吸血姫に飼われています   作:ですてに

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ちょっと筆が乗りませんでした。
早くすずか様とのイチャコラを書いてエネルギーを回復しなければ。


しまらない男

 「死ぬぅううううううううう!!! 離しなさい、離しなさいってば!」

 

「離したらアリサ落ちるぞ。ただ、ここまで高く跳べるとはね……。どっちにしてもそろそろ自然落下するけど」

 

 月村邸上空。身体強化全開で、高く高く跳躍した大翔と抱き抱えられているアリサ。命綱など無いバンジージャンプが間もなく始まる5秒前、3秒前、と思う内に、重力に引かれた魂達が地表に縛られるのを望むように、大翔たちも急速に落ちていく。

 

「テラスがあんな小さく見えるこの高さから落ちたら助からないじゃない! どうしてくれるのよ!」

 

『強化を目一杯使っていますから、着地さえミスしない限り、大丈夫だと思います。ただ、せっかくですし、私が術式の構築を手伝いますので、足元にプロテクションを発動させてみましょう。身の安全がかかっているので、集中力も高まるというものです』

 

「宜しくお願いしますわ」

 

 すずかの機転で、大翔の手元に収まっているヘカティーが落ち着いた声で助言し、大翔も軽やかに応答する。巻き込まれて生命の危機に陥っているアリサは当然納得するわけもない。

 

「その余裕はどこから来るのよぉおおおおおお!!!!」

 

 すずかに思いっきりグーパンチを食らって、まる一日意識が飛んだ時よりはマシだと思う大翔だが、口にするつもりもない。風による不可抗力で、すずかの三角地帯を守る紫のショーツを目撃してしまい、見たかどうかを聞かれて素直に答えただけの話。

 夜は積極的になれても、昼間のふとした羞恥プレイは受け入れられない。すずかも例に漏れず、一人の複雑な女心の持ち主だった。

 

『では、私に続けて詠唱して下さい。足元に広く強固な円形の大盾を展開するイメージも同時に強く持って下さいね』

 

「了解です、先生」

 

「無視!? 無視な訳!?」

 

『守護する盾 風を纏いて鋼と化せ』

 

「守護する盾 風を纏いて鋼と化せ」

 

 円形の大盾。大翔がイメージしたのは、前世界の著名過ぎるRPGに出てくる、ミスリル銀を磨いてから、鏡のような表面に加工された美しい丸い盾。初代では最強の盾であり、シリーズ三作目のモチーフ絵で子供心ながらに惹かれた綺麗なあの盾を想像する。あの盾が巨大化して、自分達を受け止めてくれる、そんな想像を頭の中でしっかりと形にして。

 

『すべてを阻む 祈りの壁 来たれ我が足元に……』

 

「すべてを阻む 祈りの壁 来たれ我が足元に……」

 

 足元に展開される魔方陣。深い紅色に彩られた、外周に呪文が刻み込まれた円の中で、さらに正方形、その内側にさらに、やはり術式が浮かび上がる小円が緩やかに回転を始め、その速度を加速的に早めていく──!

 アリサは幻想的な情景に、いつしか文句を言うのを忘れた。ああ、これが魔法なのだ、と只々見惚れる。そして、自分を腕の中に抱く彼は魔道師なのだと、改めて実感する。同時に確信していた。ああ、心配など無いのだ、と。

 彼への認識が、どういうものであれ、自分の中で確実に大きくなっていく。それをアリサは密かに認める。認めてしまえば……悔しいかな、彼の腕の中はアリサに安らぎとちょっとした高揚感をもたらす空間に変わってしまっていた。

 

『今ですっ、大翔! 発動をっ!』

 

「プロテクションっ!」

 

 大翔の呪文を切欠に、彼らの足元に魔方陣が集束し、彼らの身体を覆える大きさの丸盾が姿を現す。深紅に染まった鏡を模した、そんな造形の盾が。血の色。すずかの秘密を聞いた後だからこそ、アリサはそんな感想が頭をよぎった。

 

『……成功ですね、おめでとうございます。そして間もなく着地します。対ショック態勢を推奨します』

 

 そう、テラスの大きさを正確に把握出来る高さまで、彼らは落下してきていた。アリサはぎゅっと大翔の首に両腕を回し力を強め、大翔は足元への身体強化、そして発動した深紅の盾へと、残りの魔力を流し込んだ。安全確保のための念押しだ。

 魔力を限界近くまで使い切る。魔力総量を増やすために、彼が身体で覚えた修練方法でもあった。だが、この方法は問題もあり──。

 

 ズゥン……!

 

 衝撃音、地面の陥没と共に、彼らは無事着地に成功する。そして、おもむろに大翔はアリサを抱いたままの格好で、ミニクレーター内へ背中から倒れた。

 

「きゃっ! ちょっと、大翔! やっぱり足を折ったんじゃ……!」

 

「違う……魔力をギリギリまで使い切ると、激しい頭痛に襲われたり、意識が遠くなったりするんだよ。今回は両方来た。着地までは意地で耐えたけど。今は起き上がれない」

 

「……アンタ、馬鹿じゃないの?」

 

「だなぁ。アリサを怪我させずにビックリさせるつもりだったから、目的は果たしたけど。まぁ、回復が始まれば動けるようになるから、このまま太陽が沈み切って、その後の夜空を見るのも悪くないかな」

 

 横抱きの態勢であったからか、アリサの顔は彼と内緒話出来る程度には近い位置にあった。倒れる際にも、彼女の身体は彼の腕と身体でしっかり守られたから、傷一つない。ここが寝室から、仲良しの兄妹が寄り添って眠ろうとしている、そんな感じに見えるかもしれない。

 

「今更だけどさ。俺は出来ればもう少しの間、魔法の話もアリサ達には伏せておきたかったんだ。伊集院が転校してきて、アリサやなのはの心を支配しようとしたから、こんな形になったけど。あ、先に言っとくけど、アリサが信用できないという理由じゃない」

 

 まさしく指摘しようとしたことを先に口にされ、アリサは悔しそうに口元を歪めて黙り込む。

 

「今も見ただろ。魔法って、ぶっ飛んだ力を持ってる。相手を攻撃する魔法なら、銃とか一緒。相手を簡単に殺傷出来たりとかさ。持たない奴にしたら脅威でしかない。騎士を気取るつもりじゃないけど、すずかだけじゃなくて、アリサに害を為そうとするこういう特殊な力を使う輩から逃げ切れる程度には、力をつけてからって思ってたんだ。勝手な話だけどさ」

 

「……確かに、勝手な話ね」

 

「それで、俺の抱える事情ってのはさらにもう一つ重たい類で。知った人がさらに危険に巻き込まれかねない。すずかに話せたのは、命の恩人でもあるけど、彼女が最低限の自衛の力を持ってたから、というのも大きい」

 

 結果的にすずかが人の枠を飛び越えた能力を持っていた、というだけで、すずかとの秘密の共有は本当のことを言っているわけではない。ただ、嘘が下手な彼は、『本当のこと』を混ぜることで、自分自身も説得するつもりで、こんな理由を作り出した。

 

「成る程ね、身が危ういと。仮にあたしがボディーガードを雇うとしても、その護衛の心を操られたらそれまでだもの」

 

「理解が早くて助かるよ」

 

 すずかとの会話はもう少しゆったりしていて、お互いの言葉をしっかり飲み込んで理解し合うことが多いが、アリサはまた違っていて、打てば響くように、言葉を高速で打ち合う感覚がある。疲れている頭であっても、楽しい、と大翔は感じていた。

 

「実のところ、まだ忍さん達にすら明かせていない話だから。ただ、今回の一件を機会に、しっかり話をしようと思うよ。すずかの近くに俺が居続ける以上は、あの人達も知っているべきだろう」

 

 ともあれ、この世界が前世で物語で語られていた、などと言うつもりは無い。ただ、魔法の力がより身近に迫ってきた以上、彼は自分の背景についてはきちんと説明をし、忍の突き抜けた知識などを含めて支援を依頼するべきだという結論を下していた。

 

「……もう一度聞くわ。私には、教えられないの?」

 

「今のアリサでは、ね。教える時は、俺とアリサがお互いに『特別な存在』になった時じゃないかな」

 

「アタシは、どうすればいいのよ。アンタと対等でありたい、この気持ちじゃ『特別』じゃないの?」

 

「俺へ向けている感情を、自分の中でゆっくり整理してみて欲しい。それが慕情なのか、親愛の延長なのか、あるいは、すずかが俺に向けるような感情なのか。急ぐ必要はないさ。仮に小学校の間としても、まだ四年以上あるわけだし」

 

 家族以外で唯一認める男性からの言葉。反発を覚えるものの、自分の性格と向き合ってでも考えていかなければ、彼と並んで立てることはない。漠然とであっても、アリサはそれが分かっていた。

 

「……わかったわよ。腹は立つけど、大翔に負けるのは癪だわ。ちなみに、アンタはアタシをどう見てるのよ」

 

「勝気で綺麗な妹」

 

「即答、か。すずかは?」

 

「犬っぽい可愛い妹」

 

 時に獰猛な吸血姫になるけれど、あえて言うことでも無いだろう。命は大事にするべきだ。

 

「あの子は猫好きなのにね。なのはだとどうなるの?」

 

「手のかかる愛らしい妹」

 

 ふぅ、とアリサは一つ息をついて、大翔にとっての自分がどんな存在かを知る。すずかが一歩抜けてはいるが、彼にとっては年の近い妹扱い。ムカムカしてくる心は無視できないが、この自身の気性と向き合わなければいけない。その思いが、苛立ちを吐き出したい衝動を抑え込ませる。すくっと彼女は立ち上がり、テラスに向かって歩き始めた。

 

「即、実践?」

 

「そういうことよ。負けっ放しはあたしのプライドが許さないの。すずかを呼んでくるから、もう少し寝てなさい」

 

「一応、カッコつけた直後なんだけどなぁ」

 

「アンタは元々、すずかの前でカッコつけないでしょうが。慣れないことをするからよ」

 

「違いないね、いつつ……」

 

 痛むのか頭を押さえつつ、アリサの突っ込みに同意する大翔。情けない姿を晒す大翔を見下ろしながら、さっきのような凛々しさをもう少し見せて欲しいものだと、アリサは願う。自分を良く見せようとし過ぎないのも、色々と問題が生じるのだ。

 

「ところで、大翔が守る対象になのはは含まれてないのは、どういうことかしらね」

 

「近いうちに分かるよ……」

 

「なんとなく予想がつきそうだから、詳しくは聞かないわ」

 

 大翔の頬が引き攣っていたのをしっかりと見てしまったアリサは、まず、自分がやるべきこと──すずかを呼びに向かうのだった。




主人公の女性に対する考え方をプロットにまとめ直しています。
次話のすずかとの話で表に出ますが、共感出来ない、という方もいるでしょう。
この物語の主人公はこうなんだ、ということで。
感性に合わなければ申し訳ありません。

考え過ぎると筆が止まってしまいそうになります。
それが一番怖いので……。

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