吸血姫に飼われています   作:ですてに

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作者も楽しんで書くことを重視していたら、自然と日常回になりました。

すずかとのやり取り7割、ストーリー3割みたいな。
そこにアリサが頑張って割り込む感じ。

一番の目標は中学、高校時代を書きたいので、牛歩ながら進める所存です。


ちょっとした変化

 大翔に技能譲与を果たしたその日の晩、ウーノはスカリエッティへ本日の報告を伝えていた。

 

 プレシアたちの手により、転送装置を会議室用途の一室やバニングス・月村・高町・八神家の庭に追加設置し、移動の手間を減らしたことで、夕食もどこかの家なり、マンションの一室に集まり、大勢で食事を取ることも多い。

 今日もノエルやウーノの作った食事に舌鼓を打ち、各家に解散後、こうして私室に戻ったスカリエッティは、リクライニングチェアにゆったりと身体を預けながら、ウーノの報告を聞いている。

 

「しかし、ウーノ。良かったのかい、君の仮説は証明されたが、君の技能も唯一無二のものではなくなったわけだが」

 

「笑いながら言われましても。ドクターも大した問題ではないと考えておられるじゃないですか」

 

「まぁね。レアスキルを複写できたとしても、本来の使い手のように使いこなせないのは予想通りだったね」

 

「技能を生かすための基礎的な能力──私の場合ですと、高速思考や情報処理ですね、そして、技能自体への熟達の差が大きいですから。先天的に自分の技能として当たり前に使っている私と、後天的に身につけるのでは、同じ技能でも効果に差が出ますから」

 

 能力使用時に大翔達に起こる頭痛が、当然ながらウーノは発生しない。その辺りが複写する側とされる側の差の一つとして現れていた。

 

「彼ならいずれ、私と非常に近しいレベルで使いこなす時も来るでしょうが、それもオリジナルである『融合』技能があるからでしょう。受け容れる技能への同調率補正がかかっていると思います」

 

 技能への熟達度を深めていくことで、『フローレス・セクレタリー』の効果をより高めることは出来るだろうが、すずかやアリサ、マンション到着後に改めて受け取ったアリシア達では、当面、マルチタスクをより効率的に使いこなせるようになったというところだろう。

 すずか達が自分達の許容量を超えそうだと判断したことで、シルバーカーテンの付与も当面延期にする結論を出していた。変換気質も種別によって使いこなすレベルまで行っていない現状、既存の技能をしっかり身につけようと、大翔から付与を受ける三人は考えている。

 

「となると、彼はいずれ私達の脅威になるんじゃないのかい?」

 

「ふふ、多分大丈夫です。彼の大切な人達やこの街に害を及ぼさない限り、味方にはならなくても、敵に回ることはありません」

 

「ふむ……私には見えない何かを、ウーノはつかんでいるようだ」

 

「彼も、『家族』や家族の居場所を、とても大切にしているだけですよ、ドクター」

 

「む……」

 

「それに、彼は恩は恩としてしっかり返そうとする性格のようですから。私はいい友人になれると思っています」

 

 スカリエッティへ、アリサから分けてもらった紅茶を入れながら、微笑みを浮かべるウーノの姿は確かな母性を思わせるもの。そんな娘の横顔を見たスカリエッティは珍しく言葉を発することなく、静かに娘の淹れた紅茶を楽しんでいた。

 

「そういえば、クアットロはその彼らのところかい?」

 

「ええ、入浴時間ギリギリまで、大翔さんの検証に付き合うとか。自分と私の技能が合わさった時にどうなるのかを、直接確認したいと言ってましたね」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 「どんな感じです?」

 

「これはいい感じですよぉ! 幻影だけが検知できて、本体は捉えられてないですからねぇ~。対集団戦でも、非常に役立つんじゃないでしょうか~」

 

「不思議だね、あっちのひろくん達もハッキリ見えるし、レーダーにもハッキリ出ているのに、全て幻影なんだよね」

 

「ステルス範囲の調整も出来るって便利よ。こうやってちゃんと触れられるし、見えている大翔本人がレーダーには映らないわけだし」

 

 レーダーを覗き込むクアットロ、すずかとアリサ、そして、大翔(本体)。その本体自体はレーダーに捉えられていない状況だった。なお、アリシアは既に一足早い就寝タイムとなっており、既に自室へと戻っている。……抱き枕代わりのフェイトと共に。

 

「幻術魔法と似たようなものだから、解析出来るんですよね?」

 

「そうですよぉ。ただ、能力を発動させて、視認範囲を私達三人に絞っただけですからぁ、解析が得意なオペレーターなら最短で五分ぐらいで何とかできるでしょうか~。ですが、発動する幻影に解析魔法への干渉機能を付与するなど、対策は打てますからねぇ。ただ、魔力の消費は段違いになりますぅ」

 

「魔力総量は限界近くまで使わないとなかなか上がらないから、ちょうどいいかもしれない。プレシアさんの魔力付与を受けてから、模擬戦でもしないと使い切るところまで行かない日が多かったし……よし、早速」

 

「お~、簡易な解析魔法はバシバシ弾いてますね~。解析手法を増やしてみてっと、おお、これも受け付けませんか、いい感じですね~」

 

 楽しそうに解析を続けるクアットロのキーボードを叩く動きが早まるたびに、大翔の魔力も激しい勢いで消費されていく。それでいて、当の本人はどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

「おお、みるみる魔力が減っていく、こりゃいいや。これでまた少しずつ底上げもできるか」

 

「普通は良くないわよ。あ、でも、アタシの分も、寝る前の付与分は残しておいてよ?」

 

「ん? アリサ、土日じゃないのに、泊まっていってもデビッドさん達は大丈夫なのか?」

 

「鮫島もこうでもしないと休まないし。護衛ならそもそも大翔がいるでしょ? 学校の用意も転移装置のお陰ですぐ取ってこれるし。夕食の時にパパとママに許可は得てるわ」

 

 苦笑いのすずかを見る辺り、話が通っていないのは大翔だけのようだ。そもそも居候に近い彼はアリサの両親やすずか達月村家がOKを出している以上、とやかく言うつもりもなく、アリサの言う通り、程ほどに魔力を残しておくことにした。

 クアットロに声をかけ、大翔は幻影を解く。マルチタスクとフローレス・セクレタリーの重複発動を兼ねて、同時並行で融合を重ねていたジュエルシードの半分程度の大きさにまでなったエネルギー結晶体の塊を宙に浮かせながら、一つ満足そうに頷いた。

 

「こっちも作業は高速化出来そうだ。結界を張らずに直接手に取ったら吸い込んでしまうから、すずか、お願いして良いかな」

 

「うん、こちらで持っておくね。そろそろ魔力は風呂上がりに取っておいてもらわないと」

 

「言葉だけ聞けば、ものすごく誤解される表現ですねぇ……」

 

「私は困らないし、それでも構わないもん」

 

 あっさり言い切ったすずかに、大翔は息を飲む。分かってはいたが、こうも断言されると、自分がすずかの成長を大きく歪めたと改めて痛感させられていた。

 実際のところは、すずかは早熟な部分も大きい。一族の特性上、パートナーを早々に見定めたことで、秘め続けるはずだった大きな悩みもある程度解決している。歪んだというよりは、人との接し方において、当たり触りのない付き合いではなく、彼女の中での優先順位がハッキリしたというのが当てはまる表現になるものの、受け取る側がそう思っているため、心を痛めるわけである。

 

「……どういうことよ?」

 

「あ、いや、そのぅ。あっ、大翔さん、すずかさん、なぜに早足なんですかぁ!?」

 

「ちょっと待ちなさいクアットロ! ちょっと説明を、あっ! 幻影使ったわね!?」

 

 さて、どうにもアリサにも順調に外堀を埋められている大翔だが、未だに彼女の熱情を恋に恋する少女のものだと思い込んでいる節があり、アリサについては一過性のものだとあまり危機感を感じていない。

 過去の体験から、紗月以外の女性が自分を本気で愛することは無いと強く信じていることに起因しており、吸血衝動を目覚めさせたすずかにだけは、近い将来に訪れる強い生殖衝動に対しても、ある程度覚悟を固めつつある。

 大翔から見れば、それは歪んだ慕情であっても、彼女がその慕情に囚われている間に無理やり離れれば、彼女が壊れることは分かりきっていた。麗しく成長を果たしたその先に、歪んだ慕情から覚めた彼女の、恨み憎しみを受け止めるのも自分の責任だと考えている。

 

「どうしたの、ひろくん?」

 

「……いや、なんでもないよ、すずか」

 

「顔には『考え事をしています』って、書いてあるよ?」

 

 背後での喧騒をよそに、すずかと大翔は入浴の前準備に部屋へと必要な私物を取りに向かいながらのやり取りだ。

 

「うん……もっと家族との時間を大切にした方がいいんじゃないか、って」

 

 この思いはすずかにも言えることで、機会があれば口にもしてきたことだが、彼女や忍達とも話を重ねて、その上でなお、すずかが大翔との時間を優先することを選び、家族も了解していた。食事の時間など、家族で必ず一緒に過ごす時間は確保している上に、親子間の関係も良好である今、月村家としてはうまく回っているのだ。

 

「でも、今日のお泊りもデビッドおじ様達が許可を出しているよ?」

 

 デビッドは呪詛のような言葉を吐き出していたらしいが、妻のヴィクトリアに説き伏せられていた事実も含め、大翔に伝える必要は無いとすずかは思っている。経過はどうであれ、許可が出ている、その事実が重要だ。

 すずかの本心としては敵に塩を送るのと変わらないと思う部分もあるが、すずか、アリサ、アリシアの三人でしっかり包囲網を敷き、互いが結婚可能な年齢になる頃に決着をつけるという暗黙の了解がある。なにせ、想い人は意外と隙が多い人。信頼の置ける人たちで脇を固めることが重要だった。

 

「デビッドさんが平日の許可を出すとは思わなかったんだよなぁ……」

 

 クアットロしかり、ウーノしかり。戦闘機人たる彼女達は加齢の調整が聞き、大翔が成長する十年ぐらいなんとでもなり得ると、すずかは思っている。ひょっとしたら、フェイトやなのはも脅威になり得るし、問題なのは、大翔が今挙げた人物達をほとんど身内として認識していることにある。

 なのはやフェイトが信用できないわけではないが、腹芸が苦手な二人だ。育てられた環境、前世記憶の蓄積等があるすずか達が例外であって、大翔がどうにも探り合いを得意としないタイプのため、隙が広がることになってしまう。

 

「私達の家と一緒で、家族の時間はしっかり確保しているからじゃないのかな」

 

「ううん、それでいいのか、デビッドさん。いや、内心血の涙を流しつつ、アリサのおねだりだからと認めたのか……?」

 

 いい線ついてるよ、ひろくん。そう思いつつ、すずかが口にすることはない。

 すずかも二十四時間、大翔に寄り添うことは物理的に不可能。可能ならば是非そうしたいが、習い事や学校を投げ出すのは、味方である両親を敵に回すことになる。まだ子供の身である彼女が自ら後ろ盾を失うということは、想い人の後ろ盾を失うのと同じことだ。デバイス改良に打ち込む彼の楽しみを、それを見守る穏やかな時間を、自分だけの身勝手で潰すわけにはいかない。そう、すずかは自分を戒めていた。

 

「ひろくんがアリサちゃんの気持ちを一過性と思ってくれているのは、私にとっては好都合だけど……ね」

 

 味方である両親達やアリシアの虫除けとして大翔を認めたプレシアも大翔周辺の人間関係には警戒してくれているようだが、やはり漏れなくとはいかない。ある意味、一番強敵でかつ信が置けるアリサは、大切な親友かつ同士なのだ。

 すずか自身は納得できないものであっても、大翔が自分達に強い罪悪感を抱いていることも分かっているため、すずかは焦り過ぎるのは禁物だと自分に言い聞かせていた。感情の昂りで吹き飛んでしまうこともあるものの、それはそれである。

 

「ん? すずか、良く聞こえなかったんだけど」

 

「どちらにせよ、アリサちゃんが帰るつもりはないと思うよ、って言ったの」

 

「……だなぁ。ん、アリサ、逃げられた?」

 

「幻影にしてやられたわ。多分、ステルス効果のあるケープも被って逃げたわね。ところで、魔力を風呂上がりに取っておくのが、なんで誤解を生むのよ?」

 

 逃走に成功したクアットロの追跡を諦めて、アリサが二人に追いついてくる。そして、分かっている二人に聞いてしまえば早い、とばかりに今度は質問を二人へぶつけてきた。

 

「大人だから、色んなことを考えるんじゃないかな」

 

「すずかは分かってるような返事をしてたじゃない」

 

「ひろくんやアリサちゃん、アリシアちゃんや紗月さんが相手なら、ちゃんと訂正するけど……クアットロさんがどんな誤解をしたところで、私とひろくんの関係が変わることはないもん。だから、勘違いするなら勝手にどうぞって言い方をしたの」

 

 ハッキリと言い切るすずかの態度に、アリサも引っかかりは感じながらも、これ以上の追及を止める。大翔との関係性が揺るがない限り、取り繕う必要がない時のすずかならば、今のような答えを出すと思えるからだ。

 

「ハッキリ言うようになったわよね、すずか。アタシはそういうの嫌いじゃないけど」

 

「言う場所と相手はちゃんと選んでるよ。ひろくん達に迷惑をかけたくないもん」

 

「分かってるわよ。普段はアタシに任せて、普段はちゃんと抑える側に回ってくれているし」

 

 普段は物静かで協調性を大切にするスタンスだからこそ、いざという時は微笑んだまま、心を全力で折りにいくすずかの姿は、その姿を知る人には『絶対に怒らせてはいけない子』と認識されている。なお、彼女の怒った姿を知る者自体も非常に少数であるし、怒りを受ける側になった人間は、すずかに近づこうとしないし、口を噤んで詳細を語ろうとしないため、付き合いのある大半の人は、基本的には穏やかで物静かな女の子と思っている。

 

「ただ、大翔が絡むと隠し切れないというか、隠そうとしてないから、アタシは焦ることがあるけどね」

 

 その度に、アリサや大翔が慌ててフォローに回り、まとめる方向に落ち着かせるのが定番となっていた。ここ最近は、二人の大変さを見ているなのはや皇貴も、話題を逸らしたり等、自主的に協力体制を敷いてくれている。ただ、話題のずらし方等が露骨だったりするので、スクリューアッパー等で宙に舞う等、皇貴が身体を張ることで、場を無理やり収める回数が多いのが今の現状だった。

 なにせ、防御力が突き抜けて高く、毎日のようになのはのスターライトブレイカーを受けても生き延びている彼だ。当初の出会いの傲慢さと差し引きしても、不憫に思えるところがあるが、ある意味適任であった。

 

「いきなり攻撃したりはしないよ?」

 

「ターゲット周辺の温度が一気に下がる超常現象を起こしておいて、良く言うわよ……」

 

「突然氷像にならないだけ、いいと思うよ。ふふっ」

 

 自分が化け物だと嫌悪し、内罰的傾向が強かったすずかは、大翔の強い肯定を得たことで、彼以外に化け物扱いされても別に構わないと思えるようになっている。

 もとより、必要な時に月村やバニングスの家を含めた、強い力を使うことに躊躇いはしないし、責務や責任を負っていくように育てられている。力を行使することで、自分が畏怖される存在になることを恐れる必要がなくなった彼女達は、大翔が驚くほど苛烈な一面を見せることもあった。

 

「夏場はいいけど、冬場は勘弁だぞ、すずか。一度、教室が冷えたら、暖まるのに時間かかるからな」

 

「はーい、ひろくん」

 

 ただ、驚きはするが、その程度のこと。行き過ぎれば、自分が止めればいい。腕に絡んでくるすずかと、慌てて追随してもう一方の腕を取るアリサの歩調に合わせて、大翔は歩いていくのだった。

 

「……こら、そのまま一緒に脱衣所に連れて行こうとするな」

 

「……ダメ?」

 

「駄目」

 

「温泉は一緒に入ってくれるのに?」

 

「部屋付だからって、宿に内緒でタオル巻いてただろ」

 

「……平常運転よねぇ」

 

 こうして、隙あらば二人の関係を進めようとする、すずかを押し留めるのも、彼の日常的な役割なのだ。




次回や次々回の予定:

1、デバイス作成速度が加速したので、プレシアさんと計画見直し等秘密会議
2、各人の修行風景
3、融合スキルの検証(魔法関係に限らず、複写できるし渡せるということは……みたいな)

自分の備忘録を兼ねて。

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