吸血姫に飼われています   作:ですてに

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表題どおり。いや、最初は考察話だったんだけど、全然書いていて楽しくなくて。
んで、この物語ってすずか様prprが主体と思い返しまして。

気付いたら、ヒロイン(少年)が弄り倒される話になりました。


謎解きのはずがただの日常だった

 「ビックリしたわよ……覚悟を決めてね、大翔にアタシの胸の内を告げて。初めてを捧げてあげたと思ったら炎に包まれるなんて、どんな超常現象なのよ、全く」

 

「『あげた』と思うのが良くないんじゃないかな、アリサちゃん」

 

「……いや、冷静な突っ込みが欲しかったわけじゃないんだけど?」

 

「うふふ、わかってるよ。でも、ビックリはするよね、こんなことになれば。本当に良かった、なんとか痕を残さずにひろくんの火傷を治せて。アリサちゃんも魔力を分けてくれて、ありがとう」

 

 大翔の治療が済んで、自傷の炎でボロボロになった服は後で着替えればいいという結論となった。もちろん、すぐに着替えたいという大翔の意見は何故か、寄り添って暖めてあげるから大丈夫という話にすり変わっている。

 

「これからも回復魔法、しっかり練習しないと……ね」

 

「ありがとう、すずか、アリサ。お陰で痛みも完全に無いよ」

 

「だって、ひろくんを支えるのは『私』の役目、でしょ?」

 

「こらぁ、すずか。『あたし達』よ。足りない魔力の供給受けたお礼を言った直後にそれは無いわぁ」

 

 大翔の傷が綺麗に治った身代わりに、二人とも急激な魔力の消費から倦怠感に襲われ、大翔に寄りかかる格好になっている。寄り添って暖めるという話も、二人の本音と物理的に身体を休めるための複数の意味合いが混じっていた。

 お腹側にすずか、背中にアリサといった按配である。すずかは半身の体勢で大翔の横顔が見られる状態で、アリサはあごを大翔の肩に預けながら、自重を支えるのを放棄している姿勢になっていた。だからなのか、アリサの声にはいつもの張りが無く、普段は伸びない語尾が多少伸びて聞こえてくる。

 

「ふふ、ごめんね、アリサちゃん」

 

「突っ込んでおいてなんだけど、別にいいわよ~。あー、自分で自分を支えなくていいのって楽だわ~。すずかが大翔に寄りかかるの癖になるって分かる気がしてきた……」

 

 すずかが大翔に甘えるのが好きなのは、尤も別の理由だが、あえてアリサに指摘はしない二人だった。他人の視線が無いのなら、リーダー役のアリサもこんな時ぐらい気を抜いても構いはしないのだから。

 

「ねえ、ひろくん。もう一度、見せてほしいな。さっき、すごく綺麗だった」

 

「ん。馴染んできてるし、いいよ」

 

 大翔が意識を集中し、それぞれの手に浮かべたのは、ランタンぐらいの大きさの炎と、氷の結晶。揺らめく炎と、大きく綺麗な六角形の結晶は、見比べているとどこか神秘的な感じがすると、すずかは思っていた。

 

「うわぁ……やっぱり、綺麗……」

 

「大翔の中に、アタシとすずかの変換資質──炎と氷が、しっかりと宿ったってことなのかしら……ふふ、なんだか悪くない。悪くないわね……」

 

「俺は、そう思うよ。すずかからはとっくに氷の資質を預けてもらっていて、間抜けな俺がそれに気づかなかっただけでさ。相反する属性のアリサの炎をもらって、一気に両方に気づけた」

 

「最初に私やアリサちゃんに魔力を分けてくれたのは、ひろくんだよ。私達はそれを磨いたり大きくして、自分達の資質を足して、お返ししただけ」

 

 元々の彼自身には、そんな気質は無かったことは確認出来ているため、すずかやアリサから魔力譲渡を受けた際に、魔力の変換特性まで受け取ったと三人は考える。すずかの魔力は毎日のように受け取っているが、本人が変換気質まで受け取ったと自覚しなければ使えるわけもなく、さらに彼がすずかから魔力を受け取る時は、たいてい意識がハッキリしていなかったのだから。

 

「すずかはそれで納得できるんでしょうけどね~、ヘカティー達と調べた大翔の『レアスキル』が、素質無からの魔力付与だけじゃなくて、ひょっとして変換気質までいけるとなると、ますますアタシ達以外には、回復とか補助魔法をかけさせるわけにはいかないのよ~?」

 

「それはもちろんだよ?」

 

「あー、すずかは即答するわよねぇ。うんー、アタシが悪かったわよ~」

 

 いまいち頭が回転していないアリサは、とりあえず後回ししようと考えた。元々、大翔のレアスキル自体ハッキリしていない代物で、ヘカティーも要研究だと結論付ける話。下手に人に付与魔法をかけるな、とはずっと言い続けている話だし、今更といえば今更だったのだ。

 

「ただ、最近はひろくんから、補助にせよ何にせよ、魔法かけてもらったこと無いよね?」

 

「自粛しろって話だったし。アリサとかに掛ける時もすずかに完全に任せてたしな。足りない時だけ、すずかに魔力を渡せば済んでたから」

 

 魔法少女三名の中で回復・補助系の魔法を一番得意とする、すずかの回復・補助魔法の修練を兼ねていたことや、大翔が魔力をデバイス作成や、皇貴の常時発動型魅了封じの魔具作成に主に向けていたということもある。

 戦闘練習も皇貴相手にこなしていたが、防御魔法の修練に終始することも多かったのだ。

 

「そう考えると確かに、補助魔法も自分にしか使ってないか」

 

「大翔、魔力補給して。気怠いの」

 

 肩に自分の顎を擦り付けながら、重力との戦いを絶賛放置中のアリサが、私に構いなさいとばかりに自らの訴えを主張する。

 

「こんなアリサちゃん初めて見るかも……あ、私も少し分けてもらえると助かるな」

 

 いつも凛とした風情のアリサ。自堕落な姿というのも新鮮だと思うすずか。そして、大翔に素直に甘えられるのは、彼女にとって悪くないとも思う。

 ただ、自分としては……今まで、実質一人占めしていた大翔を取られるような、そんな複雑な感情も消せずにいて。

 

「すずか~、しっかり甘えたら、今度は二人で大翔を甘えさせてあげたらいいんだからねー。あんまり難しく考えちゃダメよ、持ちつ持たれつって言うじゃない~」

 

 そんなタイミングで、アリサの声がかかる。頭が回っていない分、出てくる言葉は彼女の本心に近いもの。アリサは二人で大翔を支えることを当たり前だと思っている。

 

「おいおい、俺は別にお前達に甘えたいわけじゃないぞ?」

 

「分かってますよーだ。アンタは外見が子供なだけでさ、中身はしっかりしてますもんねー。……だから、アタシ達が子供の間はしっかり甘えて、成長したら有り余る大人の女の愛で包んであげるから、ありがたく待っていればいいわけ。んー、さすがアタシ、いい女よねー」

 

 今は、相手が子供としてしか見ない以上、どちらにせよ勝負にならないから、頑張って成長して見返してやりましょう。すずかには、そう聞こえたのだった。

 

「いい女は、自分ではそんなこと言わないと思うぞ」

 

「アタシは別格だもん。さ、魔力早くちょうだい。じゃないと、ずっとこのまま乗りかかってやるんだからね~?」

 

「へいへい。じゃあ、二人とも手を出して」

 

「あれ、口づけじゃないわけ?」

 

「せがむなど数年早いわ」

 

 悪戯っぽくそう呟くアリサをバッサリ切り捨てる大翔。だが、それぐらいで少々ネジの緩んでいるアリサは引かない。

 

「すずかはどーなのよー」

 

「物理的に勝てない事象というのもある」

 

 話を強引に打ち切り、大翔は二人の手を取る。すずかが少し睨んでいる気もするが、あえて目に入れないようにして。が、すぐに魔力を流すわけでもなく、何か躊躇う様子すらあった。

 

「……何かおかしな感覚があったら、言えよ。二人の気質が混じった直後だからな」

 

 大翔が気にかけた点が分かり、恨めしげにしていた気持ちはどこへやら。すずかは晴れやかにすら感じる明るい声で、彼の心配を一蹴してみせる。

 

「逆に、ひろくんからの魔力を受け取ることで、私やアリサちゃんも二種類の変換気質を持つんじゃないかな? もし出来たら、それってすごいことだよね」

 

「しれっと俺が懸念することを言ったな、すずか。リンカーコアの過剰反応が怖いんだって」

 

「元々、アンタから分けてもらったもんなんだから、拒否反応の心配なんていらないわよー。どうせ、得手不得手は出てきて、使える程度に落ち着いたりするんだろうしー?」

 

 二人の堂々とした態度は何なのか。深く考え込む自分が間違ってるような気さえしてくる大翔である。落ち着きは無い少女が一人いるものの、それは期待感の表れに過ぎないわけで。

 

「よし、流すわ」

 

「楽しみだね~」

 

「とにかく早くこの気怠さから解放してちょうだい……」

 

 流れ込んでくる魔力を感じ、アリサもすずかも、体内の魔力の動きに意識を傾ける。目を閉じて、大翔の魔力を受け取ることだけに集中していく。

 

「……ん、入ってきた、わね」

 

「ひろくんの魔力って、こんなに暖かかったかな。……というか、身体が火照ってきたよ? まるで、お風呂の中にいるみたいな感じ……これ、もしかして炎属性なのかな?」

 

「こっちは、心が落ち着くというか、頭がすごくスッキリする感じね……氷、なのかしらね? まぁ、一度で変換気質がハッキリするのは大翔で間に合ってるし。後で忍さんの修理をサポートしてるヘカティーも交えて、再検証しましょうか」

 

 深紅の魔力光が三人の身体を包み込んでいる情景は、何とも幻想的な雰囲気を醸し出す。二人とも様子は特に変わったこともなく、感じた感想が異なるぐらいのものだ。

 

「流れを一旦止めるぞ。痛みとか、出てないか?」

 

「大丈夫。さっきも言ったじゃない。アンタの魔力で出来たコアよ。根っこが一緒だから、平気」

 

「緩やかに渡してくれてるし、問題ないよ。ひろくんの魔力だったらいくらでも……」

 

 身体の重さから解放されたからか、ハキハキした口ぶりに戻ったアリサが問題ないことを告げ、心配性だねと微笑むすずかを見て、大翔はホッと一息をつく。

 

「予想通り、大翔の魔力の質が変わっても、こちら側の拒否反応は特に無し、と。アタシから受け取った時とは違い、大翔のリンカーコアにて吸収が終わったというのもあると見るべきかしら」

 

「ちなみに拒否反応が出ない根拠はあったのか?」

 

「女の勘よ? 根拠はこの場合、蛇足みたいなものね」

 

「直感を信じるべき時があるのです、ひろくん。ふふっ」

 

 調子が戻ったアリサに、いつもの調子のすずか。何のことはない、二人は無条件に信じているだけ。大翔が害を及ばすことはしないと。

 

「参った。敵わないな、ほんと」

 

「恋する女の子は強いのです。ね、アリサちゃん、私達同士でも受け渡ししてみようか?」

 

「そうね。アタシとすずかの魔力移動で今のような感覚があれば、気質ごと譲渡できるということになるだろうけど……あー、やっぱり大翔のレアスキルあってこそか」

 

「……う~ん、魔力、だけだね」

 

 すぐに手を重ね合い、魔力の移動を行う二人だが、すぐに結論が出たのか、互いの手を放す。そして、そのまま、また大翔の手を半分ずつ分け合う格好となった。

 

「大翔からもらった時みたいな感覚が無いものね。さ、今度は大翔に戻してみましょう」

 

「あんまり長くは流せないけど……どうかな?」

 

「大丈夫、ハッキリしてる。アリサとすずかの魔力の性質が違うのが、分かる。さっきみたいな熱いとかは無いけど」

 

「……慣れるの早いわよねぇ、アンタ。それも努力の賜物なのかしら」

 

 『努力すればしただけ、努力相当分が報われる』という特典は、成功体験をこつこつ積み上げる事に直結する。出来なかったことが練習や学習により、出来ることへと変わっていく。

 その結果、大翔は鍛錬や学習というものが楽しくて仕方がないものになっていた。元々、単純作業をわりと苦にせず、何らかの意味を自分で見出すのが得意ではあったが、前述の特典により、それがより顕著になり、当たり前になり、彼の大きな武器となっている。

 

「茶化すなよ、アリサ。では、もう一度俺から二人に流してみよう。二人とも魔力が足りないわけだし、流し続けるから、万が一異常を感じたら言ってくれ」

 

「!……あっ、さっきの感覚だよ。ふふ、三人でのやり取りを繰り返したら、私とひろくんとアリサちゃんで、炎や氷の合体魔法とかできるようになっちゃうかも?」

 

「さらによ、この脳が透き通って冴えている状態なら、学習もいろいろ捗るに違いないわ。ねぇ、大翔。アンタの魔力をしばらく流しっ放しにしてちょうだい」

 

「無茶振りイクナイ」

 

 そう言いながら、二人の体内魔力の流れを見つつ、そろそろいいかなと大翔は判断していた。

 

「冗談よ。だから、すずかとアタシを抱き上げたまま、家の中に戻ってくれればいいわ」

 

 止め時でもあったからか、思わず二人の手を離して、彼は目を見開いて彼女を直視してしまう。

 

「何を物騒なことを……伊集院が血の涙を流すぞ。『リア充爆ぜろ!』って叫びながら。意味も判らずに、なのはも乗せられて、忍さんも悪乗りして一緒に叫び出すぞ。絶対」

 

「ちょうどいいじゃない、爆ぜてもらえば」

 

 アリサの口調には冗談が混じっているが、すぐ傍で本気で頷いて、瞳のハイライトが消えている吸血姫様がいらっしゃるため、迂闊なことは言わないで欲しいと願う大翔であった。

 とりあえず、大翔がいつものように撫で続けると、30秒程で身が震え始め、一分ぐらいでハイライトが戻り、『私は本気だよ?』と瞳で訴え続ける彼女も三分程度で陥落。ほにゃっとした表情に戻って、上機嫌に戻ったという。

 なお、アリサはその変化を見物しながら、終始ニヤニヤしていたという。すずかがお姫様なら、彼女は女王様の資質があるのかもしれない。




……ユーノくんとなのは様パワーアップは次回冒頭に回します。

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