「ど、どうかな、ひろくん……?」
「ふふん、どう? 似合ってる、大翔?」
「……ほぇー、アリサちゃんにすずかちゃん、わたしのバリアジャケットと全然違うよぉ」
『イメージのし易さから、なのはは制服をイメージしたのでしたね。マスターや、アリサは大翔がデバイスを作成できるようになるまで、ゆっくりデザインを考える時間がありましたから』
すずか、アリサ、なのはが魔導師としての修行を始めておよそ半年が経つ。大翔を含めた四人の関係性はあまり変わっていないものの、周りとの関係性や、大なり小なり様々な出来事があった。
今、大翔の目の前で初披露されている、すずかやアリサのバリアジャケット姿もその経過の一つ。忍たちに前世の記憶持ちであることを明かし、この世界を物語として知っている事を『不完全な予知能力』という扱いにした上で、PT事件や闇の書事件の概要と発生時期を説明。すずかやすずかの周りの安全を確保する為の協力を要請するに至る。
なお、アリサやなのはにも予知能力設定を転用し、四月から魔法絡みの事件が立て続けに起こる予知夢を繰り返し見るとでっち上げ、すずかや忍に夢に魘される様子を見ていると証言をしてもらい、信憑性に強みを持たせた。アリサは大翔の裏事情が絡んでいると察し、四月から厄介ごとが起こる点のみを理解し、予知能力云々については話半分程度にしか信じていなかったが。
……大翔の告白は、忍のマッドエンジニアとしての自負を燃え上がらせることとなり、工業機器開発製造会社を経営する両親を巻き込み、大翔とヘカティーとの共同開発の元、約半年をかけて、すずか専用デバイス『スノーホワイト』、アリサ専用デバイス『フレイムアイズ』を造り上げる。実のところ、人工知能の改良など、まだまだ課題はあるものの、実用に耐えられるレベルまで到達したと判断した忍たちはすずかとアリサに相棒となるデバイスを手渡したのだった。大翔の二つ目の転生特典『魔具作成素養』は、この世界においてデバイス作成に強みを発揮した、ということになる。
なお、デバイス作成の技術や知識面の強化はヘカティーの多大な協力がなければ不可能であったが、その一環で行われた彼女の分解・再組立については、現在はメンテナンスを含めて、大翔にしか許していない。忍が色々やらかしてしまった結果でもある。
すずかの専用デバイスについてはもちろん、ヘカティーというデバイスが既にいる。が、ヘカティーで無ければ、規格外の魔法の才を持つなのはの修練を支え切れず、さらに、大翔や忍とのデバイス開発サポートなど、彼女も多忙である為の措置の一環であった。
「……」
「なにボーっとしてるのよ? なんか感想があるでしょう!」
「ひ、ひろくん?」
「見蕩れてんのよ、すずか、アリサちゃん。ほんとに大翔は美女とか美少女に免疫が無いっていうか、いつまでも慣れないわよねー。よし、撮れたことだし、さっさとメール送っておきますかー」
すずかのバリアジャケット姿だが、白のフリルブラウスに菫色のジャボを首元に垂らし、同系色のコルセットを身に着け、淡い桃色の丈が短めなフリルスカートに、黒ストッキングといった装いである。長い髪はポニーテールにまとめてあり、トレードマークの白いヘアバンドに合わせて、結び目に白色のリボンが結ばれている。
これだけ見れば、フェニミンな要素でまとめられていて、可愛らしさが際立つのだが、そこに男性用の無骨さを感じさせる、前襟が大きい紺色のトレンチコートをまとっている。白ラインと裾にフリルが施されていなければ、海賊が着る様な前止めの無いコートそのままだ。そして、親指から中指にかけて、外付けの半透明の水色の爪がついた、グローブ型のデバイスを装着している。
格好良さと可愛さをアンバランスに同居させたデザイン。着用者がまた少女と女性の間で揺れ動くすずかであるため、不安定さと危うさと愛らしさが絡み合ってそのまま表れているような、不可思議で妖しい魅力に満ちていた。
一方、アリサ。刀剣型のデバイスを手にする彼女は、朱色を基本色としてベルカの騎士服を模している。大翔には覚えがある、ヴィータの騎士服のデザインに一番近いだろう。肩の意匠があちらは十字に対してこちらは正方形の違いはあるが。ただ、腰のベルト代わりに黄色の大きなリボンを使っていたり、ミニスカート対策で、しっかり黒スパッツを着用していたりする。
ショートブーツとスカートの間は膝当てを付けている以外、生足を堂々と見せており、この辺りもすずかと対照的で、女の子らしさを残しつつも快活な彼女らしいデザインになっていた。
「お、お姉ちゃんっ!」
「何を今更照れてるのよ、すずか。我に返ったら、自分で大翔に聞いてみたらいいわよ。よし、送信完了、っと」
「忍さん、こっそり撮りましたね?」
「うん、いずれ正式な撮影会はするにしても、こっちの両親も、アリサちゃんの両親も楽しみにしてたからねー。すぐ送ったわ、出資者なんだから当然よね」
しれっとシャッター音を消して、携帯端末での隠し撮りをした上にメール送信した事実を暴露する忍。仕事で娘達の魔法少女に初変身した姿を見れない両家の両親たち……開発費の出資者達に、せめて晴れ姿をいう心遣いのつもりだった。
「またパパとか大騒ぎするのよ、きっと。恥ずかしいったらありゃしないわ……」
「あ、あはは……ただ、反対するんじゃなくて、応援してくれるのはありがたいんだけどね」
すずかと忍、そしてアリサの両親がデバイス開発に出資してくれた経緯を大翔は詳しく知らない。彼だけではない、すずかもアリサも知らない。両親達を説得してくれたのは忍ということと──。
『恭也くんにも似たようなことを言ったが、君はすずかのために全てを賭けられるのかい? その年で、人生を決める誓いをできるのかな?』
娘にさらなる異形の力が宿ったことを知り、大翔にそんな問いかけをした、すずかと忍の父親。大翔は、素直な心の内を告げた。
『わかった。君がすずかを裏切ることがあれば、躊躇いなく一族の誰かが君を消し去るだろう。ただ、君がすずかの味方である限りは、私達は君の支援を惜しまない。約束しよう』
──そんなやり取りがあった後、両家合わせて急に協力体制を整えてくれたという事実のみ。
「……すずかやアリサがとびっきりだってこと、慣れたようでやっぱり慣れてないんだな」
二人の魅力に吸い付けられ、そして、恐怖を感じる身体。強張り、小刻みに震えすらする自分自身を、大翔は笑うしかなかった。
*****
「どれだけ重症なのよっ、全くっ! フレイムウィップッ!」
「あちちっ! 最初から全力かよって、あ、あれ、いつの間にバインドだと!?」
「ふふふ、貴方相手なら遠慮は『一切』いらないから。空間設置・遅延型のアイスバインドだよ」
銀髪オッドアイのクラスメイト──伊集院皇貴が、バリアジャケットを身にまとったすずかとアリサの猛攻を受けていた。これも周辺の変化の一つ、訓練相手に彼を組み入れたこと。
彼の常時魅了に対応する精神保護の魔法を三人が習得したことや、一週間程度で効果は無くなるものの、アクセサリータイプのマジックアイテムを開発出来たためだ。なお、アイテムのデザインに対しては、リングやネックレス、ブレスレット……など、様々な意匠のモノが作成されることになり、皆の意向が色々反映されたとのこと。
そんな対処法も完成し、すずかの心理操作の兼ね合いで、すずか・アリサ・なのはに危害を加える行為一切を禁じられている彼は、模擬戦の練習にピッタリなのであった。
(すまん、伊集院……完全に二人が八つ当たりしてるな……)
彼からヘカティーを強奪する形になっていることから、大翔がストレージデバイスが作成できるようになった時点で、彼にも試作型を渡している。魔力量SSSという点と、防御魔法について念入りに修練させた結果、前衛の盾として素晴らしい才能を発揮しつつある。
「それにしても、うわっと! 正式にバリアジャケットを着用して、デバイスの補助が入るだけでこんなに術の質も威力も上がるのかよっ! 似合ってるのにゆっくり見る間もありゃしねぇ!」
「アンタに見せるために!」
「このデザインを考えたわけじゃないもの!」
「大翔のアホーッ! 喰らいなさいっ! クリムゾンッ!」
「ひろくんのバカァ! 永遠に沈んで! フリージングッ!」
「え、ちょっ、おま、一気にガス欠にな」
「ストームッ!」
「ワールドっ!」
「防ぎ切れ、俺ぇえええええええええええええええええええ!!!!」
前方から炎、後方から氷の嵐が皇貴を包み込み、完全に彼の姿が見えなくなっていく。初めは眼福と喜んていだ皇貴も、大翔への怒りを転換し、全力全壊の二人の大技をプロテクションの強度を最大限に高め、ただただ二人の魔力切れまで凌ぐしかない。
「あの攻撃だと、攻撃許可したとしても伊集院くんの広範囲殲滅魔法も発動させにくいね。ラグがあり過ぎるもん。それにしても、すずかちゃんとアリサちゃんが怒るのも尤もだよ。さすがに今さら怖さを感じるのはどうかと思うの。ね、大翔くん」
「言うなよ、なのは……。俺自身が一番情けないのは分かってるよ。というか、二人とも合体魔法まで練習してたのか。ちゃんと非殺傷設定だろうな、あれ」
大翔の女性への恐怖心。詳しい話を彼からしたわけではない。ただ、アリサが違和感に気づき、なのはも分かっただけのこと。耐久力の高い的として過ごす時間が物理的に増えた、皇貴という他の男の子と比べるようになって、より判りやすくなったのも一因だ。
「なのはのデバイスもうまく作ってやれなくてすまないな。伊集院にも使用感とか耐久度を確認してもらってるけど、二人ぐらいの魔力量となると、俺の今の作成能力じゃすぐにガタがきてしまうから……」
「練習の時はヘカティーが手伝ってくれてるから大丈夫。それに少しずつ、私や伊集院くんが使える時間って伸びてきてるから、大翔くんの作るデバイスはその度によくなってるよ!」
試行錯誤の日々ではあるものの、確実に彼らは成長を見せつつあった。それは四人だけではなく、銀髪の彼にも言えることで。
「ギッ、ギリギリだったぜ……高町、魔力切れかけてるから、二人に分けてやってくれ」
「了解だよ、伊集院くん。あれを耐え切るなんて、プロテクションもうまくなったよねー」
「こればっか練習させられてるというか……身の安全がかかってるからなっ」
「ふふふ、じゃああとでディバインバスターのフルパワーを試してみるからヨロシクなの」
「いいっ!?」
「生きろ伊集院……デバイスはまた作ってやるからな」
三人娘の中では、苗字呼びではあるものの、彼はなのはと既に友人と言える所から関係の再構築が出来ていた。いかに飛び抜けた魔力を持っていても、細かい制御が苦手でかつ自分達に害を及ぼせない存在となれば、既に怖い対象でもなく、後にしこりを残さない性格の彼女が教導を行いながら、友人としても手を伸ばした、ということであった。
大翔の場合は、利用出来るものは何でも利用する。それだけのことであった。
「空知……しかし、ほんとに個人に合わせてデバイス作成してるんだな、最適化され過ぎてて驚いたぞ」
「お前のも細かく調整してるんだが。攻撃はレアスキルの『王の財宝』以外の魔法がまさか一切使えないから、それ以外の部分に最適化を計るとか。一発打てば財宝は回収が必要だし、その辺りもフォローできないかとか、いろいろ考えてるんだぞ」
「感謝してるって。第一、すずか様から命を守ってくれたのはお前なんだし。いなかったら、俺は確実に消されてただろ……」
「否定は出来ないな」
「だろ? ニコポナデポがあれば思い通りだと思ってた。そんな俺を完膚なまでに砕いて、すずか様は俺に制約をかけた。かけられたことも自覚してるのに、身体も心も逆らおうなんて少しも考えられない。物語だからって、実際の『夜の一族』の力を軽くしか見てなかったんだ。当然こうなる」
「様使いも制約のうちだもんなぁ……名前でも苗字でも強制的ときたもんだ。心底、すずかはお前に対して怒っているんだ、今だって」
大翔は利用すると思っていても、二人は転生という共通点もあり、友人といえる関係になっていた。すずかは今でも彼を文字通り消すべきだと考えている節が強く、大翔の制止により渋々思い止まっている。 今の皇貴であれば即死は無いであろうが、身体能力に絶望的な差がある彼がプロテクション展開前に襲われれば、という問題は残っている。デバイスが無ければ自動防御も発動しないのだ。
「当たり前だよ。生きてるんだよな、皆。この世界に来たばかりの俺はそんなことも判らず、人形のように扱おうとしたんだ」
「今は、もう違うだろ」
「そりゃすずか様に身体に叩き込まれたからな。バニングスの苛烈さも毎日となると、えらくしんどいのも判ったしさ……」
声を潜めながら、げんなりした表情で語る皇貴。すずかとアリサの教育の成果、ここにあり、である。
銀髪くん再合流。