吸血姫に飼われています   作:ですてに

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さて、何のことでしょう。


無印&A's編
似た者同士


 「さて、帰るのは明日と言っても、早めに話は済ませてしまおう。こうして、なのはちゃんやすずかちゃんの両親と共に話をしっかり聞ける機会は貴重だと思うけれど、あまり夜更かしは良くないからね。あ、ヴィクトリアにはもちろん私から後で説明をしておくから」

 

 アリサの父・デビッドの掛け声で、会議が始まった。姿勢を正した格好の大翔達やクアットロの前に一列で座っている、デビッドやなのはの母・桃子にすずかの両親・征二と飛鳥。プレシアもそちら側に座らせられている。親側はこちらでしっかり子供達の説明を聞くのだ、ということで、彼女も強引にそちら側の一員扱いになっていた。

筆記役の忍と美由紀は側面に座り、何かあった際にすぐ動けるように恭也やノエル、鮫島にファリンが立ったまま待機している。

 

「大筋の話をしてくれれば、細かな疑問点は、私で答えられる範囲は補足するから。会議録をまとめる忍さんや、美由紀さんには負担をかけるけれど、宜しくお願いするわ」

 

 プレシアさんの言葉に大翔が頷くと、征二が続けて口を開いた。

 

「魔法関連の厄介事というわけだな」

 

 低く落ち着きを感じさせるデビッドの声に比べて、征二の声は青年に近い。ただ、名家の当主であり、企業経営を長らく務めている彼の声は、言葉の重たさや圧力において、デビッドとなんら変わるものではなく、大翔は自分の身体が緊張から硬くなり始めるのを感じていた。

 世界を股に掛ける優秀な経営者、代々続く名家の長。前世を含めて、そんな人達の視線を一手に集める経験など、そうあるわけでもない。

 

『何よ、このプレッシャー~!? 魔導師ってわけでもないんでしょ~う!?』

 

『何千、何万もの人の生活、あるいは何百年の歴史、それを背負う人達だからさ。といっても、俺も駄目だよ。強く意識しないと、勝手に身体が震えてくる』

 

 なお、そのプレッシャーを直接では無いにせよ、受けているクアットロも念話で悲鳴を上げていた。顔色はやや青白くなり、視線を上げることもままならない。ウーノ姉様が本気で怒った時と変わらないじゃない、とクアットロは大翔と大人達の話し合いの場に居合わせようとしたことを、全力で後悔の真っ最中であった。

 皇貴やはやて、ユーノ、フェイトやアルフも同様にその影響下におり、結果的に皇貴の暴走が防げているという一面もある。顔色を変えていないのははやてぐらいだが、彼女とて心の中で『これやばい、ちょっと洒落なってへんよ!?』と割と混乱の中にあった。

 

「たまらない、だろうな」

 

 誰にも聞こえぬ程度に口中で小さく呟いた、横手から見守る形の恭也も、忍との関係が正式に婚約関係になる際に、征二と相対しその圧力は体感済みだった。殺気の類とはまた違う、重たい責務を背負った上で、しっかりと任を果たしている者の瞳や言葉の力は、十分に身体を強張らせるものだと知っている。

 まして、大翔は二人同時。もちろん、両家の愛娘がそれだけ熱を上げ、親としてもしっかりその相手を見定める必要があるからだが、それでも溜まったものではない、と思えた。

 

「たまたま一同が揃ったということもあるが、私達にしっかり話しておかなければならない事態ということだね?」

 

 彼が異形の力──魔法を扱えるものであり、すずか、アリサ、なのはもその力に目覚めていることは、忍や彼から以前に説明をしていることであった。また、彼もまだ知らぬことではあるが、テスタロッサ一家が海鳴に拠点を確保するために、対価としての情報提供の一環で、プレシアがミッドチルダという魔法を基礎とした世界の在り様についても、ある程度説明を終えている。

 

「これまでは、すずかさんやアリサさんの身に危険が及ぶ事態については、守りきれる自信がありました。ただ、今回は俺自身、正直、どうなるか分からないというのが正直なところです。出来れば、彼女達には今回の一件には関わって欲しくなかった」

 

 少々顔色が青白くなっていても、大翔はしっかりデビッド達と視線を合わせて、言葉の震えなく、しっかり説明を始める。

 

「ただ、情けない話ですが、俺は彼女達が魔法関係者に狙われる可能性を、今まで想定していませんでした。護衛の皆さんが優秀であることは分かっていますが、対魔導師となると、為す術なくやられてしまう可能性が高い。いくら魔法防御の装飾品を展開しているとはいえ、ずっと耐えられる強度でもありませんから」

 

「すずかやアリサさんが狙われるというのは、どういうことかな」

 

「……私達が、もし敵対組織であれば、それを考えるから、ですぅ」

 

「ほう」

 

 征二の短い返答に、何とか言葉をひり出したクアットロも、とうとう声が出なくなる。大翔が補足をしなければと口を開けかけた時、プレシアが先に説明を始める。

 

「補足するわ。……私達が本来居住する以外の次元に住む人達は、魔法の才が無いことが殆どなの。それは、この地球のように、科学技術が発達していたり、そもそも大気に漂う魔力が薄いであるとか、色々理由はあるけれど。その中で例外的に、魔法の才能──『リンカーコア』と私達は呼ぶけれど、魔力を蓄える核を持っている場合、優れた術者に成り得ることが多い」

 

 頷きだけで続きを促す父親二人に、プレシアは水を一口含んでから、言葉を続けた。

 

「彼もそういう優れた術者に成り得る才を持っているし、さらに、今までのデータを忍さん達に見せてもらったのだけど、特殊技能を有している可能性が高いのよ。魔法研究で生活の糧を得てきた者の一人として、研究対象として非常に興味を引かれるほどに」

 

「私達も、組織で魔法の研究をしていますからぁ、次元を問わず、様々な魔法の事象を調査し、研究していますぅ。その中で、彼を見つけたので……」

 

 大翔の『融合』の力を、クアットロ達は監視の結果から、プレシアは大翔とすずかやアリサの魔力光とその属性から当たりをつけ、忍の収集していたデータの中から、答えを導いている。

 

「そちらの世界の悪い連中が、彼を手に入れるために、アリサやすずかちゃんを狙ってくる可能性を考えるということだね」

 

「理解が早くて助かりますわ、バニングスさん」

 

 デビッドや征二は瞼を閉じ、二、三秒思考に耽る。

 

「仮にその魔力の核を壊したとしても、一緒だな。君と、すずかやアリサさんとの関係性により、君の弱みに繋がるのだから」

 

 再び瞼を開けて、ニヒルな笑みを浮かべながら、征二は大翔を改めて見据えた。顔が笑っていようとも、その瞳は鋭く、大翔を真っ直ぐに射抜いている。

 

「大翔だけに守ってもらうつもりはありませんわ、征二おじ様」

 

「私達だって、ひろくんだけを危険に晒すなんて真っ平だよ、お父さん」

 

 生まれ育った環境から、そういう親の視線に慣れているすずかやアリサにせよ、身体にまとわりつく重たい空気はしっかり感じており、大翔にそれが集中していることも分かっていた。

 大翔だけに負担をかけてなるものかと、発言できるタイミングをずっと計っていた、すずかとアリサは大翔の半歩前に庇うように移動して、負けるものかと真っ向から、征二たちを見返す。

 

「一人で出来ることには限界があるよ。けれど、三人であれば、対処しきれない危険から逃げるぐらいなら十分に出来るから」

 

「後ろにいるこの子達も、休んでいるなのはにしても、魔導師としては十分一線級を張れる者ばかり。攻撃・防御・補助・回復と、得意分野も見事に分かれているわ。足りないのは修羅場をくぐった経験だわ。それなら、単独行動する方がよっぽど危ない。固まっていれば、皆で立ち向かおうという連帯感だって持てるもの」

 

「子供の理屈だよ、アリサ」

 

「そうね、パパ。でも、大翔と離れて問題が片付くことを願って過ごすより、近くで一緒に立ち向かうことを認めてくれるほうが、アタシやすずかはずっとパパやおじ様を好きでいられるわ」

 

「……もし、君達を隔離して、彼が諸問題を解決するまで引き剥がすとしたら?」

 

「隔離場所を破壊して、お父さんのことを一生嫌うと思うよ」

 

 ニッコリ微笑みながら、すずかは父親に止めを差した。途端にもう堪えきれないと、桃子や飛鳥が笑い声を漏らす。

 

「もう、恋する女の子は強いわね。私達がどう言おうと、大翔くんから離れるつもりはないって宣言しているんだから」

 

「貴方。娘に嫌われるよりも、認めた上で、こちらでも取り得る安全手段を多く取るべきだと思うわ。すずかは私達の娘よ。一度、決めたら曲げることはないわ」

 

 どうにも母親達は、初めから子供の味方というところであるようだった。就寝中のアリサの母にも酔い潰れる前に、方向性で同意を済ませており、三人の母親は最初からそのつもりだったのだ。

 

「大翔くん。危険性が増したとしても、貴方はすずかやアリサちゃんを全力で守ってくれる。そのことに変わりは無いのでしょう?」

 

「はい、飛鳥さん。俺の命をかけ、あいつっ!?」

 

 父親二人は捉えていた。澱みなく答えようとした大翔に対して、恐ろしい速さで動いた二人の手が、彼の臀部を思いきり捻り上げる仕草を。

 

「命は駄目、って言ったよね?」

 

「腕も足も駄目よ。五体満足で、アタシ達も含めて、皆を守り切って頂戴。そのための力をアンタに預けるんだから。はい、言い直し」

 

「……飛鳥さん、俺の全力を持って、二人をこれからも守り続けます。つぅ……」

 

「ええ、信じていますよ。……ふふっ」

 

 妻達は笑っているが、あれはものすごく痛いだろうと、父親二人は思う。涙を少し浮かべながらも、しっかりと言い直した大翔に、満足そうに頷く娘達。ああ、彼もどちらを選ぶにしても、自分達と同じ感じになるのか。手綱をがっちり握られる様に親近感を覚え、もう少し私的な場では優しくしてもいいかなと考える父親達であった。




説明回が続きますが、すずか様やアリサは通常運転なのでご安心ください。
少しでもいちゃこらをぶち込まないと勝手に動き出すのです。

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