吸血姫に飼われています   作:ですてに

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三回ぐらい書き直して、こんな感じに。
遅くなりました。


アリサ、正式参戦

 「とりあえず、身体検査は終わったけれど、異常は無いかな」

 

「判りました。ありがとう、忍さん」

 

 解析室にCTスキャンに極似した機械があったのは気にしてはいけないのだ。1台最低でも数千万単位の医療機器が個人の邸宅にあることがおかしいが、忍なら仕方ないし、ノエルが問題なく使いこなしていたのも、月村家ではきっと普通のことだ。そのうち、大翔は考えるのをやめた。

 

「この忍さんにかかれば、この程度どうってことないわよ。CTスキャンに魔法技術を組み込んで、体内の魔力の流れまで計測出来るんだから、月村家の異界技術はせか……もがもが」

 

「忍お嬢様、それ以上はいけません」

 

 安心のノエルさんである。マッド属性が暴走しかけた忍を即停止させていた。

 

『魔法的な点からも暴走の気配も無く、落ち着いているというところです』

 

 ヘカティーからもお墨付きが出て、検査終了の知らせとなった。

 

「ふぅ……すごく落ち着いたわ。というわけで、大翔は魔力量が反則技で上昇しました。これでデバイスもよりパワーアップが出来るし、以前は組み込めなかったアレもコレも……ふふふ」

 

(さっきから興奮してるのか、いろいろメタな問題発言が混じってるなぁ、お姉ちゃん)

 

 忍ほどまではいかないにせよ、同じく機械や技術には興味津々のすずか。姉の興奮する気持ちも無理はないと思っている。

 ヘカティーが来てからの忍は日々、新たな発見の連続で、楽しくて仕方が無いのだろう。その新たな技術の実験台になっている、なのはの兄・恭也にはご愁傷様と言うしかないのだが。

 

『昨日は、忍さんの試作型魔導兵器の相手を恭也さんと一緒に強いられたんだが、あれもヤバかった……月村家は機械式の広域結界が発動できるとはいえ、内部は無残な状態だったからなぁ。バビロンも半分ぐらいまで出力上げて使ったから、後の回収も大変だったんだ』

 

『伊集院くん、ご愁傷様なの。お兄ちゃん、昨日すごく疲れた顔してたのってそれだったんだね、にゃはは……』

 

 青い宝石の収集から帰還したなのはと皇貴は念話でそんなやり取りをしている。彼が恭也と忍を名前で呼んでいるのはちゃんと許されていた。但し、なのはの呼称についてはお察しである。

 日が暮れるまでに、合計3つ。シーリングを行使するのに、彼らに最適化されていないデバイスでは、これが限界だったのだと言う。例の特典から魔力量SSSの皇貴は別としても、早期に訓練を開始したなのはも『白い魔王』を名乗るに相応しい才を如何なく発揮し始めていた。

 

「大翔に融合した1つも加えると、合計4つ。成果は上々だけれど、案の定、デバイス半壊させて帰ってきたわね、アンタら……」

 

「が、頑張った結果だもん!」

 

「お、おぅ! 発動しかけたのも、高町と一緒に何とか力尽くで封印して街にも被害出さなかったしな!」

 

 怒りの雷が落ちる前に二人は揃って、自分の成果を主張した。リーダーはとても機嫌がよろしくないのは、時折漏れ出ている炎を見れば分かる。実際の怒りの矛先がどこに向いているのかも、見ていればハッキリしている。

 実力からすればアリサに負けることは無い――皇貴は勝つことも決して出来ないが――と勘づいていても、それでも勝てない相手というのがいる。勝手に身体が震え、恐怖に怯えてしまう。なのは達にとって、アリサはこの集団のヒエラルキーの頂点に君臨しているのだ。残念なことに。

 

「アリサ、機嫌を隠せないほど、体調が悪いならやっぱり帰った方がいい。腹を立てているのは分かるが、俺はご覧の通り問題無しだし、先程から魔力が制御し切れてない」

 

(ひ、大翔くんのバカァ! 火に油を注いでどうするのぅぅぅっ)

 

(真正面から斬り込み過ぎだ、空知ぃ! あかん、屋敷と俺達燃えてまうぅぅぅ!)

 

 まるで空気を読んでいない大翔の発言に、銀髪イケメンと元気系美少女がムンクの『叫び』状態になり、アリサからは一気に炎が噴出する。一人、やや騒ぎの外にいるすずかが、二人のころころ変わる表情が面白いかもと思う余裕がある。

 

「アタシは別に体調悪くなんて無いわよ!」

 

「じゃあ、なんで制御で……」

 

「ストップ、ひろくん。ちょっと、アリサちゃんも一緒に来て。お姉ちゃん、デバイスの修繕宜しくね。物理的なものだから、ひろくんいなくても大丈夫でしょ?」

 

「え、お、おい、すずか?」

 

「とにかく来るの。はい、アリサちゃんも行くよ」

 

「ちょ、ちょっと、すずかっ、は、離してっ! くっ、全然ビクともしないなんて!」

 

「結構力入れてるから、それぐらいじゃ何ともならないよ、アリサちゃん」

 

 アリサの不安定な理由に、最近の彼女の態度から十分推測できたすずかが、二人をまとめて引っ張り、部屋の外へと退出していく。ノエルとファリンの手伝いも加わり、瞬く間に三人は扉の向こうへと消えていった。

 

「すごい力なの……大翔くんとアリサちゃんを軽々と引っ張ってるの」

 

「完全に自分の力を使いこなしてるよなぁ……。なんでかつての俺は、彼女『様』を支配出来ると恐ろしいことを考えられたんだろうか」

 

「ねえ、全部すずかちゃんを呼ぶ時に『様』がつくと変な感じがするの」

 

「高町、そういう制約なんだって。すずか様でも、月村様でも、彼女様でも、俺が彼女様を呼ぶ時は」

 

「……すずかちゃんも怒らせちゃダメってことが良く分かるの」

 

「空知が近くにいない時は特にな」

 

 二人の発言に部屋の中にいる一同は、表に出す出さないの差はあれど、皆、同意していたという。

 

 

 

*****

 

 

 

 「ほら、二人とも。星空がとっても綺麗だよ」

 

「確かに。今日は、雲一つないし、この時期だと暖かいからゆっくり見上げてられるしな」

 

「……ちょっと、すずか。何のつもり?」

 

「それは逆にアリサちゃんに聞きたいよ。どうして、そこまで余裕を無くしてるの?」

 

 星空を見上げたまま、すずかはアリサの質問を質問で返す。

 

「アタシは別に……」

 

「見ちゃったんだよね、私とひろくんのキス。それから、アリサちゃんは明らかに変。見たのは初めてでも、話では知ってたでしょ?」

 

「ちょっと待って。聞き捨てならない言葉があったんですが、すずかさんや。まるでアリサが、すずかと俺がそういうのを経験済みと知っているように聞こえます」

 

「うん、そうだよ? 女の子同士、そういう話もするもん」

 

 この短い間の大翔の動きはコミカルだ。星空を見ていたはずが、ギュンっと首を素早く動かし、目を見開いたと思えば。次の言葉でガックリ肩を落とし、地面に膝を無意識についてしまっている。

 

「いつキスしたとか、初めて手を繋いだ日とか、そういうのも筒抜けよ、大翔……」

 

「俺なんか穴掘って埋まってよう……うん、それがいい。とびきりのスコップを作って……ふふふ……」

 

 二人の秘め事だと思っていたのが、全て共通の友人に筒抜けという事実に、大翔は強く打ちのめされ、ぶつぶつと意味不明な呟きを始める始末となっていた。

 

「……え? ひろくんがどうしてここまで落ち込んで、え、え?」

 

「すずか……うん、後でその辺りの話はしましょう。大翔、説明も必要だし今日は泊まるわよ」

 

 アリサも嫉妬から不機嫌になっていた自分にまたイライラするという、悪循環に陥っていたものの、肝心の想い人がここまで落ち込んでしまっては、自分の怒りどころの話ではない。まずは、大翔を慰めることが先決だった。

 アリサはまず、すずかも座らせて、自分も反対側に膝を着いて、大翔をどうフォローするか思案し始める。

 

「ほら、すずかって、男性との付き合いに慣れてるわけじゃないから、男の子の感覚って流石に知らなかったのよね。調子に乗って聞いてたアタシも同罪ね、大翔がここまでショックを受けるとは思わなかったわ」

 

「女の友達同士って、そこまで筒抜けななんだな、あはは……」

 

「今後は控えさせるから。と言いますか、これからは話しにくくなるだろうしね」

 

「へ?」

 

「アタシは大翔のこと、好きだもの。だから、すずかにはその辺りは話せなくなる訳。正式なライバルになるから」

 

 変に嫉妬してイライラするよりも、ぶつけてしまった方がスッキリする。大翔の内面を考えれば、自分はそもそも異性として見てもらえていないはずで、告白しても付き合いが変わらないと予想がつく。悔しい思いが湧き上がるのは別としても。さらに、このタイミングでの告白は落ち込んだ大翔へのショック療法にもなるかなという読みもあった。

 

「……!」

 

 久し振りに大翔やすずかの心から驚いた顔を見れた気がする。それだけでも、自分の告白には意味があったな、とアリサは考える。

 

「驚いてくれたようで何よりだわ」

 

「アリサ、お前……」

 

「もちろん、気の迷いなんかじゃない。ずっと『自分を見つめ直す』中で、自分で出せた結論。完全に自覚できたのは、さっきのすずかの行動が決め手だったけどね。すずかはこのタイミングで言ったのが予想外だったのかしら?」

 

 コクコクと頷くすずか。アリサの感情に気づいていた彼女が、大翔に甘えられる時間を作るぐらいのつもりだったのだが、アリサが一気に踏み込んだことで面食らってしまった。

 

「結局ね、アンタという存在にこの時期に出会えてしまった、というのが全てと思うのよ。アンタはアタシと普通に話が出来て、尊重してくれて、時には甘えたり、寄りかからせてすらくれる。同じ年の異性でここまでやれる相手に会ってしまえば、もう他の男の子がただの子供にしか見えなくなった」

 

 もちろん、自分が子供ってことはわかってるのよ、と断りを入れて、アリサは続ける。

 

「アンタがアタシよりも大人って認めてしまえたら、惹かれていくだけ。好きな人が自分の身近な目標で、尊敬すら出来て、一緒に切磋琢磨していけるなんて、すごく素敵なこと」

 

「好意を持ってくれるのは、嬉しいと思う。ただ、今のアリサを女性として見るのは……」

 

「そうね。だから、十年後ぐらいの大翔の彼女候補にアタシを入れておいてくれれば十分。別に付き合ってくれとか、そんな話じゃないの。あ、でも、デートとかは体感してみたいわね。ショッピングとか、遊園地とかそういうのは是非やってみたいわ。二人が気まずいならこの三人のグループデートでいいわけだし」

 

 と、明るい声で展望を語るアリサだが、一旦、口を閉じると、真面目な声色で続きを言葉に乗せていく。

 

「大翔、だからね。アタシ達を遠慮なく、これからも虫除けに使いなさい。アンタ、慣れた人以外の異性が苦手でしょう?」

 

「アリサには、分かっちゃうか」

 

「アリサちゃん……」

 

「だって、クラスの他の女子が近くを通ると、僅かに身体が強張ったりするんだもの。表向きはアンタ、付き合い上手だから、問題無いように見えるけど。初めて会った頃、やたらと紳士的だったのも、自分の苦手意識を取り繕うためだったのね、今なら分かるわ」

 

「……アリサ、すずか、なのは。あとは忍さん、ノエルさんにファリンさん。大丈夫なのは、この六人だな。時々、忍さんのからかいが過ぎると拒否反応が出るけど」

 

「しょっちゅう通ってる翠屋に行くのも、実はしんどかったってこと、あったりする?」

 

「桃子さんや美由希さんが話しかけてくるのは避けられないからね、通路側に座るのは必ず、私だったのはそういうところかな。ひろくんがしんどくなっちゃうしね」

 

 大翔が頷き、すずかが補足する。翠屋の特性上、女性客が多いということもあり、ちょっとした防衛策を取る必要はあったのだ。

 

「あそこのケーキや珈琲は絶品だし、俺も行きたいと思ってる。すずかやアリサが常に側にいてくれれば、大丈夫だったから」

 

「結構、重症なのね……これからはテラス席や奥まった席を優先的に取るようにするわ」

 

 そう言うと、アリサは自然な動きで、大翔の頭を抱き寄せると、そっと撫で始めた──。




そして次回に続く。
まさか、次回更新分のストックがたまるとは思わなんだわ。

あ、ちなみに他著名作品のオマージュがちらほら出てくるのは仕様です。

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