吸血姫に飼われています   作:ですてに

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と、かの白い魔王様は仰られたとか、いないとか。

こっちの更新遅くなってすいませんんんんんん!!!!!



品質改良は大切なの

 アリシアのマルチタスク訓練が始まった日の夕方。海鳴市近海の沖に、動けるメンバーが集結していた。日暮れまでは約一時間程度、といったところだろう。

 なお、本来は陸戦型の魔導師であるアリサは、大翔に背負われ、補助具で彼に固定される形で空に浮かんでいた。空戦の術を持たない彼女は、大翔の魔力補助タンクといった役回りである。アリシアは飛べるものの、アリサ同様空戦を得意としないアルフがしっかり補助をしていた。

 

「すずか、いつまで拗ねてるつもりなのよ」

 

「仕方ないのは判ってるよ。それでも納得出来ないことはあるよ」

 

「役得と思うかもしれないけど、私は空では大翔と並んで戦うことが出来ないの。大翔を守るのは、すずかが頼りなんだからね?」

 

 アリサの言葉に、ぴくっ、とすずかの身体が反応する。予想通りの反応だと、アリサはまだ不満げな表情のすずかに一気に畳み掛けていく。

 

『すずかだけなの、大翔をこの空で守れるのは』

 

 指向性の念話で、そう囁いた。実際には、ユーノも皇貴も、なのはもフェイトもいる。ただ、こう呟けば、すずかは意図を深読みしてくれるだろうと考えていた。

 

(空でひろくんを守れるのはアリサちゃんでは無理……私だけが、ひろくんを)

 

 口元に手を当て、考え込むすずか。その様子を見ながら、アリサは心で、悪い微笑を浮かべていた。

 

『……とか、すずかは解釈してくれるに違いないわ。実際には、他のみんなもいるけれど、率先して盾になるつもりなのは……なんて考えるわけ。私だって逆の立場なら、騙されてる、言い包められてると思いながらも、きっと頬が緩んでしまっているわね』

 

『俺はアリサが怖いよ……』

 

 げんなりした表情の大翔を見る他のメンバーは、あえて突っ込みはしない。三人の間で念話が交わされたぐらいは予想がつく。

 

「頼むわね、すずか」

 

「……うん、アリサちゃん。私がひろくんの盾になるよ。だから、頑張って補助タンクの役割、宜しくね?」

 

「うぐっ」

 

 男をめぐる女の争いには関わらないに限る。苦笑いのなのはもどうしたものかと思いながらも、声をかけるのは躊躇ったようだ。

 

「さて、しゃっしゃと終わらせて、晩御飯といこうぜ」

 

「友人の所で晩御飯だっけ、伊集院くんは」

 

 空気を無理やり変えようと話題を出す皇貴に、なのはが乗る。昨晩は眠気との戦いになったこともあり、『創作の世界』と表現したこの世界の先の話──PT事件の後までは話が出来ていない。はやてとヴォルケンリッターのことは、短くまとめて話せることでもないし、まずは目の前のことに集中するべきだろう、と大翔や皇貴は考えたということもある。

 大翔から概要は聞いているすずかは、既に図書館ではやてと出会っており、この先の重要人物であることとは関係なく、同世代の本の虫として、友人関係を築きつつある。夕食後に、二人が電話していることも良くあり、話も弾むことが多いようだ。時代背景もあり、夜の長電話となれば、部屋での固定電話が主流である。完全に余談であるが。

 

 だから、はやてのことを知らないなのはは、皇貴の友人としてしか、まだ彼女のことを知らない。

 

「おぅ! あいつの作るのは何でも美味いからな! 今日はポトフにするって言ってたぜ」

 

「私達と同じぐらいの年で、美味しい料理を作れるなんて……」

 

「練習次第だと思うぞ、なのは」

 

「大翔くんには言われたくないの……」

 

「え、えっと。そろそろ、始めるの?」

 

 緊張感の欠片も無い一同に、とうとうフェイトが声を掛ける。海の底に沈む6つのジュエルシードを一気に封印しようというのに、空の上とはいえ、お互いのやり取りが普段通り過ぎるのではと思えた。

 

「ああ、始めるよ。俺とすずかで氷系統の魔法に細工して、一気に海上に持ち上げるから、なのは、皇貴、フェイト、ユーノでまとめて封印する」

 

「え? そ、それだけ?」

 

「これだけの術者が揃っているんだ。普段通りの自分の力を出せば、それで終わる。慢心は禁物だけど、気負い過ぎる必要も無いさ。一人でまとめて6つ封印するわけでもないんだから」

 

 大翔の口調は、決して弛緩しているわけでもなく、ただ泰然としているように聞こえる。

 

「ただ、次元魔法への警戒は怠らないように頼むよ。君やアリシアさんの位置は、そろそろ捉まれているだろう。こちらに対して何か手を打ってくる可能性も十分あると思う」

 

 母の姉への溺愛ぶりを思えば、むしろ此方の座標を全力で特定し、次元を超えて干渉してくるのが母『らしい』とも思えてくる。姉の奮闘で、自分も娘扱いはしてもらえるものの、母の行動理念は姉のために、が大原則なのだから。

 

「ユーノはそちらの警戒メインで頼むよ。封印だけなら、なのはとフェイトの二人で充分なんだから」

 

「ああ、何か探知すればすぐに知らせる」

 

「封印は任せておいてなの。全力で頑張るよ!」

 

「海底に向けて撃たないようにな」

 

 海底の地形が一変するから──。言外に込める意味をなのはは果たして判っていただろうか。ただ、大翔の指示については勿論理解しているため、今からの行動には支障は無い。

 

「すずか、始めるよ」

 

「うん、ひろくん。ヘカティー、ひろくんを宜しくね?」

 

『はい、マスター』

 

 大翔はヘカティーをデバイスとして、バリアジャケットを装着している。本来は、すずかのデバイスであるヘカティーだが、自らの整備を一任する大翔にも波長が合うようになってきている。知恵袋ともいえるユーノの出会いもあり、一気に人格型ユニゾンデバイス化の話も持ち上がり、マッドなお嬢様が設計に並々ならぬ情熱を傾けている真っ最中だ。

 

『結局、バリアジャケットは制服姿に落ち着きましたね。私もネックレス姿のままですし、傍目には小さな学生さんにしか見えませんし』

 

「まぁ着慣れているから、想像もしやすいといいますか。さて、やるよ」

 

 ジュエルシードが沈んでいる位置は事前の調査で判明させている。すずかと大翔は詠唱を始め、発動用意が整った辺りで、すずかは大翔のすぐ前に位置取りを変え、大翔はすずかの手に自分の手を重ね合わせる格好となった。二人の背後に、深紅色の魔方陣が二重に展開されていく──。

 

「スノーホワイト、いくよ。ひろくん、位置補正お願い。アイス……バインドっ」

 

 すずかは海に向かって、対象を凍結させる氷の歌を唱える。魔力が海へと吸い込まれていき、目の前で海面が凍……るわけではなく、表向きは何も起こらなかったように見えていた。フェイトはまさかの失敗か、と首を傾げるが、術者二人に慌てる様子は無い。

 

「……よし、いい位置で発動できたんじゃないかな。じゃあ、後は『動かす』のは、俺がやるよ」

 

「ふふっ、本番も成功だね。ひろくんと私の魔力性質が近いから、練習での成功率も高かったし、心配はしてなかったけど」

 

 企み大成功!と、お互いの手を打ち鳴らす大翔とすずか。内容を知っている様子のユーノは苦笑いをしており、種明かしをする。

 

「すずかさんの凍結魔法に大翔が遅延効果を付与したんだよ」

 

「え……?」

 

「それを本番に使えるレベルまで磨くには半年はかかるんじゃなかったっけか。高町も既に数発の発射台生成出来てるし……おっそろしい奴等だなぁ」

 

 フェイトの戸惑いに、皇貴が同意する。

 

 きっかけは、誘導制御型射撃魔法・ディバインシューターの練習を、なのはと共に行っていた時に、ふと彼が思いついたことから始まった。なのはが徐々に自動誘導の性質や、逆に思念操作に反応する操作性能を付与出来るようになりつつあった頃、それを参考に大翔達も同じ練習を積む中で、呟いたのだ。

 

『小説や漫画に出てくる魔法だと、自動誘導や思念操作が出来れば、発動タイミングも変えられたりするよな。時限式魔法、みたいなさ』

 

 魔法の上達に並々ならぬ意欲を燃やすなのは、工夫と改良が大好きな技術者気質の大翔がこれに飛びついた結果、なのはの単体戦闘能力がさらに向上していくことになるのだが、それは別の話として。なのはとの合同練習の時間を増やした大翔にすずかが嫉妬し、その心を落ち着けるために、元々、魔力性質を大翔から譲り受けたすずかやアリサの魔法についても、大翔が制御できるか試行してみようとした結果、難しいけど出来なくはないという実験結果が出た。

 出たのがいけなかった、と解析に巻き込まれたヘカティーは述懐する。すずかは喜んで大翔の実験台になろうとするし、アリサも変に対抗心を燃やす。大翔も困難だが実用化の道があると知って、進んで試行錯誤を繰り返した成果が今出ているのだ。

 

「だって、毎日少しずつ出来るようになる『あの感覚』を知ったら、もう辞められないよ。大翔くんも凝り性だし、その辺りは似たもの同士だね、にゃはは」

 

「だからって、一日何時間も練習に没頭できるお前らの集中力は異常だっての」

 

 好きなものの上手なれ、という言葉はあるが、行き過ぎだと皇貴は思う。ゲームでも何でもいいが、寝食を忘れて、集中できるというのは一つの武器だと彼は考える。前世での自分はゲームもアニメも好んでいたが、ぶっ通しでそれこそ朝から晩まで続けることは無かったはずだ。

 

「まぁまぁ。あ、浮いてきたよー。海底の砂をまとめて凍らせたんだね。フェイトちゃん、私達の出番だよ」

 

「テスタロッサ、とりあえず考えるの止めとけ。常識外の奴らは『そんなもん』と思っておかないと、自分の頭がパンクするぞ」

 

 銀髪の彼の言うとおりかもしれない。姉をちらりと見れば、うんうんと頷いている。フェイトは考えるのを止めて、封印に全力を注ぐことに注力する。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

 ほどなく、主に張り切りすぎたなのはの力もあり、ジュエルシードは封印された。そして、ほどなくユーノの警告が一面に響き渡る。

 

「トランスポーター!? いや、違う……! 次元跳躍だ!」

 

「アルフさんとアリシアを中心に円陣。皇貴はバリア展開開始!……まさか、ご本人のお出ましとは」

 

 青い空が渦を巻くように、ぐにゃりと歪んでいく。突然に轟く雷鳴と共に姿を現したのは、深紫のローブに身を包んだ、稀代の大魔道師プレシア・テスタロッサ、その人だった。

 

「はぁ、はぁ……アリシア、やっと見つけた、可愛い可愛い、私のアリシア……」

 

「お母さん……」

 

「さぁ、帰るわよ……貴女はまだ外に出歩いていい身体じゃ無いのだから……フェイト、早くその連中からジュエルシードを取り上……」

 

「……まだ帰らないよ!」

 

『お話聞いてくれるまで、帰らないもん!』

 

 次元跳躍をしてまで、アリシアを取り戻しにきたプレシアの指示に、愛娘はバッサリと拒否の意を示す。話の途中に割り込む形で。

 

「げなさい……えっ? ア、アリシアが念話と会話を同時に? ぐっ、ごふっ」

 

 プレシアの顔に困惑が浮かんだのも一瞬。物質どころか自らを次元転送し、かつ成功させた彼女の身体には著しい負担がかかり、死に至るような病魔を抱える今の状態では──。

 

「ジャケットが!?」

 

 アリシアの悲痛な叫びが木霊する。母・プレシアは呼吸困難、さらには意識混濁を引き起こしていた。バリアジャケットが強制解除され、飛行すらままならなくなったプレシアの元へ、フェイト、続けて大翔達が即座に飛んでいく。

 

「母さんっ! ぐっ、さ、支え切……」

 

「大丈夫だっ」

 

「こういう時の男手って奴だ! ユーノ、お前も早く支えろって!」

 

「わ、判ってるよ!」

 

 フェイトが支えに入ることで落下速度が緩み、少年三人組が加わり、四人でプレシアの身体を抱えていく。身体強化に気が回らない者には、すずか、アリサが即座に術を唱えていく。

 

「焦り過ぎよ、全く」

 

「た、助かったぜ、バニングス」

 

「フェイトちゃんも。わたし、補助魔法はそんなに得意じゃないから、足りなかったら掛け直してね」

 

「……ありがとう、なのは」

 

「皇貴が急かさなかったら、僕は自分で唱えれたよ……ありがとう、すずかさん」

 

「気にしないで、ユーノくん。とにかく、一旦私の家に戻ろうよ。アリシアさんやフェイトちゃんのお母さんを休ませないと。お姉ちゃんに連絡して、口の堅いお医者さんも呼んでおくね」

 

「頼む、すずか」

 

 事態は急転していく。昨夜に続けて、一同は再び、月村家へ集合することになるのだった。




駆け足で一気にママン登場。

時の庭園乗り込んでもいいと思ったんですけど、
管理局もまだ来ていないことですし、
アリシア生き返ったママンは、
彼女が家出となれば、冷静さを欠いているだろう、と。

……うん、やり過ぎたかぁHAHAHA。

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