「犯人は窓から窓へ飛び移ったんですよ。皆さんが被害者の悲鳴を聞いて駆けつける前にね」
新一がいつものように関係者を集め推理を披露する。
その推理に関係者たちはざわめき、口々に騒ぎ出す。
「馬鹿な!」
「あそこは五メートルも離れているのよ!」
「壁づたいに屋根を登れば二メートルもありません。この家の特殊な構造を知らなければ思いつきませんがね。そして、あの時間に家中を歩き回っても誰にも怪しまれない人物はただ一人」
「早く言いたまえ!誰が私の家内を殺した犯人は!?」
「それは…………御主人!あなたです!」
犯人を言い、その人物を指差す。
犯人と言われた被害者の夫にして屋敷の持ち主である男はうろたえる。
「じょ、冗談はよしたまえ…第一ワシの足はまだ……」
「茶番はそこまでだ」
俺は壁にもたれ掛かったまま男に話し、二枚のカルテを出す。
「貴方の診察記録だ。ここでは全治半年と書かれているが、こっちのカルテには全治二ヶ月って書いてある。調べたら案の定改竄の痕跡があった。そこから貴方の主治医を問い詰めたら、全部吐いてくれましたよ。貴方の足はもう三ヶ月も前に直っていることがな」
「くっ………くそ!」
男は逃げ切れないと悟り、車椅子を飛び降りて逃げ出す。
「新一!」
「任せろ!逃がすか……よお!!」
足元に置いてあった地球儀を蹴り飛ばし、地球の模型部分が男の後頭部に当たる。
男はそのまま倒れ、逮捕された。
「いやー。また君らの力を借りてしまったな、工藤君!神埼君!いつもいつもすまんのー」
この事件の担当者である目警部が俺と新一の背中を叩きながら感謝してくる。
「いえいえ。また難事件があれば、この名探偵、工藤新一にご依頼を!」
新一はキザッぽくそう言う。
「それと神崎君。いつも通り、君の事はマスコミに伏せる形で良いのかね?」
「はい、俺のことは他言無用で」
「それは構わんが、君は本当にメディアへの露出を嫌がるな」
「俺は探偵なんかじゃなくただの助手ですから」
俺、神崎恭介は目暮警部にそういい残し、新一を置いて、屋敷を後にした。
いつも通り学校に登校し、授業を受け。放課後。
俺は新一と一緒に帰っていた。
「フフフ…フッフッフ」
新一は新聞の一面に載ってる自分を見て笑う。
本屋で雑誌を見てる女子高生も新一の活躍について話、夕方のニュースも新一のことをほめ、新一は嬉しそうに笑う。
すると、新一の顔目掛け空手の胴着が当たる。
「バッカみたい……ヘラヘラしちゃって……」
胴着を投げたのは毛利蘭。
俺と新一の幼馴染だ。
「何怒ってんだよ?」
「別にー。新一と恭介が活躍してる所為でお父さんの仕事が減ってるからって怒ってなんかいませんよー!」
蘭の父親の毛利小五郎さんは新一と同じく探偵をしているが、正直な話、推理力と知名度なら新一が上だ。
「蘭の父さん。まだ探偵やってたのか?でも、仕事が来ないのは俺と恭介の所為じゃなくてあの人の腕の所為「だから、怒ってないっていってるでしょ!」
新一の言葉を遮りながら、新一の顔スレスレの位置に拳を打ち出し、電柱にぶつける。
よく見ると電柱にヒビが入っている。
「さ、流石空手部女主将……」
蘭の一撃に戦慄しながら、俺は手元の本に視線を戻す。
「ねぇー!ボール取ってー!」
新一の足元にサッカーボールが転がり、新一はそれを子供に向かって軽くけり返す。
「ほらよ!」
「ありがとー!」
「サッカー部止めてなかったら、今頃国立のヒーローだったのに」
「サッカーは探偵に必要な運動神経を鍛えるためにやってただけだよ。ほら、ホームズだって剣術やってたし」
「あれは小説でしょ」
「でも、みんな知ってる名探偵だ。ホームズは凄い!いつも冷静沈着!溢れる知性、教養!観察力と推理力は天下一品!おまけにバイオリンの腕はプロ並!小説家、コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズは、世界最高の名探偵だよ!」
新一はクリスマスの日に枕元に置かれたおもちゃを見て喜んでいる子供の様に、はしゃぎながら言う。
「コナン・ドイルだけじゃない!オレん
「いいわよ。新一の推理オタクがうつっちゃうから」
「でも見ろよ。このファンレター!みんな、この推理オタクが好きだってよ!」
懐から出したファンレターの束を見せ、新一は笑う。
「女の子にデレデレするのはいいけど、ちゃんと本命一本に絞りなさいよ」
蘭はファンレターを見つめながら言う。
「それにしても、どうして恭介は世間に知られたくないの?」
「ん?」
読んでいた小説から目を離し、蘭の方を見る。
「だって恭介だって新一に負けないぐらい優秀じゃない。それなのに自分から事件に関与してるの伏せてもらって………なんかもったいないわよ」
「いいんだよ、俺はこれで」
そう言い。読んでいた小説を閉じる。
「俺は表立って騒がれるより裏でこそこそ活動する裏方の方が好きなんだ」
そう言い、鞄に小説を仕舞う。
「じゃあな、二人とも。また学校で」
二人に手を振り、俺は自分の家へと帰っていった。