E-3突破出来そうにないから、すずか様に向き合った結果、何とか更新。
(どん詰まりでやっとひり出しました、本当にごめんなさい)
……あれ? 心の声と発言がべt
「お姉ちゃんが行ったら、さらに収集つかなくなるからね?」
「……ダメ?」
「可愛くおねだりしてもダメだよ。行くなら、なのはに任せるべき」
「にゃにゃ!? わたしはまだ命が惜しいよ!」
「なのはは、アリサやすずかと長い友達と聞いた。二人は大事な人、なんでしょう?」
フェイトは付き合いの短い自分達よりも、なのはに任せるべきと自然に判断しただけの話なのだが、この一言がなのはの退路を絶った。困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷ってはいけない。父から教えられた言葉そのものの状況。
「……そうだね。た、高町なのはっ! 突貫しますっ! 行くよっ、レイジングハートっ」
『OK, my master』
そして、なのはの世界は数分立たずに暗転する。入浴中だからと、バリアジャケットをびしょびしょにするのを躊躇い、変身しなかったのが大きな彼女の敗因の一つである。固定砲台になり得るなのはの防御力はバリアジャケットあってのもの。ただ、その数分は大翔にとって、十分な救いだった。
「フェイト……狙って発破掛けたの?」
「私は思ったことを言っただけだよ、お姉ちゃん」
「お陰で俺は助かったわけだけどな。あ、まだ終わらないみたいだから、ノエルさんからアイスもらってきた」
振り返れば、大翔の姿。なのはの犠牲により、彼は何とか包囲網から抜け出る事に成功していた。
「あっ、ありがとうね、ひーちゃん!」
「……ありがとう」
冷を取りながら、湯につかるのはとても贅沢な気持ちだと、フェイトは思った。そして、姉の念話の内容を躊躇なく信じたこの少年を、不思議に思う。母には勝てないと言い切る彼の顔には絶望の色がまるで見えないのだ。
「とりあえず、俺はアリシアさんと呼ぶべきなのか、紗月と呼んでいいのか、それが問題だな。あとはここの面子の中でも、知ってる情報の幅がバラバラだから、どう説明すればいいかな……」
大翔と姉の事情は、この間もフェイトは随時、念話にて伝えられていた。
フェイトが姉の言葉を借りながら説明するならば、二人は一緒に長く暮らしていて、愛する子供もいたという記憶を持っているという。生まれ変わり、とか、前世の記憶というものらしい。
姉については、厳密に言えばもっとややこしい。二十年以上も目を覚ますことがなかった姉には、目覚めることができた代わりに、アリシアとしての自分と、紗月という前世とやらの記憶を持つ自分が一緒にいるらしい。ただ、口は一つだから、交代で表に出てきているとか。
あまりに理解が及ばない話であるし、二人……とフェイトは思うようにしている──の姉は等しく自分を愛してくれていると実感できるから、漠然とした理解で今はいいのだと、彼女は考えていた。体調不良の原因は姉自身がある程度推測がついており、当事者の姉が解決を最優先にしていない以上、フェイトは急な姉の体調悪化に気をつけるべきだと心がけている。
桃色の光線を炎の剣で一刀両断するような一代スペクタクルなんて、彼女は視界から意図的に除去していた。極寒の冷気が急に感じられなくなったというのは、しっかり察知しているが。
「私はひーちゃんに会えれば、後は何とかなるって思ってたから。ややこしいことは落ち着いて考えればいいんだよ。それに、さっきは皆の前で五分だけって言われたから、物足りないというか」
「だから、ずっとスリスリしているわけな。フェイトさんがすごい目で睨んでるんだけども」
自覚なくどうにも彼を睨んでいたようで、表情を整えようとするが、どうにも視線の鋭さを消すことが出来ないらしく、大翔は苦笑いし、アリシアはそういう感情を素直に出せるのはいい傾向だと微笑んでいた。
「何十年分甘えないとね~。私、本当に頑張ったんだよ?」
「……ああ、あの後を全部負わせてしまって、すまな……」
「私も現在進行形で頑張ってるよね、ひろくん?」
「なっ!……すずか!?」
自分に寄り添うのを辞めようとしないアリシアに続けて、見知った声が突然聞こえ、労いの声を発しようとした大翔は思わずまじまじと声の主を見つめてしまう。
空いているもう一方の腕へと、気配を消したまま擦り寄ってみせたすずかが、対抗するように声を掛けたのだ。姉に集中気味だったとはいえ、一瞬すずかの動きを見失ったフェイトも、驚きと共にすずかへの警戒レベルを心の内で一気に引き上げて、大翔たちとの間合いをほぼ零距離へ詰める。
「くすっ……フェイトちゃん、そこまで警戒しなくて大丈夫だよ。ひろくんに害を為さないのなら、私は何もしないし、出来ないから」
「その言葉を信用出来るほど、私は貴女を、知らない」
「それもそうだね。確かにそう。ふふっ」
言葉を返すすずかの微笑みを見て、フェイトは背中に冷たいものが走る。恐怖とは違う凄みを感じ取り、姉が初対面から信頼を寄せる大翔とまた違う意味で、彼女もお嬢様めいた外見は所詮ポーズなのだと理解する。
変わった人に寄り添う人もまた、変わり者なのだ。フェイトはそこまで考えて、そうなると姉も変人の部類に入ってしまうと気付き、強く左右に首を振る。こんなに優しい姉が変人なわけが無いではないか、と。そうすると、大翔やすずかもいい人になってしまう。それは違うと心が叫んでいる。つまりは思考の堂々巡りに突入したというオチであった。
「なんかえらく首を振って、ぶつぶつ呟いてるけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫。思考が完全に内に向かってるだけだし。想像力が豊かなの、フェイトは」
「……アリシアさんを護りたくて必死なんですね。私もすぐにそうなりそうです」
大翔を取られなくない。その想いがふつふつと湧き出してくる。再会してお互いの存在を確認して、実質一時間程度だというのに、二人のまとう雰囲気が変化したと感じられる。我を取り戻した後の大翔は、より芯が強くなったように映る。
すずかは、強く焦りを覚えていた。
「えっと、月村さん」
「……なんでしょう?」
どこかのんびりした調子で、アリシアがすずかを呼ぶ。どうしても身構えてしまい、声も冷たく硬いものになるのが分かる。彼の前で、こんな見苦しい女の子になりたくないのに──思えど、身体はままならず。だが、アリシアはそんなすずかを意に介さず、あげく、そっと両手を取って包む姿勢になる。
「この世界にひーちゃんがやってきた時に、大怪我を負ったのを救ってくれて、本当にありがとう」
「え……」
「聞いたよ。月村さんが助けてくれなかったら、新しい世界にやって来た途端試合終了だったって」
「恥ずかしいから、あんま言いたくなかったんだよ」
ハッと顔を上げれば、バツが悪そうに大翔が目線を逸らしていた。吸血のことは一切言わず、助けてもらったことだけを、彼はアリシアに伝えている。それを悟り、すずかは声にならない『何か』にきゅっと胸が締め付けられる感じを覚えた。
(私は、今もひろくんにとっての『特別』と思っていて、いいんだ)
それだけで、十分だった。一度、瞳を閉じ、深く深呼吸をして。
「瞳が、泳がなくなったね」
「『紗月』さんにはまだ敵わないですけど、この私が生きていく街で、ひろくんを支えるのは私だって、改めて気づいただけです」
「あら。いきなり勝利宣言されちゃった」
「ひろくんとの交流を止める気はありませんから、ご安心を。ひろくんが貴女に心を預けた理由、しっかり見せてもらいます」
「……ひー、ちゃーん!? 貴男、このお嬢様に一体何を吹き込んだのよーっ! 九歳の発言じゃないわよ、どう見ても!」
顔を大翔に向けて、大声を上げるアリシアだが、それでも包んだ手はそのままという辺り、彼女も大翔に似て、お人好しなのだろうなと、すずかは当たりをつけた。あの周りを元気にする笑顔で、彼をじわじわと陥落させていったに違いない。そう確信すら出来る。
「アリシアさん、貴女の発言も同年代の枠を超えてますからね?」
とりあえずツッコミは忘れない、すずかだった。
ともあれ、四回ぐらい書き直しました。
もっと説明突っ込むべきかなと思いつつも、
アリシアはたぶんこういう存在なんだな、と読者の皆様が思ってくれれば、
細かい情報なんて小出しでいいから、私とひろくんのいちゃこらを書けばいいんですよ?
……って、すずか様、地の文を乗っ取るのは勘弁して下さい。