々が話せる事などもとよりしれている。好きにしろ」

 

 

一次日食で捕らえた失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)では無く、二次日食で捕縛したガルナファルナを尋問しているようだ。だが彼らに協力する様子は見えず、ただS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)を疲弊させるだけに終わっているらしい

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)はもう月下に精鋭を送り出した頃だろう。このままイタズラに時を過ごすのも避けたい部下達は必死に説得やらを繰り返していた

だが帰ってくるのは先程のような言葉ばかり

 

そこで白衣の男は隠し球を使用することを決意した

 

 

「大泉さん!」

 

「どうした、何か進展でもあったか?」

 

 

大泉を呼ぶ若い声が廊下に響くと、大泉だけでなくガルナファルナ達の注目がそれに集まった

ひとまずはそれで充分。大泉に急かされ若い部下らしき人物は求められた報告を成した

 

 

「例の決闘力(デュエルエナジ-)による記憶の読み取りが成功しました!これでLL∵Huna=E-t0S0n(ルナイトサン)やガルナファルナの目的が分かります!」

 

「それはいい報告だ」

 

 

すると大泉が次に言葉を発する前に何か音が聞こえた。よく聞くとガルナファルナの戦士が含んでいる笑い声だった

 

何がおかしい

疑問に思うのも早く、耐えきれなくなった様子で1人の男が立ち上がった。

 

そのままわざわざ大泉の目の前まで歩むと煙たい皮肉を撒き散らす

 

 

「ククク...ニホンの技術は頭が下がるな?その調子で次は演技力を上げるために使えばいい」

 

「何が言いたい?」

 

「決闘力(デュエルエナジ-)はそこそこ使い慣れている様だが、全然なっちゃいない。記憶が読み取れるなら最初からやってたはずだろ。下らん茶番で俺達が吐くとでも思ったか?」 

 

 

全て見透かしているかのような口調

だが大泉が激昂したのはそれに対してではなかった

 

大泉も負けじと男に向かうと口調を荒らげた

 

 

「いい加減に立場を弁えろ。貴様らの記憶だけ抜きとって捨てるなんて簡単な事だ、とっとと知ってることだけ答えて後は黙ってればいいんだ」

 

「ククク...それが出来るならもうしてると言ったはずだ。安い挑発と脅しなんかしてる暇あるなら早くその記憶を抜きとる技術の開発に専念しな」

 

「...可哀想なやつらだ」

 

「何がだ?」

 

 

会話が成り立った時、大泉に変化が現れた

何故か彼は口角を上げ笑みとも取れる表情を浮かべた

 

 

「確かに人に試すのはまだだがな、我々は既に記憶を抜きとる技術を得ている、記憶操作も容易い。だが捕虜にどんなに影響が出るか分からない以上まずは尋問を経ているまでだ」

 

「....」

 

「早く吐いた方が貴様のためだ。どうなるかはわからんぞ」

 

「嘘だな」

 

 

大泉の説得に心揺らいだのか、男は一瞬俯き言葉を探す様子を見せた。が、直ぐに顔を上げ再び大泉を捉える

 

次に言葉を見失ったのは大泉の方

数秒にも満たない間隠れた男の顔はまるで別人のようだったからだ

 

嘘と一蹴された事よりも、驚かされたのは男の瞳の色

先程までとは違う色、鮮血のような赤色に染まり変わっていた

 

 

「余事象体質(アウトフェイト)ぐらい知っているだろ。”嘘を見ぬく”こんな単純な余事象体質(アウトフェイト)だが便利なのは確かだぜ」

 

「...」

 

 

大泉の沈黙とほぼ同時に他のガルナファルナ達が一斉にフードを解放し顔を見せた

全員が同じ色の瞳をしている

 

男の発言とタイミングから全員が同じく余事象体質(アウトフェイト)を持っているというわけだろうか

驚かされたのは事実だが大泉とて黙っているばかりでは仕方なかった

 

 

「その余事象体質(アウトフェイト)、先天性のものでは無いな」

 

「誰にでも余事象体質(アウトフェイト)を後天的に植え付ける。既に我々は可能にしているんだよ」

 

「性能は確かなのか」

 

「あぁ。発言の真偽を呼吸や心拍数よりももっと奥、いわば第六感で見抜くのがこの余事象体質(アウトフェイト)。我々の国では”真眼(ビハインドシーイング)”と呼んでいたな」

 

「...」

 

 

大泉はまた沈黙した

予想だにしていなかった余事象体質(アウトフェイト)の存在にか

奥の手として残していた手段が全て見透かされたからか

母国よりも圧倒的に優れた技術を持つ敵国の規模にか

 

時間は残されていない

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の決闘者(デュエリスト)だけでなく一般の学生らまで巻き込んだ大規模な作戦は既に始まっているのだ

 

 

「そうか...嘘を見抜く、か」

 

 

日本に残った大泉を含めたS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の関係者達にも仕事はある。いつ来るか分からない第三次日食への対策や、月下へ向かった戦士達のサポート。ガルナファルナの尋問も後者に当たるはずだ。

 

そして月下に向かった戦士達は命を賭けて戦うのだ

ならば自分らも命懸けで使命を全うするだけだ

 

大泉は見破られた隠し球では破棄し、既に使用していた独自の隠し球のお披露目に移った

出し惜しみする理由は既に無い

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の内部でも限られた人物らしか知りえない大泉の秘密の瞳を開眼した

 

 

「”真眼(ビハインドシーイング)”...いい名前だ、これからは私も使わせてもらおうか」

 

「なんだと.....っ!?」

 

 

沈黙がまた巡った

ガルナファルナの男の視界に映ったのは赤

 

大泉の瞳もまた変色していたのだ

 

 

「おかしいと思わなかったのか?何故ただの研究員である私がわざわざ捕虜と会話なんてしに来たのか」

 

「まさか...貴様!?」

 

 

予想通りの反応が得られたのか大泉は満足そうに笑みを浮かべ余裕を顕にした

まるで少年ののうに無邪気で無垢なその表情は初老には似合わず、それも相まって黒服の男達には奇妙に映っている

 

 

「物心着く頃には...いやこの話はいいか。私の”真眼(ビハインドシーイング)”は貴様らのとは違う。呼吸や心拍数なんて関係無く嘘や言葉の裏を読み取る」

 

「ば、馬鹿な...」

 

「もっと話そうか、貴様のと違い使用限度も無い」

 

「っ!」

 

 

大泉もまた余事象体質(アウトフェイト)を持つ人間だった。彼の言う通りならこの役割は適任の一言であり、ガルナファルナの戦士達の反応からそれが本物であると証明されたようなものだ

 

使用限度

これはお互いに一言も挙げなかったワードであり、大泉の言葉の裏とは恐らくこの事だろう。決闘力(デュエルエナジ-)の技術では無く、いわばオリジナル。それを知らしめられたガルナファルナは口を閉ざし露呈を防ぐ他なかった

 

 

「クッ...」

 

「今更口を閉ざしてももう遅い」

 

「...」

 

 

大泉が傍らの迷彩服を纏う男達に何か指示をした。すると男達は重厚感ある扉の鍵を開き、順々に室内へ侵入して行った

 

余事象体質(アウトフェイト)を見せた男を捉えると、二人がかりで抑え力づくで広い廊下へ連れ出した

 

 

「貴様の記憶を抜きとって勝手に見させてもらう」

 

「なっ!」

 

「何か知っているんだろ?さっきの質問でそれは分かったからな、あとはやって見るだけやってみよう」

 

「ふざけるな!お、俺達は捕虜だろ?そんな扱いが!」

 

 

やっと見せた狼狽の姿も満足なのか、大泉は指示の手を緩めなかった。ただ、既に黒く戻った瞳の男を見下すように、冷たく投げやりに答えるだけ

 

 

「貴様の別神経は目だったな?安心しろ、運が良ければ失明で済む」

 

「わ、分かった!知っている事なら話す!嘘が見抜けるならそれでいいはずだろ!」

 

「連れて行ってくれ」

 

「お、おい!」

 

 

念入りに扉の鍵を締めるとS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)達はガルナファルナの1名と共に廊下の奥へと進んで行く

 

冷淡に仕事をこなすS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)とは対象的に、ガルナファルナの男は必死に折衷案を提示しては無視の繰り返しの最中をさ迷っていた

 

道中それに聞きあきたのか、大泉は昔話でもするかのように突如口を開いた

 

 

「そう言えば私が言った嘘だが...」

 

「な、なにがだ?」

 

「人に試すのは初めて、だけが嘘だ」

 

「...」

 

 

大泉の目に映った男は酷く怯えているようだった

まるで追い打ちをかけるかのように、必要性が問われるような言葉を大泉は男の喉元に突きつけた

 

 

「数分前に何回か試しているから初めてでは無い。だからどれだけの痛みや苦しみがあるのか分かってて貴様に施すからな」

 

「や、辞めろ!必ず報いがあるぞ...今のうちに!」

 

「悪いが」

 

 

男の目に映った大泉の姿は恐怖そのものだった

先程までの印象など無く、ただただ畏怖の対象

 

余事象体質(アウトフェイト)の存在よりも、この男の性格そのものに疑問を抱くものだった

 

 

「記憶操作が可能なんでね、必要な記憶が取れたら全部消しておくとする」

 

「や...辞めてくれ!」

 

 

薄暗い地下の廊下に叫び声が響いた

 

それに怯えるのは攻めいれられた日本の人間では無く、本来敵であるガルナファルナ達だったのは言うまでもない

 

 

「その恐怖は演技じゃないみたいだな、だが目は背けるなよ」

 

 

▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽

 

 

◐??? / 午前0時6分

 

 

「...」

 

 

日月戦争について知らされた慎也はあれからまた移動を経ている。方角を間違えた事と、日が落ち闇夜と化して閉まったことから初めは非常に困難を要するかと思われた

 

だが実際に歩き出してみるとそこまでの苦労は無かった

漆黒の闇の中に灯る明らかな人口の光が遠くに見えるため、全くの闇ではない。さらには端末で決闘力(デュエルエナジ-)を追うことが可能であり、単純な距離を度外視すれば次の補給地点までそこまでの労力は伴わないだろう

 

端末が示す決闘力(デュエルエナジ-)の方向へ進む

また、他者の目に映らないよう明かりは避けて進む

大泉も何も遮蔽物のない土地を指定していた。ただ闇の中を一歩一歩歩くだけの単純作業にはなったが、依然として孤独もと不安感との勝負には違いなかった

 

 

「...なかなか無茶言うよ」

 

 

目の前の物体が見に写る条件は光の有無

時代が進歩し、人が居なかろうが常に灯りが灯る街並みに慣れていたせいかとても視力に頼る事は出来ない道のりだった

 

慎也の視力は低くは無い

だがこの闇夜の中それが機能する人間は限られているだろう

 

一歩一歩確実に

作戦開始まで時間があるとは言いきれない時の中で焦りと不安を抱えながら慎也は歩き続けた

 

 

ーーー

ーー

ー

 

 

「...」

 

 

どれぐらい歩いたのだろう

1人でいる孤独感と純度の高い闇は時間すらも錯覚させてしまう

 

相変わらず真っ平らの大地だ

身を休める所も腰を下ろす物も無い

頭皮の意味も込めて時間でも確認しようかと過ぎった時、腰のポーチが控えめに振動しだした

 

 

「...はい」

 

 

手間取る様子もなく端末を手に取ると願っていた他者の声が聞こえる

もう何度か聞きなれた大泉のものだ

 

彼曰く今作戦中慎也のサポートに徹しているとの事だが、マメな連絡に対しては感謝しか浮かばないだろう

何か進展でもあったのかと問う前に報告が始まった

 

 

《村上か、1時間ほど前に戦争について話したばかりだが進展があった。報告する》

 

「お願いします」

 

 

時刻を確かめる必要がなくなった

そうか、もう1時間も歩いたのかとまずは時を把握する事に成功した

 

あとは厄介事が無ければいいのだが

そう控えめに願い言葉を待つと間髪入れずに大泉は語り出した

 

 

《ガルナファルナの兵士を尋問した》

 

「...それで?」

 

《予想もしていたが、第三次日食が始まるようだ》

 

 

日食について慎也が何も言わないでいると、大泉は報告の間に簡単な説明を挟んだ

秋天堂が用いた日本が襲撃される事を指す用語、だと

 

それだけ分かれば慎也でも事態が呑み込める

 

 

「まさか...また入れ違いで!?」

 

《あぁ....一次や二次日食の時といいタイミングが良すぎる》

 

「...内通者は考えられませんか?」

 

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の動きを読むなどといった芸当では無い。まるで知っているかのようにガルナファルナも失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)も日本に襲撃を重ねている

 

今回は日食前に情報が得られただけ幾分マシだが、それ以上に恐ろしい可能性も浮上した

 

慎也の言う通り内通者

もっとも考えられるのはそれの存在だ

 

 

《...実はな、一次日食の後聖帝の人間を疑っていた。特にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の幹部でもある大神の周辺は念入りに捜査したんだが...》

 

「...」

 

《その途中で二次日食が起こったんだ。だから捜査対象は聖帝関係者からS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)全体に...》

 

「それって...っ!」

 

 

一次日食はインターンシップ説明会会場が襲われた事件だ。故に聖帝関係者が疑われる事までは慎也も納得できる

 

だが慎也はその言葉に激昂していた

それは捜査の期間が長すぎる事についてでは無く

何故内通者について考えられたにもかかわらず何も告げなかった事にでもない

 

今自分が月下にいる理由が関係していた

 

 

「それじゃぁ...俺や一ノ宮さん達を秘密裏に月下に送る作戦も...露呈していた可能性は考えられたってことじゃないか!」

 

《村上、落ち着け》

 

「おかしいとは思ってた...月下に着いて直ぐに一ノ宮さん達は襲われたし、やつら俺が来てるって分かってるような様子だった!」

 

《落ち着けと言っているだろ》

 

 

敵地で叫ぶ慎也を必死に宥めるがそれは通話越し

まるで説得の効果が無いようにも思えるが、慎也の怒りは止まる気配が無い

 

慌てた声色の大泉はひとまず落ち着かせる事が先決と判断したらしく、話を脱線させてまで事の発端を語りだした

 

 

《第1次月下潜入任務の概要はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の中でもごく限られた人間しか知らなかった。我々もそこから露呈するとは思っていなかったんだ》

 

「でも実際はバレてる」

 

《盗聴器の類は見つかっていない。あの作戦の概要を聞いた人物の中に内通者がいるという事になる》

 

「それは俺や大泉さんも含まれてるって事ですか?」

 

《村上は一次日食の被害者だ、私も安山総帥達もそれは疑っていない。加えて安山総帥、大神、草薙、鷲崎も同様に内通者では無かった》

 

「何を根拠に」

 

 

一瞬間が空くと、大泉はため息混じりに慎也の疑問を打ち消す答えを出した

 

後出し且つ突飛な話のため、不公平とも取れるそれだが慎也を納得させるためには提示をせざるを得ないそれだった

 

 

《余事象体質(アウトフェイト)についての説明はしたか?》

 

「...いえ」

 

《細かい話は省く。要は高い決闘力(デュエルエナジ-)をもつ決闘者(デュエリスト)に宿る一種の超能力の事だ。私は嘘や言葉の裏を見通すそれを所持している。それで確認したとしか今は説明が出来んな》

 

 

冗談には聞こえなかったが、直ぐに納得できる話では無い

だが今は仕方ない状況だ

大泉が内通者ではなく、その余事象体質(アウトフェイト)とやらが本物である事を前提としてしなければ話は進まないからだ

 

 

「...分かりましたよ。それが本当ないよいよ」

 

《ひとまず信じるしかない。暑くなりすぎた、一度冷静になって話を進めるべきか。時間が無いことへの焦りと未知の単語への不安感。そもそも本当にそんなものがあるのか半信半疑...といった具合だな?》

 

「...分かりましたよ」

 

《端末越しだとこの程度しか発揮できん。今はこれで信じてもらうしかないんだ、分かってくれ》

 

 

心に浮かんだ文をそのまま読まれた気分だった

実際の所大泉の発言に誤りは一切無い

慎也はその余事象体質(アウトフェイト)やらの存在を認める以外の選択肢は無かった

 

そして冷静になってみると大泉と自分を内通者の容疑者に挙げた事すらも恥じる

今更ながらなんて無知で感情的な言葉をぶつけたのか、自分でも自分が分からないままひとまず話に戻ることした

 

 

「...でもそんな力があるなら初めから使えば良かったじゃないですか。なんで今になってそんな」

 

《無論やっていた。だがS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に何人いると思っている?...いや、それはいい。村上達を一次潜入任務に任命した話だったな》

 

 

無駄な話で通話時間が延びている

それを気にするように大泉は焦る口調のまま続けた

 

 

《一次潜入任務の目的はあの場で話した通り月下の状況を知ることと村上を月下に送る事だ。慣れている一ノ宮か須藤のどちらか或いは双方がいればあとは誰でもいい作戦だな》

 

「...はい」

 

《あの時日本に残ったプロの鬼禅、山本、灰田、近藤は全員一次日食の後私が直接”観た”。何れも内通者でないことが分かっていたため日本に残したんだ》

 

「...まさか」

 

《あぁ。氷染、編風、形谷は確認できていなかった。だからこそ月下に送ったんだよ》

 

 

やはり理解出来なかった

内通者が考えられている中極秘の作戦を話し

疑わしき者をあえてその作戦に参加させた

 

そして結果疑いの対象者達は失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)に捕縛された。何よりも氷染達が内通者だという可能性があった事にすら憤りを覚え始めていた

 

厳密には疑われているというそもそもへの怒り

非常に短い間だったが、少なからずの尊敬心や信頼は芽生えていたのだ

 

 

「氷染さん達は捕まったよ。結局お前達の思惑は外れてイタズラに戦力が削られただけだ!」

 

《いや、逆だよ》

 

 

慎也の中にある怒りのメーターがまた振り切ろうとした瞬間。大泉は突如落ち着いた口調で返しの言葉で切り返した

 

逆とは

なんの話しをしているのかすら慎也は見失いかけてしまった

 

 

《おかしいとは思わなかったか?あの作戦では非常用のゲートを初めて使用した。場所は愚かタイミングまで完璧にヤツらは現れただろ?さらに4名を1人が瞬殺、普通じゃ考えられない》

 

「じゃあ氷染さん達があのタイミングで月下に移ったって事かよ!」

 

《数時間前まではそう考えられていた》

 

 

先程から慎也の怒りは不安定だ

ボルテージが上がると思いきや大泉が気になる言動を挟んでそれを抑える

 

感情的な相手と話す心得でもあるのだろう

とまで考えた時彼の余事象体質(アウトフェイト)を思い出した。言葉の裏とは感情も含まれるのだろうか

 

いずれにしても大泉に上手いこと扱われているのに変りは無い

 

 

《氷染達が連れ去られたと報告を受けた時、彼女達が日本の戦力から外れるのは痛手だが同時に内通者がいた場合これ以上の露呈は防げると考えた。後者の場合は一ノ宮1名の犠牲で希望と情報が死守でき、前者が最悪のケースだった》

 

「...じゃあ一ノ宮さんは」

 

《あぁ、一ノ宮は内通者では無い。S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)から完全な信頼があったからこそあの作戦を任せたんだよ》

 

 

謎の安堵があった

慎也自身を含めたあの5人の中に内通者がいたなどと考えたくもない事案だ。だが少なくとも2名の潔白が明らかになった

 

1人は一ノ宮

大泉の口調から彼の余事象体質(アウトフェイト)を用いた結果だとは明白であり、S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)規模の信頼とまで伝えられた

無論残り1人は慎也自身。蛇足だが彼が内通者である事は全くありえない

 

一ノ宮の安否が再び気になり始めたところで、慎也はあの時の出来事を思い出した

 

 

「...俺は月下に着いてすぐ一ノ宮さんに連れられて氷染さん達と別行動をしました。その後直ぐに捕まってしまったわけですが、まさかそれも?」

 

《あぁ。一ノ宮には氷染らが怪しい旨は伝えてあった。加えて内通者だった場合や緊急時には日本の希望の絶対死守も命じていたんだよ。想像以上に早かったが一ノ宮は全うしてくれた》

 

 

心境に変化が現れた

一ノ宮への感謝や氷染達への不安と疑心感

さらには自らが日本による保護対象である事を知らしめられた事による心の複雑化

 

そして冷えた頭で考えてみると大泉が言いたい事も分かった。氷染達もまた内通者では無かったと言う事実の証明が

 

 

「...氷染さん達が捕まってるのに三次日食」

 

《そうだ。消去法で行くと残る内通者の容疑者は須藤だけになる》

 

「っ、じゃあ!」

 

 

これから起きると言われた三次日食もまた日本にとってタイミングが悪すぎる。故に危惧された内部からの情報漏洩なのだが、容疑者である氷染らは既にS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の内部にはいない

 

一次月下潜入任務の概要を知り

二次日食後も内部に存在し

大泉の余事象体質(アウトフェイト)による判別の外にいる人間

 

慎也が頭を働かせるよりも早く大泉は須藤の名を上げた

 

 

「じ、じゃあ須藤さんは既に...っ!」

 

《あぁ》

 

 

事態の好転に喜びを隠さない慎也に対して大泉は短く肯定した

だが、それは慎也の予想していた内容では無い

 

一体何が肯定されたのか甚だ疑問に思えるような異質な答えが帰ってきた

 

 

《既に日本を出発した》

 

「...へ?」

 

《須藤は日月戦争に参加する。あと数時間で月下に到着する予定だ》

 

「はぁっ!?なんで...」

 

《時間が無いな...延長処置をとるから待っててくれ》

 

 

またよく分からない単語を放つと大泉はしばし沈黙した。端末越しで何か機械音が微かに聞こえるがそんなことはどうでもいい

 

早く答えてくれ

内通者の判明が出来たのならなぜ行動に移さない

まさか知らないふりを続け泳がせるつもりなのだろうか

それとも何かほかの目的でもあるのだろうか

 

慎也が混乱状態で大泉の言葉を待っていると、突然その答えが帰ってきた

 

 

《須藤も内通者では無かった》

 

「...もう意味がわからない」

 

《荒業だが私が直接「内通者か?」と問うた所、須藤は「違う」とだけ答えた。その言葉に嘘は無く、日本のために戦う意思が読み取れた。だからそのまま作戦に参加させたんだ》

 

「......もう大泉さんの余事象体質(アウトフェイト)は疑ってませんが、些か安易じゃないですか?」

 

《ここからは本来の報告と繋がるんだがな》

 

 

今更ながら今の話題が脱線の先にあったことを思い出した。そうだ、今回は大泉の方から報告があると言うことで端末を手に取ったのだった

 

邪推や疑心感が募るだけで終わらないだけ良かった。今度こそ進展が聞けると信じ耳を傾けた

 

 

《ガルナファルナの兵士達に私の余事象体質(アウトフェイト)を使用し尋問した話だ。時間はかかったが三次日食の他に有力な情報を得た》

 

「それは?」

 

《良いニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?》

 

「後者で」

 

 

周り口説い様な言葉の道のりは大泉らしくないものだ。恐らく言葉の整理に時間を要するのだろう。慎也は即答したが、大泉も凡その言葉は準備済みだったらしく比較的スムーズに語りだした

 

 

《尋問の結果ガルナファルナの上級から内通者の情報を得ることに成功した。代わりに失彩の道化団(モノクロ・アクタ-ズ)は事実しか語らないがその辺については一貫して黙秘を貫いているためまだ他にも内通者がいるかもしれないが》

 

「説明してください。一体誰が...?」

 

《鷲崎...》

 

 

意外すぎた人物が上げられた

 

 

ーーー

ーー

ー

 

 

◑S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部-メディア対策課 

 

 

「だから自分は!」

 

 

これは時を少し遡った数日前の記憶

比較的若い男性が声を荒らげて何かを訴えていた

 

対面するのはその男の上司にあたる鷲崎と化野

男は数時間に及ぶ対話の中で先に限界を迎えたらしく、熱を帯びた様子で荒れている

 

化野の傍らにある灰皿も既に許容の限界を超えており、楽しい話題で盛り上がっていた訳では無いことは明確だ

 

 

「君を疑うようで悪いと思っている。だがこれを見てくれよ」

 

 

容疑者はメディア対策課責任者鷲崎貴文

の直属の部下の男だった

 

幹部である鷲崎は真っ先に大泉の余事象体質(アウトフェイト)で裏付けが取られていたはずだ。だがその部下達については話が別

 

確かにメディア対策課の責任者鷲崎にはS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の動きなど把握してもらわなければ困る。

加えて彼の部下達にも鷲崎を通すなりして伝わっただろう。ましてや直属の信頼されているはずの部下達だ。ノーマーク且つ納得の行く人間だがやはり解せない点が残っていた

 

部下と言えど大泉の”眼”による確認が無かったのか

それを知るのは本人だろうが、この場にはいない

 

 

「この写真に写っているのは君だ。君ならS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)の作戦内容も凡そ把握済みであり、このようにガルナファルナと繋がっている証拠もある。何か知っているなら話して欲しい」

 

 

鷲崎が示すのはテーブルの上に広げられている数枚の写真。疑われた男が黒服と密会している現場のものや、あの聖帝が襲われたビルで何か作業をする姿が映されている。何れもS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)のスーツを纏ったままであり、恐らく監視カメラの映像だろう

 

言い逃れのできないこの物的証拠は既に使用済みらしい。夥しい数のそれがテーブルの上に並べられて目に入らないはずはない

 

 

「本当に...そんな記憶が無いんです...確かにこの写真の男は私ですがっ!」

 

「...少し休憩しようか。化野、僕にも1本もらえるかな?」

 

「...」

 

 

化野から無言で煙草を受け取ると、鷲崎は慣れない手つきでそれに火を灯した

少しだけ咳き込むが、その後は何か確認でもするかのようにその煙の香りと味を嗜む

 

 

「もうじき君の決闘力(デュエルエナジ-)の解析が終わる。もし何らかの記憶障害を起こしているならそれで分かる」

 

「はい...ですが鷲崎さん。私は本当に内通者なんかじゃ...っ!」

 

「君はS・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)創設から着いてきてくれた部下だ。僕だってそんな事は考えたくないんだよ」

 

「...解析が終わったらしい」

 

 

部屋をノックするものに対して化野が対応した

白衣の科学者らしき男から数枚の書類と簡単な説明を受けると、直ぐにその男を帰す

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)内部の内通者を探す

。恐らくそれは化野に託された任務なのだろう。相変わらず気だるそうに容疑者と鷲崎に向かうと白か黒かを告げた

 

 

「やはり外部の決闘力(デュエルエナジ-)が検出された。ついでにこいつとガルナファルナとの通話データも提出された。間違いなく黒だな」

 

「そ、そんな...」

 

「大泉の所に行け。もっと詳しく調べる必要がある」

 

「.....はい」

 

 

未だ部屋の外にいた白衣の男と合流すると、容疑者は別の一室へとまた移動をする

青ざめた様子で覚束無い足取りは、まるで有罪を言い渡された被告人の様。だがそれよりも鷲崎の方がショックを受けているようにも見える

 

長年共に尽くした信頼も信用もしていた部下だ。裏切り者だなどと信じたくないのかもしれない

 

だが、少しだけそれは違った

それを見透かした上で化野は2人っきりになったその部屋で静かに語り出した

 

 

「S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)本部内の通話は音声データとして保存される。個人の携帯を使っても同じ事だがそれは誰しもが知ってる事だ」

 

「うん。彼がそれを知らないはずは無いね」

 

「...フゥ」

 

「まさか敵国も記憶操作の技術を手にしているのかって考えたけど...これは」

 

 

こまめに煙を吐き続ける化野と、ただ立ち込める煙を眺めるだけの鷲崎。対照的な2人だが、両者あの容疑者については意見が一致していた

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)以上の技術

非道徳的で人道に反した受け入れ難いそれの存在について

 

 

「自覚無き裏切りと言うべきか」

 

「うん...」

 

 

化野が特別驚く様子を見せず内通者について簡単に言葉を繕った。

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)内部の情報を敵国へ流していた証拠は出ている。その段階で彼が内通者である事は間違いなく、残すは理由だけとなっていた

だが本人は内通者である自覚すら無かった。加えて外部の決闘力(デュエルエナジ-)が関係したため、残された可能性はひとつしかない

 

 

「自覚がねぇなら大泉の余事象体質(アウトフェイト)が効かないわけだ」

 

「こんなの...まるで洗脳じゃないか...」

 

 

本来の役目を忘れ去られてしまった鷲崎の煙草は早くもフィルターまで燃え尽きている

そのまま灰が零れ落ち、上質なスーツを汚す

 

S・D・T(スペシャル・デュエリスト・チ-ム)に

日本に一体後どれほどの洗脳の被害者がいるのか

検討もつかず途方に暮れる暇は無いはずだが、今はそれしか何も出来なかった

 

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