吸血姫に飼われています   作:ですてに

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文章がどことなく駆け足ですが、投稿。


金の雷光

 「今日も美味しかった……ご馳走様、ひろくん……」

 

 ユーノの問いかけの時間が終わり、『お楽しみの時間』を堪能したすずかは、一族の習性からか、吸血開始直後から意識せずとも体外に放出し続けている、人体を悦楽へと誘う強力なフェロモンを色濃くして、既に眠りに落ちている大翔に、妙に艶めかしい声でお礼を告げる。

 弛緩した彼の身体がベッドに横たわるのを見つめながら、すずかは心身共に力が満ち足りていくのを感じていた。……男女の営みも慣れれば、似たような感覚があって非常にクセになると忍からは聞いているが、吸血後の高揚感に勝るほどなのか、とすずかは疑問に思うのだ。

 

「あ、そうか。いざそうなったら、繋がったまま吸えば……だけど、あまりの気持ち良さに日常に戻れなくなっちゃうかな?」

 

 唐突にぶっ飛んだ発想がひらめいてしまい、ただ、その危険さも同時に認識したものだから、思わず考え込んでしまう。夜が来るごとに、吸血とセットで彼にしている行為を思えば、自分の卑猥さは十分に理解している。そして、すずかにとって、大翔の血液は完全栄養食。全くの余談だが、女脳の性的な刺激中枢は満腹中枢の隣にあるらしいから、吸血後に彼女が大翔に行う行為の遠因とも言えるかもしれない。

 

「ふふ、仮にそうなっても、傍にいてくれるんだろうけど。ただ、ひろくんと一緒に大学まで通いたいしなぁ」

 

 自分が抱える秘密をまるごと受け容れてくれた恋人と、学生生活を過ごす。叶うわけがないと早々に諦めかけていた、『当たり前』『普通』の学生生活──それが一般的な普通と同じかは別として──が、常に自分の隣にある。すずかの中での終着点は既に決まっており、そこへ至る道が選べるという自由があるのが、とても大切で貴重な宝物のように思えるのだ。

 大翔からすると、学生の時期を過ごしていく中で、すずかやアリサの気持ちが変化するかもしれないじゃないか、と言うのだろうが、自身の『女』が完全に芽生えたと自認する彼女は、逆に女の子の恋心を甘く見てるよ、と思っている。一目惚れの時期などは、すずかにせよアリサにせよ、とっくに過ぎているのだ。

 

(仮に距離を空けようと、意図的に嫌われる言動や行動を繰り返したとしても、私達には念話もあるし、ひろくんが自分自身に嘘をついている時って、感情を殺し過ぎる癖があるからすぐ分かるもんね。気づいてないだろうけど……)

 

 すずかからすれば、お互いに心の内は透けて見えてしまうから、小芝居は無意味になってしまう。いざとなれば、自分の身体能力全開で肉体言語を語りかける手段とてある。ゆえに、大翔が傍にいるという意思を見せてくれる限り、すずかは大翔の好意のベクトルを保護者的な立ち位置ではなく、別の感情に変える努力を続けるだけである。既に手段を選んでいないのは重々承知なのだ。

 

「……うん。この心音、聞いていると落ち着く……」

 

 大翔の胸板にそっと耳を当てて、鼓動を聞き、自らの興奮を落ち着かせていく。瞳を閉じて、ただ、彼の心音に身を委ねる。とても、彼女に大切な時間。昂ぶりがやがて収まるのを感じて、すずかは彼の腕に身体を寄せ、抱き枕にする体勢となった。

 

「……焦る必要は無いよね。この調子なら、5年ぐらい経てばアリサちゃんにも圧倒的な差がつけられるのは間違いないし。なのはちゃんは……ひろくんをそういう対象で見てないから、この件については問題ないもんね。私とアリサちゃんが『おませさん』なだけかもしれないけど」

 

 パジャマの隙間から、身体の『とある部分』を見ながら、すずかは一人頷いた。完全栄養食の効果は素晴らしく、既に鈍い痛みを感じることもあるが、自らが望んだこと。平均よりも早く、しかも大きく成長するのが目的なのだから。

 

「男の人はある程度大きいほうが好きって言うもんね、うん」

 

 姉・忍による入れ知恵の偏りで、大きさに貴賤は無いよ派や、むしろつるっとぺったりしていないとダメだ派なども存在することを、すずかは知らなかった。この宗派の争いは時に過激であり、直接的な衝突になりにくいのが唯一、救いであることも当然知らないのだ。

 

「さて、私も眠ろ……! なにか、近づいてくるっ!?」

 

 心地良い気分のまま、微睡みに落ちていこうとしていた彼女の感覚が、急速に迫りくる大きな魔力反応を察知して、すずかは瞬時に身を起こす。

 

(真っ直ぐにこの家に向かってきてる! こんな時間じゃ、なのはちゃんも銀髪サンも、アリサちゃんだって夢の中……ああ、ひろくん。せっかく眠ったところなのに、ごめんなさいっ)

 

「スノーホワイト、セットアップっ。命の根源たる水よ──!」

 

 自分が奪った彼の体力を自分の魔法で回復させるという、何ともしまらない顛末。ただ、抱いた満足感はプライスレスゆえ、彼女にとってはプラスに違いない。

 

『ヘカティー! ユーノくんやお姉ちゃん達に連絡をっ!』

 

『こちらでも検知済みです、マスター。ユーノに念話を飛ばし、忍の部屋へと走ってもらっています』

 

 枕元でペンダント形で待機状態のヘカティーを大翔の首に掛けながら、情報や指示を手短く交換。脱力しかけていた身体に再び気合いを入れて、目を覚ました大翔に魔術反応が接近している旨を伝える。

 

「ごめんね、ひろくん……」

 

「回復魔法をかけてくれたんだろ。大丈夫」

 

 ぽん、ぽんと、大翔の手がそっと頭に置かれて、すずかはその優しい言葉と仕草に抵抗なく甘えそうになる自分を強く叱咤する。

 

(素直になるのと、ひろくんに完全に寄りかかってしまうのは違うっ。私は、ひろくんのパートナーになりたいんだから、しっかりしなきゃ、私!)

 

「先に出るよ。ひろくん、背中は任せるね?」

 

 顔を見られてしまえば、うまく笑顔が作れていない自分がすぐにバレてしまう。即座にすずかは立ち上がり、部屋のバルコニーへと歩を進めた。

 

(……早い。焦っちゃダメだよ、私。相手の狙いはきっと、ひろくんと融合した、ジュエルシード)

 

 いつでも防御魔法、あるいは相手を絡み取る魔法の網が展開出来るように、術式を組み上げ、デバイス内で待機状態へ移行。援護や索敵系統の魔法が性質的に合っているすずかだが、大翔と同じ戦いの場に出ることも想定して自衛手段の練習も積み重ねてきている。

 

(防衛に徹すれば瞬殺されることはない。それに、後ろにはひろくんがいるんだもの)

 

 ふぅーっ、と長い息を吐き、自然な脱力状態に努めるすずかの前に、雷光とともに、侵入者は舞い降りた。音も立てず、静かに着地する相手に、すずかはつとめて落ち着いた口調で声をかけた。

 

「不法侵入ですよ、綺麗な金色の髪の貴女たち」

 

 長い金髪をツーテールにまとめている、といった点から、大翔から事前に聞いていたジュエルシード絡みでキーパーソンになる少女で間違いないだろう。

 

(……バリアジャケットとはいえ、黒レオタードに黒マントに前開きの桃色マイクロミニ……)

 

 おまけに黒タイツで、全身殆ど黒尽くしである。ほぼ歳が変わらない感じだけど、すごい変態さんなのかも、と場違いなことをすずかは思ってしまった。訝しげな視線に気づいたのか、共に降りてきたレオタード少女の隣の狼人が威嚇しながらまくし立ててくる。

 

「アンタっ! フェイトに対して失礼なこと考えてるだろっ!」

 

(だったら、その格好辞めさせたらいいと思う)

 

 口には出さないが、心でそう返したすずか。そんな二人のやり取りにあえて構わないように、ツーテールの少女、フェイトは口を開いた。

 

「ジュエルシードを渡して。素直に渡してくれれば、危害は加えないから」

 

「いきなり人の家に上り込んで、脅迫するの?」

 

「私には時間が無い。お願い、渡して欲しい」

 

 話にならない。というよりも、主張をぶつけるだけで、対話をする気が相手には無いということ。瞳には焦りの色が強く映っている。戦わざるを得ないかもしれない、とすずかが覚悟を決めようとした瞬間だった。

 

「!……新たな反応!?」

 

「まずい、フェイト!」

 

「この反応、どうして! 『お姉ちゃん』!?」

 

 多少の魔力反応を内包した眩しい光の塊がこのバルコニーを向けて落下を始めていた。初めて感情の色を乗せて、フェイトが叫んでいるが、内容を問うのは後。バルコニーに上方向へ半球の防御魔法を張るため、術式展開を再始動させる。

 

「待った、すずか。網状の展開に切替。落ちてきてるのは、人だ」

 

 掛けられた声にすずかは迷うことなく、展開術式を強引に組み直す。力技に近いため、一気に魔力を消費するが、同時に肩に触れた大翔からの魔力供給が始まったため、強い疲労感を感じることもない。

 

「片手で私に魔力を渡しながら、網も展開するんだもん。悔しいな」

 

「努力の賜物だな。さ、受け止めるぞ」

 

 すずかの展開した魔力の網を補強するように、大翔がより弾力性と強靭さを持たせたところへ、光は輝きを失いながら、そのまま突っ込み、激しくバウンドを繰り返した後に停止した。

 光が消えた後、網に包まれていたのは、フェイトという少女よりも一回り小柄で、それ以外は彼女に良く似ている、姉妹と思わせる少女が顔を青くしながら、息苦しそうにしている様子が目に入ってくる。

 

「まさか……っ!?」

 

「『アリシア』お姉ちゃんっ!」

 

 大翔が驚愕の声を上げるが、それ以前に網の中の少女の元へとフェイトが躊躇いなく突っ込んだため、宙に浮かせていた網の強度を保つため、魔力制御に集中せざるを得なくなる。すずかの協力の元、そっとバルコニーへと高度を下して、やっと二人は一息を付くのだった。

 

「お姉ちゃん! 大丈夫!? なんで来たりしたの!」

 

「フェイトにキツいことをやらせようとするママに腹が立ったんだよ……全然私の話も聞こうとしないから、飛び出してきたの……うー、気持ち悪い」

 

「身体の状態が安定してないから、出てきちゃダメって言われてたじゃない……どうして」

 

「フェイトにやらせればいい。アリシアは安全な所で待っていればいい……なんて、納得できるわけないでしょ。ママの目を覚まさせなきゃ。あなたは私の大事な妹、お姉ちゃんは妹を護るもんなんだから、さ。あと、私もこの管理外世界で探したいものがあったの……ふふ、ビンゴだったね」

 

 苦しそうにしながらも、アリシアという少女は視線を大翔に真っ直ぐ向け、にっこり微笑んだ。

 

「『ひーちゃん』。また、会えた」

 

 大翔の表情が再び驚愕に包まれ、すずかは心に突然嵐が吹き荒れる感覚に陥る。大翔を失いかねない、そんな警告音が頭の中で激しく音を立て始めている──。




アリシア生存パターンです。
すずかさんにはそう簡単に幸せになってもらっては困りますぜ、ぐへへ。
多少の茨の道は吹き飛ばしてもらわないと(外道

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