吸血姫に飼われています   作:ですてに

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本当は、魔法の基本知識をさくさく交換する話の予定でした。


お互いに理解を深めましょう

 「努力って大事だよな。俺の方向性は間違ってないって、改めて確認できた」

 

「才に溺れる天才は、努力をし続ける秀才に負けるものよ」

 

 ヘカティーの簡易測定曰く、魔力総量でいればランクSSS……即座に管理局に保護という名の拉致をされるぐらいの才能持ち。さらに、強制魅了効果つきの笑顔と手を所持。インテリジェントデバイスまで持っていた。そんな転生者もすずかとヘカティーによって、あっさりと記憶改ざんを許してしまう結果となっている。

 次に会う時には、自分達には害を及ぼさない、気障ったらしい、ただの転校生と化しているだろう。

 ちなみに、へカティーは彼の中ですずかに献上したことになっていた。魔道師が自分の──まして、インテリジェントデバイスを差し出すのは、そんな軽いことではない。いかに、彼の潜在意識にすずかが恐ろしい相手として刻まれたか、という証明でもある。

 

「慢心せずして何が俺様だとか、絶対言ってそう。ヘカティー曰く、それっぽい能力も持っているって言うし、まんまじゃないか」

 

 元ネタを大翔から聞いており、唯一知っているすずかがぷっと吹き出す。彼女の手には今まさに口をつけようとしていた紅茶のカップがあり、一歩間違えれば大惨事になるところ。少し恨めしそうに、大翔を見る彼女に、彼も手を胸の前に立てて、お詫びのジェスチャーを示す。素直に謝られるだけですぐに浮かんだ怒りも霧散してしまう辺り、自分がいかに彼を特別視しているか、思わず苦笑いが浮かんでしまう。

 

 今、四人は今日の学校を終えて、すずかの家のテラスまで移動している。アリサ、なのははお泊まり用のリュックを持参済み。今日は金曜日だったから、ゆっくり説明を聞けるし、自分の中でまとめる時間も取れる算段だった。

 

『宝の持ち腐れです。マスターには魅了も効かず、かつ、逆にされる側になれば、全く抵抗も出来なかった薄弱な精神では使いこなすことも出来ません』

 

「……魔法使い、か。勝手にすごく万能なイメージを持っていたわ。願うだけで、空を飛べたり、遠距離をワープできたり、傷をたちどころに癒してみせたり。結局は、ちゃんとそれを使いこなすために、鍛錬を惜しんではならないか……プロスポーツ選手と似たようなものね」

 

「すずかちゃんにあの力が全然効かなかったもん。大きな力があっても、それだけじゃダメなんだね。よくわかったの」

 

 大翔が魔法使いであること。すずかがその影響をどうにも受けてしまっていること。大筋を彼が説明し、知識面の補足を、すずかの首にペンダントとしてかかっている『ヘカティー』が行う。説明を進める中で、最初は未知の力に興奮が覚めないようのアリサとなのはだったが、異能というモノも決して万能でも無いのだ、と認識を改めつつあった。

 すずかが魅了を全く受け付けなかったのは、力の源が魔力か、血の力かの違いはあれど、彼女がこの系統の能力の使い手として数段上だった、という話。日常的に大翔相手に実践を欠かさない彼女が負けるはずもなかったのだ。

 

「早朝の二時間程度の鍛錬。それを半年ずっとでしょ? それでも独学じゃ、二つ三つ習得するのが限界って、よく折れなかったわね、大翔」

 

「いやあ、少しずつ、自分の中でのイメージが形になっていく感覚はあったから、手ごたえが無かったわけじゃないよ。相手の精神に作用する魔法については、すずかがいてくれたお陰で、本職が出てきても十分使えるレベルまで身についていたみたいだしね」

 

『大翔は、得意分野はまだ分かりませんが、少なくとも制御能力が秀でていると思われます。独学でとはいえ、身につけた術式は見事に精練化されています。人より少ない魔力でも高い効果を発揮出来る。これは一つの大きな武器となるでしょう』

 

 これは前世での経験値が生かされている。彼が亡くなる際の日本は長い不況に喘ぎ、企業は人のコストを圧縮する事に努めていた。結果、一人当たりにかかる業務量というのはとても大きく、自分自身の仕事の進行管理、効率化が出来なければ、家族との時間を作ることすらままならなかったのだ。

 

「あー、俺が改良とか、そういう作業が苦にならないってこともあるんだろうな。一から作り上げるのは苦手だけど、今あるものを理解して、より良くしていく。そういうのが楽しいというか」

 

『並列思考も苦にされないご様子。その分、演算能力がより高まり、デバイス無しでもご自身の部分強化などが出来たのは、そういう点もあるかと。魔術構築の補助を行うデバイスが無い場合、魔導師本人の情報処理能力がそのまま実力に繋がりますので』

 

「どういうことなの? ヘカティーさん」

 

『自分自身の身体能力を強化する魔法はポピュラーなものですが、慣れないうちは身体全体に広くかけることしか出来ません。消費する魔力も応じて多くなり、長時間は持たなくなります。ただ、大翔は鍛錬の結果、身体の必要箇所にのみ強化をすることで、継続時間の長期化を実現しています』

 

 ヘカティーはなのはへの返答にあえて含めなかったが、広い面にかかる魔力を一点に集中出来ることで、密度が高まり効果も上がっているという利点がある。魔力総量でいえば、せいぜいCランク相当の少年だが、全くの独学でここまで制御能力を磨けるものだろうか……ヘカティーは新しいマスターのパートナーである彼について、疑念を深めていた。

 

『後でゆっくり話そう、ヘカティー。なのはやアリサに聞かせられない話ってものもある』

 

『……私は、何も』

 

『魔力が乱れてるぞー。すずかも多分、勘づいてる。なに、すずかも知っている俺の裏話さ。お前には、迷いなくすずかの味方でいて欲しいからな』

 

 それはヘカティーだけに向けられた念話だった。優秀なインテリジェントデバイス、設定されている性格はすずかとの相性も悪くない。既にすずかのことを案じ、その為に明らかに裏がありそうな大翔を疑っている。ならば、巻き込んでしまおうと、というだけのことだった。

 

『貴方は、一体何者です』

 

『伊集院と似たような生まれだ。それで大体納得できるだろ?』

 

『!……なるほど。では詳しい話は後ほど致しましょう』

 

 大翔は心の内で、安堵の息をつく。頭の良過ぎる人というのは、実際苦手だ。自分が自覚していない感情や思考まで、ちょっとした会話の内容からあっさり見抜いてみせたり、利用されることだってある。おまけに利用された事に気づかないことも良くある話。

 絶対に敵に回してはいけない、味方ならば全力で繋ぎ止める。会話は短く、余分なことは言わない。こんな指針を、彼はこのタイプへの基本対応としていた。

 

「ヘカティー。内緒の話は良くないと思うわ」

 

 だが、自分に明らかな好意を持つ賢人の相手は初めてだ。アリサ・バニングス。IQ200の天才では無いにせよ、大翔より頭の回転は相当に早く、人生経験で補う彼も数年以内に太刀打ち出来なくなると推測している。

 

『なんのことでしょう?』

 

「黙って見つめあっていれば、テレパシーめいたものを使ってると予想がつくでしょうに。正確には、大翔がずっとすずかのペンダントを見つめているように見えた……だけどね」

 

 アリサの容赦無い指摘。夜はまだ始まったばかりである。




主人公も頑張ってるのよ、ということ。

……短いですが、いったん切ります。
このあと、アリサ無双が始まるため、話を切るタイミングの兼ね合いです。

作者の言う通りには、すずか様もアリサ様も動いて頂けないようで。
キャラクターが勝手に、勝手に動くのですよおおおおおぉ。

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