「だは〜……」
部屋に戻ったカウレスは上着を脱いでシャツになるとベットの上に寝転がった。気の抜けた様な声を出しているのは気分を変えたかったからなのだろう、少なくともこの部屋の中では気を張ることは無いのだ。
カウレスは自分はここに居るべき人間では無いと考えている。魔術師の家に生まれてきたが自分よりも優秀な姉の予備として育てられ、その様にしか見られていない。フィオレとクラウディアはそんな目では見ていないがそれでも周りはそうという認識しかしていないのだ。
だから望まれている通りに姉の予備として振舞っている。素に戻るのはフィオレとクラウディア、そして時計塔で出来た
「ーーーカッウレスく〜ん♪」
「ゴフゥ……!!」
そうやってボゥッとしていると徐々に眠気がやって来たのでそれに身を委ねようとしたところ、突然虚空から派手に着飾った中性的な人物が現れてカウレスの腹に向かって落ちてきた。腹部に鈍痛が走り、思わず変な声が出てしまったが胃液を出さなかっただけ彼を褒めるべきだ。
「お前……ライダー……普通に入って来いよな……!!」
「あははっ、ゴメンゴメン。あと、ライダーじゃなくて真名で呼んでって言ってるじゃんか。サンハイ」
「はい、じゃなくてだな……あぁ、もう良いや」
「ぐわぁ……!!」
言いたい事は山程あるのだが言っても無駄だと思い出して、黒のライダーの顔にアイアンクローを決めながら腹の上から退かす。そして痛む腹をさすりながら、部屋に備え付けられている簡易キッチンに向かった。
「紅茶で良かったんだよな?」
「そうそう!!ミルクも砂糖もたっぷりでね!!」
「はいはい……」
やる気無さげに返事をしながらカウレスは黒のライダーの紅茶ーーーミルクと砂糖アリアリーーーと自分用にブラックコーヒーを淹れる。初めの頃は恐る恐るやっていたのだが黒のライダーの天真爛漫な性格に振り回される内に恐怖など何処かに吹き飛んでいた。
黒のライダーに紅茶を差し出し、占領されているベットは見捨てて近くにあった椅子を引き寄せて座る。コーヒーを啜れば予想通りの苦味と熱を味わうことが出来る。
「〜♪」
美味しそうに紅茶を飲んでいる黒のライダーは一見してみればただの少女にしか見えない。だがそれでも黒のライダーは人間よりも上位の存在であり、少年である……のだが、最近ではわからなくなってきた。
「なぁライダー、
「ん?知りたいの?だったら……試してみる?」
「アホなこと言うな」
「ブヘッ」
トチ狂ったことを言い出した黒のライダーに向かって近くにあった新聞紙を投げる。
実は黒のライダー、召喚された当初はまごう事なき男だったのだが気紛れで黒のアーチャーが出した性転換の薬によって女になり、それに味を占めたのか気分で男になったり女になったりをしているのだ。黒のアーチャー曰く服用すれば外見に変化があるらしいのだが元から中性的な顔付きだったからなのか外見の変化がほとんど見られない。この前もカウレスが風呂に入っていた時に黒のライダーが突然入ってきて、顔を合わせたら女だったという事件が起きている。
「うへ……今日は男だよ。流石に真剣な話で女にならないよ」
「お前……マトモな事を考えられるんだな……」
「そこぉ!?驚くところそこなのぉ!?」
天真爛漫で享楽主義な黒のライダーの性格を知っていれば誰だって驚くと思う。黒のライダーの真名はアストルフォ、シャルルマーニュ十二勇士こ一人にして数多の冒険を繰り広げた正しく英雄。だが伝承によれば理性が蒸発しているとあり、事実アストルフォのスキルの中に【理性蒸発】という形で証明されている。
「で、どうなんだ?あの白のセイバーに勝てるのか?」
「うーん……無理だね。僕一人じゃ勝てない」
カウレスの疑問にアストルフォは少し考えて勝てないと断言した。アストルフォは他のサーヴァントに比べると豊富な宝具を、所持している、だがその反面でステータスはやや劣ってしまっている。いわゆるテクニックタイプのサーヴァントで、宝具を使う事でそれを補い、相手を翻弄する戦い方をする。
同等の実力でパワータイプのサーヴァントならば相性は良い、だが格上のパワータイプとなると翻弄する間も無く潰されるのがオチだ。映像を見る限り白のセイバーは見るからにパワータイプ、しかもヘラクレスを一度殺したところから格上だと判断できる。アストルフォはそれを分かっているから無理だと言った。
「一人じゃ、ねぇ……だったらアーチャーと組んだら?」
「それなら余裕だね、てかアーチャー一人でも勝てるんじゃないかな?」
「ーーーただいまぁ……」
そんな事を言っていると話題の人物の黒のアーチャーが疲れた様子で霊体化を解いて実体化し、ベットに倒れこんだ。流れる様な一連の動作にカウレスは呆気に取られるがすぐに正気に戻って簡易キッチンに向かう。
「おかえり、アーチャーはココアだよな?」
「よく練ってミルクと砂糖をアリアリでお願いします……」
グデェと疲れた様子でベットに寝そべる黒のアーチャーの姿に苦笑しながら注文されたココアを作る。本来なら黒の陣営の中でも懸け離れた最強のサーヴァントだというのにだ。
英霊、ギルガメッシュ。それが黒のアーチャーの真名だ。人ではなく神が世界を統治していた時代においてウルクの王となり、人が神から独立する事を宣言した世界最古の王。ギルガメッシュの蔵には世界中から集められた財宝が納められ、彼の死後にその財宝は各地にへと散らばり、英雄に使われたという。つまり、ギルガメッシュの蔵の中には全ての英雄が所持している宝具の原典とも言えるものが納められているのだ。
最初の予定では魔術師として未熟なカウレスがバーサーカーのクラスでサーヴァントを呼び出し、低くなるであろうステータスを上昇させようと計画していた。だがそれに待ったをかけたのはクラウディアだった。彼は自分がバーサーカーを召喚し、カウレスにはアーチャーを召喚して欲しいとダーニックとヴラド三世に直訴したのだ。
元々はヘラクレスをアーチャーとして呼び出そうとしていたのだがバーサーカーのクラスのスキルである【狂化】を付与させる事でステータスをさらに上昇させようとし、燃費の良い事で知られるアーチャーのクラスをカウレスに召喚させる事で負担を減らそうという目論見があるとクラウディアは説明した。
それにいい顔をしなかったのはダーニックだ。魔術師として未熟なカウレスにアーチャーを召喚させたところで弱体化する事は目に見えて分かっていると。そう言われるのは予想していたのだろうクラウディアはサーヴァント召喚のための触媒を見せてダーニックを黙らせた。
クラウディアが用意した触媒はヘビの抜け殻。しかもただの抜け殻では無く、世界で一番初めに脱皮をしたと頭に付く。その触媒で召喚されるのは英雄王ギルガメッシュ。説明するまでも無くその答えにたどり着いたダーニックは言葉を荒くして反論した。
何故なら、ギルガメッシュは王であり、暴君として知られていたから。すでに黒の陣営にはヴラド三世が王として君臨しており、そんな中でギルガメッシュを召喚すれば間違いなく争いが起こると分かっていたからだ。
それに対する切り返しもクラウディアは考えていた。王として完成した暴君のギルガメッシュでは無く、王として未熟でありながら賢王としてあった幼少期の頃のギルガメッシュを召喚すれば良いのだと。
そうして召喚されたギルガメッシュは筋力、耐久、敏捷、魔力のステータスはCとサーヴァントとしては平均辺り。だが幸運はA、そして宝具に至っては規格外評価のEXだった。
そんなサーヴァントのマスターになったカウレスは初めこそビクビクしながらギルガメッシュの事を見ていたがこうして見せる歳相応の態度に毒気を抜かれて自然体で相手をする事にした。
「ほら、出来たぞ」
「ありがとうございます……」
フゥフゥと渡されたココアを冷まして飲む姿などただの子供にしか見えない。ギルガメッシュ曰く、今の自分が大人の自分を見たら自殺するとか言っていたがどれだけ酷いのか想像出来ない。
英雄らしからぬ英雄二人の姿を見ながら、カウレスは夜を明かした。
赤の陣営の拠点であるシギショアラの山上教会。その祭壇の前で眉間に皺を寄せて考え込んでいる二十歳は超えていなさそうな神父服の男がいた。彼は聖堂教会から派遣された神父にして赤の陣営のマスターの一人であるシロウ・コトミネ。
彼がこうして考えているのは先の戦闘で乱入し、そしてルーラーからこの聖杯大戦の介入を認められた白の陣営の事だ。彼にとってこれは予想外の出来事、というよりもこれを予想出来るとしたら未来視の持ち主でしかありえない。
使い魔を通して黒のバーサーカー……ヘラクレスと白のマスターであるレイニィフィール、そして白のセイバーの戦いを見ていたのだがこれも想定外としか言えなかった。
まずはあのレイニィフィール、ヘラクレスの石斧で殺された筈なのに生きていた。あの再生能力を見る限り明らかに人間ではない。そしてそのサーヴァントであるセイバーも宝具無しでバーサーカーを一度殺し、そして対軍宝具以上の宝具を開放した。どんな楽天家であろうともあれを見れば警戒して当然だろう。
「ーーー白の陣営について悩んでおるのか、マスター」
「ーーーアサシンですか」
現れたのは闇夜の様なドレスを身に纏った退廃的な美女……赤のアサシンだった。彼女が指摘した通りにシロウは白の陣営について悩んでいる。
「彼らはどうしたものかと思いましてね」
「ふむ……確かに面倒よな。我らと黒の対立ならまだマシであったがそこに新たな陣営が加わった。これにより三竦みになってしまう」
「えぇ……一つの陣営に集中してしまえば後ろから襲われる可能性が出てしまいますからね……一番良いのは白の陣営と一時的にでも同盟を組める事なんですが」
「無理であろうな。彼奴らは大聖杯が目的だと言いおった。それはつまりーーー」
「ーーー大聖杯を目的としている私たちとも敵対するつもりだという事ですね?」
シロウの言葉に赤のアサシンは頷く。赤の陣営も黒の陣営も、そして白の陣営も最終的に求めているのは大聖杯なのだ。一つしかないそれを分ける事など出来ない。なら、奪い合うしかないのだ。
元々対立していた黒の陣営と同盟を組むなど論外、ならば白の陣営とという話になるがあのレイニィフィールの様子を見る限りそれは望めそうに無い。もし手を組めたとしても肝心なところで「楽しかったぜぇ!!お前らとの友情ごっこはよぉ!!」とか言いながら裏切られそうである。
「そうですね……ひとまずは警戒を怠らずに様子見としましょう。トゥリファスに向かっているバーサーカーのサポートにアーチャーを向かわせましたがライダーも同行させてください。そして、バーサーカーへのサポートは止めて静観するようにと。それとランサーにも少し離れたところで待機してもらいましょう」
「慎重過ぎでは無いか?」
「石橋を叩いて渡るくらいが丁度いいので」
赤の陣営のバーサーカーは赤のキャスターに唆されてトゥリファスに向かっている。赤のアーチャーにそのサポートをさせるつもりだったがそれを止める事にした。赤のバーサーカーの行動によって間違いなく黒の陣営は動くだろう、それに白の陣営がどう動くのかを見定める為に赤のバーサーカーを試験石として使い潰す事にした。
「それではアサシン、後はお任せします」
「任せよ」
一応の結論が出たところでシロウは教会から出た。これから先シロウは監督役の務めとして赤のバーサーカーが通過する道々への対処に追われるのでしばらくの間は何も出来なくなるのだ。
赤のアサシンはバーサーカーを焚き付けた赤のキャスターへの不満を感じながらアーチャー、ライダー、ランサーへ使い魔の鳩を飛ばして伝言を送る。
白の陣営の介入が、赤と黒の両方に影響を出している。それは奇しくもレイニィが望んでいた事だった。
黒の陣営
弓→子ギル(カウレス)
狂→バサクレス(クラウディア)
術→ケイローン(フィオレ)
以上が変更点で、後はそのままです。
この小説のアストルフォは子ギルのお陰で性別がアヤフヤに……もうアストルフォの性別はアストルフォでいいと思うんだ(ニッコリ)
赤の陣営はアッセイさんが試験石扱いに……彼なら!!彼ならきっとそのマッスルでなんとかしてくれるはずだ!!
アッセイアッセイ