吸血姫に飼われています   作:ですてに

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筆が進まなくて、ふと気付いたんです。

ああ、カッコイイなのはさんじゃなくて、
壊れ気味のすずか様との日常を書きたいんだなぁ、と。


白き魔王の目覚め

 『お願いです! 誰か助けて……っ! この声が聞こえる誰か……! 僕に力を貸してください!』

 

 物語開始の合図。ユーノ・スクライアの救援を求める念話。4月に入り、毎晩待機態勢に入っていた彼らは、迅速に動き出す。

 

「……来た。皇貴、先行して結界を張ってくれ。メインはなのはに任せる。俺はアリサに連絡を取ってから、追いかける」

 

「ああ、先に行くぜ」

 

 アリサの告白から数日。あの日から残りの期間で見つけられたジュエルシードは、二つ。サッカー少年と、同じような色合いでさらに純度の高い──月村家の技術力と、大翔が魔力を過剰に使って、絶妙な色合いをつけた──鉱石と交換したものと、街中くまなく捜索して見つけ出したものであった。小学生チームにあるジュエルシードは大翔の体内も含めれば、合計五つ。

 初日に、神社・プール・学校と回収した彼らであったが、フェレット君ことユーノとの合流は、なのは様強化計画のために欠かせぬもの。それゆえに動物病院の回収を後回しにしたのも、大翔と皇貴の共通意見だった。そのため、回収場所が不明であったり、また、原作時系列で大災害となった、サッカー少年の回収を急いだりした結果、個数はさほど増えていない。

 

「温泉は旅行の時に確実に回収できるし、フェイトのあの境遇は放っておけない」

 

 そんな皇貴の希望に、大翔も乗った形だった。

 

 転校当初はすずか達を自らの所有物として扱わなかった彼も、すずかが恐怖感を与え、アリサが女性への扱い方を『文字通り』叩き込み、なのはが友達として──但し、名前読みを許さない辺りが拘りらしい──普通に接した結果、人格の矯正に多少なりとも成功していた。飴と鞭、そして、容赦ない指導のお陰とも言える。

 生身の女の怖さと優しさと考え方は全然違うと分かっただけでも、この世界にやってきた甲斐があると思う……それが皇貴が大翔にある時漏らした言葉。彼の前世はそういうものだった、ということ。大翔も妻と出会えてなかったとすれば、完全に同じ系列の人間になっていたと思えるから、お互いに今世ではもう少し上手に生きていこう、という話をした覚えがある。

 

 さて、海辺の公園のジュエルシードを回収するかは、フェイトとの最初の接点がどうなるかで、予定を早めるか判断するつもりでいた。ちなみに封印処理は終えてあり、地中に埋めてある。忍謹製ビーコンをつけてあるため、フェイト達に回収されていないか常時チェックされている状態というおまけつきだ。

 あとは海中と、回収場所が不明である5つ。これは地道に探すつもりだった。

 

「あの人、飛翔魔法は上手だもんね。あっという間に見えなくなった。ねぇ……ひろくん、とうとう始まるね」

 

「とにかく、すずかを危険に晒さないようにするだけだよ。お、アリサから電話だな」

 

 自分が第一と即座に言い切ってくれる彼への嬉しさに、心の中はスキップを踏みながらくるくる踊りながらも、すずかは表向き、微笑みを返すに留める。これから戦いの場にいくのだ、使い分けは大事だ。彼女は良くそれを知っている。

 

『アンタもあの無差別念話、聞こえた?』

 

「あぁ、というか、この膨大な魔力反応……真っ先に駆けつけたのは、なのはだな。俺達が着く頃にはもう終わってるだろ」

 

『相変わらず全力全壊よねぇ……』

 

「字が違う気がするぞ」

 

『合ってるわよ。ちゃんと結界張ってればいいけどね、はぁ』

 

 パパに相談して、街の復旧とか手配しないといけないか、と思いを巡らすアリサ。結界をしっかり張っていれば問題ないのだが、猪突猛進型のなのはである。この方面の過度の期待は禁物だ。

 

「それは助けを求めた奴の仕事だ。なのはもやれないわけじゃないが、得意じゃない」

 

『アンタとヘカティーのスパルタに泣きながら覚えてたものね』

 

「人を容易く傷つけられる技術を扱うんだ。コントロール出来ないとは言わせないさ」

 

『……弟子思いの師匠を持ってシアワセですわ、アタシ達』

 

「欠片も思ってないことを片言で言うぐらいなら口にするなよ。じゃ、現地でな。親父さんやおふくろさんには最低限、話だけ通してこいよ」

 

 アリサとの通話を終え、彼らはバリアジャケットを身に纏う。近くに控えていたファリンに、忍たちへの言付けを頼み、夜空の旅と洒落込むのであった。

 

「なぁ、すずか」

 

「どうしたの、ひろくん」

 

「お前をお姫さま抱っこして、俺は空を飛んでいるわけだが……」

 

「ひろくんは私の騎士だもの。様になっていて、カッコいいよ?」

 

 平常運転のすずかであるが、大翔のツッコミ所はそこではない。

 第一、騎士と呼ばれながら、彼のバリアジャケットは仮に作ったというやっつけ感満載の、濃紺の忍び服に似た格好。装着していない頭巾を被れば、夜の闇に溶けやすい簡易的な隠遁仕様の完成だ。形にさほど固執せず、付加効果などを考えて、形状を色々試している段階でもあった。

 

「いや、すずかは飛べ……」

 

『おとっつあん、それは言わない約束でしょ?』

 

「……誰だよ、ヘカティーに時代劇見せた奴。割り込みのツッコミがいろいろおかしい」

 

「おうおう、越後屋さんが貸した銭、耳をそろえて返してください。それが無理なら、ひろくんを身請けさせてもらいますよ?」

 

 腕の中の少女が台詞を重ねてきたことで、彼は彼女が飛行可能と指摘しようとするのを諦めた。要するに、このマスターとデバイスのコンビはこのまま飛びなさいと言っているのだ。特に今回は、ヘカティーの力を借りてセットアップしていることもあり、とやかく言える立場でもない。

 

(多分、忍さんの仕込みだな、これ。……さて、どうしたものかな)

 

 すずかの姉への意趣返しを考えながら、彼は槙原動物病院へと空を駆けるのだった。

 

 

 

*****

 

 「行くよっ! レイジングハートっ!」

 

『Sealing mode. set up Stand by ready. Sealing』

 

 それは辺り一面を覆い尽くす桃色の魔力光。魔方陣を中心とし、輝きの強さを増すばかり。

 

「リリカルマジカル 封印すべきは忌まわしき器……ジュエルシード封印ーっ!」

 

『Receipt number XXI』

 

 本来のデバイスパートナーを手にしたなのはの叫び声と同時に、直視が困難な程に膨らみ上がった魔力が一気に収縮され、収縮後ですら視界を覆い尽くす大きさの封印射撃魔法がジュエルシードを貫く。レイジングハートの『シーリング』という発音がなければ、封印ではなくて、極太の破壊光線を発射しているようにしか見えない。

 

「やべぇ! け、結界がぁああああああ!!!」

 

「な、なんて、魔力量なんだっ! 銀髪の彼の結界は十二分に強固なものなのにっ!」

 

 もうちょっと遅れて到着すれば良かった、と大翔は半ば本気でそう思っていた。ロストロギア封印は結構だが、自分と最高の相性のデバイスを手にしたからと、高揚感のままに全く自重しないなのは。

 封印魔法のはずが、魔力の暴力により結界にヒビが入り、皇貴とフェレット姿──間違いなく、ユーノ・スクライアであろうが、顔を青くしながら、結界の補強に全力を挙げていた。

 

「あと五分後ぐらいに来れば、良かったなぁ」

 

「ひろくん、現実逃避はダメだよ……」

 

「わかってる、すずかは補強の手伝いを。俺はあの馬鹿を止めてくる」

 

 ああ、怒ってるなぁ、とすずかは思う。名残惜しい彼の腕から抜け出て、すぐに結界魔法の補強に加わる中、視界の片隅にアリサも結界内に走りこんでくる姿を捉えていた。大翔同様、怒っている。怒りの現れ方に違いはあれど、ポイントは似ているのかも、と。

 

「何考えてるのよー! 加減を考えなさい、馬鹿なのはーっ!」

 

 メンバーの中でも一番の常識人でもあるアリサ。常識に強く縛られる反動で、人が空を飛ぶ想像がどうにもうまく想起出来ず、メンバー中唯一空は飛べない彼女。おそらく、近場まで執事の鮫島に車を出してもらい、結界へと走りこんできたのだろう。

 

「ひろくんとアリサちゃんの二人がかりのお説教タイムだね。ご愁傷様かな、なのはちゃん」

 

 ごんっ!

 小気味のいい音と共に、なのはの動きも、あふれ出ていた魔力も、停止する。

 

「あいたっ、なにする……の……」

 

「よう、なのは。見事な威力だな?」

 

 大翔の拳骨がなのはの頭に落ちて、興奮と高揚感に赤みが指していた彼女の表情が一転、一気に青ざめていく。やっと封印魔法──もちろん封印はとっくに成立している──が終息し、結界維持に全力を費やした戦士達が地面に突っ伏して、アリサとすずかから魔力の供給を受け始める。どちらがどちらを、というのは語るべき必要もないだろう。すずか様が見ている。余計な表現は避けるべき時があるのだ。

 

「よっぽどお前と合うデバイスのようだ。お前の全力を発揮するどころか、さらに増幅すらやってのけている」

 

(あー、あれは大翔、キレてるわね。ねちねち回りくどい時って、腹に据えかねている証拠だし。アタシは最後に少し言うだけで勘弁してあげようかしら? 多分、今晩のなのはは夢の中まで大翔のお説教でうなされるでしょうしね)

 

 一言ガツンと言ってやるつもりだったアリサも、大翔の様子から、なのはが真っ白に燃え尽きた灰になる予想がつき、情景を想像し、ふむ、と一度頷いた。

 

「サンキュー、バニングス……まさか枯渇寸前まで行くとは……」

 

「最良の相棒を手に入れただけに、あの底なしの魔力を一番いい状態で放ったみたいね。アンタらが結界を張り続けなかったら、街が崩壊していたわ。よくやったわよ。さ、これで何とか立てるでしょ。すずかー、そっちはどう?」

 

 皇貴に魔力の補給を終えて、すずかに様子を問いかける。膝の上に意識を失っているフェレットを乗せて、微笑みながら片手でOKのジェスチャーを返してくるのを見やり、アリサは再び、大翔となのはに視線を向けた。

 

(うん、見事に正座させられてるわね。あのデバイスも何か文句を言っているみたいだけど、解体されなきゃいいわねー)

 

『Let go of this hand!』

 

「うん、黙れ。主の暴走も止められずに、逆に助長させた奴が、俺に命令するの? この場で即座にバラバラにしてやろうか」

 

「ダ、ダメだよ、レイジングハート!」

 

 無表情を貫きながら毒を吐いている大翔を見て、アリサは自分とは違う『怒らせては面倒なタイプ』だなと、改めて再認識する。

 彼やすずか、なのは、皇貴を交えて、五人で訓練する日常の中で、無理無茶を通すなのはや、人外の魔力量に頼り過ぎる傾向が強い皇貴が、大翔に懇々と悟される姿を幾度も見てきた。怒りの感情を無理やり抑え込み、無表情と事務的な声色で、真綿で首を絞めるように外堀をじわじわと埋め尽くし、逃げ道を防がれ、心からの反省を見せるまで拷問の時間が続く。

 アリサも自らの力を過信した時に、一度こっ酷く叱られている。その晩夢に見たのをずっと忘れていない。思い出すと、未だに身体が震えそうになる。大翔の過去は相変わらずハッキリと聞いていないアリサだが、同年齢に関わらず、あのスパルタ教育に慣れている彼の様子から、魔法の力とかで子供の振りをしているに違いないと、自己分析によるアタリをつけていた。

 

 普段は温和で落ち着いた様子の彼だから、最初は人が変わったとしか思えなかったが、すずかも『ひろくんのホントウは激しい人だよ。それをコントロールするのが上手なだけ。その感情を全部私に向けら……』と、途中までしか話は聞かなかったが、彼女が熱っぽく滔滔と語ったように、彼の本質は随分と熱い性格ということ。それに影響を受けてか、すずかも大翔のことに関してだけは、淑女の仮面を取るどころか、叩き割って踏み潰して恍惚としている様子すらある。

 

(異性に惹かれて、自分が多少なりとも変わっていく。それはアタシだってそうだけど。すずかはタガが外れちゃってる感じよねぇ。公共の場や、大翔が絡まない限りは、立派な『月村家のお嬢様』をやってるから、両方知ってるアタシからすると、大翔同様『二重人格』とすら勘ぐってしまうわ)

 

 大翔のお説教タイムを熱の篭った視線で見つめているすずかを確認しながら、アリサは今の時刻を確認し、どう止めに入るか思案し始めるのだった。




ただ、それでは話が進みませんので、
次はユーノくんと情報交換をしたいと思います。

そして、なのはシリーズに欠かせないあの人もそろそろ出るはずかな。

GWはずっと仕事でした。2,3回は更新できると思っていたのが
この有様だよ!

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