吸血姫に飼われています   作:ですてに

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前回までのあらすじ:前世の伴侶、紗月が憑依したことにより、アリシアは息を吹き返していた。
フェイトを伴い、大翔を訪ねてきたアリシアを追って、プレシアまでやってくる。
ひとまずの和解を果たし、はやてを巻き込みつつ、養生に向かった海鳴温泉で今度はナンバーズがやってきた!

転生クアットロさんにより、一同はタッグを組み、闇の書対策に身を乗り出すことになる。
なお、ドクターは温泉に嵌った模様。


*******

……大変お待たせしました。
独自解釈が入り混じってますが、許容頂けると幸いです。


対策のはじまり

 「!……出来たよ、ひろくんっ」

 

「おっ、これで三連続成功か。頑張ってるね、すずか。10回中7回は成功するし、魔石作りはある程度お願い出来そうだね」

 

「良かった、ひろくんの負担を少しは減らせるかな。使い切りの防御魔法を埋め込む、護身用のペンダントの作り方を何回も近くで見せてもらっていたから、そのお陰だよ」

 

 ヴォルケンリッターやスカリエッティ一行が合流してから、しばしの日数が流れ、大翔達は『闇の書』対策に動き出していた。

 防衛プログラムと管制人格の分離、その後の防衛プログラムの封印、あるいは完全破壊。目標としてはシンプルだが、その為にやるべきことは山ほどある状況。ただ、その準備そのものについて、道筋を立て、到達目標を明確にしてくれるプレシア達の存在があり、彼らは一つ一つ、歩を進めていたのである。

 

 なお、道筋やプランを立てる部分については、なぜか海鳴に当面の滞在を決めた、スカリエッティ一行も協力を申し出たため、一晩でやってくれましたまではいかずとも、非常に短期間で行動計画が出来上がっていた。

 クアットロが大翔達への協力を申し出たことで、彼女本人の滞在はそうそうに確定していたが、父親たる彼の気まぐれで、家族まるごと今回の計画に協力をする話となったのである。

 

「……お見事ですねぇ、すずかさん~」

 

「ふふっ、頑張りました」

 

「デバイス作成は大翔さんにお願いする感じになりますから、負担が減るのは何よりですよぉ。ドクターにやらせると絶対にブラックボックス化しそうで、ちょっと任せられないんですよねぇ」

 

 闇の書対策の一環として、最終的に管制人格を移行させるためのデバイス造りを行う必要が出ていた。

 ただ、デバイス造りにあたり、プレシアやスカリエッティ、機械工学が専門である忍、当初の作成目的から、簡易無限書庫の一面を持つヘカティー、幅広い知識を持ち、様々な補助が可能なユーノ……皆の英知と情熱と技術や知識顕示欲等々、惜しみなく自重なく表現された設計が反映されてしまい、この時点でデバイスの処理能力は恐ろしく高いものを求められることになってしまった。

 加えて、管制人格の移行のため、インテリジェントデバイス化は必須となれば、核となるコアはそれこそジュエルシードに近い出力が必要という笑えない計算結果が出てしまい、一同の中で一番デバイス作りに慣れている大翔が、四苦八苦するという形が出来上がってしまっている。技術は確かなスカリエッティは信頼性が無いので、全会一致で作成担当からは外されていた。

 

「ふぅ……こっちもなんとか成功したわよ。しっかし、この魔石を何百個単位で融合しないと、望むコアの大きさにならないってのも大変な作業よねぇ。微弱な一定の強さでずっと魔力を注ぎ続けるって、どうにも苦手だわ。アタシも半分ぐらいしか成功しないし……作るのも大変、融合する作業も精密作業だし、失敗したらコアが壊れるんでしょ?」

 

「うん、だからまだ試作段階なんだ。一つ融合するたびにどの程度コアが大きくなるのかデータを集めてる状態だ。ただ、集めること自体、管理局に目をつけられるようなレリックを集めるよりは、こっちの方がよっぽどいいさ。自分達の努力次第で出来るんだから」

 

 インテリジェントデバイスの中心核に採用する、強力な人工リンカーコアの作成。作成方法は、スカリエッティから先に示されていた。

 

 元々は人造魔導師を造り出す技術の応用で、ミッドチルダでは違法とされるもの。ただ、今回は大翔やユーノや、魔力総量を増やす訓練の一環でアリシア等が、体内で小さなリンカーコアを複製し、シャマル達に『蒐集』能力を使って取り出してもらっては、そのコアに魔力が込められたエネルギー体を、必要な大きさまで繰り返し融合していく──といった手順が取られている。闇の書自体に蒐集したコアを与えるわけでは無いので、取り出す分には、シャマル達が何度でも手伝えるのである。

 レリックと呼ばれるような高エネルギー体、例えばジュエルシード等であれば、一つ融合出来れば、実用に耐えうるコアの出力を満たせるが、そういうレリック等は個人で持つこと自体が禁じられるレベルのもの。ゆえに、小さなエネルギー体を繰り返し融合していく手段を取ろうとしていた。

 余談であるが、自分のリンカーコアとジュエルシードを融合してしまった実績のある大翔は、エネルギー体を手に持つ際に、膜のような障壁を張って、直接持たないように徹底するようになっているが、大翔自体がある種の人造魔導師状態である。

 

 そんなやり取りの中で、うっかりシャマルさんが大翔に魔力を注いでしまって、大翔が風の変換気質まで取得し、彼女が熟達している『蒐集』技能を覚えて、自分で複製したリンカーコアを取り出そうと思えば取り出せる──複製部分とはいえコアを取り出す自体、痛みと疲労感をもたらすため、自分でやることはあまりないが──など、ますます彼のマルチ化が進んだという事件もあった。ただ、闇の書対策の流れの中では大きな問題にはならず、スカリエッティが研究対象として、大翔への興味を増したぐらいであろうか。

 

「魔力制御の訓練になるのは分かるわよ。ただ、なのはとか、成功する回数が少ないのを見てるとねぇ……」

 

 なお、『魔石』と彼らが呼ぶのが、その魔力が込められたエネルギー体のこと。大翔が使い切りの防御魔法を込めたペンダントなどを作成する技術の転用で、忍の協力のもと、原料となる鉱石を集めては、魔石づくりをすずかやアリサだけでなく、他の者達も鍛錬を兼ねて行っていた。

 大翔が作成する護身具を販売する担当である忍は宝飾業者との繋がりを持っており、その伝手を使って、売り物にならない宝石の原石等を大量に集めて、提供してくれていた。その甲斐あってか、落ちる一方だった彼女の評価は幾分持ち直している。

 

「エネルギー体の融合はドクターが作り上げた技術ですから、私も手伝えるんですが、そのエネルギー体作成、えっと魔石づくりですけどぉ、リンカーコアのない私には出来ないですからねぇ……」

 

 大翔は別として、成功率が高いのはすずか以外にユーノ、シャマル。すずかに対抗心を燃やし、ムラのある自分を必死に制御するアリサや、忍耐強さでは抜きん出ているザフィーラや、辛抱強い性質のフェイトが続く。なのはやヴィータ、シグナム達は爆発力に長ける分、こういう部分はやや苦手といった様子。

 アリシアは元々の魔力総量の兼ね合いで、クアットロの言う通り、ナンバーズについては魔力で稼働しているわけではないため、参加できない状況だった。

 

「クアットロさんじゃないけど、私も魔力総量が無いから、鉱石に必要な魔力を注ぎ切れないもんね。ひーちゃんの役に立てないのは悔しいけど……」

 

『いずれはフェイトにも負けないぐらい増えるよ! ただ、時間はかかる体質だから……そう、力を貯めているだけだから……』

 

「念話で震え声とか器用ね、アリシアは」

 

 本人の言う通り、魔力総量が低いアリシアの作る複製リンカーコアは、ビーズ程度の大きさであり、もっぱら大翔やクアットロの魔石融合練習用に使われている。

 本人や、すずかやプレシア達との相談の元、アリシアにも定期的に大翔の魔力付与を行い始めているが、彼女の元々の資質もあって、限界総量の増え方は緩やかで、まだミッドチルダの一般人の枠を出ない。

 プレシアの血筋と薫陶により、制御能力は短期間で著しく強化され、一つの身体に二つの意識があることで起こる体調急変も、並列思考の会得が進んだことで、デバイス作成の補助には入れるようになってきているため、アリシアの魔改造も順調に進みつつあった。

 

「あー、また失敗したのーっ!?」

 

「こういうちまちましたのは苦手なんだよっ、ああっ、くそっ!」

 

 スカリエッティが提案しながら、自分達で今まで実行しようと考えなかったのは、彼らの戦闘力や持ち合わせる技能を考えれば、レリックと呼ばれるような魔力の高エネルギー体を集める方が早いというだけのことである。

 ナンバーズにせよ、リンカーコアで動いているわけではなく、デバイス作成技師ならまだしも、戦闘担当者が多い彼らからすれば、エネルギー体の自作は非効率と判断していた。

 

「割れたね」

 

「パリーン、っていい音がしたわ」

 

 視線の先には悔しがる様子のなのはやヴィータ。無言で固まっているシグナムもどうやら失敗した様子だ。その傍から出来上がった魔石を両掌に乗せて、トコトコと近寄ってくるフェイトが笑顔を浮かべていた。

 

「お姉ちゃん、また出来たの! 二回に一回は成功するようになったよ!」

 

「おー、流石私のフェイト!」

 

『やっぱり私の妹は優秀だよー。姉として鼻が高いねぇ』

 

 こんな感じで、本日は参加者が多かったりするが、普段は作業の協力と、魔力制御の鍛錬を兼ねて、すずかとアリサ、アリシアが日常的にこの『魔石』造りに携わっていた。作業の手伝いをすることで、堂々と彼と過ごせる時間を確保するすずかに、意図に勘付いたアリサもアリシアを巻き込んで参戦したといったところだが、学校や習い事等の時間に影響を出すこともなく、気づけばすずかもアリサもアリシアも大翔の近くにいるという、彼らにとっての普段通りの日常を演出していた。

 

「あれだけ見てると効率が悪いとも思っちゃうけど……ジュエルシードみたいな危険物を集めるより、多少、時間がかかっても自力で確実に出来るほうがアンタの好みだものね、大翔。努力次第で、その時間も縮められるわけだし」

 

「そういうこと。すずかにしても、アリサにしても魔石作成の成功率は高いし、クアットロさんがコアへの魔石の融合を手伝ってくれるから。期限が決まったら、いざとなれば、ニ徹三徹すれば何とか……」

 

「……ねえ、ひろくん。そろそろバイオリンのお稽古の時間だから、一旦切り上げてもらってもいいかな? 根の詰め過ぎは良くないよね?」

 

 凄味のある笑顔で大翔の話に強引に割り込むすずか。徹夜なんてさせませんよ、と目が雄弁に語っていた。

 

「お、おう」

 

「あ、あれ? わ、私もですかぁ~?」

 

「音楽を聞いてリラックスする時間も必要よ! ほら、アリシアも、ちょうどいいわ、フェイトも私達の護衛兼ねて行くわよ!」

 

 そして、アリサの勢いに巻き込まれ、クアットロやテスタロッサ姉妹も、お稽古の現場へと連れ去られていく。

 こうやってのめり込む性質の大翔は、日常生活に滞りなく引きずり戻されることにより、デバイス造りに没頭するだけの生活を回避しているのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

「くくく、あの様子だと、スノーホワイトやフレイムアイズのより高性能なインテリジェントデバイス化が出来るのは、当面先の話になりそうだねぇ」

 

 大翔達に馴染んでいる、そんなクアットロをドクター達は遠目に見守りつつ、彼らも大翔の異質さを口にしていた。

 

「そもそも、リンカーコアへのエネルギー体の融合は、間違えれば魔力の暴発が起きかねないものですしね……。クアットロは機器を使用しますから別としても、いくらドクターが理論を説明し、映像で機器の実動作を見せたとはいえ、ああも自分のモノと出来るのでしょうか」

 

「『探究者』なのさ、彼は。自分の血肉にすると決めれば、何十、何百回と繰り返すことを躊躇わないし、ほら、『うっかりシャマル』くんが、蒐集の一環で自分の魔力を彼に注いでしまったことがあったろう。あれで、風属性の変換気質や、補助魔法の効率的な使い方を自分に取り込んだんだろうね。彼の稀少技能自体が、私の人造魔導師研究の成果と同じようなものだ。飽きないね、彼は。観察し続けることで、私の研究はより進化するだろうし、新しい可能性を見出すことも出来ると思っているよ、ウーノ」

 

「敵に回すと厄介でしょうしね。この一件が片付いた後も、クアットロを継続的に接触させてもいいのかもしれません。あの子の情緒も安定してきましたし、このまま親しくなれれば、クアットロもあるいは……」

 

「うーむ、淡い期待だね。それに万が一、そういうことになれば、クアットロは彼の側についてしまうのではないかな」

 

「あの子が私達を裏切ることも、また非常に考えにくいことです。ドクターを中心とした『家族』としての在り方に強く拘っているのですから」

 

「ふふふ、どう転んでも、それはそれで楽しみになるさ。まぁ、しばらくは、あの海と街並みを一望できるマンションと、私達のラボを繋げる転送装置も設置出来たことだ。彼の協力があればレリックを集めなくても、多少時間をかけることで、リンカーコアの強化素材は手に入る。鉱石集めは管理外世界等で積極的に集めてもいい。レリックを手に入れるよりはよっぽど簡単な仕事になる」

 

「チンクやディエチ、セインもまもなく合流しますしね」

 

「純度の高い鉱石を狙って集めるのは難しくても、仕分けは私でやればいい。数だけはあの子達が集めてきてくれるだろう。ふふふ、裏に潜める期間が長く出来るほど、反逆の狼煙を上げた時の火柱が高く高く燃え上がるからね。うーん、優秀なデバイス作成者を一人攫って洗脳して、彼の技術を叩き込むのも悪くないが……」

 

 潜める方がいいと言いつつ、すぐに管理局にマークされそうな考えを口にするスカリエッティに、ウーノは近々、大翔やすずか達、クアットロを交えて、こっそり相談しようと決めた。

 スカリエッティ第一な彼女だが、しばらくのんびりする期間も欲しいと本気で願っている。

 

「これからきっと、もっと面白いことになるさ。温泉は週に一度は浸かりたいしね、ハハハ」

 

 そう、彼の言う通り、週一に温泉に浸かり、高層マンションから海に沈んでいく太陽を眺められる日々をそう簡単に手放すわけにはいかない。家賃要らずという、素晴らしい環境をそう簡単に手放してなるものかと、一家の財布を守る長女は強く決意を新たにしていた。

 

「……しかし、敵対する相手の魔法を食らったら、その魔法を覚えられるなんてことにはなったりしないのかな。ほら、今は友好的な相手との魔力のやり取りや、回復魔法のような直接干渉が無いと、相手の技能を複写できないそうじゃないか」

 

 次元震を意図的に起こしているスカリエッティは、その影響を受けない移動ルートも確保済というわけであった。次元震の影響分布データを提供したプレシアも、時の庭園と貸与を受けているマンションを繋げる直通ゲートを作成しており、研究データであったり、訓練相手用の傀儡兵を補充に行ったりと有効活用をしている様子である。

 

「……それはもう、融合では無くて、吸収能力だと思います、ドクター」

 

「なんにせよ、彼の血や細胞は欲しいねー。心行くまで解析してみたいもんだ」

 

「完全に敵に回すと決めた時にして下さいね。直接、相手をするであろう私達はたまったものではありませんから」

 

 内心で相談を一刻も早くしなければと、優先度を一気にあげるウーノ。しかし、顔には出さない出来た秘書役でもあった。彼女は思う。この管理外世界は、潜伏場所としてこの上ない場所である。彼らとの協力関係は、そう簡単に切り離すべきではないと。

 

「髪の毛頂戴って言ったらもらえないかな?」

 

「そこまでの信頼関係を築いてから仰って下さいっ!」

 

 少しだけ怒気を込めた長女の正論に、お手上げの仕草をしながら、どう転んでもしばらく退屈はしないかとほくそ笑むスカリエッティであった。




ウーノさんは一家の大黒柱。苦労人。


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