吸血姫に飼われています   作:ですてに

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お久し振(ry

迷走し続けた結果、五回ほど書いては消して、
やっと形になりました。


その格好で日頃の疲れが取れるのだろうか

 「……あー、やっと慣れてきた。少し熱いぐらいが、温泉っぽくて結構好きなんだよ。すずかは大丈夫?」

 

「うん、私は大丈夫」

 

 温泉地に到着した一行が落ち着いた段階で、大翔は部屋付の設備である、源泉掛け流し露天風呂で、普段の疲れを癒しにかかっていた。すずかの言葉の裏には『大翔くんと一緒なら』という前置詞がついているわけで、大翔もすずかも顔色は真っ赤になっている。

 

「身体が慣れるまで、ほとんど動けずにじっとしてるんだけど、それが過ぎると、芯から温まってる感じがあってさ」

 

「ひろくんと一緒に入るようになってから、その感じが分かるようになってきたよ」

 

 部屋風呂の扱いなので、男女別というわけでは無いため、同部屋のメンバーに断った上で入浴しているわけだが、さも当然のようにすずかは一緒に入ってきてしまっている。

 

 二人においては、月村家の中庭にある露天風呂でちょくちょく一緒に入ることがあり、家と同じく互いにタオルは着用しているから、日常の延長で済んでしまっているが、部屋の中にいるはやてなどは『行き過ぎた関係』などと大はしゃぎしているし、数日前に月村家の露天風呂で、タオル一枚の姿で大翔達とアイスを一緒に食べたことを思い出したフェイトが今さらながら恥ずかしさを感じて、目を回していたりもしていた。

 その妹の様子を見て、アリシアがニヨニヨしていたり、貧乏くじを引いた形のユーノが何とか騒ぎの沈静化を図ろうとしているのは、ある意味様式美に近いものだろう。

 

「来た早々、ジュエルシードも無事回収できたし、まずは安心だけど……今回、まさかこんな大部屋を取っているとは思わなかったよ」

 

「前に来た時は、子供部屋はひろくん含めて4人だったからね。でも、今回はフェイトちゃん達やアルフさんも加わって、10人以上の大所帯だから」

 

 アルフは見た目からは大人組に入るのだが、フェイトの使い魔であり、またプレシアと同部屋になるのを避けるために、子供部屋の取りまとめ役ということになっていた。なお、それもあくまで建前であり、今回の旅行に同行しているノエルやファリン、鮫島等が細々とした宿側との折衝は行うようになっていた。

 

 アリサは大人組と食事時間等の確認をしてくると一旦席を外しており、後で追いかけるからと二人に言い残している。そう遠からず、二人だけの時間は終わりとなることになっていた。

 

「……話は変わるけど、すずか。ほんとに耐えられなくなりそうなら、言うんだぞ」

 

「え……」

 

「今のすずかは、ここまで熱いお湯はほとんど経験が無いはずなのに、俺に寄り添うために必死に頑張ってるようにしか見えない。ここ最近ずっとそうだ。俺の血を飲んだ時みたいに、過剰に俺の身体に触れたくて仕方無いって感じで」

 

「……気づかれてたんだね」

 

「あの衝動、もう始まってるのか?」

 

「お姉ちゃんの話だとほんとに始まったら、こうやってくっついてるだけじゃ我慢できないって聞いてるから、前兆みたいなものなのかな……ひろくんに触れたい、触れられていたいって感じが常にあって……」

 

 時折、胸が張るような感覚を覚え始めているすずか。忍や母親に相談も進めており、月のモノへの用意を始めて、必要品も持ち歩くようにしている。いつ始まってもおかしくない、というのが肉親達の意見だった。

 おそらくはその周期に合わせて、一族の性衝動が襲い掛かってくるようになる。好悪の感情等関係なく、男性が近くにいれば、その者と物理的に繋がり、子種を吸い上げることしか考えられなくなる。

 ……それは、大翔を慕うすずかにとって、とてつもない恐怖だった。

 

「触れる程度ならどうぞ、って言うんだが、無意識に俺の下腹部とかマズい部分へ手が伸びかけてる時があるからな……もちろん、それとなくその動きは遮るようにしてるけど」

 

「……嘘」

 

「だから、無意識なんだって。話に聞いてる以上に、すずかの衝動が強まってるのかなって」

 

「……ほんとはすごく怖いの。お姉ちゃんやお母さんから聞いた『衝動』の話がそのまま私にも出てくるなら、こうして『ひろくん』に触れたい、触れられたいって思う私の気持ちも、『男の人なら誰でもいいから』触れたい、触れられたい、繋がりたいって欲に塗り替えられてしまうんじゃないかって。心を身体が飲み込んでしまいそうで、私が私で無くなってしまいそうで……」

 

 また、大翔に限定できたとしても、彼の身体の限界を超えて、繋がることを強いる可能性も十分にある。衝動が強まった状態で、大翔の身体のことを気遣えるとは、今のすずかにはとても思えなかった。

 

「だけど、私はひろくんじゃないと絶対に嫌。それ以外の人に自分を捧げるようなことがあれば、私は絶対に私を許さない──!」

 

 それはすずかが以前から繰り返し、彼にも訴えて続けていること。

 

「私を好きにしていいのは、私が認めたひろくんだけなの。だから、私は貴方の傍にいる。いさせて欲しいの。ひろくんが傍にいない生活なんて、耐えられない」

 

 時期が始まれば、衝動が収まるまで、実際に約一週間前後は姉の忍も部屋に閉じこもり、ノエルやファリンといった同性以外との接触を避け、恭也が犠牲になるのも二日に一度、といった頻度である。体力回復の観点から、中一日は絶対に空けるようにしているとのことだ。

 

 ただ、すずかは大翔に一週間前後会えない想定をしただけで、足元がおぼつかなくなる始末。自分でもかなり驚いたのだが、妙に納得もしていた。

 

 大翔が話すなと望めば、異性と一切口を利かないし、傍に近づかさせないことも躊躇わない自分である。実際、忍主導の仕掛けで、大翔以外の異性と話すなと彼が望んでると聞かされた時、実の父親すら完全無視を貫き、一メートル以内に近づけさせないように徹底していた。学校の授業中に至っても、魔力を絡めて男性の教師側に威圧感を感じさせるように仕掛け、授業はしっかり受けつつも、異性を近づけさせない手はずを取った。

 なにより、肉親すら排除することに躊躇いを覚えなかった自分の感覚が、大翔と出会う前の自分とあまりに違っていて、自分で自分が笑えてしまったことを覚えている。

 

「自分でも分かってる。ここまでひろくんに固執してる自分は、異常だって。他の人に置き換えるのなら、お互いの安全や関係性を保つために、直接の接触を避けるのが一番いいんだって、すぐに納得できるし、仕方ないって思えるのに。ひろくんが関わると、私、どうしても駄目なの。我慢できないし、耐えられない……」

 

「うん。特に変えることも無いだろ。今まで通りでいいと思うけど? 俺もすずかが傍にいない生活って、違和感覚えると思うよ。互いに互いを感じ取れる距離にいるのが、当たり前というか、当然に感じるようになってるし」

 

 悲痛な声色のすずかに対して、大翔の声はいつもと変わらぬ声色であった。

 

「恭也さんに聞き取りもしてるけれど、今の所、衝動に関しても、翌日の行動に支障が出る程度だって言っているし。この辺りは個人差があるだろうけど、毎日朝、夕方と鍛錬を欠かさないのは、恭也さんのレベルまで行けなくても、人並み以上に体力をつける目的もあるわけでさ」

 

「あ、う……」

 

「だから、そこまで慌ててはいないんだ。ただ、恥ずかしいとは思うけど、こっちも心の準備が出来るから、衝動が深まるようなら、早めに教えてくれると助かる。無意識の部分は俺がフォローすればいいことだと思うし」

 

 織り込み済みだからこそ、毎日の体力作りを欠かさないのだと、寄り添う彼から告げられて、すずかは恥ずかしいやら嬉しいやら、安心したやらで、何か言葉を口にすることもうまく出来なくなってしまう。大翔の言葉に、必死で頷くので精一杯だ。

 そんなすずかの頭を空いているもう一方の手でぽんぽんと撫でつつ、大翔は別の心配事を口にした。

 

「……それよりもさ、アリサがそろそろ勘付いてるだろうなって。そっちにどう対応するのか、思いつかなくて。ほら、俺が作るのに没頭してる時間ってまともな対応をしないから、これまでは二人とも近づかなかったのが、今はすずかがたいてい背中とかにくっついているだろ?」

 

 大翔のストレス解消というか、他のことをすべて忘れてのめり込む時間が、忍から潤沢な環境を与えられた、デバイスを含めたモノ造りである。

 本の世界に集中した人が生返事しか返さないという事例があったりするが、それをより酷くしたのが、趣味に没頭している時の大翔で、周辺への意識がほぼ断たれているような状況であった。

 すずかが背中にくっついていても、体重を預けない限りはほぼ無反応であり、声掛けについても相当大きな声を出さないと反応しない。普段の生活とは真逆の態度であるが、自意識の深い部分でバランスを取るようなものであり、すずかも通常時の大翔が周りに気を使い過ぎだと思っているので、何となくだが、没頭する時間が必要なのだと悟っていた。

 

「私は、ひろくんを感じていられるだけで落ち着くんだけど、アリサちゃんは、怒るから近づかないようにしてるもんね」

 

 大翔から話題の転換も込めて振られた懸念事項を、すずかは改めて考える。

 

 返事はなくとも、寄り添っていることを拒否するわけでも無いため、軽い衝動のようなものが始まっているすずかにとっては助かる話であっても、まず互いの会話ありきの部分があるアリサとしては、無視されているように感じてしまい、大翔の趣味の時間は近づかない現状がある。

 これまでは、すずかも会話が出来ない寂しさに近づかないようにしていたのが、渇きに似た感覚を満たすために、思い切って寄り添ってみたところ、これはこれで悪くないと感じたのである。元々、二人で読書に耽ることもあるわけだから、そういう沈黙が苦になる要素も少なかったのだ。

 

「それに、俺は以前の経験があるし、すずかは自分の身体を守るためというのもあるからか、こういう生々しい話を、こんな年から出来るけどさ。この外見年齢で、そういう話って普通は出せるもんじゃないんだよな。おそらくは、気持ち悪いとか、生理的な嫌悪感を覚えるんだと思う」

 

「うん……私は、ひろくんがいなければ、黙って抱え込んでいたと思う。アリサちゃんにも、ううん、アリサちゃんだからこそ、こんなこと、簡単に話せない」

 

 ある意味、一族の秘密以上に、打ち明けにくい事項と言えるのかもしれなかった。こういう『性』そのものが関わる話など、いくら親しい者同士であっても、アリサとの話題に乗せるのは大変に憚られるものだ。思春期の男子が開けっぴろげに話すようには、『女の子』はそうはいかない。

 

「ただ、アリサのことだ。すずかにそろそろ問い詰めるんじゃないか? 俺の趣味の時間は相互不介入とかにしていたんだろ」

 

「その時にどうするか、だね。うん、お姉ちゃんやファリン、ノエルにも相談して、考えておくよ」

 

「あら~? いっそ、性的に彼が欲しいって言えば、気持ち悪がって、彼と貴女から離れてくれるかもしれないわよ~」

 

 突然話に割り込んできた声に、ハッと二人が顔を上げれば、栗色の肩口ぐらいまである髪を二つに分けて括り、大きな眼鏡を額の辺りまで上げて、裸身を覆うタオルの上に半透明なマントを羽織った、十代後半ぐらいの女性が平石で造られた浴槽の対岸に身を浸していた。

 

(まったく、気配に気づかなかった……!?)

 

 愕然として、大翔はすぐに部屋の皆へ念話を飛ばすが、返事が一切返ってこない。念話阻害の簡易結界が張られていると判断した大翔は大声を上げようとするが、その前に侵入者が呟いた言葉が、突発的な事象を生んでしまう。

 

「ただ、その男の子も貴女が成長したら興奮しない性質かもね~、ふふふ」

 

 間延びした口調で、此方を挑発してくすくすと笑う侵入者。だが、次の瞬間、彼女は熱いお湯が張られている浴槽に沈められてしまっていた。

 

「……ものすごく腹の立つことを言われてますけど、そもそも、初対面の方にひろくんを侮辱される謂れはありません」

 

「ごぼっ……!? ごががががっ!?」

 

「何を言ってるのか、良く分かりません。お湯の中だから、当然でしょうけど」

 

 即座に侵入者との距離をつめた上で、両手で首に手を掛け、そのまま浴槽に沈めたすずか。外見からはとても想像がつかぬ俊敏さと力強さで、相手の抵抗力を半ば奪い去っている。なお、移動の余波でタオルは零れ落ち、背中から臀部にかけたボディラインが大翔からそのまま見えてしまっているが、緊急事態のため、すずかも大翔もそのことを強く意識する余裕もない。

 

「迂闊でした。ぼうっとしていたから、私も気づかずに侵入されてしまいました。ただ、ひろくんも察知出来なかったということは、魔導師ですよね。フェイトちゃんじゃないですけど、全身スーツって時点で、あちら側の人としか思えませんし」

 

「すずか! 殺しちゃだめだ!」

 

「分かってるよ、気を失うまで沈めておくだけだから」

 

(これはまずい、振り切れた時のすずかだ)

 

 溺れかけている侵入者の対処に動こうと大翔が立ち上がると、手足に複数の羽を生やした、これまた背丈のある紫色のショートカットで、全身タイツの女が空から突っ込んできて、瞬く間に着地……出来ず、濡れた浴槽のほとりで足を滑らせ、何とかバランスを取り、転倒を防ぐのに必死になってしまう。

 

「ふっ、ふぅ……危なかった。さすがに、ここで転んでいては、ナンバーズの名折れだからな」

 

 羽が自然に消えているということは、結局魔法か何かなのだろう。新たな侵入者に対処するため、拘束していた栗髪の女を手放したすずかは、素早く大翔の側へと移動をしている。なお、浴槽に浮いていたタオルも手早く拾い上げており、自らの身体に再び纏い終えていた。

 

「げほっ、げほっ! トーレ姉様ぁ、ごふっ、おそ、ぃ……」

 

「いや、すまん。そちらの娘が恐ろしくキレのいい動きをしたものでな、見惚れて対応が遅れた。野性的というか、本能的に最短の挙動を選択していてな」

 

「それで、私が、溺れかけてたら、意味が無いじゃない~、ごほっ」

 

 背中をさする、トーレと呼ばれた背丈の大きい女に、眼鏡を浴槽に落としてしまって、咳を繰り返している間延びした口調の女……緊張感のない侵入者たちである。とはいえ、それは大翔達にも言えることで。

 

「……見た?」

 

「背中側はハッキリ見えました、ごめんなさい」

 

「ふふ、真っ赤になってる。ひろくん、でも、見たいならいつでも言ってくれたらいいんだからね? ちゃんと手入れは欠かしてないし、私だってひろくんを求めてるわけで。一方的じゃ不公平だよ」

 

 剣呑な雰囲気は既に引っ込めたすずかは、自らの裸身を直視したかの確認をしっかりと取り、『貴方にならいつでも構わない』としっかり意思表示をする。

 

「……既に精神が」

 

「トーレ姉様、ストップ、ですよぉ。ものすごい、目で、あの娘、こちらを見てますからぁ。げほっ!」

 

 まだ息が整い切らないまでも、舌っ足らずの独特の話し方をする女がゆっくりと身体を起こし、姉と呼ぶ女を制止して、ゆっくり頭を下げた。

 

「ごめんなさいねぇ、どうにも、自分でもまずい性格とは思ってるのよ~。家族以外の奴らはほんとどうでもいいって考えだから、煽って嘲笑って、困惑させるのが基本姿勢だからぁ、交渉ごとにはほんと向かないのよ~」

 

「休養中に、突然の乱入で済まなかった。クアットロの言う通り、こ奴はそういう性格として造られたものでな。しかし、ウーノかドゥーエを連れてくるべきでは無かったのか? 私も話し合いが得意なわけでは無いぞ。既に交渉前から決裂しているようにしか見えないが」

 

 トーレはつられて頭を下げた後、そんな言葉をクアットロと呼ばれた女に掛けている。彼女はあくまで同行者であり、最初から煽りと挑発を浴びせてきたクアットロがこちらへの用件があるらしい。

 

「ウーノ姉様はドクターの側を離れられないし、ドゥーエ姉様は近々、任務を控えているでしょう。んー、煽りや挑発が枕詞みたいなのは悪い癖とは思ってるし、甘く見てたのも確かなのよね~。身体強化無しで、あの金髪よりも早く動くなんて……見積りが甘かったわ、集めたデータだけを過信してちゃダメってことねぇ」

 

「……念話阻害の術式も展開してるようだし、大声で人を集められたくなければ、さっさと要件をどうぞ」

 

 溺れかけた後であっても、のらりくらりと人を食ったような態度を続ける相手を、ある意味で認めながら、大翔は勧告を行った。

 

「敵対する意思が無いと言うのなら、中身に入って下さい。あまりに長湯だと、部屋の連中が心配して見に来ますからね」

 

 皇貴から聞かされていた『物語の情報』から、彼女達が本来、十年程度経った後になのは達に関わってくる『ナンバーズ』の人物だと、大翔は推測を終えている。ただ、ミッドチルダに渡るつもりもなく、管理局からも距離を置く方針の大翔にとっては、関わるつもりがあまり無い人物たちでもあった。

 

「じゃあ、いきなりですけどぉ、緩やかな協力関係を結びませんかぁ?」

 

 相手から語られた言葉は、なかなかに要領を得ないものであった。




筆が進むのは、すずかやアリサの想いを書いている時が
一番進むんですよね。

ただ、それだと一話完結のエンドレス日常話でいいじゃん、って話になるので、
キーキャラクターもねじ込みました。

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