吸血姫に飼われています   作:ですてに

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まともなクアットロさんがもう少しまともな感じに。


煽り、挑発の類は真正面から黙らせてしまおう

 「ハハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ、士郎殿! 恭也殿といい、美由紀殿といい、修行を極めれば、人の肉体はここまでの極みに至れるものか!」

 

「流石に、空を飛ばれてはしんどいけどね」

 

「う、うむ。あれは危機感から思わず飛んでしまったのだが……。そう言いながら、殺傷力の高い飛び道具を飛ばしてきたり、木々の間に鉄線を張り巡らせて、そこから跳躍して攻撃してくるとは、さすがに想定していなかったぞ!」

 

 陽気な声が夕食の会食場に響く。アルコールが身体に回った、ナンバーズ3番・実戦リーダーであるトーレであった。ただ、完全に理性が無くなっているわけでもなく、料理や酒の入れ替えなどに、仲居さんが最低限は出たり入ったりする場所であるため、直接『魔法』を例示するような単語は使わない程度には意識は保っている様子である。

 ……そろそろ、それも怪しくなってきているのは否定できないが。クアットロの許可は出ている為、いざとなれば、バリアジャケット無くとも展開できるユーノや大翔等の魔法しかり、戦闘民族高町家の物理的手段や、忍やすずかの心理誘導等、睡眠へ誘うように手配されている。

 

「ほんとに戦闘狂なのよね、トーレ姉様は~。というか、宴会に私達が普通に交じってるって、どれだけ危機感欠如してるのか、あるいは二人程度抑えられるという自信の表れかしらねぇ~」

 

 模擬戦を通じ、意気投合して盛り上がるトーレや、話に付き合っている高町家の家長たちから、他の大人達の席を挟み、その反対側に、先程のもう一人の侵入者、クアットロと、彼女を囲むように子供組は集まっていた。

 

「どうかしてるぜっ、模擬戦したからって、戦い方からそう悪い奴じゃないとか、皆は知らないからそんなことが言えるんだっ!」

 

「どうどう。さっきから皇貴くんは興奮し過ぎやで。人参でも食べて落ち着きぃ」

 

「俺は馬じゃないっ」

 

「ヒトであるちゅーんなら、一人で興奮するのをやめなあかん。うちらのグループのトップは誰や?」

 

「……大翔だろ」

 

「その彼がどっしり構えてるのに、周りがぎゃーぎゃー言ったって解決するかいな。助言するのはええけど、今の物言いやと、大翔くんの判断の邪魔になるだけやで?」

 

 物語上で、彼女達──ナンバーズがどういう立場でどう動くのかを知る皇貴は、ここで再起不能にしなければ、数年後の災いになると躍起になっている。大翔には以前からその情報を伝えているし、目の前に現れた今、早急な対処を訴えているのに、大翔の対応が遅速に見えて仕方が無い。

 それゆえに苛立ち、いっそ自分が対処しようかと動きかけるのだが、はやてにやんわり止められたり、あるいは──。

 

「少し『黙って』ようね、伊集院くん」

 

 ……強制力を持つすずかの言葉で、強引に言動や行動を抑えられている状態であった。

 

「イレギュラーで力も持ってるけど、煽り耐性ゼロ~。挑発にすぐに我を失うしぃ、組し易いタイプよねん。あはは~、五月蝿ければ、力尽くで黙らせてみる~?」

 

「……なんというか、常に煽りや挑発を混ぜて喋らないと死んでしまうタイプなのか、アンタは。交渉とやらに来たんじゃないのか」

 

 懲りないクアットロの挑発に、大翔が割り込む形で受けて立つ。

 

 彼女の話し方は、常に煽りや挑発行動が混じり、こちらを苛立たせることを前提にした話法になっている。自分への非難中傷は受け流せばいい話だが、制止役に回っているはやてですら、顔に苛立ちが見え隠れしている状態で、周りの沸点はそろそろ限界になりつつあった。

 こちらの情報は事前に調査を終えていたのか、各々の癇に障るポイントを見事についてくるため、ひたすら冷静であろうとしている大翔自身も、心がささくれ立ってくるのを自覚していた。

 

(相手の冷静さを言葉だけで奪い取っていけるって、戦う時とか非常に有効だろうなぁ……日常生活にはかなり支障をきたすだろうけど。煽りの才能って、なぁ)

 

 こんな風に少し抜けたことを考えて、毒っ気を流すことに務めていた。

 

『本当に限界なら、呼びなさい。こちらもこの地に身を落ち着けるための大事な話ではあるけれど、そいつらが厄介な連中なのは、疑いようが無いから』

 

 プレシアがどうにもこの侵入者達を元々知っている節があったが、彼女は彼女で、バニングス家、月村家の両親に捕まっている状態。念話でいざとなれば割り込むと伝えてくれているが、両家の両親も普段は多忙な身であるため、後ろ盾になる人達との関係はしっかり築いて欲しいという大翔の希望もあり、自分で対応できる限りは何とかするつもりだった。

 

(本当に力尽くで黙らせるわけにも……どうする)

 

 風呂場で似たような発言をして死に掛けたというのに、本当に自分を曲げない人物のようである。緩やかな協力関係どころか、敵対関係へ一直線の状態だ。

 

『マイスター。いいでしょうか』

 

 そんなタイミングでの、珍しいヘカティーからの念話。インテリジェントデバイスの彼女も主の意思を尊重する思考のため、自分から発言をするのはあまり無いことだ。

 

『力尽くと言っていますし、マスターの心理操作能力で黙らせては?』

 

『!……俺も苛々して、頭が回ってなかったな』

 

『マスターとの契約を果たしているのは、アリサとなのはのみ。マスターと別室に少しの間だけ移動すれば良いかと思います』

 

『話が進まないし、やはりそうするべきか。アリサはもう顔に出てきているし、すずかもそろそろ能面のような表情になってるしな。自分への煽り発言はしっかり流してるのに、俺への挑発行為に反応してどうするんだよ……』

 

『マスターやアリサにとって、自分が傷つくよりも、貴方が虐げられたり侮辱されるのが耐えられないのは当然ではないでしょうか。私も良く知る、どなたかにとても似ています』

 

『……む』

 

 すずかは元来の性格、アリサも自己制御の訓練成果により、自分への挑発行為は受け流せていても、想い人への侮蔑行為を黙って見ているのが難しかったのだ。その想いが自分にとって大切なものであればあるほど、どうしても圧し留められない気持ちが溢れてきてしまう。まして、その人の影響を受ける彼女達であるからこそ、怒りを覚えるポイントも似てくるというもの。

 

『しっかり襟を正して、範を示し続けなければ、ということかな……』

 

『驕らず、自分をしっかり振り返りながら進んでいけば良いのかと。道を外れかければ、止めてくれる方達がいます。私も及ばずながら、その一つであろうと思っています』

 

『うん。頼りにしてるよ、ヘカティー』

 

『……では、話を戻します。指示としては、私達との会話時に、煽りや挑発的な言動は出来ない……程度の指示で十分でしょう。ただ、彼女は遺伝子操作でもされているのか、創造主から冷酷さや遊び心を強く継いでいます。その辺り、どの程度心に負荷がかかるかによりますが、流石に壊れはしないかと』

 

 ヘカティーは元々、皇貴のデバイスとして造られたため、物語の歴史面についても、彼と同様の知識を保持している。

 

『ヘカティー達から元の性格そのままなら、そもそも協力態勢を取ろうなんて、絶対に言わないタイプにしか見えないからな』

 

 大翔は立ち上がり、クアットロを強引に担ぎ上げる。160cm前後の身長の彼女を、130cm程度の少年が両腕で持ち上げているのは、傍から見ればなかなかにおかしな光景であるのだが、周りにもそれを突っ込む余裕は無い。

 

「よし、それじゃ、力尽くと行こうか。すずか、アリサ、ついてきて。皇貴、ユーノ、すぐ戻るから、まだ皿とか下げないように頼むわ」

 

「はい、ひろくん」

 

「はいはい。何か思いついたのね」

 

「なっ、何をするのよぉ! 離せ、離しなさいぃ、この変態さん~っ!」

 

 温泉宿で味わえる料理の数々を、少しでも落ち着いて食べられるよう、もう一踏ん張りしようと、トーレや大人達にも、別室でOHANASHIしてすぐ戻ると伝えた上で、大翔達は素早く移動を開始。酔いが回っているトーレも『曲がった性根を直してやってくれ』と軽口を叩く始末で、クアットロへの援護は無い状態だ。

 部屋を移る間に、クアットロを目線を合わせたすずかが『声が出せない』と暗示をかけて、変に喋られないように干渉を済ませて、客室へと移動を済ませる三人であった。

 

「驚いてるみたいだね。魔法でも無いのに、念話も含めて、全く話せなくなってるだろ?」

 

 目を白黒させながら、クアットロは慌てた様子で、首を前後に振っている。

 

「もう一つ、指示を入れさせてもらうよ。すずか、『こちら側との会話をする時に、煽りや挑発的な言動は出来ない』指示を。それが終われば、口封じを解いて構わない」

 

「手緩いなぁ……でも、ひろくんらしいね。すぐ終わるから、待ってね」

 

 くすりとすずかは笑みをこぼし、クアットロの両頬を持ち上げ、目線を強引に合わせて、朱く発光したすずかの両目は、相手の心を捕えて離さない。放心した表情に変わった彼女へ、心理操作による干渉を再度行っていく。

 皇貴やリーゼロッテを含めて、幾度か能力を使っているのに加え、『大翔のため』という大義名分を手に入れたすずかは、力を使うことを恐れなくなっており、『お願い』を全力で遂行していった。

 

「終わったよ。あとは『月村すずかの特殊能力を他言出来ない』のは必要だし、『今日寝るまでの間、大きな声を上げられない』という条件も追加したから」

 

「ありがとう、すずか。いつも助かるよ」

 

「えへへ、これくらいひろくんのためだもん」

 

 苛立つ言動を封じ終え、大翔にご褒美とばかりに頭を撫でられるすずかは、あっさり怒りが収まりつつあった。自然と、瞳の輝きも黒目の状態へと戻っている。

 

「アリサも、ありがとう。俺の為に怒ってくれて、それに、ギリギリまで耐えてくれて、ありがとうな」

 

 また、アリサにおいても、その労をねぎらい、身を屈めて差し出した頭を迷わず大翔が撫でたことで、随分と煮え滾っていた心が落ち着いていった。

 自分でも現金なものだと、頭の片隅でアリサも思うのだが、心と身体が弾むような感覚を強く感じて、惚れた弱みよね、とあっさり納得してしまう。

 

「そうよ、アタシだって日々頑張ってるんだから。無茶ばかりする誰かさんを助けようと思ったら、感情のままに動いてばかりいられないわよ」

 

「……まさか、ニコポやナデポ……? しかし、調査ではそんな力はぁ……」

 

 やっと言葉を取り戻し、呆けていた意識が戻ったクアットロの呟きに、呆れた調子でアリサが答える。

 

「別に洗脳なんてされてないわよ。大翔に命じられたからって、人を殺せとか、徹底的に相手の人格を攻撃するとか、そんなイカれた頭にはなってないから」

 

「ふふっ、私はひょっとしたら怪しいかな? ひろくんになら洗脳されても構わないって思っちゃってるし、それも幸せかもって考えちゃう。ただ、ひろくんはそういうのが好みじゃないというのも分かっているし、自分が大切な人だからこそ、止める時はしっかり止めるよ」

 

「あえて突っ込むけど、むしろ、すずかが最近は止められる立場だと思うわよ?」

 

「そっ、そうかもしれないけど……」

 

「まぁ、大翔が自制してくれてるから、何とかうまく回ってるわけ。アンタが言う通り、大翔がロリコンなら、とっくに私達に手を出しているだろうし。日常にももっと影響が出ているんじゃないかしら」

 

 クアットロは、口に拳を当てる仕草をしながら、少し考え込んで、自分で何か納得したのか、一つ頷いた。

 

「ひとまず、信じておきます~。いやぁ、余計な言葉無しで、話が出来るっていいですよね~」

 

 口調を聞く限り、すずかの干渉による、心身への影響はさほど見られないようであった。

 

「あまりこの部屋に長居は出来ないでしょうからぁ、月村さんありがとうございますぅ、先に伝えておきますねぇ」

 

「……やっぱり、影響出たんだね、可愛そうとは思わないけど」

 

「いえいえいえ~。詳細はまた後程と思いますが、私もそちらの空知さんと似たようなもんでしてぇ。だから、かえって助かった感じなんですよぉ」

 

 すずかの懸念は問題ないというクアットロであるが、『大翔と似たような存在』ということは、新たな問題が目の前で起こっているということ。

 

「偶然と言うにはぁ、神様って奴の作為的なものを感じますが。この身体に組み込まれた性質に引っ張られずに話せるのは、嬉しいですよねぇ。あぁ、でも、この間延びした喋り方は、もう変えられないのかも~?」

 

「……前世の記憶持ち、か。大翔を含めて、これで四人目?」

 

「バニングスさんの言う通りですねーぇ。とにかく元の記憶を頼りにぃ、海鳴の調査は早めに進めていまして、空知さん達を見つけたわけです~。あ~、まともに喋れるってこんなに幸せだったのぉ~?」

 

 何やら感動を噛み締めながら、さらっと監視対象だったと告げるクアットロ。すずかとアリサは触れていた大翔の手が強張るのを感じて、驚きに飛び出しかけた言葉を引っ込めていた。

 転生者が多数介入する事態。あの事務官が言っていたように、これも変化を楽しむための一つということだろうか。すずかやアリサがあるべき世界が、自分のせいでどんどん歪んでいくように感じて、大翔の顔はほんの一、二秒、苦々しげに歪んだ。二人はしっかりとその様子を確認しており、互いに大翔の手を取り、ぎゅっと力を込めていく。

 

『ここにいるよ、私は。離れないから、私は』

 

『辛いなら辛いってちゃんと言いなさいよ。それぐらい、あたしだって出来るんだから』

 

 記憶持ちと言う言葉に反応した大翔が、苦しげな顔をした──二人は反射的に動いていた。手を握るだけでなく、温もりが伝わるようにピタリと寄り添って、空いた手は彼の腕や背中に当てながら、念話で声をかけていく。

 なにか感動の真っ只中にあるクアットロは反応が遅れており、こちらの瞬間的な行動には気づかずにいる。

 

『見当違いのことを言っていたら、ごめんね。ただ、そんな顔をするひろくんを黙って見ていられない』

 

『あたしは、アンタの力になりたいの。だから、少しは頼りなさいよっ』

 

 健気な二人の元気づけに、自分が歪めたと思っている二人に支えられ、じんわりと心が温まるのを感じながら、自分の脆さに心の内で苦笑いする。

 

(顔に出るようじゃ、ほんと、まだまだだ)

 

『……ありがとう、二人とも。さて、語り足りないみたいだから、もっと話させてあげよう。皇貴やユーノにはもう少し時間を稼いでもらうとしてさ』

 

 二人に感謝を伝えると、アリサとすずかは寄り添ったまま、ひとつ頷いた。自分も頷きを返しつつ、大翔は再び口を開く。

 

「なるほど、それで俺達らは事前に調べられていたわけだ……」

 

「驚きましたよぉ~、あくまで一般人のはずだったバニングスさんや月村さんが、魔法の素養が無かったはずなのに、既に推定Bランクの魔導師さん。空知さんが凝り性なんですかねぇ、デバイスも細かく改良して、個々に合わせて常に最適化を図っていらっしゃいますしぃ。適性無しから、十分な戦力となる魔導師を育てる能力──私達にしてみれば、管理局に与されては堪らないと考えているのでーす」

 

「調査してるというなら、管理局嫌いなのも知っているだろう?」

 

「貴方が、呆れるほどのお人よし……封じられる前の私ならば、放送禁止用語を並べ立てる勢いでしたねぇ、なので、巻き込まれるパターンもあると考えていましたぁ」

 

 ああ、否定できない。そう、すずかとアリサは感じた。

 切り捨てるというならば、管理局に関わる可能性が高いなのはやフェイト達とは距離を置くべきだ。皇貴に至っては記憶を奪った後は、こちらへの干渉だけを封じ、勝手にさせておくに限る。

 

(非情になれない、なりきれないひろくんを私は愛おしいと思うけど)

 

(大翔の性格上、いっそ圧倒的な力が必要かしら。魔法至上主義のその組織がこちらに干渉を躊躇うほどの、大きな力……まぁ、すぐにどうにかなることじゃないわね)

 

「なのでぇ、闇の書含めて、力をお貸ししようと思いましてぇ。交換条件としてはぁ、互いの訓練成果とか戦闘記録の交換と、私達の敵に回らないで下さいってことでぇ……高町なのはやフェイト・テスタロッサ、八神はやてが管理局に入るのを止めてくれるとより助かりますが~」

 

「フェイトはおそらく、アリシアやプレシアさんの意向も考えると、大丈夫だと思うけど……私達と言うなら、貴女の組織でいいのかな、それについても説明してもらわないと」

 

『闇の書? あのはやてって子の潜在魔力はとんでもないとは思ってたけど……』

 

『詳細は後で説明するよ。ここ最近話が一気に進み過ぎて、俺も整理し切れてない』

 

 会話を続けながら、同時に念話をアリサに向けて飛ばす。元から知っている皇貴以外には、闇の書の詳細な話は、まだ、すずかにしか展開していなかった。

 

『アンタのことは信じてるけど、分からないのはもやもやするわ。どうせ厄介ごとでしょうし、ちゃんと話してもらうわよ』

 

『えっと、ひろくん。私が知る範囲で、アリサちゃんに説明してもいいかな?』

 

『……ちょっと。すずかだけ聞いてるってどういうことよ』

 

『毎日寝る前に、今後の心配事とか、少しずつ……』

 

『ふぅーん? なるほどねぇ、そう、なるほど、ふーん』

 

『あ、あの、アリサちゃん?』

 

『じっくり聞かせてもらうわよ、すずか。あ、大翔はそちらの対応に集中してくれていいから』

 

 そこで念話がシャットアウトされ、アリサはすずかをがっちりホールドし、すぐに二、三歩距離を空けて、恐らくは矢継ぎ早に、アリサが念話を飛ばしているのだろう。すずかがあたふたしながら、必死に対応をしている状態となった。

 離れた温もりにどこか寂しさを感じてしまった自分に、振り払うように首を左右に振る大翔を、クアットロは顔を緩ませながら見ている。

 

「もちろん、説明は必要と思って……あら、離れちゃいましたねぇ? んふふぅ、彼女同士の喧嘩ですかぁ?」

 

「いや、俺の説明不足だ。後でしっかりフォローしないとな……」

 

 思わず、立ち止まった大翔に合わせ、クアットロも足を止める。

 

「未来の美女たる美少女二人に、好意を寄せられる……男としては、冥利に尽きるのでは~?」

 

「すずかやアリサは……ああ、俺には過ぎた女の子達だ」

 

「なぁんか卑屈ですねぇ……調べていく中で驚きましたけど、とんでもないお嬢様達じゃないですか、あの二人。それこそ、生まれた時から親が決めた許嫁とかいそうですよぉ。その二人から伴侶候補に選ばれて、親御さん達も反対してないってすごいことじゃないですか~」

 

「……彼女達には釣り合わないよ。数年後には恐ろしく綺麗になるだろうけど、その頃には振られてるんじゃないかな。もっと似合いの相手がいるはずだ」

 

「……んー、そうかなぁ。まぁ、はい、いいですぅ。余談でしたしぃ。さて、こっちの組織って、ご存じなのではぁ?」

 

 首をひねりつつも、クアットロは話を戻す。先にするべき話が山のようにあるのだから。

 

「話に聞いてるだけで、それも偏った情報だと思うから」

 

「あれ? 歴史の流れとか、把握しているのでは~?」

 

「時系列程度だよ。詳細は『見てない』。元になるゲームはやってたけど、アニメは場面場面で見た程度で、それもせいぜい『1期』までだ」

 

「あら~ま。その辺りは調査不足でしたねぇ」

 

 なのはやフェイトよりも、すずかやアリサとの親交が深い理由を知ったクアットロであったが、逆にやりやすいのかもしれない、と思い直す。

 調査によれば、彼が管理局嫌いなのも、三権が分立しておらず、かつ、魔法至上主義という辺りにあると調べがついている。

 

(こちら側についてくれれば最高ですけどぉ……まぁ、まずは実績を重ねるとしますかぁ。煽りや挑発を封じてもらったのは、大変ラッキーでしたしねぇ)

 

「とにかくぅ、一人だけでも、ものすーごく助かります! あの銀髪君がどうにも、憎っくきクソ管理局志向ですから、もう一人お願いしたいところですけどぉ」

 

 すずかの心理干渉は、大翔達に対してのもので、例えば、管理局の連中であったり、他の者達への罵倒は問題なく思考に浮かべ、言葉でも内心でも、今まで通りに発言できる。クアットロ個人としては、それだけでも相当動きやすくなると考えていた。

 

「それなら、どん底にある印象を少しでもいいものに変えられるように頑張るしかないだろうな。貴女から依頼されたと知ったら、全力で反発しかねないぞ」

 

「あ、あはは……と、とりあえず、宴会場に戻りましょうかぁ。なにせ時間はある程度稼いでますからぁ」

 

「時間?」

 

「あの連中が来るのは相当遅れますので~。謎の次元震や次元断層が多数発生したため、この管理外世界に来るにはぁ、最低でも三ヶ月のタイムロスが起こってます~。多分、あの黒猫さんも主との連絡が取れなくなって、焦って……いや、むしろ、長期休暇のつもりかも~?」

 

 クアットロ側の画策によって、地球とミッドチルダ側の行き来は非常に時間が掛かる状態で、かつ通信もままならない状態であるらしい。高度な通信設備があれば別だが、携帯型の通信機器ではまず不可能だろうと、彼女は自信を見せていた。

 

「私は、直接的な戦闘能力は低いですからね~。情報操作とか、戦う前に勝つのを至上としてるんですよ~」

 

「その考え方には賛同するよ。実践はなかなか難しくて、常に実行出来てないのが情けないけどね」

 

「TOPと補佐役を一人でするのは、あまりに厳しいかと~。確かなのはぁ、腰を据えて、空知さん達は闇の書の処理に取り組めるということです~。私が交渉役で来たのも、情報処理や演算能力が高いということもあるんですぅ」

 

「……1ヶ月でどこまで進められるかな」

 

「覚醒までの期間が、という話ですからぁ、それなりに猶予はありますよぉ」

 

「なるほど。では、まずは腹ごしらえといきますか」

 

「その後は、ゆっくり温泉に浸かってから、やっていきましょう~。通信機を持ってきてますから、ドクターやウーノ姉様とも、後で話をして頂きたいですからぁ」

 

 まずは、山の幸、海の幸を平らげる……そのことを至上命題とする二人であった。




皇貴の原作知識=大翔+クアットロの原作知識、といった感じです。
この辺りは次回以降で。

三カ月ぐらいは平和だ~。ただし、はやての足の麻痺は進(ry

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